絢辻詞 ~footage~   作:北海銀
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「なにかと大変だな、絢辻」

「平気平気」

 朝の登校時、生徒玄関にて内履きの片方に仕込まれた画鋲類を取り除く詞を、薫は同情しながら見ていた。

「うへ、それヤモリの屍骸じゃんかよ。やることが陰湿だよな」

 もう片方の靴には、死んで干からびたヤモリが入れられていた。詞はそれをつまみ上げ、ちょっとニオイを嗅いでからポイっと空中に放り投げた。それは放物線を描いて、ある善良な男子生徒の頭の上に着地した。彼は自身の頭に乗ったモノを手に取ると、さっそく悲鳴をどこかへ走り去ってしまった。

 詞は、ある特定の女子たちから親の仇のように忌み嫌われていた。彼女たちは、隼人に恋心を抱いている女子だ。ドラムが上手くカッコイイ男子と、いつの日か恋人同士になろうと夢見ていたが、詞によってものの見事にぶち壊されてしまった。

 しかも、その憎たらしい女は、まるで恋愛映画のような演出で、自分たちの王子をかっさらっていき、これ見よがしに仲の良さを見せつけている。どうにもこうにも腹の虫がおさまらないのだ。

 だが彼女らの仕打ちを、詞はいっこうに気にしていなかった。隼人との恋愛が本物であることに確信が持てたからだ。毎日のように様々な嫌がらせを受けるが、隼人が相手にもしない可哀そうな女子たちなのだと、斜め上から余裕の構えだった。現に、隼人は他の女子とあまり口をきかなくなった。さすがに三年A組のクラスメートとは話すのだが、たとえば隼人目当ての下級生などとは、努めて接触を避けていた。夕月なども露骨に避けられてしまい、もはやドラムを打ちあうことはなかった。隼人は、詞に疑惑を抱かせるような行動はとらないように、日々気をつけていたのだ。

 

 輝日東高校全体が創設祭の準備に入って忙しくなった。この時期はクリスマスや期末試験、年末などが近くなるので、生徒たちは時間的、心理的な余裕がなくなってしまう。とくに三年生は受験シーズンが間近なために、よりいっそう時間が圧迫されてしまうのだ。

 高校生活最後の創設祭なので、悔いが残らぬようにと詞は張りきっていたが、なにかと皆が忙しいので、こまごまとした準備の割り振りに苦労していた。彼女自身も、生徒会に頻繁に呼ばれるために手伝えないこともあった。経験者であり何かと事務処理能力に長けているので、頼られる存在なのだ。 

 三年A組が担当する大物のダシは、巨大なクリスマスツリーの脇を飾るトナカイだ。実物大の一頭を作るのがノルマとなっている。三年生の他のクラスも、それぞれを分担して製作するのだ。

 さっそくホームルームで高橋担任が有志を募るが、皆それぞれが忙しく、さらに面倒なことはやりたくないとの気持ちが充満し、挙手の嵐とはならなかった。なんとなく気まずくて気だるい空気がひとしきり漂った後、皆の視線が自然と学級委員へ流れていた。しかたなく、詞は自分が中心になって製作することを請け負った。彼女の他に集まったのは、隼人だけだった。 

「もう、どうして誰も手伝ってくれないのかしら」

「みんな、忙しいんだって。というよりめんどくさいんだろうな」

「最後の創設祭なのに」

 昼食時、詞と隼人は机を並べて弁当を食べていた。隼人の分は、もちろん詞の手作りである。以前のように巨大なおにぎりなどではなくて、ふつうのお弁当箱だった。中身はお揃いの具材であり、隼人の弁当は若干量が多かった。二人の仲は公認となっていたので、大っぴらに一緒になっても問題とはならないのだ。

「そりゃあ、あんたら二人の間に入りたいやつなんていないって」

「そうそう」

 薫と純一が割って入ってきた。彼らは手持ちのパンを食べ尽くして、手持無沙汰な状況だった。 

「べ、べつに私たちは そのう、そんなんじゃ・・・」

 恥ずかしさで、詞の言葉がどこかへ消え行ってしまった。 

「もちろん、純一たちも手伝ってくれるんだろう」

 隼人は落ち着いている。からかわれることには慣れているので、いまさら冷やかされても動じる様子はなかった。

「いや~、おれたちも忙しいからさあ」

 薫と純一はお互いの腕をくっ付けて寄り添っている。紆余曲折あったが、この二人も付き合うことになったのだ。一人になった梅原が、四六時中校内をさ迷っているのが目撃されている。

「まあ、頑張ってよ。なんてったって学級委員なんだからさ」

 薫に決めゼリフを言われてしまい、詞は下を向くしかなかった。

「二人だけでも頑張ってやり抜きましょう。最後の創設祭なんだから」

 薫と純一がいなくなって、詞はあらためて気合を入れた。彼氏もニッコリと頷く。

 じつはこの時期、隼人は学校外の用事で忙しかった。実家が遠くの街に転居するために、十文字家でも引っ越しの作業に忙殺されていたのだ。彼も帰宅したら、家業の道具類を両親と一緒になって片づけていた。

 実家が他の街に移っても隼人は転校することなく、姉の悠美のところで卒業まで世話になることになっていた。詞には、それとなく伝えてはいた。

 



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