そんなお待たせした二十八話ですが、タイトル通りの話となってます。新しいフラグとラムさんが取らないであろう行動をするので…読者のみなさんはあれ?と思われる方といらっしゃると思います。
ですが、最後まで読んでいただければ幸いです。
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黒い前髪を上に持ち上げるような髪型をしている少年・スバルと青いショートボブの少女・レムちゃんとの作戦会議を終えた俺は、いつもの如くとある少女の部屋へと来ていた。
トントンとノックをすれば、ゆったりと華奢な身体つき隠すような桃色のネグリジェを身につけて、絶対零度の如く視線をこちらに向けている少女へと俺はにっこりと微笑むと当たり前のようにその部屋の中へ入ろうとして、鋭き刃の如き視線に胸を抉られる。そんな鋭い視線に続くのは、冷ややかな声音で紡がれる冗談か本気か分からないセリフ…恐らく、この少女・ラムさんの場合は前文の方なのだろう。そうでなければ、こんな鋭い視線や聞いてるだけで背筋に悪寒が走る声音で物事を言わないはずだから…。
「…なんで、ハルがいるのかしら?もしかして、夜這い?だったとしたら、被害が出る前に消さないとだわ」
ごく自然な動作で俺を抹殺しようとするラムさんへと俺は冷や汗を流しつつ、呆れと悲哀な視線をラムさんへと向ける。だが、ラムさんは俺のそんな視線などお構いなしで、桃色のショートボブと同色のネグリジェをふわりっと揺らして、ベッドへと歩いていく。その後に続く俺はそんなラムさんの後ろ姿に見惚れつつ、ベッド腰掛けるラムさんの一人分あけた所に腰掛ける。
「いやいや!夜這いって…。この時間には、いつもラムさんの部屋を訪れてるでしょうが…、はぁ…。ラムさんと話がしたくて来ました。少しお話いいですか?」
「…そう。好きにすればいいわ」
「うん、好きにするよ」
ベッドに腰掛けた俺は、優雅に足を組むラムさんへと向き直る。ラムさんも横目で俺を見つめると顎で話を促す。俺はラムさんのその動作に頷くと、今日話したいと思っていたことを話す。
いつものように身振り手振りでニコニコと話する俺の話を眠そうな顔をしつつも、時折相槌を打ってくれるラムさんの囁かな優しさに触れながら、俺は今日の話を終えようとした時だったーー
「ーーハル、ラムの目を見なさい」
と、突然 ラムさんが一人分空いてる距離を詰めて、俺の輪郭へと右手を添える。そのほっそりした、しかし女の子特有の柔らかさを持つ掌に俺は軽くパニックに陥る。
ラムさんらしからぬその行動に、俺は滑舌が回らなくなり、深夜というのに素っ頓狂な大きな声が出てしまう。それを聞いたラムさんの薄紅色の瞳がスッと細まるのを見て、俺はラムさんの指示通りに口を紡ぐ。
“%$€÷*$€+#°”
「ななななんで!?」
「煩いわ。黙らないとその目をくり抜くわよ。いいから、ラムの目をじっと見なさい、早く」
「……」
「「ーー」」
一文字に唇を噛みしめる俺の両頬をラムさんの両手が包み込み、まだ驚きが覚めてないためにまん丸のままの赤い瞳を、大きく凛々しい雰囲気を持つ薄紅色の瞳がじっと見つめる。
息をすれば、互いの息が頬にかかるくらいに顔を寄せているこの状況は俺にとってはラッキー、幸せと言わずにおれない出来事だろう。だって、この屋敷に勤めて、二年ちょっと、彼女からは回し蹴り・アッパーは毎回のこと貰うも、こういったハタから見れば恋人の間違われてしまうようなスキンシップを行うことは皆無だったのだから。いや、一度だけ膝枕をしてもらったくらいだろうか?それがどうしてか、今日 突然こんな事になってしまって…俺にはどうしていいか分からない上に、ラムさんの本音が読み取れない。
“まぁ、ラムさんが俺に本音を見せてくれることなんて無かったけど…”
俺が溜息を着きそうになる前に、今まで沈黙を保っていたラムさんがボソッと呟く。その呟きは、この距離感だからこそ聞き取れたようなもので、本当に小さくその内容は眉を顰めるものだった。
