granblue fantasy その手が守るもの 作:水玉模様
自信作というわけではありませんが、今回のお話はずっと以前からこの展開を描きたかったって部分のお話となります。
どうぞお楽しみいただければと思います。
破壊の化身、バハムートを倒すべく覚醒を果たしたセルグ。
ガンダルヴァを下し、タワーの最上目指して駆け上がるジータ。
ロキを相手に死闘を演じ始めるラカム達。
全てを賭して、目の前の宿敵を打ち倒さんとするグラン。
フリーシアの野望を……アーカーシャの起動を防ぐため、帝都アガスティアで幾つもの戦いが繰り広げられていた。
互いに、自身が抱く想いがある。譲れない、負けられない理由がそこにはある。
それぞれの想いに比例するかのように戦いは激化し、否応なくその身を食い合う様な様相へと変わっていく。
どの戦いにおいても実力は伯仲。相手を制し、余力を残せるような生易しい戦いなど一つとてありはしない。
気を抜けばその瞬間に落とされる。一瞬の気の緩みが仲間を危険にさらす。
必然、油断も慢心も彼等の中からは消えうせる。
それは最強と呼ばれる彼女にとっても同じ事であった。
グラン達騎空団の面々を全て置き去りにして、遂にフリーシアが待つ最上層を目前にする。
七曜の騎士という称号に預けられた信頼。この戦いの要となるルリアとオルキスを連れ、今や腹心の部下といえるスツルムとドランクを従え、彼女はこの争いにケリを付けるべく眼前の大扉を睨んだ。
「スツルム、ドランク。ルリアとオルキスから片時も離れるんじゃないぞ。戦いは全て私が引き受ける……一切の容赦なくあの女を斬り捨て、リアクターの元へと向かう」
この先、間違いなくフリーシアが待つだろう。
街中で戦った時に取り逃がしてから、既にフリーシアの戦力は想定した。先言の通り今度は全力で以て迎え撃つ。
後顧の憂いはスツルムとドランクに任せ、アポロは意識をこの先の戦いに集中させていた。
「こっちは既に満身創痍だしねぇ、精々盾になるくらいしかできないけど……ルリアちゃんとオルキスちゃんの事は任せといてよ」
「私達のせいでやられたなんてなったらアイツラに顔向けもできないしな。守り抜いて見せるさ」
「わ、私達だって、自分の身ぐらい自分で守れますから。黒騎士さんは気にせず戦ってください!」
「アポロ……私達は大丈夫だから」
「まぁ、一応オイラもいるしな……」
若干頼りにならない返事だと思わないでもないが、気にせずアポロは大扉へと手を掛けた。
重々しく開いていく木製の扉。今この瞬間ですら不意打ちを警戒するアポロに死角はない。
膨れあがるチカラを検知、即座に扉から手を離し彼女の得意属性である闇のチカラを用いて障壁を張る。
余波で大扉を全壊させながら、魔晶による砲撃が着弾した。
パラパラと破片が散る中、無傷のアポロは先を見つめる。
チカラの脈動を見せる魔晶を片手に、砲撃を放った直後と思われるフリーシアの姿がそこにはあった。
「手荒い歓迎だ。こんな不意打ちでこの私を倒せるとでも?」
「手段を選ぶ必要などありませんよ。この戦いはそういうものでしょう?」
「あぁその通りだ、形振り構ってなどいられない。貴様は私を、私は貴様を殺し、互いの成すべき事を成すだけだ」
「よろしい、それでは参りましょう。私の計画……その最大の障害である貴方を排除します」
「終わりにしてやる。貴様の野望も、私の後悔も……全てを終わらせ、私は取り戻す」
合図の確認は不要だった。
互いに言葉を交わしている間にも、既に脳内で戦闘は始まっていた。
感知できる互いの戦闘力を分析。内包するチカラは魔晶によるブーストがある分フリーシアが上か。
