granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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年内に空蒼終わらせたいけどいけるかな……


第四幕 友

 

謎の男と対峙する、グランとジータ。

天星器を解放し、高ぶる勢いのままに戦闘へ入ろうとしたところで……二人はその足を止めていた。

 

「どうしたんだい? 戦うつもりできたんだろう?」

 

挑発的な声に惑わされず、二人は最大警戒で男の一挙手一投足をみる。

成程……これは確かに危険だと思えた。

今では七曜の騎士と並ぶとも評される二人をもってしても互角……あるいはそれ以上。少なくとも、男の実力の底は見当がつかないものであった。

 

「ジータ」

「わかってるよ」

 

奇妙な沈黙が下りる。

アガスティアの戦いを経てから、どこか天狗になっていたのだと二人は思い知らされた。

自分達を超えるような敵が現れる事など、そうはないだろうと。七曜の一人である黒騎士アポロとも互角に渡り合える二人。その二人が並び立てば適うものなどいまいと……そう、たかをくくっていた。

だが目の前の男は違う。強者の気配とか、実力者の雰囲気とか、そういうものではなくもっと根本的に、違った。

存在から、内包するチカラの総量から。ヒトの枠を……ともすれば星晶獣の枠すらも逸脱した存在。

目の前の男は、そういう次元の敵なのだと……二人は感じ取っていた。

 

「来ないのかい? なら――」

「させない!!」

 

沈黙と均衡を破る男の機先を制して、ジータが手にする五神杖が輝く。

瞬時に向けられる魔法弾――――その数、正に数多。

普通の魔導士からすれば卒倒ものな数の魔法弾をジータは完璧なまでに制御し、男へと向けた。

 

「この程度、躱す必要はない」

「うおおお!!」

「っ!? へぇ……」

 

防壁を展開し防ごうとする男へ、同時にグランが肉薄。

完璧なタイミングだ。互いの動きを理解した二人の攻撃は全くの同時に繰り出された。グランの七星剣を受ければ魔法弾を受けるし、その逆も然り。

画して男は防御ではなく回避を選択。肉薄するグランを突き放すように大きく後ろへと距離をとる。

 

「甘い!!」

 

直後……着地の隙をつくように降り注ぐ魔力矢。魔法弾と時間差で放たれたジータのアローレインが、男をその場に射止める様に襲いかかる。

 

「もらった!!」

 

そこを更に踏み込んだグランが続く。今のグランはホーリーセイバーの鎧を着こんでいる……降り注ぐアローレインをファランクスで防ぎながら突撃することなど朝飯前だ。

極光纏う斬撃――横なぎに振りかぶられる巨大な一閃と、驟雨の魔力が同時に降り注ぐ。

男の動きを読み切った完璧な連携に、後方で観戦していた武勇の天司とアレーティアが舌を巻く中、二人の攻撃は男を完全に捉えるのだった。

 

 

音が――鳴り響く。

 

 

グランは嫌な記憶を思い出していた。

この感覚はそう……ザンクティンゼルで初めてセルグと出会い、共に旅をするために戦いをしたとき……

 

「ふぅん……連携は完璧、威力も人間の枠で言えば規格外。つくづく面白い……それでも、チカラの差は致命的だな」

 

男はグランの斬撃を片手で持った剣で防ぎ、逆の手で防壁を作ってアローレインを防いでいた。

その背には、一対の()が顕現している。

 

「俺に羽を出させるとはね……人間だと思って甘く見ていたのは認めるよ」

「くっ!?」

「引いてグラン!!」

 

五神杖を回転――円状魔法陣を構築し四つの基点から魔法を吐き出す。ジータの制御を受けて飛び出す四色の光、エーテルブラストが悪魔的な破壊力をもって男に迫る。

二つは男が切り払い、残り二つはジータの制御を受けてグランと男の距離を開けるために地面を爆砕させる。

寸前にファランクスをはさんでどうにかダメージを受けずに後退できたグランは転がりながらも、ジータの所までもどって体勢を立て直した。

 

「よくもやったな! ありがとう!」

「どういたしまして、集中して!」

 

軽口叩きながらも、油断せず男を見据える。

男はまだ二人の様子を伺って動き出す気配はなかった。

 

