granblue fantasy その手が守るもの   作:水玉模様

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お待たせ致しました。
全力戦闘回。どうぞお楽しみください。


メインシナリオ 第66幕

 

「はぁああ!!」

 

「おらぁあ!!」

 

 

 刃と刃がぶつかり合い、耳障りな音が弾ける。

 膂力任せの攻撃を早さを以て迎撃したモニカは即座に後退。

 直後にモニカの背後より風の刃が放たれガンダルヴァを襲うが、魔晶のチカラを纏ったガンダルヴァは回避する事も無いままそれを受け切った。

 驚異的な防御力を改めて目の当たりにしモニカは小さく舌打ちすると、再びヴィントシュナイデンを重ね掛けしてガンダルヴァの懐へと飛び込み一閃。

 

「紫電……一閃!」

 

「足りねえってんだよ!!」

 

 剣速は最大。セルグの見えない剣閃と変わらぬであろうモニカの一撃は確実にガンダルヴァの首元へと向けられた。

 しかし、限界を超えた強化を掛けて尚、今のガンダルヴァには届かない。

 放たれたモニカの剣閃は難なく打ち払われ彼女の身には大きな拳の一撃が迫る。

 

「くっ、こんのぉ!」

 

 力を抜き、身体を投げ出すようにしてモニカは受け流した。

 小柄な彼女だからこそ、大きく避けずとも僅かに逸らせば攻撃は空を切る。故に、空振りを生み出したこの瞬間は再び懐へと潜り込み一閃見舞うチャンスとなった。

 

「受けよ迅雷。雷槍光陣!」

 

 床に突き立てた刀より広がる魔法陣。雷の網がガンダルヴァを捉え光の槍がガンダルヴァを貫いていく。

 

「足りねえって──」

 

 太い腕がモニカを捉えた。

 乾坤一擲のつもりで放った大技ですら、ガンダルヴァの意識を飛ばすには至らず、太い腕がモニカを掴みあげると彼女の身体はまるで小枝のように大きく振り上げられる。

 

「言ってるだろうが!!」

 

「がっ!?」

 

 僅かに怒りも乗せられ床へと叩きつけられたモニカ。その衝撃によって一瞬か数秒か……モニカは意識を飛ばす。

 無論身体が受けたダメージは大きい。受け身すら取れずに叩きつけられた衝撃は背中から内臓にまで届き、一時的に呼吸困難へと陥る。それだけにとどまらず、骨への損傷や内臓へのダメージによる吐血。端的に言えば彼女の身体が負った怪我は重傷と呼ぶにふさわしいだろう。

 

「止めだ!」

 

「──させ、るか!」

 

 激痛からか、運よく彼女は僅かな間に意識を取り戻すと、振り下ろされる剣を血を吐きながらも受け流して見せた。

 彼女を狙って床へと突き立てられた剣を蹴り付け再び踏み込む。死にもの狂いで繰り出す渾身の一閃は無防備であったガンダルヴァの腕を大きく切り付けた。

 

「ぐっ!? てめぇ──」

 

「よそ見しすぎだよ、ガンダルヴァ!!」

 

 モニカを蹴り飛ばそうと脚を引いたガンダルヴァだが、その前に金色の光が視界をよぎった。

 それが何か、等と確認する悠長なことはしない。

 重傷なモニカを捨て置き、迎撃するべく振り返ろうとするがそれよりも金色の刃が閃く方が僅かに早かった。

 

「四天洛往斬!!」

 

 多大な光のチカラを纏いジータの四天刃が閃く。

 チョークとチェーサー。二つの強化魔法を加えて繰り出されるは金色の斬撃の乱舞。当たればその身を光の柱が焼く数多の斬撃が、視界を埋め尽くさんばかりに放たれ、ガンダルヴァは成すすべなく刻まれていった。

 

「ぐっ、ぬぉおおお!」

 

「まだまだ!!」

 

 ガンダルヴァが足を止めたとみるや否や、ジータは次なる行動に移る。

 四天刃を放り出し両手に魔力を集中。

 最適な手順と完全なイメージ。詠唱と同時に組みあげられる魔法は、彼女が繰り出せる最大魔法への一手。

 

「エーテルフラップ!」

 

 4つの光がガンダルヴァを囲うように放たれる。

 放たれた光はそれぞれ四大属性に彩られ大きな魔法陣となった。

 

「これが私の奥の手────エーテルフラップ・ブラスト!」

 

 続けてジータが放つは最大まで溜めた4つの光、エーテルブラスト。

 放たれたエーテルブラストはそれぞれフラップを介して大きな光となり、再び収束する。

 

 エーテルブラスト派生形エーテルフラップ・ブラスト。

 予め展開した魔法陣にエーテルブラストを放ち強化して撃ち出す。エーテルブラストの数段上の威力をもつ、今繰り出せるジータの最大魔法だ。

 

 ガンダルヴァを塵にも変えそうな巨大な爆発が襲った。轟音と爆炎が彼女の魔法の威力を物語り、抵抗する気配すら見せずにガンダルヴァは吹き飛んで煙の中へと消える。

 確かな手ごたえのある一撃を叩き込む事ができ、僅かながらにもジータの表情には喜色が浮かんだ。

 既に、かなりの時間を全力で戦い続けている。極度の疲労と緊張に身体が悲鳴を上げ始めていたジータにとって、決着とまではいかなくてもこの一撃は自分達を優位にする大きな一手であった。

 

「はぁ……はぁ……これで……」

 