だが、戦闘能力では完全にアポロに軍配が上がる。知識も経験も技術も、宰相であったフリーシアに勝ち目などあるわけが無い。
必然、フリーシアに取れる手段は限られていた。
開戦の合図も無しにアポロは突貫。黒鳳刃・月影……ブルトガングを持ったアポロが放つ最大最強の技で勝負に出た。
戦いを焦っているわけではない。フリーシアが作れる障壁の強度はもう把握しており、彼女のこの一撃を防ぐにはどうあがいても足りない事を確信しているからだ。
防ぐ手立てがなく、戦士でないフリーシアに躱す術もない。なればこの一撃は必中となりえる。
確実な一撃を叩き込むべく、アポロは大きく踏み込んだのである。
「散れ、黒鳳刃・月影!」
──そうだ。フリーシアにアポロの攻撃を防ぐ術は無い。
「そ……そんな」
──戦士ではないフリーシアに、アポロと対等に渡り合う戦闘力など無い。
「ばか……な」
──故に彼女の戦術はたった一つであった。
奇襲
「く、くくく……ふはは、あははははは!!」
慄きの声は誰のものか……恐らく後ろに控えていた全員が声を震わせていただろう。
それをかき消すようなフリーシアの嘲笑が響き渡る中、全く想定していなかった光景に、ルリア達は目を見開いていた。
フリーシアの背中より伸び出た8本の脚が、ブルトガングを振り下ろす前にアポロを串刺しにしていたのだ。
──────────
二対の翼を以て空を駆ける。
その早さ、既に視界で捉えきる事叶わず。魔眼の二つ名をもつソーンだけが、唯一セルグの姿を追い続ける事が出来た。
「光破・天閃」
巨体であるバハムートを翻弄するように背後に回り一閃。
彼の技である光破がその規模と威力を格段に引き上げ、バハムートの背中を斬り付ける。
威力自体はオクトーやサラーサが与えた全力の一撃の方が上であろう。しかし、その一閃にはバハムートにとって毒とも言える厄介な効果が付与されている。
セルグに付けられた傷に再生の力が働く事が無い。浅くはあるが亀裂のように奔った剣閃の跡は癒えないまま残っていた。
調停の翼となったセルグが扱う世界の理の外のチカラ──コスモス。理の中で再生を繰り返すバハムートでは抗えぬチカラである。
それを理解しているバハムートの対応は早かった。再生能力に任せない、防御と回避を意識した動き。
巨体でありながら、その大翼を一度はためかせれば十分に高機動を可能としていた。
さらにセルグの攻撃に対して迎撃の魔力弾で応戦する。コスモスの影響を受けない様に理知的な戦い方を見せるバハムートはとても暴走状態にあるとは思えなかった。
「流石は神に等しき星晶獣。暴走状態であろうと、戦闘における判断力は隔絶しているという事か……」
“地上の10人が回復するまで今しばらく掛かる。彼らが動けるようになるまで落とされるような事はあってはならんぞ”
“幾ら対抗できるコスモスがあるからって、あの破壊のチカラは脅威。私達だって簡単に落とされるんだからね”
「わかっている、チカラの無駄遣いも出来まい──剣翼展開」
呟きと共に黒と白の翼を象る剣を幾つも展開。
その数はシエテのお株を奪うように100を優に超える。
「多刃・剣翼」
展開した剣翼にて迫りくる魔力弾を迎撃していく。
超密度の弾幕が爆ぜ、超密度の魔力が瞬く間に彼等の視界を覆った。
防がれたと理解したバハムートは追撃に動こうとしてしかしその動きを止める。直上より感じ取る気配……そこにはバハムートの目の前で魔力弾を迎撃していたはずのセルグがいた。
迎撃と同時にそのばを離脱していたセルグはバハムートの頭上をとり天ノ尾羽張を構えている。
「ナタク、技を借りる」
声と共にセルグはバハムート目がけて急降下。