「目的は一応果たしている。わざわざここで付き合って戦うなどナンセンスだが――興味はある。君達が新世界の民にふさわしいかどうか、ね?」

「新世界の民? ふざけたことを……」

「さっきも言ったはずです。今の世界を壊そうなんて、許さないと!」

「そうかい、なら早めに厄介の種は摘み取っておくべきだな。悪いけどここで――っ!?」

 

剣を構え、グラン達へ牙を剥こうとした男を紅蓮の炎が襲った。

 

「ちっ……『ミカエル』、もう復活したか!」

「でええああああ!!」

 

咆哮と共に男へと吶喊するは、紅蓮の炎を思わせる深紅の剣を握った武勇の天司ミカエルであった。

その力強い剣戟をもって、男と鍔ぜり合うミカエル。だがそこに余裕は無い。

 

「手負いの分際で……」

「ヒトの子等よ! 全力で叩きのめせ! 好機はいまぞ!」

 

ミカエルの声に我に返るグラン達。

事態の変遷に呆けるのは一瞬。男が災厄の元凶であることは先の言動からもわかる。ならば、今は刃を振るう時。

 

「やるぞ二人共! 北斗大極閃!!」

「聖柱五星封陣!!」

「白刃一掃!!」

 

三位一体となって奥義を放つ。

男を包み込む光の方陣が焦がし、七点極光の七連撃が容赦なく襲い、二刀一閃の一撃が屠る。

 

「お願い、サジタリウス!!」

 

止めの一撃。ルリアが呼び出したサジタリウスの放つ巨大な一矢が、叩きのめされた男を吹き飛ばした。

崩落した洞窟の岩肌を砕きながら、奥へと消えた男。沈黙が再び辺りを覆った。

 

「よ、よぅ……やったのか?」

 

恐る恐ると言った様子で問いかけるビィに、誰も口を開けなかった。

生半可な攻撃ではなかったが、それでも倒し切れた確信は得られない。

どことなく、手応えが薄かった感触があった。あれは恐らく、直撃は与えられていないと……

 

「気を抜くな、奴の気配はまだ生きている!」

 

ミカエルの言葉に緊張が走る。

身構えると同時、崩れた岩を突き破り男は空へと飛び出した。

無傷――ではない。手傷は負わせている。

が、そこまでだった。致命傷には見えないし健在といえる。

そして男の表情には、憤怒の形相が浮かんでいた。

 

「――さすがに、本当に死ぬかと思ったぞ。まさか天司であるミカエルと合わせてくる人間がいるとは思わなかった」

「ふんっ、羽を奪ったくらいで増長するからそういうことになる。奪ったところで仮初の力……馴染ませ、扱うにはまだ不十分だろう」

「つくづく気に食わないな。まるで羽を奪われても怖くないとでも言わんばかりじゃないか」

「その通りだ。四大天司の羽を奪いまわってる様だが、それを真に扱いきれる器など、天司長様しかいまい。どこの馬の骨かは知らんが身の丈に合わない事などするものではないぞ」

 

ミカエルと謎の男の雰囲気に気圧されて入りこめないグラン達を差し置いて、二人の会話は続いていく。

グラン達からすれば、既にわからないことだらけの会話だが、男がミカエルの仲間から何かを奪って回っていることだけは読み取れた。

 

そしてこの災厄には、天司と呼ばれる者達が深く関わっているのだと。

 

「気に食わない……だが、こちらも少し手傷を負った。ここは素直に引くとしよう――羽を馴染ませる時間も欲しい」

「妾が言ったことが理解できていないようだな。どこの馬の骨かもわからん奴に扱える代物では――」

「君の物差しで測らないことだ。その程度の器、俺には許容範囲さ」

「何?」

「それじゃ、また……次に会う時は覚悟しておくと良い」

「あっ、ちょっと待て!!」

 

訝しむミカエルを尻目に、男が飛び去ろうとするが、今度はグランが呼び止める。

まさか止まってくれるわけないと思っていたが、意外なことに男はグランの声に耳を傾けるのだった。

 