「ごほっ……見事な、技だジータ殿。あれならば流石にガンダルヴァにもダメージがあるだろう。今の内に少しでも治療を──」

 

「させると思ったか?」

 

 並び立つモニカと、互いに傷の具合を確認しようとした矢先。ぞくりと総毛立つような気配の中、爆煙より斬撃が放たれる。

 ガンダルヴァの奥義ブルブレイズバッターが疲労困憊な二人を襲った。

 

「なっ!?」

 

「ぐぁ!?」

 

 防御も回避も間に合わない。何の抵抗もなく受けた斬撃は彼女達の身体を刻み床に血溜まりをつくる。

 油断など毛頭なかった二人だったが疲労と負傷が祟り直撃。

 ジータはかろうじて意識を繋ぎとめているがモニカは倒れ伏したまま動き出す気配がない。

 ダメージを負いボロボロでありながらも悠然と歩みを進めてくるガンダルヴァを、ジータは鋭くにらみ続けるが、彼女の身体にも既に力は入らなかった。

 

「さすがに良いダメージを受けたぜ。かなり血を流したし、魔法による爆発も効いた。魔晶のチカラも大分削られた、が──それでも再生自体は順調に終わるだろう。

 リーシャが倒れ、モニカが落ち、残るは満身創痍の小娘と一人だけ元気なカタリナ中尉か……勝負は付いたも同然だな」

 

 状況は完全なる劣勢に陥った。

 勝ち誇った顔を見せるガンダルヴァの言うとおり、ギリギリで互角を維持していた戦力はここにきてモニカの脱落とジータの負傷により一気に傾いた。

 ジータの集中力は薄れ、四天刃の解放はもはや適わない。

 だが、今ガンダルヴァと渡り合えるのは己だけだと震える身体を叱咤し、ジータは何とか立ち上がろうとした。

 

「ふ、ふざけないでよ……勝手に勝った気にならないで。

 私はまだ──」

 

「ストップだジータ。後は私がやる……少し休んでてくれ」

 

 重くいう事を聞かない体に鞭打って立ち上がろうとしたジータだが、後ろから肩に手を置かれ、次の瞬間には僅かながら身体が楽になった事を感じる。

 

 掛けられたのは回復魔法のヒール。掛けたのは、目の前に歩み出した姉の様に慕う騎士。

 

 

「奴の言う通り、一人だけ元気なのでな。ここからは……私が相手だ」

 

 

 切れ長な双眸で鋭くガンダルヴァを睨み付け、カタリナ・アリゼが騎士の本懐を遂げるべく戦場に立った。

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 目の前で繰り広げられるハイレベルな攻防。

 

 天星器を解放したジータと、無茶な強化を施し限界ギリギリの戦いをするモニカ。

 そして、その二人を軽くあしらう事ができるガンダルヴァ。

 

 

 

 いつからであろうか。

 

 大きな壁を────大きな差を感じるようになったのは。

 

 

 まだ若い、幼さすら見え隠れする団長二人。若干11歳にして魔法の才覚を発揮するイオは言わずもがな。

 発展途上の彼らが旅を経て見せる急激な成長は、恐れすら抱くほどに顕著であった。

 

 

 ゼタ、ヴィーラ。セルグ、アレーティア。

 

 

 いずれも、戦いにおけるエキスパートと言えるだろう。

 経歴、武器、星晶獣、と各々が持つ要素は様々だが一概に言えるのは強さという一点において、他と隔絶した実力を持っている。

 自分などでは到底及ばない。

 

 

 戦闘という点において明確に彼等との差を感じ、自身が劣っていると卑下するようになったのは……いつからであろうか。

 

 留まる事をしらない魔晶の脅威。

 ポンメルンもフュリアスも、自分では適わない事が如実に感じられた。

 守る事に長けた戦いができるのだと自身に言い聞かせても、結局の所敵を倒す事は出来ないのだと思い知らされた。

 ルーマシーで情けなくも一撃の下に気絶させられ、ザンクティンゼルではフュリアスの砲撃に何も抗うことなく飲み込まれかけた。

 

 そしてアガスティアでは……何もできず、ロキにルリアを奪われてしまう。

 その結果は悲惨極まりないものであった。

 バハムートの召喚によって案内役となっていたアダムは破壊されセルグは瀕死。

 断言できよう。十天衆が駆けつけなければあの場ですべての戦いの決着は付いていた。自分達の敗北とこの世界の終焉という形で。

 

 ──守る。

 

 その一点ですら自身の価値を見出すことができず、無意識のうちに戦う事から一歩引く様になっていた。

 

 今だってそうだ。

 目の前の二人にガンダルヴァを任せ、自分は体の良い回復役に甘んじている。

 自分では渡り合う事など不可能なのだと、諦めの気持ちが生まれてきてしまっている。

 

 

 仮にリーシャ殿が負傷せず、万全の状態であろうとも……だ。

 

 

 

「カタ……リナ……さん」

 

 目の前の戦闘に目を向けていた私の耳に、消え入るような微かな声が聞こえてくる。

 

「リーシャ殿!? 意識が戻ったのか。身体は──」

 

「私の事……は良い、ですから。二人の援護に……私も、自分で治癒したら加わりますから……」

 

 そう告げたリーシャ殿は、ヒールを掛ける私の手をどけると、自身の魔法で治療を始める。

 リーシャ殿は身体こそボロボロであっても、その瞳には決して諦める気配が無い。

 むしろ、目の前で繰り広げられている戦いに入れない事に苛立ちすら抱いているようであった。

 