瞬間、天ノ尾羽張に炎が渦巻いた。先端で螺旋を描く風に乗り天ノ尾羽張は徐々に炎に包まれていく。やがて炎はセルグ自身をも包み込んで巨大な炎の槍となってバハムートへと突撃していった。
「火尖槍!!」
爆音を奏でて、巨体が揺れる。
防御も回避も間に合わないままバハムートは直撃。機動力とその身の小ささを利用したセルグの奇襲にバハムートが再び墜落していく。
島を巻き込まぬ様空中戦に移行していた為、落下地点はアガスティアではない。墜ちていく先は空の底へ。
このまま落ちれば浮遊限界高度を超えてバハムートは戻れぬだろう。
「しまった」
セルグがバハムートを追う。空の底……そこは理の中に在る空とは別の埒外な世界。そんな所にバハムートを落としてしまえば、この先どのような影響があるかもわからない。
既に高度は限界ギリギリ。接近してプリズムヘイローでバハムートを囲い、落下を止めようと──
「なっ!?」
墜ちていくだけだったバハムートが突如顔を向ける。
誘いだったのか? 否、たまたま動けるようになったのがこのタイミングだっただけだろう。
しかしそれは最悪のタイミングであった。既にセルグはプリズムヘイローをバハムートの為に展開している。
即ち、今彼が自身を守る術は無い。
悪意の光が迸った。
黒く、禍々しいそれは何度目かの”大いなる破局”。
破壊のチカラの奔流は無防備であったセルグを呑みこもうとした。
「ヴェル、リアス!!」
“剣翼展開。操作は任せた! ”
“天ノ尾羽張に同期、行けるよ! ”
プリズムヘイローの展開で動けなかったセルグに変わり、融合しているヴェルが剣翼を展開、制御をリアスが行いセルグの持つ天ノ尾羽張と同期させる。
瞬間、集結する剣翼と共にセルグは天ノ尾羽張の一閃で迎撃。その一振りに追従する形で展開された数多の剣翼が大いなる破局を相殺していく。
「──神刀顕来・天ノ尾羽張!!」
剣翼で生み出した刹那の猶予を以て奥義を敢行。
巨大な剣閃が大いなる破局を切り裂いた。
「危なかった……何とか防ぐことはできたが……」
ギリギリの所で難を退けたセルグを尻目に、反転したバハムートが再び飛翔を開始する。
空の底からアガスティアへと……恐らくは十天衆を先に片付けようと言うのだろう。邪魔者を破壊する為にセルグを捨て置いて飛び立ったわけだ。
このままでは後僅かな時間の内に再びアガスティアにバハムートの暴威が振り下ろされる。
だが、セルグの中に焦りは無かった。
「我を後回しにして先に彼らを? ────神よ、それは軽率と言うものだ。彼等はヒトの子達の中でも最たる集団。いわば理の中で神とされるそなたに、最も近しいチカラを持つ者達だ……」
島の高さまで浮かび上がったバハムートが再び世界を震わす咆哮を挙げる。
数多の魔力弾を展開。嵐の如き弾雨がアガスティアを覆った。
そんな中を、蒼い閃光が縫うように駆けぬける。
「ヒトのチカラ──甘く見てくれるな」
胸部へと着弾。爆発を起こし、悲鳴を挙げたバハムートの攻撃は不発に終わった。
同時に、巨大な蒼き剣閃が二閃。バハムートの大翼を深々と切り付け、アガスティアの街へと墜落させる。
「────流石だ、強きヒトの子等よ」
感情の機微が薄くなったセルグだが思わず僅かな笑みが浮かんだ。
空の民は……この世界に生きるヒトはこんなにも頼りになるのだと。神の化身を相手にこうも簡単に抗ってくれるのだと。
蒼い大弓を構えるソーン、蒼い双銃を構えるエッセル。先程の閃光はこの二人に因るもの。
次いで蒼い長剣と蒼い刀。構えるは十天衆が頭目シエテと刀神オクトー。
他の面々も己に相応しい蒼の武器を構え、万全となった彼らが居た。