「ん? 何だい。新世界の民になりたいというなら、後にしてくれ」

「そんなの許さないと言ったはずだ! そりより、その翼……お前も調停者なのか?」

「調停者? 何のことだい。俺は天司さ……空と星の狭間の者、らしい」

「天司……それじゃあ、セルグって名前を知らないか?」

「――知らないね。少なくとも俺は。後はそこにいるミカエルにも聞いてみると良い。俺よりは詳しいだろう」

 

それじゃ、と妙にきさくな様子で謎の男は飛び去って行く。

グランとジータはそれをもどかしそうに見送った。

男が背に負う翼……既視感を覚えるそれは嘗ての仲間の姿だ。思い出したと同時に、同じ類の存在ではないのかと考えた。

だが、そうであれば矛盾があった。消えてしまった彼は、空を守る為に存在する調停者なのだから――――結論、先の男と彼には何の関係もなかったようだ。

 

胸の内に突っかかっていたとげが抜けたようで少し安心できたが、それだけで済ませられないのが現状だ。

ここで仕留められれば、災厄は止められたかもしれない。そう思うと、あの男を逃したくはなかった。

ルリアのフェニックスで追う事も考えたが……しかし、男の実力の底が知れないため無茶もできない。

小さく息をつくと、大きく肩を落としてしまう。

 

落ち込んでばかりもいられない。グランとジータは示し合わせたかのように気を取り直して振り返る。

目の前にはもう一人、大事な情報源がいた――こちらの方は逃すわけにはいかないだろう。

 

「小童……いや、グランと言ったな。言いたいことはわかっておる。話をしてやる故、そう目を尖らすな」

「それじゃあ聞かせてもらうよ――この空で今、何が起こっているのかを」

「あぁ、教えよう。そなたたち人間が言う災厄と、奴や妾が何者なのかを」

 

 

静寂に包まれた荒野の中、ミカエルは静かに語りだした。

 

 

――――――――――

 

 

「四大天司は――随分と手酷くやられているな」

 

彼の地、カナンにてセルグとルシフェルは空の世界を見ていた。

彼らが災厄に対して何をしているのか……それは計り知れるところではないが、未だ彼らの会談は続いている。

 

「四大天司と言っても万能ではない。ましてや無敵などと言う事はあり得ない。必然、彼らにも突け狙う隙はあるだろう」

「それが……顕現のタイミングか」

「そうだ。四大天司達は島を浮かせる浮力を維持するため、本来形を持った状態での顕現をしない……そして顕現には多くの力を必要とする。つまり顕現した時が一番消耗していると言う事だ」

「そうとわかっていて何故……態々顕現してこんな事態を招くことになったんだ?」

 

セルグは僅かに顔をしかめていた。

わざわざ消耗して顕現したばかりに隙を突かれ、またも四大天司の一角が崩れたのだ。

お陰で、災厄の進度はさらに進んだ。時期に島がまた落ちるだろう。

 

「発端は土の天司から始まった……彼の男は土の天司が管轄する領域にて元素を乱し、誘いをかけたのだ。そして、顕現した隙を突き――」

「なるほどな。そして一角が崩れれば他の天司の顔を出させるのも造作ないというわけか」

「その通りだな」

 

淡々と答えるルシフェルに少しだけ対応が刺々しくなってしまうことを自戒しながら、セルグは情報を整理していく。

一角が崩れれば、他の天司達は調和と均衡を保つために動かねばならないだろう。そうなれば顕現する必要がある。

最初の土の天司が崩されなければと思わなくもなかったが、担当領域に異常があれば動くのが必然。と、考えれば対応を責めることもできない。

厄介だが見事な計画だと思えた。

 

「それで、あの男については?」

「――まだ、わからない」

 

初めて。淡々と受け答えをしてきたルシフェルの答えに惑いと微かな感情の揺れが見られて、セルグの表情が変わる。

 

「まだ? ということは何か心当たりはあると?」

「不確定だ。推論や疑惑だけで語ることは肯定できない」

 

対応が戻るも、ルシフェルの答えにはそれ以上は話さないという意思が込められている気がした。

セルグは追及を深めていく。

 

「その推論や疑惑から可能性は生まれ、真実が見えてくるんだ。災厄を止める為にも必要な情報だろう。不確定でも良い、教えてもらおう」

「――彼の正体は、恐らく」

 

