今回の話ではこの小説のヒロインたるラムさんの気持ちを書いてます。上手に書けてるか不安ですが……、どうか ご覧ください。
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赤髪の少年を助けたのはラムにとって気まぐれでしかなった。少年に言った通りで本当にただの〈老婆心〉であった。しかし、少年はラムの予想に反して ラムとレムの雇い主であるロズワール・L・メイザースの信頼心を勝ちとった。それどころか、今ではちょくちょく彼の名前が主から出てくるのをラムは複雑な心境で聞いていた。
“ロズワール様はラムよりハルの方がいいのね……”
有能な駒として、少年はラムよりロズワール様に必要とされている。ロズワール様が少年の何にそこまで必死になるのか、ラムには分からないがロズワール様の悲願の為に少年が必要なことは考えずとも分かった。実際、少年は自分よりも使用人としての仕事ぶりは評価に値したし、妹もそれには異を唱えなかった。
しかしーー
「ラムさん、ラムさん。見て見て、このスープ美味しそうでしょう?」
「……煩いわ、ハル。そんなに呼ばなくても見ているから、さっさとしなさい。そんなにノロくては料理が冷めるわよ」
「ノロくないよっ!俺の限界スピード超えてるよっ!!」
「ハルはレムが作ってる様子を見たことがある?」
「……ごめんなさい……」
ーー少年が自分へと話かける回数が増えた。
実際、一緒に仕事している時間は妹と比べて、自分の方が多いのだから何もおかしい所は無い。おかしくは無いのだが……
「ふ」
「?」
少年はラムと話をした後、必ずといっていいほど微笑むのだ。頬を朱色に染めて、照れたように嬉しいそうに笑う。それを不思議に思うと同時に何故か〈可愛い〉と思えてしまうのだ。少年の外見もそう思わせる原因なのかもしれないが……
「あっ、エミリア様。こんにちわ」
「うん、こんにちわ。ハルイト」
「今日もいい天気ですね。洗濯物とか干したら、よく乾きそう」
「ふふふ、ハルイトって男の子っていうより女の子って感じよね」
「……俺ってやっぱり……そういう方向性なのかな……」
遠くで誰かと話していると何故か〈ムッ〉とする。それは何故かレムやエミリア様、ベアトリス様だけでそれが何を意味するのかはラム自身も分からない。
“こんな不快な気持ちにさせられるなんて、ハルを一発殴らないとラムの気が収まらないわ”
「ぐはっ!?」
「ラム!?」
「ハル、ラムが頼んだ仕事は終わったの?」
「……終わったよ。ついでに他の仕事も片付けたから、エミリア様と楽しくトークしようとーーがはっ!?なんで殴るのさッ!ラムさん。二発も、割とマジなやつをさ!!」
「ラムが汗水流して働いているのにハルが楽をしてるのが目に余ったのよ」
「意味わかんねーよ!!俺にも労働基準法ってのがあって……」
「無いわよ。ハルにそんな勿体無いもの付けるわけないでしょう」
「暴君!ここに暴君がいらっしゃる」
「褒めてもなにも出ないわよ。ラムは飴と鞭では鞭しか持つ気がしないわ」
「褒めてないよっ!!それと飴も持ちましょうよ、鞭ばかりじゃあやっていけない人も居るんですから……」
少年とのこのやりとりを〈心地よく〉思う自分がいる。少年といると〈安心〉する自分がいる。それがとてつもなくラムを不快にさせるのだ……
τ
「もう、お終いですか?」
俺は鎖によって叩かれた横腹を構いながら、よろけるように立ち上がる。闇夜に冷たく光る薄青色の眼光を一身に受けながら、フッと鼻で笑う。
「俺を……殺したって……君に得なことッ。……なんてないだろう?そればかりか……雇い主の……意思をっ。ゲボゲボ、無視したことになる……」
激しく咳き込んだ俺の口元からは生々しい血液が吹き出ている。吐き出した血を見つめながら、青髪のメイドへと視線を向ける。
「俺が……ラムさんを好きなのがそんなに気に入らない?」
「はい」
「そっか……」
即答を悲しく思いながら、俺はふらつく脚を何とか踏ん張る。
“だからって、死ねるかよっ!!”
「燃える燃えて燃え上がれ、竜胆の光焔よ!!不死鳥の名のもとに、この者の苦しみを焼き尽くせッ!!」
右横腹が竜胆色の焔に包まれる、みるみるうちに打撲傷が回復していく。その様子を見ていたレムさんは苦い顔をする。
「えへへ、延長戦いつでも行けるぜ?俺が行こうか、レムさん」
俺は構えるとスゥーと息を吸い込んで、レムさんへと走り寄る。思いつく限りの角度から拳を沈めていく。
「ッ!ハァーッ!!」
「っ!?しぃ!」
華奢なお腹、横腹、顔は確実に決まった気がする。しかし、レムさんも俺の攻撃に応戦してくる。激しい攻防戦が繰り広げられる。
「開け開け開け開けよ、天地開闢の調べ!調べ調べ調べ調べて、標を留め置け!」
「!?」
スゥー
「アァアアアアー!!」
黄色い鎖がレムさんの動きを止める。戸惑うレムさんに俺はニッと笑うと
「えへへ……。こういうことがあるだろうなって思って……密かに練習してたんだ……。俺の……」
俺は目を閉じて、不死鳥を思い浮かべる。
「燃える燃えて燃え上がれ!竜胆の光焔よ。燃える燃えて燃え上がるこの拳は、あらゆるものを打ち砕かん‼︎」
目を開けた俺は右手が竜胆の焔に包まれているのを見て、成功したことを知った。グッと握りしめて、黄色い鎖に繋がれているレムさんへと走り寄る。
“負けない”
「喰らえ!ハァーッ!!」
竜胆の焔に包まれた拳がレムさんへと近づいていく。
“負けたくない!だって、俺はまだーー”
後、一センチでレムさんのお腹へとヒットする。
“ここでしなくてはいけないことも、ラムさんに告白もしてない”
「だから……負けるわけ……に…………は…………………」
次の瞬間、俺の視界は闇に包まれた……
次回でプロローグが終わる予定です。