絢辻詞 ~footage~   作:北海銀
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 次の日の絢辻詞は相当なやつれようだった。ボサボサの髪に腫れあがった瞳、顏の血色も悪かったが、ただ目線はきびしかった。自分の席につくなり一点を穴のあくほど見つめていた。そのただならぬ異様な雰囲気のため、クラスメートは容易に近づけなかった。隣の席の女子が話しかけるが、適当に返事をするだけで会話にはならなかった。あきらかに思いつめていたし、何ごとかの決心を固めているような気配があった。 

 十文字隼人は、いつものように朝のホームルーム直前に教室に入ってきた。すぐに自分の席についたので、詞の異変に気づいていない。むしろヘラヘラとして、純一たちと冗談を言っていた。その楽しげな声は、もちろん前の方まで聞こえている。とくに詞の鼓膜には、隼人の節操のない笑い声が、ズキズキと明確な痛みを伴って響いていた。

 麻耶教諭がやってきた。ホームルームが始まり、いつものように担任が話を始めようととした時だった。

「先生っ」

 一人の女子生徒が唐突に手をあげて立ち上がった。その声の厳しさに、クラス中がドキリとした。

「え、えっと、なんだろう、絢辻さん」

 その女子生徒が発散している不穏な雰囲気を感じとった麻耶教諭は、ややたじろいでいた。

 絢辻詞は席を離れると、素早く壇上にあがって教壇に立った。  

「あ、あのう、まだ先生の話が終わってないんだよね、絢辻さん」

 詞は正々堂々と真ん中に立った。担任は、彼女の脇でオロオロしている。

「いまから三年A組の重大事について、発表したいと思います」

 確固たる声で詞がそう宣言すると、A組全体がどよめいた。

「なんだよ、重大事って」

「誰か死んだのか」

「うそ、みんないるじゃない」

 それぞれが、それぞれの顔を見合った。みんな不安な表情をしている。

「あ、あの、絢辻さん。そういうことはまず担任のわたしを通してだな」

「しずかにっ」

 学級委員の静止要請に、クラス全員が口を閉ざした。もちろん、麻耶教諭もだった。教師のくせに、反射的にピンと背筋を伸ばした姿勢をとってしまった。

「このクラスのある男子が、クラスの女子全員に対して不埒な行いをしているのです」

 ええー、うそー、なにそれー、とA組の女子たちが騒ぎ出した。担任が静かにするように言うが、誰も従わなかった。

「ここに証拠のノートがあります」

 そういって詞が高々と掲げたのは、隼人が以前詞にあずけた、あのヘンタイ破廉恥ノートだった。

「ああーっ、そ、それは、ダメ、絶対にダメっ」

 隼人は瞬足で立ち上がって詞の元へ行こうと走りかけたが、気が動転していたために足がもつれて転んでしまった。

「それを捕まえてっ」

 きびしい声が飛んだ。すぐに付近にいた男子ならず女子までもが彼の手足を押さえた。数人が全体重をかけて床に押しつけているので、身動き一つできない状態だ。いまや隼人を捕まえておくことが、三年A組のコンセンサスとなっていた。

「すべてはこのノートに書かれてあります。ある男子生徒のこのクラスの皆に対する背信行為が」

 クラスの全員が、詞が手にしているノートの所有者が十文字隼人であると確信していた。彼を押さえつけている運動系の女子の膝に、より大きな負荷がのせられた。

 詞は、手にしたノートをひらいた。その内容が彼女の口から話されると誰もが思ったし、実際にその通りとなった。三年A組の男女は、きっと自分たちの悪口、誹謗中傷がそこに書かれていると思った。だから、学級委員の口から暴露されるであろうひどい罵詈雑言に、なんとしても耐えきろうと無言で連帯感を高めていた。

「それでは読みます」

 ゴクリと喉が鳴った。隼人が頭を抱え込もうとしたが、押さえつけられているので、心の中での苦悶となった。   

 詞が彼のノートを読み始めた。抑揚はなかったが、じつに大きな声でクラスの隅々まで響きわたった。  

「今夜のオカズは、棚町薫だ」

「え、あたし。って、オカズってなに」 

 ある程度の覚悟はしていたが、いきなり自分の名前が出てきたので、薫は動揺していた。そしてオカズという単語が、どれほどの侮蔑なのか考えようとしていた。この時、感のよい数人の男子だけが、その意味に気づいていた。詞はかまわず先へと進むのだ。

「薫のOOOは、その顔の濃さからたぶんボーボーであるので、まず椅子に縛りつけてOOを大きく開いた格好にする。おっとそのまえに、ブラジャーをはずしてOOOOをもみほぐして、OOOを箸でつまむ。そして、あんあん声をたてる淫乱女子高生のボーボーなOOOを、じょりじょりと剃ってツルンツルンになったOOOをOOでOOする」

 もちろん、詞は学級委員の仕事に手を抜かない。すべてノーカット無修正で、しかも堂々と淀みなく言い放つのだった。

「キャー」

「イヤー」

「ヘンタイ」

「もういや、なんなのこれ、なんなの」

 クラス中がどよめをいていた。あちこちから金切り声にも悲鳴が湧きあがる。隼人を押さえつけていた女子が、この男がさもバイオハザートな物体であるがのごとく、わあわあ喚きながら離れ、その桎梏を解いた。男子も、つられて手を離す。隼人は自由になったが、時すでに遅すぎたことを自覚し、ただその場所でうなだれていた。

