人たる所以を証明せよ、と魔法師は言った 作:ishigami
月のない夜をえらんで
そっと秘密の話をしよう
ぼくがうたがわしいのなら
君は何も言わなくていい
―――スガシカオ/アシンメトリー
――記憶を呼び起こされる。
◆
考えたことがないわけでもなかったが、
元々
だからこそ――
自我と直結する唯一の例外たる「彼女」を救えるのなら、自分が消えるのだって厭わなかった。彼女が消えてしまうことこそが、オレが最も恐れることだったから。
なのに、終わってみれば
ユメを見て。
ユメから覚めて。
目蓋を開いた――そこは
そして手に入れた。夢のような、しかし現実の世界で。
存在の瞬間から決して与えられないと思っていたもの。他に優先すべきことがあったからいつだって無意識に諦めてきたはずのもの。
――
自分の瞳で光を感じた。自分の身体で風が髪を弄るのを感じた。
鳥のなく声を聞いた。寝転がった床の冷たさに触れた。夜に寝て目が覚めると、同じベッドのうえで朝を迎える幸福を知った。甘い物を食べた。辛い物を食べた。様々な感動が――此処にはあった。
涙を流す。心が震える。すべて。それを体験しているのは他ならぬオレ自身なのだ、オレだけが感じたオレだけがオレに許す感動だった。
――両儀織はこの世界で目覚めて。
――生まれて初めて自分の肉体を手に入れた。
だから。
浮かれていたのだ。かつての織と今のオレは厳密には違う。肉体を構成する霊子と想子の関係上、想子の
しかしそれは誰もが経験していることだ。何かから影響を受け、外部から内部に取り入れる循環構造は生きている限り避けられない。それが、普通だ。
けれど、やっぱり。どこまでも結局は
あとにして思えば。オレは自分が気づかないよう目を逸らし続けていたのかもしれない。ありえなかった可能性に出会ってしまいその肌の感覚を知ってしまったことで、愚かにも願ってしまったのかもしれない。誰よりもそれが間違いであると知っていたはずなのに。だから、破綻する寸前まで見て見ぬふりをした。
そして――
人と魔の
◆
手のひらに収まった首。細く白い。
頚動脈。少し力を込める。脈動。押し返そうとする皮膚。
――このまま締めつけを強めるだけで。
――あるいは爪を立てるだけで、たやすく赤は噴き出す。
見つめ返す彼に、オレはワラッた。
「トーリ」
――オレは、おまえを
「いいよ」
かすれた声で、彼が言った。
次回、第二の異世界降霊者が登場(名前だけ)。