今回の話はベアトリスの所にスバルが駆け込んで、今の状況を確認することです。
そういえば、リゼロでゲームが発売されるんですよね!攻略を目的としているこの小説の参考として、買おうと思ってます。スバルはどうやって、ラムさんを攻略するんですかね?楽しみです!
「ノックもしないで入り込むなんて、ずいぶんと無礼な奴なのよ」
深く深呼吸を繰り返す黒髪の少年ことスバルに掛けられる冷たい声にスバルは前を向く。
そこには、所狭しと並べられた本棚の真ん中で脚立に腰掛けている小さな少女がいた。金髪を縦ロールにして、赤く可愛らしいドレスはフリルが多く腰についているピンクの大きめなリボンが可愛さを更に強くしている。
そんな少女は膝に広げている大きい書物をバタンと音を立てて閉じると、スバルへと視線を向ける。
「どういうことかしら?さっきいい、今といい……こうも簡単に“扉渡り”が破られるなんて」
そんな金髪を縦ロールにした少女・ベアトリスにスバルは両手を重ねて、拝む。
「すまねぇ、暫くの間でいい、いさせてくれ。頼む」
ベアトリスの返事を待たずにスバルは考える。
“もう何が何だかわかんねぇ”
さっきからスバルに降りかかる出来事は何なんだ?現実逃避したくなる思考を停止して、己と向き直る。
“俺は誰だ?ここで何をしていて、さっき居た双子とメイドはなんなんだ?目の前に座っているこの少女の名前は?存在、そもそもこの部屋はなんなんだ?四日間、誰と何を約束した?明日、俺は、誰と一緒に、どこへ行くって約束……”
自分自身に質問をぶつけながらも、瞼に浮かぶのは月夜に光り輝く銀髪と、はにかむような微笑を浮かべていた少女だ。
「……エミリア……。そうだ、エミリアは……」
力なく下げていた顔を上げたスバルは、ベアトリスへと視線を向けると
「なぁ、ベアトリス」
「呼び捨てかしら」
「お前、さっき俺に『扉渡り』を破られたって今言っていたよな?」
ベアトリスの表情がだんだんと険しくなっていく。それはそうだろう。呼び捨てされた上に、不躾にも質問を投げられたのだから。
「つい三、四時間前に、無神経なお前をからかってやったばかりなのよ。もう忘れるなんて頭のネジが数本飛んでるに違いないかしら」
「頭のネジが飛んでるだけ尚更いいだけどな……。そうか、目論見スルーしたからお前がヘソを曲げたときのことか。わかったわかった」
スバルの皮肉にベアトリスのヘソがまた折り曲がったことは間違いないだろう。そんなベアトリスを知ってか知らずか、スバルは記憶を整理するのに専念する。
“三、四時間前にベアトリスとの遭遇”
今のベアトリスの言葉が意味するのは、スバルがロズワール邸で最初に目を覚ましたときのことだろう。永遠と続く廊下の突破口をスバルが引き当てたときのことだろう。その後、この少女・ベアトリスと遭遇し、マナドレインという荒技によって昏倒させれた。そして、二回目に目覚めた時には朝で、双子のメイド・ラムとレムが寝台の横に立っていて、あの末っ子との遭遇は確か食事の時だったはずだ……
「ということは……つまり、今の俺がいるのは……屋敷で二度目に目覚めたとき、だよな」
記憶の引き出しを引っ張り出して、記憶と引っかかるところと自分の今の立ち位置を確認する。スバルの記憶から、メイド姉妹が二人揃ってスバルを起こしにきたのはあの朝だけだ。そのあとは二人が交代で、時折末っ子がスバルを起こしにきた。そして、何よりスバルがお客様用の寝室を利用したのはあの朝だけだった。その後は、スバルは客室用のベッドを利用するような身分でなくなった筈だ。
「……そうか、なんか知らないけど五日後から四日前まで戻ってきたって、そういうことになるのか……」
王都の時と同じく、スバルだけの時間が遡行したのだと、今の状態を定義出来る。
“なら、何故?”
王都での時間遡行は『死に戻り』だった。三度の死を乗り越えて、エミリアを救って、ここまで辿り着いた筈だ。
このロズワール邸での一週間は、王都より平和だったはずだ。なのに、突然の時間遡行だ。何の前触れも無く。
「前回と条件が違う、のか?死んだら戻るって勝手に思ってたけど、実は一週間でキャリーオーバーとかで巻き戻るとか……いや、だとしたら」
こうして、ロズワール邸初日の朝に巻き戻った理由が分からない。時間遡行の原理も不明だが、王都でのループにはある程度のルールがあったはずだ。その一つが復活場所の問題で、もしスバルがあのループから解放されていないなら、スバルが目覚めるのは三度見た果物屋の傷顏店主の前になる筈だ。
「しかし、現実は傷面の中年から見た目は天使のメイド二人だ。がらっと変わってる」
だが、受け取った心境は、天国と地獄が正反対だったが。スバルはペタペタと自分の身体を触るも無事を確認する。何事ない、と思う。ということは、これまでの条件に従うなら、スバルが戻った理由は明白。即ちーー
“俺は死んだってことか……”
「ただ死んだとしたらどうして死んだ?寝る前まで全部普通だったぞ。眠った後だって、少なくとも『死』を感じるような状況には陥ってねぇ」
即死、にしても本当に『死』の瞬間を意識を感じさせないものなのだろうか。毒やガスで眠ったまま殺された可能性も考えられるが、それはつまり暗殺を意味することになる。そうされる理由がスバルにはないため、前提条件が成立していなかった。
「となると……クリア条件未達による強制ループなのか?あるいは」
ゲームに見立ててしまえば、必要なフラグを立てなかったが故の結果ーーゲームオーバーだ。が、誰が目論んだフラグがわからない上に、トリガーすらも不明のクソゲー仕様。
「たく、俺はもともとすぐに諦めて攻略サイトに頼るゆとりゲーマーだってのに……」
「ぶつぶつ呟いてると思ったら、くだらない雰囲気になってきたのよ」
思考回路を全力で死の謎の解明へと向けるスバルに、ベアトリスは退屈そうに言って嘲笑を浮かべる。
「死ぬだの生きるだの、ニンゲンの尺度でつまらないくだらないかしら。拳句に出るのが妄想虚言の類。お話にならないとはこのことなのよ」
そっけない、ある意味では酷薄なほど突き放すようないいぶりに、スバルは安堵を覚えた。その安堵はベアトリスの変わらない態度によるものだ。スバルは立ち上がると扉へと向き直る。
「行くのかしら?」
背中から聞こえるベアトリスの言葉にスバルは頷くと
「あぁ、確かめたいことがあるんでな。凹むのはその後にするわ。助かった」
「何もしてないかしら。……とっとと出て行くといいのよ。扉を移し直さなきゃならないのよ」
ベアトリスの優しさとは無縁の響きが、今のスバルには心地よかった……
次はハルイト視点が書きます