まず、最初にリクエストを頂いたこと、本当にありがとうございます。リクエストされた通りの展開になっているかは分かりませんが、頑張って書いたものなので読んで頂ければ嬉しいです。そして、何処かおかしいところがあれば、ここ違うよ〜と指摘して頂ければと思います。
〈大切な約束と道ずれフラグ〉でのBAD END
「…」
質素な部屋の中、青い髪を肩までのところで切りそろえている少女が立ち尽くしている。大きめな薄青色の瞳に映るのは、赤い髪を短く切っている少年が勉強机の上で目を瞑っているところで、それだけならまだいいだろう。しかし少年はその勉強机を真っ赤に染め上げるほどに血を吐いていた。
「どうして……、にい……さま……」
紐の切れた操り人形のように、そこに崩れ落ちた青髪の少女・レムはその大きめな薄青色の瞳に涙を溜めて、もう息をしていない赤髪の少年・ハルイトへと視線を向ける。
思わず、零れ落ちた声には単純な疑問が混ざっている。困惑する頭の中で、繰り返されるのは勉強会での出来事だ。
いつものように一緒にロ文字の勉強をして、いつものようにレムがハルイトに厳しく指導して、いつものようにハルイトが照れ笑いを浮かべて直す。それがレムとハルイトのいつもの勉強会であり、今日もそれがいつものように何も起こらず終わる予定だった。予定だったのにーー
「あぁ……にい…さま……」
ーー顔をあげれば、凄まじい死に様を迎えたハルイトの姿が見える。
椅子に座った状態で息耐えたハルイトの両手がダランと風が吹いてないのに揺れる。安易な木で出来た勉強机の一面はハルイトが吐いた血で覆い尽くされており、さっきまでハルイトが記入していたロ文字がびっしりと書かれたノートは吐いた血の上に、新たな血が吐かれた成果、黒ずんだ血と新しい血のコントラストが出来ている。最後に吐いた血はまだ乾いてないらしく、右側を下にして机に伏せているハルイトの真っ赤な髪と整った顔立ちを汚している。まるで居眠りをする時みたいな表情を浮かべているハルイトの死顔にレムは嗚咽が漏れる。
「うぅ、うぐ……兄様……本当に……死んでしまったのですか?もう、レムの頭を撫でてくれないんですか?レムのっ……ひくっ……料理を美味しいって言ってくれないのですか?兄様…兄様…兄さまぁあ、うぁあああああああん。ぁああぁあああああぁあああーーッ!!!」
その死顔はこのまま、ずっと一緒にいれば、そのうち
『えへへ、驚いた?レムちゃんのそんな顔、初めて見た』と笑いながら起き上がって、泣きじゃくるレムの頭を優しく撫でて、あの時みたいにこう言ってくれるだろう。
『だから、そんな顔しないで?レムちゃんは笑ってる方が可愛いからさ』
そんな淡い期待を浮かべたくなるほど安らかで……しかし、それが妄想であるとレム自身も理解しているし、認めたくなくても恐る恐る触れた右手が、冷たかったことはどうしようとハルイトが死んだ事を示しているだろう。
「ぁあああぁああーーッ!!!兄さまぁあああ……兄さまぁあああ……兄さまぁあああぁああーーッッ」
レムはただ泣きじゃくる。赤子のようにハルイトの右手を両手で包み込み、大声をあげて泣き続ける。もう夜も深まり、屋敷に住む多くの住人が眠りについていた事もレムには分かっていたが、しかしレムには湧き上がってくるこの感情を抑えることは出来なかった。
「レム!レム、どうしたの?開けるわよ」
そんな時、ガチャンとドアが開く音が聞こえ、レムと同じ容姿を持つ少女が入ってきた。凛とした光を放つ薄紅色の瞳が、泣きじゃくるレムと机に身体を預けている赤髪の少年の姿を捉えた。しかし、次の瞬間、瞳が大きく見開く。
「……ハル……。どうしたのよ、その血……」
薄紅色の瞳はしっかりと捉えていた赤い髪を汚す黒ずんだ血と机の上を覆い尽くす血色を。