「問題はないようだな、ヒトの子等よ」
臨戦態勢となった彼らの隣へと降り立ち肩を並べる。
先程の大いなる破局を防いだことでやや消耗は大きいが、それでも目の前の彼らを見れば問題ないと思えた。
「細工は流々、あとは仕上げを御覧じろってね。
対抗できる武器と時間稼ぎまでしてもらったんだ。これで対抗できなきゃ俺達の矜持に傷がつく」
「ここからは任せて。これ以上、街を破壊させるような事はさせない」
「汝が創り出したこれらも真に強き武具。なればそれを振るう相手に不足がない事も実に良きかな。
武芸者として、これほど血沸き肉躍ることもあるまい」
シエテ、エッセル、オクトーがそれぞれに意気を上げる。
個々人が胸に抱く信念は違えど、彼らが見据えるはたった一つ。目の前の存在の排除のみ。
「お膳立てはもういりませんよ。これ以上は侮辱と取ります……どうぞ、僕達に任せてください」
「もぅ、カトルったらそういう言い方しないの。おかげでちゃんと戦えるのよ」
「大丈夫、この人の旋律。今は凄く穏やかで心地良いもの」
「なぁなぁ。この斧だったらアイツもぶっ飛ばせるんだよな? 大丈夫なんだよな?」
「少し黙っていろサラーサ。そんな事はやってみなければわからん────だからと言って不用意に飛び出そうとするな!」
「ねぇねぇウーノ。あちしはどうすれば良いの? 皆と一緒に戦うのなんて初めてだからあちし何していいのか……」
「ふふふ、好きに戦うと良い。今の私達は君の回復を必要としないだろう……君のその魔導の才、存分に振るってもらいたい」
残りの七人も口調こそ軽いが同様に闘志を漲らせる。もはや苦戦していた事など忘れたかのように。
当然だ。コスモス無しで渡り合えた彼らが、今揃って対抗する手段を手に入れたのだ。
それも今度は、十人全員が肩を並べて臨む。
最強である自負が、彼らに勝利を確信させた。
「──感謝しよう。ヒトの子等よ……ヴェル、リアス、我の事はもういい。彼らに翼を」
“心得た”
“わかったわ”
瞬間、セルグの気配が萎んでいく。
彼の身体から黒と白の光が離れ、それに伴いセルグの姿は覚醒したアナザーの姿から元のヒトであった姿へと戻っていった。
同時に解放された光は幾つかに分かれ形を作る。
大人一人を軽く乗せられそうな、大きな鳥の形へと。それは彼らの傍にそれぞれ寄り添い、頭を垂れて背を見せた。
「オレの分身体がお前達を運んでくれる。
これで決着にしよう。空の世界の未来、お前達ヒトの手で守り抜いてくれ────行くぞ!」
ヒトへと戻ったセルグの声に従い、飛び立つ十天衆。
立ち上がったバハムートの咆哮を合図に、今最後の決戦の幕が上がる。
──────────
「そこだ!!」
何度目になるかわからない、ココとミミの攻撃を防ぐ。
いや、正確には防ぐのではなく妨害すると言った方が正しい。
意識と思考は最速。ラカムの脳内ではケルベロスの次なる攻撃が幾つも幻視され、その全てを早打ちで抑えていた。
だが相手もさるもの。ココとミミは既に撃ち落とされず、ラカムの早打ちに対し回避行動をとるように変化していた。
勿論そのせいで攻撃には至れないものの、ココとミミの脅威は消えることなく飛び回り続けている。
「来なさい────シュヴァリエ!」
負担と反動が顕著なヴィーラは、無茶をせず堅実な戦いに移行。
受け入れの少ないシュヴァリエマージで自己強化に止め、暴走的な勢いのフェンリルに対していく。
「小賢しいんだよ!!」
そんな彼女の堅実を嘲笑うように、フェンリルはヴィーラが振るった剣を弾き懐へと潜り込んだ。
「くっ、アフェクション・オース!」