 ガロンゾで初めて出会ったあの頼りない姿が嘘のように、そこには秩序の騎空団船団長補佐としての、リーシャ殿の矜持が見える。

 

「無理をするなリーシャ殿。既にかなりの重傷なんだ、後は私達に──」

 

 不意に言葉が止まる。

 任せろ──その言葉が言えるのか。そう自身に問いかけてしまった。

 ここで手をこまねいている自分がどの面を下げて、そんな大口を叩けるというのか。

 

 適うわけが無いと、諦めている自分に。勝てないと、臆病風に吹かれている自分に……

 

 

「カタリナさん?」

 

「──すまない、リーシャ殿。私は」

 

「怖い……のですか?」

 

「っ!?」

 

 思わず表情が強張るのを感じ取る。

 流石は先読みの目を持つものといったところか、私の瞳にある迷いを見抜いたのだろう。彼女は的確に核心をついてきた。

 

「分かります。私も……つい最近まで、常にそうでしたから」

 

「あぁ、そうだったな」

 

 彼女の自己評価が低い原因。

 秩序の騎空団団長にして七曜の騎士の一人。そんな偉大な父を持ってしまった事がこれまでのリーシャ殿を苦しめてきた。

 あまりにも大きすぎる比較対象は彼女という存在を覆い隠してしまう程で、リーシャ殿はある意味、父の陰に怯えて生きて来たと言っても過言ではないのだろう。

 故に彼女はどれだけ強く成ろうとも、どれだけ優秀になろうとも。心のどこかで本当の強者には適わない、と諦めていた。

 

「父に……青の騎士と比べられ、すぐ近くにはモニカさんも居て。比較対象が大きすぎたから、私は弱い……きっと父さん達には絶対に適わないって……そう思っていました」

 

「なら、君はなんでそんなにも……?」

 

 目の前で圧倒的な強さを見せつけるガンダルヴァ。既にその領域は彼女の父にも並ぶだろう。モニカ殿とジータを相手にして尚優勢と言える状況だ。

 そんな強敵を前にしても、リーシャ殿の目は死んでいない。

 恐怖に竦んで等……いなかった。

 

「強くなんかないです」

 

「えっ」

 

 驚きの声を漏らした私に、リーシャ殿は僅かな笑みを見せた。

 こんなにも強く在るというのに、それを否定されては私などもっと──

 

「私だって、未だに弱いままです……ガンダルヴァにも、モニカさんにもセルグさんにも。きっと適いません」

 

 リーシャ殿の独白は達観したような声と表情のまま続く。

 

「それでも────私は強く在ると決めたから。弱い自分を否定して、皆を守ると決めたんです。

 知ってますか? 人間、こうと決めれば意外と何とかなるもんなんですよ」

 

「そんな、気持ちだけでどうこうできるような話では」

 

「セルグさんが教えてくれました。大事なのは自分にある全てを使いこなす事だと……私には仲間と、先を見通す目があった。

 それならカタリナさんにだってきっとあるはずです。まだ使いきれてない、貴方だけの力が」

 

「私が使い切れていない力……」

 

 リーシャ殿と同じように……だと。そんなもの、あるわけが無い。

 私とてこれまでただ無為に過ごしてきたわけではないのだ。

 

 早朝の鍛錬は欠かしていない。剣での戦い以外にも対応できるようにジータやイオと訓練した事だって少なくないだろう。

 連携の訓練も、星晶獣との戦いも。これまで鍛錬を怠る事は無かった。

 だが、騎士としての戦い方が完成した私に、大きな成長が期待できるはずもない。

 既にこの身は成長の時期を過ぎ、私の戦い方に大きな変化など──

 

 ふと、葛藤する私とリーシャ殿の目があう。

 彼女と鍛錬をして成すすべなく敗北を喫したのは記憶に新しい。相手の挙動を一手も二手も読みきって戦う姿にはどこか得体の知れない恐怖を感じたものであった。

 だが同時に、戦い方一つでここまで変われるのだと新たな可能性を感じたのも確かだった。

 

 

 ──あるのだろうか? 私にもそんな戦い方が。

 

 

 私にもリーシャ殿の様に……いや、私だけの戦い方が。

 思考がまとまらずにいる私の手を、再びリーシャ殿が押し返してくる。

 

「すぐに立ち上がりますから、少しだけ……少しだけ時間を稼いでください」

 

 苦悶の表情は未だ冷めやらない。

 幾らここで私の回復魔法を行使したところで、万全な状態まで回復する見込みは皆無であろう。

 それはリーシャ殿の回復魔法でも同じ事。回復魔法が専門ではない私達では焼け石に水である。

 だが、彼女はそれでも立ち上がる気なのだ。

 万全でなくとも、動ければ──と。

 

 

「──いいや、先も言ったが、既に重傷なんだ。後は”私”に任せてくれ」

 

 

 気付けば、言葉は出ていた。

 幾ら動けるようになったところで、彼女の怪我の影響は計り知れない。今一度直撃をもらえば今度こそ死に至るかもしれない。

 だと言うのに、闘志衰えぬリーシャ殿の姿に、私は不遜にも”守らなければならない”と感じていた。

 騎士として、大切な仲間をこれ以上傷つけさせまいと……

 それは随分と昔、アルビオンで騎士となる事を目指した時に抱いた誓いであった。

 

 

 “守る”

 

 

 その言葉が、私が騎士を目指した根幹。

 騎士を目指した時も、帝国からルリアを連れ出すと決めた時も、私はこの言葉を抱いたはずであった。

 恐怖に竦んでいても、私の心の奥底には確かな想いが。確かな、戦うべき理由が残っていた。

 