ヨロヨロとあまりの衝撃に後ずさる桃髪の少女・ラムは、グッと唇を噛みしめると部屋を後にする。
τ
「死因は圧迫死だーぁね。心臓がまるで手で握りつぶしたような感じになっている」
ハルイトの死体を診た長い藍色の髪を持つ青年・ロズワールの言葉に右横に立っていたクリーム色の髪を縦ロールにした少女・ベアトリスが頷く。
「ロズワールの言うとおりかしら。魔法というよりは呪術よりではないかしら」
「……」
そんな二人を黙って見つめるのはレムで、その傍らにはラムの姿がある。レムは泣き疲れたようで、薄青色の瞳は光を失っており、ラムの支えなしでは立っていることさえも出来ないだろう。入り口にはサラサラと揺れる銀髪の腰の辺りまで伸ばした少女・エミリアの姿がある。無残なハルイトの姿に驚き、悲痛な表情を浮かべている。
そんな光景が数時間、過ぎた時だった。レムはある事に気づいたようで辺りを見渡すと、何も浮かんでなかった表情が震怒に染まる。
その瞬間、レムの行動は早かった。
姉が手を離した隙に、呆気にとられるエミリアの脇をくぐり、黒髪の少年が眠る寝室へと走り出す。
τ
黒髪の少年が眠る部屋へと辿り着いたレムの表情は怒りに染まっていた。冷たく光る瞳に、レムが歩くたびにチッリンチッリンと鈴ような音が響く。しかし、レムが手に持ったそれは鈴のような可愛らしい物では無く、女の子が持つには禍々しいものであった。取手に繋ぎれた鎖の先には重量感たっぷりの鉄球が吊るされている。
それが歩くたびにチッリンチッリンと音を立てるのだ。
「……もっと早くこうするべきだったんです」
眠るスバルの横に立ち、底冷えする眼差しで見つめる。呟かれた言葉には後悔が多く含まれていた。取手を掴む手が強く握りしめられる。
「そうすれば、兄様は死なずに済みましたのに……。兄様に言われて、我慢していましたがやっぱりダメだったんですっ!兄様に止められても、実行すべきだったんです!もうレムは迷いません」
レムがスバルにモーニングスターを振りかざす瞬間、レムの右手が握られる。驚き、後ろを振り返れば、桃髪の少女が立っていた。レムにとっても桃髪の少女・ラムに止められるとは思ってもみなかったのだろう。
「なぜ、止めるのですか?姉様」
そんなラムの後ろから、次々と屋敷の住人が入ってくる。今まさに、モーニングスターを振り下ろさんばかりのレムにエミリアは驚き、割って入ろうとするところをロズワールに止められる。そんなロズワールとベアトリスは黙って、事の成り行きを見ている。どうやら、暴走したレムを止められるのはラムだけと二人とも思っているらしかった。
「バルスはもう死んでいるわ。だから、レムが無駄に手を汚す必要はないわ」
「………」
静かにそう言うラムにレムは振り下ろそうとしていた右手を下ろすと、その場に崩れ落ちる。
「では、兄様の仇は?誰が兄様を殺したのですか?スバルくんでないのなら、兄様を殺したのは誰なのですか?」
その声音は虚ろで、もう怒りはなかった。しかし、何もできなかった自分自身には怒りを感じているらしく、そんなレムをラムはただ抱きしめ続けた……
どうでしたか?
出来れば、ご感想をよろしくお願いします!
レムさんの気持ちばかり書いてしまいましたね。ラムさんの気持ちをこの場を借りて書くと
「なんで、死んでしまったの?バカハル」みたいな感じですかね。
レムさんほどではないですが、ラムさんもショックは受けてます。なんだかんだいって、ラムさんの好感度は着々と上がってきてます。ラムさんの中でのランキングでは、トップ10入りをしたくらいですね。ロズワール、レムの次に親しい友人?みたいな人物の死は少なからず彼女の心を開いたことでしょう。