魔力を用いて操る影が彼女とフェンリルの間に入り無理やり間合いを開ける。
空気を切り裂く嫌な音を耳に残しながら、フェンリルの鋭利な爪がヴィーラの服の繊維を掠め取った。
「ここっ! エンドレスローズ!!」
攻撃を殻ぶらせた僅かな隙を見逃さず、ロゼッタがチカラを行使。
普段であれば地面に描かれた魔法陣から茨の槍が突き出す彼女の技だが、星晶獣としてのチカラを解放した今のロゼッタはその程度に留まらない。
床だけでなく、フェンリルを包むように全周囲を魔法陣が囲む。その全てから突き出される茨の槍は、当たればフェンリルの全身を余すことなく突き刺していくだろう。
当たれば────
「うがぁるああああ!!」
言葉ではない。正に狼の如く吠えたフェンリルの咆哮に合わせて冷気が放出。
迫りくる茨の槍は一瞬の内に凍り付きその動きを止めた。
フロストラウンド────解放されたフェンリルはその咆哮一つで周囲の全てを凍てつかせることができた。
「何てでたらめな……ゼタ、お願い!」
「わかってる、サウザンドフレイム!!」
圧倒的冷気を、炎の壁で突き破る。
横薙ぎに振るわれたアルベスの槍に合わせて現出した炎は、凍らされた茨ごとフェンリルを飲み込まんと迫る。
「させるわけないでしょ!!」
「助けるワン」
「止めるワン」
しかし、ゼタが放った炎の壁は飛び込んできたココとミミによって、フェンリルの身体一つ分だけの隙間を生み出して見せる。
ケルベロスは主となる闇と同時に火のチカラも宿す星晶獣である。ココとミミに炎を宿らせ打ち抜く“ラヴァ・ダムネーション”でゼタのサウザンドフレイムの一部を打ち払ったのだ。
「今度はそっちが隙だらけだ!!」
サウザンドフレイムは大きく横薙ぎに振るう技で隙が大きい。しかし放てば炎の壁が阻み懐に踏み込まれる事はないはずの技である。が、それが仇なした。
ケルベロスの援護が早かった事もあり、フェンリルの目の前にはまだ槍を構えなおしていないゼタが鎮座している。
床に着けた四脚が、爆発したかのような加速を生む。彼我の距離は数メートルといった間合いだ。今のフェンリルであれば正に一足で詰められる。
「がぁるあ!!」
気付けば、ゼタの目の前でフェンリルは前足を振り下ろしていた。
身動きできないままゼタがそれを見つめる。鋭利な爪が彼女の肩から脚にかけてを無惨にも引き裂くのが幻視できた。
「やらせるか!!」
間一髪。ラカムのデモリッシュピアースがフェンリルに直撃。
奥義による一撃は小さくない衝撃とダメージを与え、フェンリルの身体を大きく吹き飛ばす。
しかし、吹き飛ばされたフェンリルは何事もなかったかの如く即座に体勢を整える。
獣らしい機敏さを見せた直後には、邪魔されたことを理解しチカラを解放。
「先にてめえからだ、死ね!!」
大量に生成される氷柱。それが一斉にラカムに向けられた。
勿論ラカムはそれを全部視界に収め対抗しようとする。だが──
「(おいおいふざけろよ……どうしろってんだ……)」
操舵士としての彼の頭は瞬間的に理解する。
遠くから砲撃されるのとはワケが違う。全てがきっちりラカムめがけて殺到しており回避は不可能。その数も早打ちで全て落とせるような数ではない。
点での迎撃しかできない彼に、面制圧の弾幕は脅威にしかならなかった。
「くっそぉ!!」
窮地を救ったのは、やはり操舵士としての勘であった。できるだけ弾幕の少ない所を見つける。
ギリギリのところで回避行動。前に転がり込む動作で氷柱に対する自身の面積を小さくすると共に、射角からできるだけ逃れるように飛び込んだ。
「がぁっ!?」
それでも、殺到した氷柱の脅威から逃れきることは難しく背中と足、肩にも突き刺さった氷柱にラカムは悲鳴を挙げる。
