Re:フラグから始める攻略生活   作:律乃

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今回の話はタイトル通り、勉強会の話です。そして、前の後書きで主人公のバロールを書くと予告したんですが……次回になりそうです。

※お気に入り登録50突破、10という勿体無い評価。そして、感想も続けて二つ書いてくださりありがとうございます!


六話『勉強会と魔刻結晶』

「はぁ……」

 

思わず、溜息をつきながら 俺はベッドに寝転がっていた。右腕で目元を覆い、考えるのは攻略対象フラグの事。

“……多分、元の世界に戻る為に必要な事なんだと思うけど……”

何故か、色々と考えてしまうのだ。このまま、ストーリーフラグのいうとおりに行動していれば本当に元の世界へと帰れるのだろうか?とか帰ったところで俺に居場所は既に無くなっているのではないか?とか本当に実に様々。

 

「はぁ……」

 

“師匠……俺って、本当に優柔不断です……”

 

「何、辛気臭いため息をついているの?」

 

「うわァッ!?………。なんで、居るの?ラムさん……」

 

トントンとノックもせずに俺の部屋へと侵入してきたのはサラサラと手入れの行き届いた桃色の髪を持つ少女、ラムである。肩までで切りそろえられた桃色の髪を右眼だけ出している。そこから覗く薄紅色の大きな瞳は悲鳴にも似た声を発した俺を凄い形相で睨みつけている。

“何故、悲鳴を上げただけでそんな顔をされなくてはいけないのだろうか……”

そんな俺の心の叫びに気付くことのないラムさんはスタスタと木でできた黒光りする勉強机と思しき所に立つとコンコンと細い白い指で机の上を叩いた。その行動に首を傾げる俺にラムさんは今度こそ、「はぁ……」と長いため息をつき 右手で頭を抑えて首を横に振った。

 

「そんな短い動作で何を察しろって言うだよッ!君は!!」

 

堪らず叫ぶ俺にラムさんは再度、視線を俺へと向けると「はぁ……」と同じようにため息つき、首を横に振った。まるで、本当に呆れたような態度に少なからず 俺の心はクリティカルヒットした。

 

「本当に覚えてないの?ハル」

 

「覚えてないの?って何を」

 

「今日、文字を教えるから部屋で待ってなさいって言ったでしょう?」

 

身に覚えのない申し出の筈のだが、俺は念のため 目を瞑り、今日の出来事を振り返るーーうん、そんな約束した覚えない!

 

「してないよ!?ラムさん」

 

「ラムの記憶よりハルの記憶の方が優れてるっていうの?寝言も大概になさい、ハル」

 

「なんで怒られているのか分からないしッ!出会って早々、俺の名前 覚えられなかった人に言われたくないなッ!!」

 

「ハルの名前は覚えていたわ。ただめんどくさかったし、死んでもハルの名前は呼びたくなかったのよ」

 

「なんだそれ!なんだそれ!!だった四文字でしょうが!ロズワール様は五文字だよ?四文字くらい楽勝でしょうが!」

 

「ロズワール様と並び立とうなんていい度胸ね、ハル」

 

「ロズワール様と並び立とうなんて恐れ多くて考えてもないしッ!!ただ、俺は……。まぁ、いいや。文字を教えてくれるんでしょう?ラムさんが」

 

「えぇ、光栄と思って咽び泣きてもいいのよ?ハル。そしたら、さっきの失言を取り消してもいいわ」

 

「うん、光栄には思うけど咽び泣くまではいかないな……」

 

何故か、得意げに無い胸を突き出すラムさんに俺は苦笑。途端、溝うちに綺麗なアッパーカットが放たれた。

 

「グハッ!?………痛いんですけど……ラムさん……」

 

カーペット上にのたうちまわる俺を心底冷えた瞳で睨むラムさん。俺はそんな薄紅色の瞳を涙を溜めた赤い瞳で見つめた。

 

「何故かハルを殴らないと、思ってしまったのよ。何故そう思ったのかは分からないわ」

 

「理由、不明ってそんな理不尽あってたまるかッ!意味なく殴られる俺の気持ちにも一度でいいからなってください!!」

 

「いやよ」

 

「即答ッ!?」

 

俺はまだヒリヒリと痛みが走る溝うちに左手を添えながら、机へと着席する。その横に立つラムさんへと視線を向ける。ラムが手にする本はかなり年季が入っているようで所々、表紙が擦り切れて 中から白い紙が見えている所もある。机の上に既に用意されたであろうノートの横に転がる羽根ペンへを手に持つ。ラムは手に持った古ぼけた本を開くとある文字を指差す。

 

「まず、ハルに覚えてもらうのはこのイ文字よ。ロ文字とハ文字はイ文字が完璧になってからよ」

 

三文字あるということは日本で言うところのひらがな・カタカナ・漢字というところだろうか?