「……ありがとうリーシャ殿。行ってくる」

 

「はい」

 

 安心したように見送ってくれるリーシャ殿から手を引き、私は立ち上がった。

 目の前で無残にも直撃を受けたモニカ殿とジータが横たわる。

 どちらも深手だろう……ジータはまだ動けそうではあるが、それでもこのまま戦闘続行は不可能に近い。

 愛剣を握る手に力が入った。長く苦楽を共にしてきた愛剣を見れば、刀身に刻まれた戦いの記憶が蘇ってくる気がする。

 

 歩みを進めながら戦場を見据える。

 満身創痍の姿で尚立ち上がろうとしているのは、まだ幼さ残しながらも私達を束ねる団長である、優しい少女だ。

 

 守らなければならない。

 

 再び、心に誓いが宿った。

 ヒールを行使しながらジータの肩に手を置き制すると、彼女は切羽詰まったような表情で私の事を心配してくる。

 当然と言える。私の実力でガンダルヴァと一対一など正気の沙汰ではない。ガロンゾでの邂逅からこれまで、まともに勝てた事など無かったのだからな。

 だが──

 

「全く、まだまだ子供の癖してこの私の身を案じるとは。生意気にも程がある。そこで良く見ておけジータ」

 

「カタ……リナ?」

 

 ジータにだけ聞こえるように小さく言い聞かせるように言葉を残して、強大な敵となったガンダルヴァを見据える。

 後ろでジータが何かを言い募る気配が感じられるがすぐにそれは私の意識の外に締め出されていく。

 私の全ては目の前の強敵にのみ向けられていくのが感じられた。

 

 全てを使いこなせ────か。

 成程、確かに。こうして自身を見つめ相手を見据えれば、嫌が応にも様々な戦い方が頭に浮かんでくる。

 戦闘力の高さ……その一言では測り切れない強さ。出たとこ勝負な気がするのは否めないがまぁ良いだろう。

 リーシャ殿の言うとおり、結局の所やると決めれば何とかなる────いや、なんとかするさ。

 

 

「奴の言う通り、一人だけ元気なのでな。ここからは……私が相手だ」

 

 

 私の肩には、大切な仲間の命がかかっているのだから。

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 己と相対する一人の騎士の姿に、ガンダルヴァを困惑を禁じ得なかった。

 

 この状況……何か作戦でもあると言うのか。

 様々な可能性を考え周囲に意識を向けるも、ジータやモニカに戦える気配は無い。無論、リーシャも同様。

 周囲に援軍が来ている気配もなく、カタリナの先程の言葉通り、これから彼女は一人でガンダルヴァと対峙する可能性が高かった。

 

「──聞き間違い、じゃぁねえよな。

 カタリナ中尉、まさかあんた一人で俺様とやろうってのか?」

 

「そう取ってもらって構わない。

 ここからは、私一人でお前の相手をしようと言っている」

 

 剣を抜き放ちガンダルヴァへと向けるカタリナの姿には、相手へと向ける闘志。それだけが感じられた。

 奸計の類はない。それは彼女の性格と雰囲気から察することができ。ガンダルヴァは深まる疑問を呑みこまずに言葉を重ねる。

 

「わかんねえな。最初は四人全員、次はそこのガキとモニカ。

 どちらも全力で挑んできてこの様だってのに、今更あんた一人で渡り合えると思ってるのか?」

 

「さぁな、やってみなければ何もわからんさ。

 一つだけ言える事があるとすれば────甘く見ないでもらおうか、と言った所だ」

 

「そうかい……それなら何も言わねえ。ついでに恨みっこなしだぜ!」

 

 疑問を抱いていたのも束の間、増援や奇襲の類が無いと判断した瞬間にガンダルヴァは意識を全てカタリナへと移して飛び出す。

 もはや決着は目の前だ。ジータやモニカとの戦いは十分に楽しめたが、彼の標的はまだ他にもいる。

 早々に終わらせようと接近したガンダルヴァの一閃がカタリナの頭上へと振り下ろされた。

 

「──言ったはずだ、甘く見るなと」

 

 僅かに怒気を孕ませて、カタリナの声が冷たく響く。

 振り下ろされたガンダルヴァの剣は空を切った。綺麗に、カタリナの身体を避けてその身体のすぐ傍を……

 

「てめぇ……何をしやがった?」

 

「自身を守った、それだけだ」

 

 何かを悟った様な……確信を得たような、力強い表情がカタリナに宿っていた。

 同時に剣を構え一閃。間合いを取りながらのエンチャントランズでガンダルヴァを押し切るとカタリナは声高々に吠える。

 

「今一度この剣に誓おう。私はこの剣で、大切な者達を守って見せると!」

 

「上等じゃねえか。リーシャと同じように何か絡繰りがあるんだろうが、小細工だけで俺様を倒せると思ったら大間違いだ」

 

 

 カタリナの宣言に応えるようにガンダルヴァが再び強襲。

 間合いを一足でゼロに。踏み込んだ勢いのままに逆袈裟に一閃。驚異的な速度の一閃は狙い違わずカタリナの首元を正確に狙う。

 

「甘い!!」

 

 無機質な何かが割れる音が響くと同時、剣閃は僅かに逸れてカタリナの頭上を通り過ぎた。

 

「はぁ!」

 

 空を切り、隙だらけとなった身体に向けた刺突。

 細身の剣は抵抗なく魔障の防壁を貫き、ガンダルヴァの腕部を突いた。

 