命があるだけでも幸運……否、最善の行動をラカムはとれたと言える。だが、戦況は一気に傾いた。
援護に回っていたラカムが動けなくなった瞬間に、ココとミミの枷が外れる。
「ラカムっ!? こんのぉおお!!」
「ゼタっ、ダメです!!」
逸ったゼタがフェンリルへと踏み込もうとした瞬間、解放されたココとミミが強かにゼタの頭部を揺らした。
「くっ、しま──がっ!?」
ゼタが致命的な隙を晒す。体勢を崩し、ココとミミによって頭部を打たれたゼタは視線すら定まっていない。
その隙を逃さずケルベロスが直に攻撃。しなやかな肢体が躍動し、強烈な蹴撃がゼタを吹き飛ばした。
壁へと叩きつけられ、意識が僅かに飛ぶ。
頭では立ち上がらなければいけないと理解するも、ゼタの身体はその衝撃に言うことを利かなくなっていた。
「ロゼッタさん、二人を! 私が全てを賭して食い止めます──シュヴァリエ!!」
猶予はなかった……ラカムとゼタの戦線離脱にヴィーラはシュヴァリエのチカラを最大まで解放する。
白き鎧に装いを変え、プライマルビットを展開。ヒトでは出せぬその圧倒的なチカラは大星晶獣らしく、目の前の二体に勝るとも劣らない。
負担も反動も度外視のそれは正に無茶と呼ぶにふさわしいが、その無茶と引き換えに今の彼女は何者も侵すこと適わぬ鉄壁の要塞と化す。
「犬風情が……これ以上私の大切な人を害せるとは思わない事です!」
ディバインウェポンとイージスマージの展開。更にプライマルビットによる迎撃。
自身に負担を掛けながら、ヴィーラは苛烈に攻め立ててくる二体の星晶獣を相手に仲間達を守り始める。
もって数分であろう。
アガスティアに突撃する時から、幾度も用いたシュヴァリエのチカラは確実にヴィーラの身体を蝕んでいる。
それでも、むざむざ目の前で仲間をやらせるわけにはいかない。
彼女にとって、ここにいる仲間達は既に敬愛するカタリナと同様、何ものにも代えがたい大切な人達である。
己が無理をしてでも守りたいと願う人達である。
身体の痛みを無視し、途切れそうな意識を気力でつなぎ留め、ヴィーラは奮起した。
敵もこれが長く続かないことは理解しているのだろう。彼女を無視し、狙いを彼女の後方にいる仲間達へと向けてくる。
自身の防御すら疎かにして仲間を守るヴィーラは、徐々にその身に傷を増やしていった。
──────────
──何をしている。
苛烈と呼ぶにふさわしい二体の星晶獣の攻撃に、ヴィーラはされるがまま。それでも引き下がらず無茶を続ける親友の姿にゼタは嘆く。
ロゼッタがラカムに回復魔法を施していた。徐々に意識を取り戻し始めたイオ。オイゲンとアレーティアも、もう少し時間があれば立ち上がれるだろう。
まだ、皆戦える。
だというのに、ただ力の入らない腕で相棒の槍を握りしめることしか、今の彼女にはできなかった。
──アイツの為にも負けられないのに。
脳裏をよぎる最愛を思い浮かべてゼタは唇を噛んだ。その身に力入らずとも未だ闘志と怒りだけは衰える事が無い。
寧ろ自身の情けなさに、怒りは二倍増しで膨れ上がっている。
それでも、煮えたぎるような感情は彼女に立ち上がるだけの力を与えてはくれなかった。強く重い衝撃が全身を駆け巡り、言うことをきいてくれなかった。
──ふざけんじゃないわよ。こんなことでこの私が。
再び苛烈な攻撃を続ける敵を見つめる。
氷と闇。二つのチカラをそれぞれ纏い、ロキの犬は大事な仲間達を散々っぱらに痛めつけている。
胸にこの状況を仲間に強いている己への怒りが宿った。
──星晶獣を相手に私が最初に屈するなんて、真紅の穿光の名が泣くでしょうが!
