絢辻詞 ~footage~   作:北海銀
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 それから、詞は隼人を徹底的に避け続けた。お互いが向き合って話しをすると、泣きだしてしまうと自覚しているからだ。教室では努めて平静なふりをして、いつも通りの振舞いをしていたが、隼人がいる近辺にはけして立ち入らなかった。

 彼女のそんな態度に直面して、隼人は存分に焦ることとなった。きちんと話をすれば、元通りになると期待していたからだ。しかし詞は話をしないどころか、彼に近づこうとさえしない。隼人が何気なしに近づいただけでも、いそいそと離れていく始末だ。昼休みも同様で、相変わらず一回たりとも後ろを振り向こうとはしない。シビレを切らした隼人が、弁当を食べ終わってトイレに行こうと廊下に出た詞をつかまえようとしたが、彼女は彼を鬼神のような凄い形相で睨むと、走り去ってしまった。

 詞にしてみれば、隼人がキツい言葉を投げつけてくると思い、無意識的に、とっさに防衛本能が働いたのだった。彼を責め立てるつもりで睨みつけたのではないが、そういう印象を与えてしまった。

 隼人は、今度こそ愕然としてしまった。詞の、あんな厳しい表情を見たことがないからだ。これは本格的に嫌われてしまったのだと、背骨にプロ格闘家の回し蹴りを喰らったみたいな衝撃だった。彼女を追うことを諦めて、落胆しきった様子で自分の席に戻るしかなかった。

 詞は家に帰ってからも落ち着かなかった。いまにも机に置いてあるスマホが震えだすのではないかと、気が気でなかった。なんどか電源を切ろうとするのだが、それを手に持ってややしばらく見つめると、なにもしないで元の場所に置いた。そのままベッドに体育座りしながら、ひたすらケイタイを見つめるのだった。

 隼人は電話での会話を諦めた。そして、これからどうするかを必死に考えていた。しばらく様子をみるという選択肢もあったが、なにもすることなく時が流れてゆくと、二人の関係はこのまま消滅してしまうのではないかと思えた。詞の愛を自分のほうに引き戻すには、思いきった行動をしなければならない。自分の愛情が本物であると、彼女に再度認識させる必要があるのだ。

 彼は決心していた。それを為すことによって失う、あるいは被る嘲笑や羞恥など問題にならなかった。詞を失うことに比べれば、はるかに小さいと断じていた。彼の人生のにおいての優先順位は、常に詞が一番なのだ。

 隼人は、引き出しから一冊のノートを取り出してカバンの中に入れた。明日のことを考えると神経が興奮して眠れなかった。胸の高まりを鎮めるためにドラムを叩く。すると夜中にドラムを叩くなと來未が怒鳴り込んでくるが、兄はかまわず叩き続けた。心が落ち着くまでドラムを叩き続け、妹は壁を叩き続けた。

 



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