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「……」
「無視かな?もう正体バレてるんだし、何か言ったら?」
「しっ!」
「っ!?話の途中で武器を振るうなんて……マナーがなってないな。もしくは俺と話す気もさらさら無いといったところか」
俺は数メートル前に静かに立つ青髪のメイドに苦笑いを浮かべる。俺の質問に答える気は相手にはないらしい。俺は離れたところにいる朱雀と白虎を帰すと構えをとる。あの二匹がいれば、確実に彼女はあいつらを狙うことだろう。理由は変わらないだが、そうさせる絶対的な信念が彼女の中にある。そうと俺は少なからず思う。
“だからって……あんなの一発食らったら、肉の塊に早変わりだな……”
ならばーー諦め悪く足掻いてやろうじゃないか!!
「俺はそう簡単に殺されてあげるほど潔い男じゃないだ!だから 抵抗させてもらうよ、レムさん。君と俺とじゃあ明らかに君が強い……でもね、弱い奴っていうものは頭を使うんだよ。どうやったらこの絶体絶命の危機を乗り越えられるか、どうやったら逆転出来るかってね。火事場のクソ力って奴見せてやろうじゃないか!!」
俺を見つめる薄青色の瞳が僅かに揺れた。桃色の唇が引き締まり、鉄球を鎖で繋いだ重量感たっぷりの武器を握りしめる。
“痛ッ……、こんな時に心臓締め付けるなよ……”
胸元を握りしめながら、前を向くと青髪に見慣れた白い旗が風に靡いていた。
【黒いとんがり帽子に赤い×印が付いてある】
“黒いとんがり帽子……?黒いとんがり帽子で有名といえば……〈魔女〉、か?ならば、あの赤い×印というのは……一体どういう意味で?何故、この瞬間に現れた?”
「……その臭いです」
俺の思考を遮ったのは静かな声だった。冷たい声音で青髪のメイドは俺を睨みつける。
「へ?」
「レムがハルイトくんを狙う理由ですよ。知りたがっていたでしょう?」
「いや、知りたいと思ってはいたけど……臭いって。俺、毎日ちゃんと風呂入ってるからそんなに臭くはーー」
「とぼけないでください!そんなに魔女の匂いを漂わせておいて無関係だなんて白々しい……あなたから漂うその悪臭がレムの心をかき乱すんです!!」
「ッ……意味が分からないよ、レムさん」
ギラつく薄青色の瞳、極限まで細められたその眼光に俺はたじろぐ。
出会って今まで感情をぶつけられたことはなかった。彼女が俺に向けて浮かべる感情は呆れ、無関心、心配、迷惑それらが主だった筈だ。なら、今 ぶつけられている感情はなんだ?あの薄青色の大きな瞳で燃え上がっている感情はなんなんだ?
「姉様やロズワール様からはあなたを迎え入れるように言いつけられました。でも、限界なんです。あなたが姉様と親しげに話しているのを見るのがっ!」
「……」
“そうか……俺は今、彼女にーー”
「姉様をあんな目に合わせた元凶が……関係者が、レムと姉様の大切な居場所に……。あなたは何が目的なんですか?姉様から今度は何を奪うつもりなんですか?」
風に揺れる青い髪が彼女の表情を隠す。しかし、月に照らされている薄青色の大きな瞳は俺を捉えて離さない。蛇に睨まれた蛇とはよく言ったものだ。本当……全然、身体が動かない……。
「答えてください。あなたは姉様に何をするつもりなんですか?」
「何をするつもりって……俺は何もしない、するつもりもない」
「つもりはない、ですか?時間稼ぎのつもりですか?御託なら結構です」
ーー〈厭悪〉〈積怒〉〈激怒〉の三つの感情をぶつけられているんだ。つもりに積もった憎悪と怒り、後悔が積怒となり厭悪となり激怒となっている。
幼い頃の彼女らに何があったのかは分からない、けどその壮絶な生き方は目の前の荒れ狂う青髪のメイドを見れば、安易に想像出来る。
「………君たちに何があったのかは知らない。けど、これだけは信じて欲しい。俺は好きになった人を貶めようとは思わない」
「そんな甘言には騙されません。レムはーーレムのするべきことをするだけです」
「………。そうなるんだね」
俯いていた顔を上げるレムさんの表情はいつも以上に無表情な気がする。俺はギュッと両手を握りしめると唇を軽く噛む。そして、スゥーと深い深呼吸をすると
「開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ。調べ調べ調べ調べて、光を知らしめせ!」
「っ!」
突然、叫び出した俺には唖然とするレムさん。しかし、すぐに愛用している武器を此方へと振り払ってくる。それをスゥーと息を吸い込んで
「アァアアアアーー」
鉄球は俺の作り出した光の壁にぶち当たり、両手を添えて防御する俺の右手へと収まる。
“痛ぁ……、衝撃を抑えてもこの威力とかシャレになってない”
今度からはなるべく当たらないように回避する必要があるな。それはそう、短く分析すると鉄球を振り回すレムさんの懐に潜り込もうと身を屈める。
「五行の脚、五氣を増し、護身を打つ!いざや!破邪顕正に挑まん!」
素早くパロールを詠唱するとその華奢な体躯へと拳を突き上げた。しかし、それはレムさんの並ならない反射神経により決まることはなかった。素早く鉄球でカウンターを決められそうになり、後ろへとジャンプして一旦、距離を置く。
「ハルイトくんは意外と強いんですね」
「意外は失礼かな、俺だってやるときはやるんだから。 それで、少しは俺の事 信じてくれるかな?」
「いえ、余計信じられなくなりました。もう少ししたら朝になってしまいそうですし、決着をつけましょうか?」
「そう簡単にやれるかよ。俺だってやりたいことが沢山あるんだから」
俺はそう意気込むと青髪のメイドへと襲いかかった……
次回は……ヒロインの登場かな?