“それを全部覚えるのか……、かなりきついぞ、これ……”

まぁ、後の事を考えたら ここで教えてもらうに越したことはない。横に立つ、ラムさんへと視線を向けるとコクンとうなづく。

 

「了解です、ラムさん。それでそのイ文字の何を練習すればいいんです?」

 

「今日、練習するのはイ文字の中で基本とされてるこの文字よ。ラムが書き出すから、それをこのページが埋まるくらい書き写しなさい」

 

「ページが埋まるくらいって……、酷な事をいいますね。ラムさん」

 

「それくらいしないと愚かなハルは覚えないでしょう?」

 

「愚かって……俺はそこまで愚かではないと思うのだけど……」

 

目の前のノートにスラスラと書かれて行く何かの暗号のような文字に苦戦しつつも、その書かれた五つの文字を覚えようと頭に叩き込んで行く。その間、ラムはベッドに座り 手に持った古ぼけた本を足を組んで優雅に読んでいた。

チラッと彼女の上に揺れている白い旗を見ると

【43】と最初に現れた時に比べて、何の文字か知らないが下がっていた。

“うーん、もしかして あの数字って好感度?だったりするのかな?”

可能性、の話だが。そんな俺の視線を感じ取ったのか、ラムさんが本に視線を向けたまま こちらへと問いかけてくる。

 

「ハル、終わったの?」

 

「うん、大体は」

 

「そう、意外と早いのね。冥日一時まで、まだ時間があるわね。あともう二列くらいはいけるかしら」

 

正直、もうこの五つの文字で右手は限界で手首が痛いのだが……。

“親切心で付き合ってくれてるのに、俺が弱音吐いちゃあいけないよな……”

しかし、そう思うと当時にさっきの不穏な発言に気になる言葉が含まれていた。〈冥日一時〉とはなんだろうか?

 

「ラムさん、ラムさん」

 

「何よ、ハル」

 

「まず、その殺意が篭った瞳をどうかしましょうかッ!」

 

「これでも抑えている方よ?」

 

「抑えて、それ!?さっきよりも険しいよッ!前々から思っていたけど、ラムさんの基準は周りとズレてると思うッ!!」

 

スゥーと細まる薄紅色の瞳には確実に殺意と嫌悪、激怒と負の要素となる感情が所狭しと並んでいる。チラッと頭の上を見てみれば、【31】とデカデカと赤い文字が書かれていた。これでハッキリした、この数字は好感度であると。それと、俺おめでとう!過去最悪の好感度記録更新だ!!

“こんな調子で攻略とか無理だろう……”

普段の数倍増しでおっかないラムさんにヤレヤレと思う俺であった。

 

「〈冥日一時〉ってどういう意味かなって思ったんだ」

 

「………」

 

「その『心底ガッカリした』って顔やめて!本当に分からないし、胸にグサってくるからッ!」

 

「そうね、ハルにちゃんと教えてなかったラムにも落ち度はあるわ。その女々しい目を見開いて、この魔刻結晶を見なさい。説明してあがるわ」

 

「一言余計ッ!」

 

いつもの間にか、隣へと歩いてきたラムさんは手のひらには淡い光を放つ結晶が転がっていた。

 

「これが魔刻結晶?」

 

「えぇ。今は丁度冥日零時だから、水の刻といって魔刻結晶が淡い青をしているでしょう?」

 

言われてみれば、魔刻結晶と呼ばれているこの結晶が淡い水色をしている気がする。

 

「…-陽日零時から六時までが風の刻。そこから六時間刻みで火の刻。冥日零時からが水の刻で、そこから六時間刻みで地の刻となっているわ。ハルも気づいてるように、この魔刻結晶は時間が進むに連れて色が濃くなっていくの。風なら緑、火なら赤、水なら青、地なら黄色といった具合よ。他に質問したいことはある?無知なハル」

 

「無いよ、全く無い。けど、その無知なハルっていうのには少し異議をとなえたいと思う」

 

俺の言葉を聞いたラムさんは「ハァッ」と鼻で小馬鹿にしたように笑うと

 

「こんな常識も身につけてないハルがラムの何に異議をとなえるというの?」

 

「………面目ないです……全くその通りです……」

 

ラムさんは項垂れる俺を流し目で見ると手元にある魔刻結晶へと視線を向ける。

 

「ハルが無知なせいで余計な時間がかかったわ。あと二つ行出来ると思ったのに」

 

「そう言って、その倍ノートに書いているラムさんの行動は矛盾していると俺は思います」

 

スラスラと書かれていくイ文字の量は明らかにラムさんの腹いせが多く含まれている事だろう。数にして、12文字。それぞれページが埋まるまで寝れないとはかなり酷ではないだろうか?

 

「………ラムさんは部屋に帰らないんですか?この量は明らかに冥日一時は過ぎると思いますけど」

 

「ハルが書き終わるまでここにいるわ」

 

「なら、早く終わらせないとですね」

 

ノートに書かれた12文字をノートが埋まるくらい書いていく。半分以上、殴り書きだが覚えることが前提で丁寧に書くことは二の次なのでいいだろう。俺は早く終わらせるために羽根ペンをノートへと滑られた……




次回こそ、主人公のバロールを……ッ

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