「ちっ……この野郎!」

 

「ぐっ!?」

 

 咄嗟に間合いを離そうと繰り出した前蹴りがカタリナを捉え、再び両者は距離を置く。

 ダメージはそれ程でもないカタリナと、ダメージは大したこと無いが動揺の大きいガンダルヴァの両者は同じ状況でありながら対称的に面持ちで睨み合う。

 

「空振りする前に感じた感触……てめぇ、まさか」

 

「あぁ、正面から受けては私の剣では容易く押し切られるだろう。ならば取れる手段は一つだ。弾いて逸らすしかない。

 展開したライトウォールを貴様の剣に沿わせるようにぶつけ軌道をそらす。

 先程思いついた方法だし、上手くいくかは正直予想がつかなかったが……どうやら成功したようだな」

 

 冷や汗を流しながらも、小さく笑みを漏らしたカタリナ。

 自身でも常人とは外れた人間だと自覚のあるガンダルヴァをもってしてうすら寒い感覚を禁じ得ない笑みであった。

 高速で迫る剣閃に、ライトウォール・ディバイドをぶつけて逸らす。それも適切な面を適切な角度で。

 その手に握る剣と言う、最大の防御手段を捨ててカタリナが敢行したのは綱渡りのような危険な防御方法。

 逸らせなければ身体を断たれる、正に博打のような一手であった。

 

「──リーシャに続いてアンタもか。俺様が言えたことでもないがどうにもてめえ等は皆、頭のネジがどっか飛んでるみたいだな。

 一歩間違えば簡単に真っ二つにされるような賭けを平気でしやがる。イカれてやがるぜ」

 

「そうでもしなきゃ貴様とは渡り合えないだろう。生憎とこちらは命をbetしなければ同じ舞台には立てないレベルなんだ。

 危険だろうがなんだろうが、やらなければ戦いにならないのさ」

 

「薄氷の上を渡るようなその防御がいつまで持つのか……失敗した時がてめえの死ぬときだ」

 

「失敗する前に終わらせるさ……早く仲間に追いつかなければならないんでな!!」

 

 言葉の応酬を終えると、今度はカタリナから踏み込む。

 

「あ?」

 

 呆けたガンダルヴァの声が漏れる中、カタリナが踏み込んだのはガンダルヴァを前に数歩の間合いを開けた奇妙な位置取り。

 斬りつけてくるかと構えていたガンダルヴァの虚を突き、カタリナが大きく前方を薙ぎ払う。

 

「グラキエスネイル!!」

 

 剣が奔る軌跡に沿って生成される数多の氷の刃が放たれる。

 煌びやかに光り放たれる氷の刃は視界を奪い、至近距離故に回避もさせないままガンダルヴァへ次々と突き刺さった。

 

「ぐっぁ、てめえ──」

 

「はぁああ!!」

 

 怯んだ隙を逃すほど、彼女は甘くは無い。

 今度こそと懐へ踏み込んだカタリナは、その剣を閃かせ瞬く間に十と数回切りつけて見せる。

 セルグやモニカのせいで霞んで見えるがカタリナとて剣士として一流。その上愛剣は取り回しの軽い細身の剣と在れば、この程度の芸当は朝飯前だろう。

 

「やってくれるじゃ……ねえか!!」

 

 それでも、今のガンダルヴァには致命打足りえない。

 ジータの攻撃で大きくダメージを受けていようとも、カタリナの攻撃が幾度となく叩き込まれようとも。怯みはしても、ガンダルヴァは倒れる事なく再び剣戟を見舞う。

 

「これならどうだ!!」

 

「くっ!?」

 

 一撃ではなく連撃。

 弾かれ、逸らされた所から即座に切り返し追撃。

 逃しはしないと、その意思が感じられるような執拗な攻撃に対し薄氷の防御方法を取り続けるしかない。

 

「たかが数度防いだくらいでどうにかなると思ったら大間違いだ。このまま押し切らせてもらうぜ!」

 

「──だから、甘いと言っている!」

 

 一転。視線鋭く殺気すら込めてカタリナがガンダルヴァの懐へと飛び込む。

 新たな防御方法。それは守り切るための防御ではない。

 その手に持つ剣を介さぬ防御障壁に因る防御。それも軌道を逸らし空を切らせるという事は、避けて体勢を崩す事も受けて競り合いになることもない。

 それはつまり、自身の攻め手を自由にしつつ相手に隙を創りだすことと同義である。

 空振りの一瞬に付け入り踏み込む。同時に突き出された剣がガンダルヴァの腹部に抵抗なく刺さった。

 

「がっ、てめぇ!」

 

 手痛い反撃を受け、反射的にガンダルヴァの拳が繰り出される。

 間合いを取るように一旦後退するカタリナだが、そのままガンダルヴァは追撃。

 カタリナの攻撃などまるで意に介してない様子で、次々と体術を繰り出していった。

 極限まで鍛えこまれたドラフの肉体はそれだけで凶器といえる程のヴァイタリティを誇る。魔晶で増幅された今、その耐久力は首でも落とさぬ限り致命的とはならないだろう。

 防御しながらの攻撃では、どうしても決め手に欠ける。驚異的な耐久力を持つガンダルヴァに攻め手を見いだせないカタリナは、拳をライトウォールで逸らしながら再び距離を取り追撃に続くガンダルヴァの攻撃を一手一手確実に防ぎ躱していく。

 

「(止めを刺せない事など百も承知だ……だが、時間を稼げば勝機はある!)」

 