怒りで湧き上がった気力だけを味方に付け、ゼタは何とか立ち上がった。
目の前では依然として熾烈な戦いが繰り広げられている。
ケルベロスの攻撃が縦横無尽に飛び回り、フェンリルが接近して氷の爪と強靭な健脚でヴィーラを追い込んでいく。
その表情には、いつこの状態が崩れるかわからない焦燥が渦巻いている。
──ぶちのめしてやる
乱雑で乱暴な思考がゼタによぎる。
苦戦を強いられる事も、犬共によって親友が傷つく事も我慢できなかった。
ましてや今足手纏いとなっているのは己だ。強者として、組織の戦士としてのプライドが彼女の怒りの枷を外していく。
対星晶獣戦は自身の領分ではなかったか。こんなところで燻っていて何が真紅の穿光だ。
未だフラつく体を罵倒するように言い聞かせ、ゼタは再び燃え上がるような闘志を滾らせる。
そんな時、自身が握る相棒に再び炎が灯ったような感覚をゼタは覚えた。
感覚だけではない。アルベスの槍の先端には再び炎が宿り、その身を僅かに淡く光らせている。
瞬間、ゼタの脳裏に一つの光景が過った。
”天ノ羽斬──全開解放”
切っ先が描く真円。そこからもたらされる莫大な光のチカラ。
最愛の彼が見せた全力の戦闘形態。それは自身と武器のチカラを余すことなく発揮する文字通り彼にとっての最強。
もし、あれが天ノ羽斬だけのものでないのだとしたら……
「全開解放……それがあるっていうの? アルベス」
愛槍を見つめ、ゼタは物言わぬ相棒へと言葉を漏らす。
彼女から零れた言葉を理解してか、愛槍は光を強める事で応えた。
切っ先より漏れ出る炎が強まり、青く輝く槍身がゼタに奮い立てと叫んでるように見えた。
「──わかった、だったら見せて頂戴。お前が見せる、私達の全開解放を!!」
声などない。言葉などない。だが、ゼタの胸の内に、アルベスの叫びが届く。
自身を情けなく思い怒っているのは彼女だけではない。相棒であるアルベスの槍もまた、怒りの炎を挙げていた。
それを理解し、ゼタはアルベスの先端に灯る炎で自身を中心にした円を描く。
彼女の気配の変化を察知したのか、ケルベロスとフェンリルが連携し、ヴィーラの防御を抜いて彼女に氷柱の雨を届かせる。
だが次の瞬間にはアルベスの軌跡が描いた炎の真円が、そのまま彼女を包む火柱となり、迫りくる氷の脅威を蒸発せしめた。
「アルベス! 我が怒り届かせる牙と成れ!!」
確信に満ちた叫びと共に、ゼタは愛槍を床へと突き立てる。
タワーの硬い床を難なく砕き、彼女の叫びに応えるように炎が爆ぜ火柱が大きく膨れ上がる。
その最中、炎の世界に閉じ込められたゼタはその圧倒的熱量に包まれながらアルベスの槍を握りしめた
──絶対に認めない。私が……私とアルベスが弱いなんて事、絶対に
留まる事を知らず枷を外された彼女の怒りの矛先は、最も身近な存在、自身に向けてのものであった。
弱い自身に、情けない己に対し、彼女はこれまでにない程の怒りを覚えた。
嘗てヴィーラは言った。彼女の怒りは炎の様に猛々しく、それこそが彼女の強さなのだろうと。
であるなら、今の彼女の強さは如何程になるだろうか。
怒りの矛先は自身へ。もっと言うなら弱い己。
故に彼女の怒りが行き付く先は、一つに定まっていると言えよう。
それ即ち、最強の自分である。
主の呼びかけにアルベスの槍が答える。