逡巡は僅かであったが、ルシフェルは言葉を選ぶように少しづつ話始めた。

災厄……その元凶となる話を。

 

 

 

 

 

 

「奴は、四大天司に非ず……妾は『第五の天司』に他ならぬと考えておる」

 

ミカエルの言葉に、グラン達は僅かに息をのんだ。

 

あれから、小一時間は話しただろうか。グラン達がミカエルから聞いた話はこうだ。

災厄が始まる最初――――発端は四大天司の一人、土の元素を司るウリエルの気配が消えたことから端を発する。

それによって元素の均衡が崩れ、災厄と呼ばれる島の落下現象が始まったのだと。

四大天司はウリエルの動向を知ると共に、再び元素の調和と均衡を保つため、最も元素が乱れていたこのファータ・グランデ空域へと顕現。

各々が、自身が顕現しやすい元素の集まる場所にて顕現を果たしたが、先に顕現したラファエルの気配もウリエル同様に消えた。

事態を重く見たミカエルも早急に対処しようと、件の洞窟へ顕現したところで先の男に襲撃され、羽を奪われたのだと言う。

羽とは、天司が持つ最重要器官。司る力の源泉たるコアが組み込まれている。それを謎の男はウリエル、ラファエル、そしてミカエルと。四大天司の内、三人から奪っていったということだ。

 

この状況……これを残る四大天司であるガブリエルが起こすとは考えにくい。そもそも、四大天司は知己の間柄だ。戦闘までしてミカエルがガブリエルに気が付かないなどありえない。

故にミカエルは、今回の災厄の主犯を『第五の天司』と断定したのだ。

 

「第五の天司……それが今回の災厄の犯人」

「そうだ、羽を奪われた妾は脆弱な獣に過ぎん。対して、奴の力は既に神に等しい。土に風、妾の火をも手に入れた奴を相手に、ガブリエルだけで抗うのは不可能だろう」

 

深刻な表情で、事態を語るミカエル。

対してグラン達は、聞いた情報から次なる動きを考えた。

 

「第五の天司。あいつの次の狙いはそのガブリエルさんで間違いないんですね?」

「恐らくはな。三つの羽を奪ったんだ……今更四つ目を躊躇はするまい」

「顕現する場所に検討は?」

「水の元素が集まる場所……としか言えんが」

「ってーと……アウギュステじゃねえのか?」

「そうだな。リヴァイアサンと関わりも深いし、水の元素が集まるところっていったらアウギュステくらいしか思い浮かばないけど……」

「じゃがアウギュステに向かおうにも、先に起こった羽が生えた宝石の襲撃で、今は渡航規制がかかっておる。儂もフレイメルからここへ運んでもらうのにずいぶん苦労したものじゃ……果たしてアウギュステに向かえる艇があるかどうか」

 

アレーティアの言葉に、唸る一行。

流石にルリアのフェニックスでミカエルとアレーティアを含めたこの人数は厳しいだろう。

島と島を渡るにはかなりの時間を要するため、ルリアが持たないのもある。

やらなければいけないことがあるというのに……現状の彼等にはその手段がなかった。

 

 

「グランさ~ん、ジータさ~ん」

 

 

そんな彼らを、間延びした聞き覚えのある声が呼んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……あの戦いのせいで、そんな事が」

 

神妙な面持ちで、セルグは視線を落とした。

ルシフェルより聞かされた、今回の災厄の犯人と思わしき正体と原因。そこにはまだヒトであったときの彼が深く関わっていた。

 

「君達のせいではない。あれの原因は星の民である男の暴走が原因だ。故に君が……君の仲間が責を覚える必要はない」

「それは詭弁だ。顕現を許したオレ達に原因の一端はあるだろう……これは、四大天司達を責められなくなったな」

 

落とした視線を上に……天を仰ぐようにしてセルグはため息をついた。

頭の中で様々な思考が回っている。その結果は……

 

「どこへ、行くつもりだ?」

 