 ガンダルヴァの言うとおり薄氷を渡るような胆の冷える心地を覚えながらも、カタリナは攻撃を躱し続けた。

 既に戦い始めてからかなりの時間が経つ。ジータが四天刃を解放できなくなったのが良い証拠だ。

 であるなら当然、来るはずなのだ。ガンダルヴァにも──

 

「(魔晶の副作用……あれだけ強大な力を使っているんだ。いくらガンダルヴァの肉体が頑丈だからと言って限度はある。

 耐えたその先、回復したジータとリーシャ殿がいれば──)」

 

「考え事してんじゃねえぞ!!」

 

「しまっ──がっ!?」

 

 空振りした拳の勢いを殺さずそのまま振り抜かれた蹴撃がカタリナを捉えた。

 ボロ雑巾のように転がるカタリナへガンダルヴァは容赦なく追撃に走る。両手を伸ばし、その手を広げる。

 カタリナの防御技に対する回答。それは打撃でも斬撃でもない。逸らす事の不可能な組つきによる攻撃。

 伸ばしたその手がカタリナの首を掴んだ時、彼女の首は間違いなくへし折られる事だろう。

 

「ぐ、く……させるか!」

 

 既に至近にまで迫られながらも身体を起こすと、カタリナは迎撃に移る。

 剣を向けて翻す。生成されるは3本の氷の剣。今にも彼女の首に手が掛けられるかといった次の瞬間に、ガンダルヴァの懐で彼女の奥義が炸裂する。

 

「アイシクルネイル!!」

 

 組み付くために大きく間合いを詰め、尚且つ無防備で飛びかかってきたガンダルヴァに再び突き刺さる氷の刃。

 数多の刃を生成するグラキエスネイルの比ではない、大きな刃が3本。見事にガンダルヴァの胸部を撃ち抜き、後方へと大きく吹き飛ばした。

 

「ぐっ、ごほっ……はぁ、はぁ」

 

 だが迎撃に成功したもののカタリナの代償も大きかった。

 ガンダルヴァの体術をもろに受けた……リーシャやモニカ同様に、そのダメージは計り知れない。

 

「は、ははっは……なかなかに痛かったぞ。バカにしていたが結構いい攻撃するじゃねえか」

 

「──ちっ、化け物が」

 

 吹き飛んだのも束の間、即座に立ち上がって見せたガンダルヴァの姿に、思わず悪態が漏れる。

 既にかなりのダメージを負っているはずだと言うのに、未だ衰える気配がガンダルヴァには見られない。

 対してカタリナの方は、綱渡りの攻防で神経をすり減らし、一撃の痛打だけで既に身体がいう事を聞かなくなっている。

 劣勢──それは火を見るより明らかであった。

 

「満身創痍……か。悪かったなぁカタリナ中尉、アンタはやっぱり流石だったぜ。

 一歩間違えればその身を断たれる危険な賭けに挑み、それを戦いの中で見事にものにした。それだけにとどまらず、こちらの意識の隙を付くような攻撃にカウンター。流石は、アマルティア士官学校の史上最強と呼ばれた主席殿だ」

 

 過小評価をしていなかったと言えば間違いなく嘘である。

 ガロンゾで初めて邂逅した時から、ガンダルヴァにとってカタリナは脅威足りえない実力と言う評価であった。

 だがここにきて、その想定は大きく覆された。

 リーシャの先読み同様、強さではなく上手さとでもいうべきか……技に長けたその戦いぶりは恐らくこれまで欠かさず重ねてきた鍛錬が実を結んだ結果なのだろう。

 剣を幾度となく振った経験と、剣を幾度となく合わせた戦いの記録が、彼女に針の穴をも通すような判断力を身に付けさせ、先の防御方法を生み出したのだろう。

 だがそれでも、僅か一撃で戦況をひっくり返せるガンダルヴァの強さが、いまここに置いて最強であった。

 

「ふっ、嫌味にしか聞こえないな。その主席を相手にして見下し、更には完膚なきまでに叩きのめしているのはどこのどいつだ。

 悔しいが、勝負はどうやら貴様の勝ちのようだな────尤も、賭けは私の勝ちだが、な」

 

「あぁ? 今更負け惜しみってやつか。アンタも意外と往生際が悪いんだな」

 

「違うさガンダルヴァ。私は勝負には負けた……だがそれでも。この戦いは私達の勝ちにさせてもらう」

 

 

 そうだ。これは何も、カタリナ一人の戦いではない。

 

 

 

「ありがとうございました、カタリナさん……ここからは私も共に戦います!」

 

「こっちも回復は十分。さぁ、一気に決めるよ!」

 

 

 立ち上がるは彼女の大切な仲間達。

 彼女を信じて回復に努め、今一度共に戦わんと立ち上がったリーシャとジータだ。

 前に並び立つ二人を見て、勝利を確信した様にカタリナもまたは再び立ち上がり剣をガンダルヴァに向けた。

 表情こそ気丈に見せていても実質ギリギリの状態で立ち上がったリーシャ。何とかビショップの意識を呼び返し短い時間で多少の治療を施せたジータ。どちらも、余力は少ない。

 カタリナとガンダルヴァは言わずもがな、今ここで戦える4人全員が既に倒れる寸前といって過言ではない。

 

「最終決戦だガンダルヴァ。ここまで来て卑怯などと言ってくれるなよ」

 

 

 必然、決着の時は近かった。

 

 

「最初からそんな事思っちゃいねえよ。掛かってきな三人で……全員ぶったおして、俺様は最強を証明する」

 

