※ちょっと補足
主人公はフラグが表れた時だけ魔女の残り香が放つ時があります。
「今日はレムさんが教えてくれるんだ。珍しいね、お仕事は終わったの?」
ニコニコと此方に笑いかけながら話す赤く短い髪の少年をレムは品定めするように見つめる。
“…………臭わない、どういうこと?”
朝、共に仕事をしていた時は臭っていた筈なのに……あの咎人の残り香が。
「え……と、レムさん……?」
戸惑っている少年にレムはぺこりと頭を下げる。
「すいません、ハルイトくん。考え事をしていました」
「そうなの。レムさん、いつも忙しいもんね。俺も手伝えたらいいんだけどね」
「いえ、お構いなく。ハルイトくんが張り切ったら、その分 レムと姉様の仕事が増えるので」
「本当 躊躇なくなったよねっ!レムさん!!」
赤く大きな瞳に涙を薄っすら溜めて、少年がツッコミを入れるのをレムは聞き流すように勉強机の横に立つと少年に向き直る。そこにはガク……と肩を落としている赤髪の少年の姿があった。少年は机に向き直ると手元にあるノートを開く。そこにはお世辞にも綺麗とは言えないイ文字がズラッと並んでいた。
「本当に勉強してるんですね」
「それってどういう意味?ねぇ、どういう意味なの!?」
「さぁ、始めましょうか?」
「無視。レムさんは無視で俺を傷つけにくるんだねっ!?」
「しぃー。夜も遅いんですし、ハルイトくんも音量を下げてください」
「そうだね……ごめん。それで、今日はどの文字を勉強すればいい?」
「はい、今日はーー」
レムはスラスラと少年の手元にあるノートにイ文字を書いていく。それを見ながら、熱心に勉強する少年を一歩下がったところから見るレム。
“……変わった様子は無い”
白い紙に羽ペンを滑られる細い手、手本と自分の書いた文字を見比べている赤い瞳。短く赤い髪は前髪だけ幼稚な髪留めで止められていた。
“……意味がわかりません”
赤髪の少年に特に変わった様子は無い。なら、近頃 彼から漂ってくるようになったあの匂いは何なのだろうか?
“……レムが間違えた?いえ、そんなことは……”
あの悪臭をレムが間違えるはずがない。あの瘴気を、魔女の残り香を。あれは自分と姉の人生を狂わせた夜の記憶を呼び起こすのだ。あの時に抱いた気持ちと共に、その匂いはレムの深いところに刻みつけられている。
“レムが間違えるはずがないんです。間違えるはずが……。なら、やっぱり ハルイトくんは……”
レムは知らず知らずに赤髪の少年を睨みつける。その瞳には激怒、嫌悪、憎悪という怒りの感情が燃え上がっている。紡いでいる唇もギューと噛み締めており、前で重なっている両手も目の前に座る赤髪の少年への怒りを色濃く表している。
「……レムさんは居眠りとかしないんだね」
「?」
突然、声をかけられて レムは咄嗟に浮かべていた怒りの形相を引っ込める。いつもの無表情で振り返ってくる赤髪の少年を迎えるとかけられた言葉が理解できず、首を傾げる。そんなレムに赤髪の少年は「あはは」と笑うと自分の赤い髪を撫でる。
「あっ、意味が分からないよね。ごめんね。………ラムさんって、この時間になると居眠りするだよ。毎回ってわけじゃないんだけどね」
「それは……」
「うん、ラムさんも疲れているもんね。それなのに、俺の勉強会を開いてくれて、丁寧に教えてくれる。レムさんも本当にありがとうね、俺なんかの為に」
「いえ……」
ニコニコと笑う少年の頬が少し赤いことにレムはいち早く気づいた。
“……もしかして、ハルイトくんは……”
遠くを見るような少年の瞳。その赤い瞳に誰を映しているのか悟った時、レムは怒りともう一つの感情でごちゃごちゃになる。そんなレムの変化に気づいてない少年は瞼を閉じると力の源となっている桃髪の少女を思い浮かべて、勉強に取り掛かる。レムはというとそんな少年を複雑な心境で見つめていた……
次回はラムさんの気持ちをかけたらな〜と思います。