絢辻詞 ~footage~   作:北海銀
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「私、大恥かいちゃった」

「それは災難だったな。まあ、みんな悪気があってのことじゃないと思うよ」

「わかってる。隼人のせいだから」

「なんで俺のせいになるんだよ」

「まえに二人でカラオケ行ったのに、私が歌下手だって言ってくれなかったじゃないの」

「そんなの言えるわけないだろう。俺にとって詞の歌は聴けるだけでもありがたいんだから」

「そんな調子のいいこと言っても、なにも出ないからね。おにぎりも、塩だけだにするから」

「おいおい、どうしてそうなるんだよ」

「フフフ」

 お互いに忙しくなったので、最近の会話手段は就寝前のケイタイとなっていた。両人とも少しだけ話してから寝ようと思っているのだが、結局はついつい長電話となってしまうのだ。

「それで、詞はどんな曲を歌うんだよ」

「それは内緒」

「俺には教えてくれたっていいだろう。彼氏なんだからさあ」

「ダメよ。棚町さんや森口さんを裏切ることになるじゃないの。見方を騙すくらいの、おもいっきりのサプライズなんだから」

「騙すって、なんだかスゴそうだな」

「もとい、騙すは言いすぎね。とにかく正攻法ではないってことよ」

 三人には、とびきりの戦略があった。

「隼人のほうはどうなの。高嶋先生とうまくやってるの」

「まあまあだよ」

「先生たちの足をひっぱちゃってるんじゃないの」

「俺が叩くんだよ、完璧さ。それに二曲しかやらないから楽なんだ」

「プギャグレだっけ」

「プログレね。それも長い曲だから、一曲になっちゃったよ。ほかの先生がやりたい曲があって、最初の曲はそっちの方になったんだ。二曲とも古風なプログレでいこうとしてた高嶋先生はシブっていたけどね」

「隼人、ドラムもいいけど、ちゃんと勉強のほうもがんばってよ。ほんとうは私がつきっきりで教えたいのだけども」

「わかってるよ。そこそこやってるからさ」

 実際に、隼人の偏差値では詞と同じ大学に行くには難しいところだ。だから最低でも、詞が通うであろう国立大の近場の大学にしようと考えていた。それでもまだ、その大学すらにも成績がとどいていなかった。 

「ところでこれは悲報なんだけど、來未も歌バトルに出るみたいなんだ」

「うん知ってる。今日の帰りに生徒会室の前を通りかかったら、掲示板に名前があったから」

 十文字來未も出場登録をしていたのだ。

「あいつ、詞をヘコましてやろうと画策しているみたいなんだよ」

「きっと、そうよねえ」

 敵対されていることはわかっているので、いまさら驚いたりはしなかった。

「一年生からは來未一人が出場らしい。だから、応援が集中すると思うんだ」

「うう~ん、強敵ね」

 歌バトルの勝敗は、観客の拍手や歓声で決定される。組織票を数多く持ったほうが有利なのだ。

「來未ちゃんって、歌の腕前はどうなの。案外、私みたいに下手だったりして」

「それがあいつ、滅茶苦茶上手いんだよ。しかも、あの強烈な気の強さだろう。ステージにたっても物怖じしないし、きっとカッコよく歌いきると思うんだ」

「はあ~。一回戦で対戦するのだけはカンベンね」

 黄色い歓声をいっぱいに浴びた來未に敗北し、がっくりと膝を落としている自分を想像して、詞は彼女と当たらないようにと切に願うのだった。

「森島はるかといい、來未ちゃんといい、どうして私のまわりは強敵ばかりなの」

「そんなの決まってるじゃん」

「うん?」

「絢辻詞が一番のアイドルだからだよ。森島先輩も來未も、絢辻詞と比べちゃあ、一段、いや二段くらい下だからね」

 ふふふ、と詞が笑みを浮かべた。その様子を隼人は見ることができないが、次の返答で容易に想像することができた。

「しょうがない。おにぎりにタコさんウインナーと、詞特製肉みそダブルを追加しますか」

「やったあ」

 二人は夜遅くまでおしゃべりをする。その時が楽しくてしかたないといった様子だった。

 






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