 既に体中の至る所で始まっている、魔晶による反動の影響。

 筋肉が切れ、骨が軋み、激痛がガンダルヴァを襲っているはずだが、意に介した様子も無くガンダルヴァが笑った。

 勝利……ただそれだけを見据えた渇望が、肉体の余計な情報をカット。

 痛覚は消え、ガンダルヴァの思考は未だかつてない程明瞭な状態に入っている。それはベルセルクとなったグランと比較しても遜色ない完璧な没入状態と言えよう。

 

 

 

 どう戦うか……否、どう攻めるか。

 早くなった思考が次々とこれから先の戦いを脳内に構築していき、それが組みあがると同時にガンダルヴァの身体は動き出す。

 

「それじゃぁ……いくぜ!!」

 

 身体の限界が近いのは間違いないのだろう。

 一足で縮められていた距離に数歩を要し、ガンダルヴァの剣がリーシャに向けて叩きつけられた。

 不意打ち……であろうがリーシャには意味が無い。既に動きが視えていたリーシャにとってそれは不意打ちにあらず。ガンダルヴァの動き出しと同時に回避行動に移っている。

 

「ソニックアウト!!」

 

 回避と同時に隙だらけの身体に叩き込む一閃。

 風のチカラを蓄えた一撃がガンダルヴァに新たな傷を刻むが、同時にリーシャの身体を激痛が襲う。

 

「がっ!?」

 

 腹部に突き刺さる鞘。これまで見せてこなかった攻撃パターンを読み切れなかったのか。既にそれを読み切るほどの余裕は無かったのか。

 理由は定かではないが、完治には程遠い箇所に追撃を受けたのはリーシャにとって致命的であった。

 意識が飛びそうになる痛みと共に、喉元へとせり上がってくる鉄臭い何か。

 だが、それを気迫だけで制する。

 突き出された鞘を掴むと、自身へと引き込んだ。リーシャの動きもまたガンダルヴァには予想外だったのだろう。鞘を手放す間もなくガンダルヴァは一歩たたらを踏んでリーシャの懐へと踏み込まされる。

 

「──つかまえ、た!!」

 

 引いた腕とは逆の腕が突き出される。

 やられたらやり返すと言わんばかりに繰り出されるのは、勢いだけで放ったリーシャの拳。

 引き込んだ勢いと合わせるように自身も踏み込み、ガンダルヴァの腹部へと彼女なりの全力で拳を叩き込んだ。

 

「血迷ったかリーシャ! てめえの細腕で一体何ができ──がっ!?」

 

 懐へと入り込んだリーシャに反撃の拳を叩き込もうとした刹那、腹部に感じる違和感。

 それは衝撃。リーシャが撃ち抜いた腹部にもたらされるのは自身を軽々と吹き飛ばしそうな強い衝撃であった。

 

「て、てめえ……一体」

 

「ああああああ!!」

 

 全てを絞り出すように声を上げてリーシャがその腕を振り抜く。

 ガンダルヴァの懐、リーシャの手の中でそれは瞬く間に膨れあがりその正体を現した。

 そこにあったのは風のチカラ。リーシャの掌に隠され、極限まで圧縮された風の塊。

 剣に絶大なチカラを溜め込み打ち放つトワイライトソードの応用。

 握りこぶしに凝縮されたそのチカラは、極詳サイズとなった竜巻のようなものだ。

 それをリーシャはガンダルヴァへと叩きつけた。解放された風のチカラは彼の腹部で荒れ狂い、巨体を大きく吹き飛ばすほどの威力を持つ。

 

「ごほっ、ごほっ……お二人とも、今です!!」

 

 決死の一撃を加えたリーシャは、血を吐きながらも勝鬨のように声を上げる。

 吹き飛んだガンダルヴァが体勢を整えるその前に、この勝負に決着をつけるべく飛び込むのは残りの二人。

 

「行くよ、カタリナ」

 

「合わせるぞ、ジータ!」

 

 金色と蒼。二つの光が煌めき、二人の身体を包み込む。

 補助魔法を掛ける余力は無い。これがいま彼女達の出せる全力の一撃。

 

「四天洛往斬!」

 

「グラキエスネイル!」

 

 乾坤一擲。全てを掛けた全力の奥義が放たれる。

 二色の刃はまだ体勢を整えていないガンダルヴァへと向かい、その両腕を切り落とさんと迫った。

 

 

 ──ふざけるんじゃねえぞおおお!! 

 

 

 音が轟く。

 言葉ではなく叫びのような音と共に、ガンダルヴァは再び強大なチカラを纏い立ち上がった。

 肉体の限界は超えている。魔晶のチカラも既に切れた。

 それでも、負けられない一心で捻りだしたチカラは彼の命と引き換えにした最後のチカラだろう。

 

「俺様は…………」

 

 未だかつてない程に渦巻く炎のチカラ。それが剣にまとわりつくと同時、彼の奥義が繰り出される。

 

「最強だぁあああああ!!」

 

 一撃。巨大な一閃がジータとカタリナの奥義を喰らう。

 

 出し尽くした。それは4人全員が。

 己に宿るチカラの全てを出しつくし、数瞬の静寂が訪れる。

 だが、それで終わるはずが無い。

 

「まだ……まだだぁああ!」

 

 倒れ込みそうになる寸前、ギリギリで踏ん張るのはガンダルヴァ。

 満身創痍。全てを出しつくし最後に残るのは巨大な肉体が持つ純粋な力。

 命を燃やすようにその身を躍動させ、ジータへと迫る。

 

「これで、俺様の勝利──」

 