 薫には、いくつもの好奇な視線が集中していた。不幸な彼女は顔を真っ赤にしながら、違う違う、知らない知らないと必死になって否定している。

「雨の日のオカズは、佐久山京香だ」

 詞の朗読は止まらない。次のターゲットになったのは佐久山京香だ。彼女の顔立ちは ごく普通の女子高生であるが、胸の大きさは際立っていた。ブレザーを着ても、しっかりと主張して男子たちを喜ばせている。

「ちょ、ちょっとまって。わたしはダメ。いらない、いらないよ。うん、だって、ほんとにいらないんだって」

 佐久山京香が立ち上がり必死になって拒絶するが、いったい自分が何を拒絶しているのか、はっきりとした輪郭をつかんではいなかった。詞の冷徹な朗読が、それを具体化なもとのするのだった。

「雨に濡れて透け透けになったブラウスの上から、その巨大なOOOOを鷲ずかみにする。うっとりと流れる京香の目線を舐め回しながら、俺のOOOを巨OにスリスリしながらOOを引っ剥がす。プルンと揺れる谷間に俺のOOOを突っ込むと、京香は甘えるようにOOOをさすりはじめた」

「いっやああああああああああ」

 佐久山京香、一世一代の絶叫であった。自分の髪をくしゃくしゃと掻き毟ると、その場に崩れ落ちた。横にいた女子が、「大丈夫大丈夫、これは夢よ」と言ってなだめている。

 学級委員の朗読は続いていた。詞に名前を呼ばれた女子は、まるで死刑宣告でもされたかのように悲鳴をあげて、さらに間髪入れずに繰り出される淫靡な辱めに頭を掻きむしり、その場に崩れ落ちるのだった。

 三年A組は、いまや阿鼻叫喚の凌辱地獄の場となっていた。詞の朗読に泣きだす女子が続出していた。あちこちで悲鳴や奇声があげられて、生徒たちだけでは収拾のつかない状態となっている。大人の介入が必要となっていた。

「あ、あの、絢辻さん。もうわかったから、そのノートを読むのはやめようね」

 最初のうちは面白おかしく聞いていた麻耶担任であったが、詞の言葉があまりにも露骨で不道徳すぎるので、さすがにマズいと考え、もうやめさせようと思った。  

 だが、メラメラと嫉妬の青い炎を燃やしている絢辻詞による復讐劇は、そう安々とは止まらないのだ。

「今日のオカズは、高橋麻耶だ」

「へっ」

 まさか自分の名前が呼ばれるとは夢にも思っていない高橋担任は、素っ頓狂な声をあげた。オタつく担任を一瞥することもなく、詞は先を続けるのだった。

「麻耶先生は、女体といえどもいかんせん年増なので、ついつい責めあぐねてしまう。しかし、今日は特製の道具を用意した。年増な女体専用の超ビックな電動OOOだ。もはや、麻耶は欲しがってしょうがない。飢えたメス犬みたいに俺にすがってくる。そこを蹴飛ばしてから地面に押さえつけ、赤ら顔で涎をたらしているメス年増のOOOに、極太のOOOをグリグリ入れて、さらにそのだらしないのないOOのOOに、サラミソーセージをねじり込む」

 高橋教諭は、驚愕し、混乱し、羞恥心に苛まれ、やがてそれらの感情が怒りの感情に昇華し、やや微妙な間をおいて、激怒の感情へと変容していた。

「以上がこのノートの持ち主、十文字隼人の、三年A組に対する背信です」

 詞が言い終えた瞬間、年増の担任が吠えた。

「こうら、十文字、このやろう。これはどういうことなんだあ」

 もはや鬼神になった麻耶担任は、ドンドンと床を踏みつけながら隼人の元へと向かった。そのとき彼は、人生のすべての炎を燃やしきったかのように干乾びながら正座していた。

「これは、そのう、、、なんていうか、書、小説です。純文学でして」

 蚊の鳴くようなか細い声がしたたり落ちていた。三年A組の全女子の敵意が、容赦なく見つめている。

「わたしが年増なのが純文学なのかっ。この、どエロヘンタイめ。とにかく来い」

 怒りの葡萄状態の教師が男子生徒の襟首をひっつかんで、教室の外へと引っぱって行った。もちろん、麻耶担任は絢辻詞の手から問題の不浄ノートを回収することを忘れなかった。

 大きな仕事をやり終えた絢辻詞は、自分の席に戻った。落ち着いた表情で静かに着席している。そんな彼女を見て一部の生徒は、さすが学級委員だけのことはあると感心した。

 だが実際には、彼女は放心状態なだけだった。頭の中が空虚になってなにも考えることができないのだ。衝動的に重大犯罪をしてしまった直後に、呆然自失状態に陥る状況に似ていた。彼女がことの重大さに気づくには、いましばらくの時が必要だった。

 








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