「やっぱり、何か悩んでいることがあるのね。それはバルスの事?それとも、レムの事かしら?」
「……」
その呟きを聞いて思ったことはただ一つだ。
“どうして、分かるんだ?”だ。俺が抱えている問題に、なんで目を見ただけで分かるんだろう。
そこまで、ラムさんは俺のことを見てくれていたんだろうか?いや、絶対見てくれてないだろう。俺が話にしたことすらも夜這いって間違えたくらいだし…。だとすれば、さっきの呟きもまぐれだろう…。
「そう、両方の事なのね。…いえ、両方でもあって、両方じゃないなのね。それはラムには言えないことなのかしら?」
“まぐれじゃない…。ラムさんは俺の気持ちを読み取ってる…”
俺の目をまっすぐ見つめてくる薄紅色の瞳には 相変わらず感情を載せずに、彼女は俺が隠したがっていることや言えないことを読み取ってくれてる。それが嬉しい反面、胸がギュッと締め付けられる。それが好意ではなく、悲しみや悔しさからくるものだと気づいた俺は、ラムさんへと掠れた声で尋ねる。
「ラムさん…」
「何かしら?ハル」
普段よりも声音が暖かい気がして、俺は顔を俯く。そうしないと、まともにラムさんを見ていられなかった。膝の上に置いている両手が無意識に強く握りしめる。
“ラムさんはいつもそうだ…”
俺の事をなんとも思ってないような言動を取る癖に、俺の事をよく見て・理解してくれる、分かってくれる…それがとても悔しくて、情けない気持ちになる。
ーー俺はこの人に弄ばれているだけでないのか、と?
そんな事を思ってしまう自分自身に嫌悪し、最愛の人を心の底から信じられない自分自身へ怒りを覚える。そんな負のサイクルに陥ってる事をこの人は知ってるんだろうか?
「ラムさんは…俺にこんなことして…からかってるんですか?俺のラムさんを愛してるって気持ちをーー」
「ふ」
小さく笑い声を漏らしたラムさんは、笑い声に驚いて顔を上げた俺へと突然、質問する。その質問の真意が読み取れず、俺は眉を潜めつつも答える。
「ハル、ラムの好きな人を答えてみなさい」
「へ?ロズワール様でしょう?」
「違うわ、ハルを見直していたのに…。これは認識を改めないとだわ…」
心底ガッカリしたって感じで肩を上げて、首を横に振るラムさんに俺は頬を膨らませると質問する。もちろん、ヒントを見つけるためだ。
「む…。じゃあ、ラムさんの好きな人って誰なんですか?俺の知ってる人です?もしかして、スバル?」
「バルスは無いわ、例外よ。…そうね、ハルに教えるのは癪だから…自分でみつけなさい。それで、もし ラムの好きな人をハルが当てられたら、ハルの願いを一つ聞いてあげるわ」
「へ?…ッ!」
“これは…”
【癖っ毛の多い赤髪の少年が進んでいる道の先が、二つに割れている。右手の空は明るく、左手の空が暗い】
恐らく、右手が成功した方の道で、左手が失敗したときのものだろう。
“これは…【人生の分かれ道】フラグ”
だとすれば、このラムさんからの無理難題は、これからの俺とラムさんの関係性へと左右してくるというわけか。
“じゃあ、正解しないわけにいかないな”
小さく意気込む俺へと、顔をしかめたラムさんがいつものように冷たい言葉を投げかけてくる。それを笑って受け流して、俺はベッドから立ち上がる。
「ハル、どうしたの?女々しい顔が更に女々しくなってるわよ」
「やっぱり、相変わらずだね、ラムさんは。さて、ラムさんからの問題、絶対正解するからね。じゃあ、まだ明日」
「えぇ」
俺は後ろを振り返り、ラムさんへと手を振ると自分の部屋へと帰っていった。
τ
パタンと閉まったドアをじっと見つめていたラムは、口元に柔らかい笑みを浮かべる。
「…今のハルには、絶対ラムの好きな人は分からないわね。でも、どうしてかしら?気づいて欲しいと思うのは…」
その問いかけは、暫し 考えても思い浮かばなかった…
という感じで、ラムさんからの無理難題ですが…読者の皆様なら、ラムさんが誰を好きなのかお分かりなのでは?と思います。
その人を好きになった経緯は、後々書けたらと思っております。
では、最後まで読んでいただきありがとうございます!