「そうです──私の負けで、私達の勝ちです」

 

「なにっ!?」

 

 瞬間、ガンダルヴァは全てを悟った。

 視界に収めているリーシャ、カタリナ、ジータの三人にもう勝ち筋は見られない。

 それでも尚目の前の少女が勝ち誇る理由を────

 

「悪いな、ガンダルヴァ。私達の勝ちだ」

 

 チリっと小さく何かが迸る音。続いて金属質な何かが擦れる音。

 解放される紫電。閃く数多の剣閃。それはガンダルヴァの横合いより瞬く間に叩き込まれる。

 

「──旋風紫電裂光斬」

 

 

 ボロボロになりながらも立ち上がったモニカよって、タワー最初の死闘に幕が下りるのだった。

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 ────駆けあがる。

 

 ひたすらに前だけを見据えてグラン達は駆け続けた。

 先頭を走るはアポロ。後ろにビィを抱えるルリアが続き殿をグランが務める。

 

 ラカム達を置き去りにしてからどれだけ駆けあがってきたか。

 妙な事に配備されている帝国の戦力は無く、ここまでに戦闘となるような事はなかった。

 タワー外に大半の戦力を置いていたのだろうか。それとも一カ所に集めグラン達を迎え撃つ気でいるのだろうか。

 多くの仲間達を置いて先に進んできたこの状況。周りに頼りになる仲間がいない現状にグランの不安は膨れていくが、それを目の前にいるアポロの背中をみて押さえつける。

 

「案ずるな。敵の戦力も残り少ない。私とお前が居て突破できないものなどそうありはしないだろう」

 

 グランの不安を読み取ったかのように機先を制した言葉。

 そう、目の前に七曜の騎士であるアポロが居て自身もいるこの状況。

 対抗できる者などこの空の世界に置いて極一部に限られるはずだ。

 

「わかっているよ。だから必ず、ルリアをデウス・エクス・マキナの所まで連れて行く

 ルリア、まだ走れる?」

 

「はぁ、はっ……はい。まだ、いけます!」

 

「お、オイラはそろそろ自分で飛びたいんだけどよぅ……ずっと抱えられて目が回ってきたぜ」

 

 ここまでひたすらに駆けつづけていた事で、ルリアは息も絶え絶えな様子であったがそれでも気丈に振る舞い力強く返した。

 今この瞬間にも、大切な仲間達が命がけで戦っている。そんな時に休んでいられるはずもない。

 

「その意気だ。昇ってきた感触からもそろそろ上層だろう。私の私室がある階層もすぐそこだ」

 

 階段を駆け上がると、長い通路の先にある大きな扉をアポロが指差していた。

 

「恐らく最後の関門だろう。戦いうには都合の良い広い空間がある」

 

 瞬間。何かを決意したかのようにグランもアポロも雰囲気が変わる。

 ここまでに幾度となく不意打ちや奇襲を受けてきた。

 もはやどんな事態にも対処して見せると身構える二人は警戒しながら通路を歩み始める。

 

 外の喧騒が嘘であるかのように、通路内は静かであった。

 駆けぬければ僅か10数秒と言った通路をたっぷり時間をかけながら、3人と1匹は静寂に包まれた空間をゆっくりと歩いていく。

 不審な気配、異質な音。何かサインがあれば即座に動けるように警戒しながら確実に歩みを進め、扉へと辿り着くかと思われた──その時である。

 

「黒騎士!」

 

「分かっている!!」

 

 二人同時に何かに気付き即座に前に出たグランと身構えるアポロ。

 次の瞬間鈍い音が響き目の前の大扉がぶち破られた。

 

 飛来してくる何か。それが何かを把握した瞬間、グランとアポロは構えていた剣を放り捨てた。

 

「ドランク!?」

 

「スツルムさん!?」

 

 扉をぶち破り飛んできた二人を受け止め、アポロとグランは驚きの声を上げた。

 

「うっ……いてて。

 ごめんね黒騎士にグラン君。ちょっとモロにデカいやつ喰らっちゃってさ」

 

 そう、飛来してきたのは先んじてタワーに潜入して居た二人。

 ボロボロになったスツルムとドランクであった。

 

「チッ……悪かったなグラン、助かった。重かっただろう」

 

「い、いや!? そんな事は」

 

「気にしなくて良い。ドラフで傭兵なんて稼業やってれば女だろうと重くはなる。私は気にしない

 それにしても、お前達もとうとう追い付いてきたか……悪いがここから先、簡単にはいかないぞ」

 

「そのようだな。お前達二人を相手にして押し切れるか。

 本当に強く成ったものだ────なぁ、ポンメルン?」

 

 既に扉の名残すらない、大きな入口となった先。

 鋭い視線と声を以て、警戒を露わにしながら言葉を投げるアポロの視線の先に二人をボロボロにした敵がいた。

 

 

「やっときましたか。ですがここから先へは何人たりとも行かせません────ですネェ」

 

 

 立ちはだかる強敵の気配に、グランの顔に冷や汗が伝うのであった……

 

 




如何でしたか。
1つ目の戦い、決着となります。
戦闘描写が長くなってしまいやや冗長な気がしてなりませんが、
きちっと書きたい戦いでした。

大体月1ペースの更新となっていますがリアル(グラブル)事情がもう少し楽になれば更新もっとできてると思います。
戦場そろそろテコ入れしてくれないかな、、、

とりあえず失踪する事なく書き続けることができておりますので、読者の皆様もう少しお付き合い頂ければ幸いです。
感想、是非是非よろしくお願いします。それでは。

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