アルベスの柄より伝わるは炎の熱量に負けない様な奇妙な温かさ。彼女を支え、今一度奮い立たせる様な……そんな優しい熱であった。
それは無様を晒すなと叱咤しているようで、一人で戦うなと諭しているようで、どこか心地が良い。
アルベスの槍が選んだのだろう。自身の全てを振るうに相応しい、最大級の
身体の芯から湧き出る様な熱情がゼタの身体を支配していく。
煮えたぎる怒りは真っ直ぐに敵へと向けられ、ゼタとアルベスの槍は一つとなって、今新たなステージへと登った。
「アルベスの槍よ、そのチカラを示せ! 全開解放──“シリウス”!!」
膨れ上がった火柱が爆ぜ、炎の世界を解き放った時。
そこには、全開解放に至ったゼタがいた。
青い炎を纏うアルベスの槍。そして彼女を囲むように展開された、淡く輝く青い光の槍が6本。
アルベスの槍に酷似したそれらは、まるで猟犬のように主の周囲をぐるぐると回っている。
「何がどうなっても」
「関係ないワン」
ヴィーラの防御を抜き、ココとミミが迫る。
既に限界近くか……ヴィーラの動きはもう精細さを欠いていた。
彼女の防御が及ばなくなってきている────ゼタの脳裏にまたも炎が灯った。
「んぎゃ!?」
「ふぎゅ!?」
先程までゼタが感知することも、防ぐこともできなかったココとミミが叩き落とされる。
幾重にも張り巡らされた、青の槍の防衛網に。
──上々。脅威を察知しオートで迎撃……忠犬のような機能ね。
満足したように叩き落とされたココとミミを一瞥し、本体のアルベスを握りしめる。
状況の変化に二体が惑いを見せている今がチャンスだ。ゼタはアルベスの槍のチカラを衝動のままに解放した。
「全てを穿て、アルベス──シリウス・レイド!」
ヴィーラを攻め立てていたフェンリルとケルベロスに青い槍が飛び交う。
アルベスの槍────その全てを解放したゼタは、宣言通りにヴィーラを狙う獣達を打ち貫いた。
如何でしたでしょうか。
前書きの描きたかった部分ってのは、ゼタとアルベスの槍の覚醒のお話。
2年前にアガスティア編に入ってからずっとこの展開を考えていました。一年前にゲームの方でそれっぽいのが見られたので参考にはしましたが、元々ゼタの覚醒はセルグと同じ全開解放が予定でした。
彼女の最終解放が実装される前に描けて良かったと作者は、少しだけ満足しています。
そして、今回でアポロがさらってやられた感じになっちゃいましたが、少しだけ弁解いたします。
本作の彼女は決して弱くありません。無論この後しっかり戦ってもらいます。
ただ、今回はフリーシアが完全に奇襲を成功させたってだけの事です。
原作のように魔晶使わせないですけど、作者の中では依然七曜と十天は同等の認識で描いていくつもりです。
本当に、もう完結までの流れが目の前にきております。
もう少しなので、最後までお楽しみいただければと思います。
後、アンケを新しく用意しましたのでお答え頂ければ幸いです。
最後に、作者のやる気を振り切るために感想を……どうかお願いします。
もらえると本当に嬉しいのです。読者の声が聞けるとやる気が満ちてくるのです。
どうぞ、お願いいたします。
本編完結間近という事で今後の参考に。完結後読みたいと思うのは
-
色んなキャラとのフェイトエピソード
-
劇場版。どうして空は蒼いのか連載
-
イベント。四騎士シリーズ連載
-
次なる舞台。ナルグランデへ、、、
-
その他(要望に応える感じ)