絢辻詞 ~footage~   作:北海銀
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「学級委員だから」、というセリフが輝日東高校の流行文句となった。掃除をサボる理由は「学級委員だから」、廊下を走って転んでも「学級委員だから」、もちろん誰かに告白するときも「学級委員だから」となった。

 詞と隼人の恋仲は、その日の昼までには全校生徒が知ることとなった 校内のどこにいても、なにかと注目されので、詞は恥ずかしくてたまらない。廊下を歩くだけでも好奇の目を向けられてしまう。

 放課後、詞は早歩きで化学準備室に逃げ込んだ。もちろん、そこには学級委員として面倒を看なければならない相手が待っていた。

「もう、恥ずかしくてたまらない」

「俺もだよ。いま思い出しても、顏から火が出そうだ」 

「隼人のノートは、いっつも過激すぎるのよ」

「反省してます」

 隼人はマグカップを二つ用意して紅茶を淹れた。詞に蜂蜜をいれるかどうかたずねた。

「もう、たくさん入れて」

「あいよ」

 二人は仲良く紅茶を飲んでいた。昨日までの険悪な雰囲気など、まるでなかったかのようだ。

「やっぱりここにいたか」

 麻耶担任が入ってきた。準備室のドアにカギはかかっていない。もう公然の仲となってしまったので、あえて隠れるようなことをする必要はないのだ。 

「まったくよくやってくれたよ。職員室でも話題になってて、教頭にまで根掘り葉掘り聞かれたぞ。おまえたち、よく恥ずかしくもなく、あんなことできたな」

 二人は明後日の方向を向いた。

「まあなんだ。もとのサヤに収まったということでよかったよ」

 麻耶担任は隼人の紅茶を飲み干すと、化学準備室を出ていった。

「これは没収しとくからな。それと創設祭の準備が始まるから、それはちゃんとやるんだぞ」

 十文字家特製蜂蜜が気に入ったのか、帰り際に没収という名目で強奪されてしまった。

「また家から持ってくるよ」

「うん、やっぱり蜂蜜がないとね」

 詞は、すっかりと十文字蜂蜜のとりこになっていた。

「クソアニキいるかーっ」

 突然、ドアを蹴破るようにして入ってきたのは、十文字來未だ。

「あーっ、絢辻もいやがる」

 兄と仲良く並んで座っている詞を、來未は憎々し気に睨んだ。

「おまえら、離れろよ」

 そして二人の間に強引に割り込んで、居座ってしまった。隼人は口やかましく妹を責め立てるが、詞は苦笑いするだけだった。

「來未、おまえはお呼びじゃないんだ。どっか行けよ」 

「なに言ってんだよー。アニキが恥ずかしいことをやるたびに、わたしが笑いものになるんだって。さっきだってな、わたしのことを学級委員ってあだ名つけようとしたやつをぶっ飛ばしてきたんだから」

 元祖学級委員の詞には、耳の痛い話だった。

「アニキたちは、なんでイチイチ大騒ぎしないと付き合えないんだよ。バカみたいじゃん」

「お、俺たちには俺たちの事情ってもんがあるんだよ」

 詞は、不思議と來未には嫌われていない気がしていた。なんだかんだいって、この子はきっと私たちのことを認めているのだろうと感じていたのだ。

「よーし。今日は絢辻が來未ちゃんにごちそうしてあげる」

「え、マジか」

「うん。いつも來未ちゃんには迷惑かけているから」

「じゃあ、あんこ堂のトロピカル極上パフェね」

 二千円はする名物パフェだ。詞はピクピクと顔を引きつらせながら、隼人との恋愛は高くつくなあと嘆くのだった。

 








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