ルシフェルへと背を向け、カナンの神殿を後にするべく歩き出すのだった。

その胸の内にある決心を……彼の心の機微を、ルシフェルは感じ取れなかったがいきなり動いだした彼が何かを思い立ったのは優に想像がつく。

掛けられた声に、セルグは足を止めて振り返らずに手を翻す。

 

「――空へ」

 

答えは一言で十分だった。

セルグは元々、今回の災厄に手を出すつもりはなかった。

これが空の世界の――空の民の問題だと捉えていたから。空の民だけで……超えられる問題であるはずだからだ。

だが、事の発端。その更なる原因には嘗ての自身がいた。

彼が愛する空の世界における災厄に、自身が関わっていたとあれば。それは何よりも、彼が許せない事態であろう。

間接的に、災厄による被害を出しているのは、彼でもあることになるのだ。

 

問答はもう必要ないと再び歩き出そうとする背中にルシフェルは再び口を開く。

 

「できないのだろう?」

「必要ならと……方法は考えてきた。代わりに捨てるものはあるが」

「なら、少しは待っていても良いだろう」

「どういう事だ?」

 

予想外な言葉に、セルグは振り返った。

 

「彼らは、きっとこの災厄を止められる……止めてくれるだろう。君は、その先の災厄の為に来たのだろう?」

「だが、このままでは島が……それに塔の封印も」

「確定した未来ではない。君はもう少し、君の仲間を信じることを覚えるべきだ」

 

淡々と、諭してくるルシフェルの言葉に、セルグは少しだけ自責に荒んだ感情を落ち着ける。

確かに、この災厄の結末はある程度見えている。だが、ルシフェルが言う通り確定ではない。良くも悪くも転ぶだろう。

それは、ルシフェルも同じだ。目の前の存在はそうしてここで空の世界を眺めながら、この空を守る為に一人でずっと差配してきたのだ。

先に聞いた天司の起こりから、何千年もの長い間を……

 

「無表情で……よくも言ってくれる」

 

ルシフェルの言葉を聞き届ける様に、背を向けていたセルグは再度振り返りルシフェルに歩み寄った。

目の前まで歩みよると、ルシフェルの前に彼はその手を差し出した。

 

「その手は何だ?」

「きっとお前は、ずっとこの空を守ってきたのだろう? 母上が顕現できず、オレがヒトのまま遊んでいた時もずっと。だからこれは、空を守ってくれた先達への敬意と、同じ使命を持つ者同士の友好の証だ」

 

守るべき者に災禍が及ぶ時、眺めるだけなどセルグには我慢できない事だ。故に、永劫に近い時をここで自らの使命に従い続けていたルシフェルの事を考えると、セルグは畏敬の念を禁じえなかった。

彼のこれまでに……彼の言葉に畏敬を感じ、セルグは手を取り合いたいと考えたのだ。

 

「友好の……証?」

「知らないのか? ヒトは皆友好の証として手を繋ぐんだ」

「知ってはいる。だが、それは我々にも適する話なのか?」

 

淡々と疑問を呈するルシフェルに思わず呆れたため息が漏れた。

セルグはルシフェルのこれだけは真似できないと思えた。淡々と、感情の無い人形のような……先の問答のなかでわずかに感情の機微が見えたがそれっきりだ。

正直生きている感触がしない。

 

「細かいことは良いんだよ――――オレの名はセルグ。空を守る使命をもって生まれた調停の翼だ。ルシフェル……これからは手を取り合って、共に空を守っていきたい」

 

宣言するように、強い口調で今一度その手を差し出す。

どうするんだ、と言いたげな視線を向けられ、ルシフェルは思案した。

 

「手を取り合って……か。何故だろうか、今までにない妙な感覚が私の中に生まれている」

「その感覚に身を任せると良い。きっと少しは、これから生きるのが楽しくなる」

「そうなのか……では、助言の通りに君の手を取るとしよう」

 

ルシフェルが差し出されたセルグの手を取り、握る。

空を守る者同士の――友好の証であった。

 

「よろしく頼む――ルシフェル」

「こちらこそ、君の助力に感謝しよう――セルグ」

 

 

翼と天司は交わった。

終焉へと向かう空の世界を……その脅威と立ち向かうため。

 

静かな神殿に数千年ぶりの新たな風が吹き込んでいた。

 

 




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