※評価6と感想ありがとうございます!
これから、どんどんと話が面白くなるのでどうぞ楽しみにしていてください。
「ッ……くっ……」
ズキン、ズキン。変に心臓が脈だつ。
「ッ……!?」
心臓を締め付けられて、その苦しみから目を覚ますと目の前にひょっこりと顔出す白い旗。
【2と書かれた三角旗の周りに赤い矢印が書かれており、その矢印が斜め上へと向かって伸びている】
これは間違いなくストーリーフラグで〈2〉ということは次の段階に進んだということだろうか?俺がロズワール様の使用人となったから……
「しかし……」
知らせてくれるのなら、もう少し落ち着いた時にして欲しかった……。寝てる時に勝手に現れて、心臓を締め付けるとかシャレにならない。
「変な時間に起こされたし……、執事服に着替えるか……」
俺は着替え終えると手櫛でザザッと髪を整えて、母からもらった幼稚な髪留めを前髪へと付ける。前にある鏡を見て、服の乱れがないか 確認して 部屋の外へと足を踏み出した。
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〈早起きは三文の徳〉とは、朝起きをすればいいことが起きるという意味の諺で誰もが一度は口にしたことや耳にしたことがあるのではないだろうか?ならば、俺の起こっているこの現象も早起きは三文の徳といっていいのではないかと勝手に思っているのだが……その認識は間違っているのだろうか?
「ハル、何を惚気た顔をしているの。早くここの掃除を終わらせて、レムのお手伝いをするわよ」
「はいはい、ラムさん。相変わらず、毛厳し……ッ!?」
ズキンズキンと心臓が軋む、もう慣れたあの感覚。俺は冷や汗を流しながら、前を向く。そして、目を見開くのだった。
“オイオイ、これは何の冗談だ……?”
見慣れた桃髪の上にひょっこりと顔を出した白い旗にげんなりする。近頃は朝に見かけたくらいで済んでいたのに、新しいステージに進んだ瞬間 ポンポンと顔を出しては心臓を痛めつけやがる。
【白地にデカデカとピンク色のハートの形】
攻略対象フラグ、その名の通り そのマークが着いている人物を攻略しなくてはならないというものなのだが……、いやしかし……
“攻略しろってか?ラムさんを?難易度高すぎるだろう……”
目の前で窓拭きを行うラムさんを見つめながら、取り敢えず ダメで元々で挑むことにしようと決意を新たにした俺に黒を基調とした露出度満載の改造メイド服を揺らして振り返ったラムさんが一言。
「何、ジロジロとラムを見てるの?」
大きい薄紅色の瞳を細めて、俺を見下してくるラムさん。本当に文字通りに上の方を拭くために持ってきた椅子の上に乗っかり、窓際に溜まる埃をとっている俺を一瞥する。その切れ味抜群の鋭い視線に俺はスゥーと視線をラムさんから逸らすと
「いや、見たくて見てたわけじゃなくて……」
何処か怪しい俺の言葉にウンウンとうなづいたラムさんは細められた瞳に軽蔑の色を浮かび上がらせて、
「そう、見たくなくても女とあらば視姦するのね。汚らわしい」
両手を胸の前でクロスして、自分の身体を抱くラムさん。そんなラムさんの態度に軽く傷つく俺は悲しいやら悔しいやらで堪らず地団駄を踏む。
「ラムさんはなんで、いつもそう両極端な反応しか出来ないのっ!!」
「地団駄を踏まないで。折角、掃除したのに埃がたつでしょう?」
「君は一言一言が余計なんだよッ!?それと俺が地団駄を踏む時は決まってラムさんが余計な一言を言った時だけだよッ!!」
「はいはい。ほら レムのお手伝いに行くわよ。ハル」
「ラムさんはもう少し俺に優しくてもいいと思うよ……」
スタスタと部屋を出て行く桃髪のメイドの後ろ姿にボソリと呟いてから、俺は今回ばかりは難しいかもしれないと思うのだった。しかし、それで諦めるほど俺は弱くはない。
「まずはラムさんの事を知らなくてはな。それと俺がラムさんに何を思っているのかもちゃんと整理しないと……」
“それじゃあ、ラムさん攻略開始って事で”
「ハル、いい加減にしないとラムは怒るわよ」
「はいはい、ラムさん。すいません」
立ち止まって、振り返ったラムさんの瞳は本当に怒りの炎が揺らいでいる。早足でラムさんの隣まで歩いてくるとため息をつく、ラムさんをチラリと見る。その上で揺れている白い旗に描かれた大きいピンク色のハートの中に【赤い文字で52】と刻まれていることに気付くのと同時に調理場へと到着した。その後も決められた仕事をキッチリとこなし、ラムさんのハートに書かれた52という文字の意味が分からないまま、夜を迎えたのだった……
次回は遂に主人公のバロールが見れるかもしれません