絢辻詞 ~footage~   作:北海銀
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 輝日東高校がある街の、とある宴会場。そこで久しぶりとなるA組のクラス会が催されていた。

「いやあ、うちのクラスって集まりがいいよな」

「女子がちらほら結婚して主婦になっているけど、ちゃんと来るもんな」

 警察官となった純一と飲食店を営む梅原は、宴会場を見回してウンウンと頷いていた。

「それはそうさ、だってあたしが幹事なんだもん」

 そう言って、二人の間に入ってきたのは薫だった。全員とはいかないまでも、かなりの人数がクラス会に出席していることを誇っていた。

「女子たちは、けっこう結婚しているなあ。ところで薫はどうなんだよ」

「あたしはさあ、まだ先になりそうだよ」

 薫には恋人がいるが、結婚までの道のりはまだまだ先のようだ。

「そういう純一はどうなんだよ。もう美女をタイホしたんだろう」

「それが忙しくて、ぜんぜん出会いがないんだよ」

「あんたが忙しいと、この国が心配になっちゃうな」

「オレならヒマだけど」

「梅原がヒマだと、あんたの店がつぶれちゃうだろうが」

 三人が話し込んでいるのは、宴会場の入り口のすぐそばだった。幹事である薫は受付をしなければならない。まだ来てない者がいるからだ。

「そういえば、前回は荒れちゃって残念なクラス会だったなあ」

「絢辻さんがあんなになってるなんてビックリだったよ。今ごろどうしてるんだか」

 梅原が前回のクラス会を思い出して、今この瞬間に絢辻詞がいないことにホッとしていた。

「来るよ」

 薫が言った。

「え」

「今日、絢辻は来るよ」

「おい、大丈夫かよ。また前みたいになって険悪な雰囲気になるんじゃないのか」

「だって、しょうがないだろう。絢辻一人に案内を出さないわけにはいかないだろうさ」

「まあそうだけど」

「でもこの時間になっても姿が見えないってことは、欠席したんじゃないか」

「その可能性はあるな」と幹事。

「前回がああだったんだから、さすがに来れないだろう」

 絢辻詞は結局欠席になると、三人は結論づけた。だから、前回のようにケンカ沙汰にはならないし、元優等生の壊れっぷりを目の当たりにしてイヤな気分になることもないだろうと安堵していた。

 薫たちがお互いの近況を話しこんでいると、宴会場入り口に一人の女性がやってきた。

「みんな、久しぶりね」

 三人が顔をあげると同時に固まった。

「うわー、きたあ」

「ええっと、絢辻、、、さん」

「うそー、きたんだ」

 来ないと思われていた人物だったので、思わず驚いてしまう三人だった。

「ごめんなさい。ちょっと遅れちゃった」

 失礼な様子の旧友たちのことを気にすることもなく、詞は遅れたことを詫びた。

 彼女は、A組の誰もが思い描くふつうの絢辻詞な女性になっていた。優等生の学級委員がそのまま成長したら、そうなるだろうという姿だ。服装は派手すぎずかといって地味すぎず、清楚で知的な雰囲気を漂わせるセンスの良いものだった。以前のやさぐれた要素は一切なかった。

「絢辻、あれえ、ひょっとして妊娠してる」

「うん、あと三か月ほどしたら、詞二世が生まれてくるよ」

 詞は、ニコニコとして楽しそうに話した。ただし、やはり身体は重そうな感じだ。

「とりあえず座ろうよ、絢辻さん」

 純一が着席を促した。いつもの絢辻詞に戻っていたので安心していた。 

「そうそう、飲み物は何がいい。とりあえずビールかな」

「梅原、妊婦にアルコールなんて飲ますなよ。相変わらず女をわかっていないヤツだなあ」

 詞は立ったままだった。彼女を見つけたクラスメートがちらほらと集まってきた。

「棚町さん、前回のクラス会はごめんなさい。私、ちょっとおかしくなってて」

「いやいや、全然気にしてないよ。てか、あたしのほうこそ絡んじゃってさあ。逆に申し訳ないって」

 女同士のわだかまりは、お互いが気づかうことですぐに解消された。

「じつはね、今日は旦那さんがきているの。妊婦を一人で行かせるわけにはいかないって、きかないのよ。それでそのう、せっかくのクラス会なんだけど、呼んできていいかな。外で待ってるんだけども」

「いいよいいよ、大歓迎だよ」

「そうだよ、絢辻さんを孕ませた男にいろいろ聞きたいよなあ」

「梅原、あんたはほんとサイテイだわ」

 薫、純一、梅原は快く承諾した。

「じゃあ、呼んでくるね」

 詞は亭主を呼びに行った。旧クラスメートは、彼女が彼女のあるべき姿に戻ったことを喜んでいた。

「あの様子じゃあ、いい人見つけたんだね」

「お金持ちかなあ」

「ああ、俺ねらっていたのにな」

 少ししてから詞は夫を連れて戻ってきた。宴会場は座敷となるので、靴を脱がなければならない。妻は夫に段差があることを告げた。彼が一段上がった後で、自分の分と彼の分の靴を揃えた。 

 その男を見て、その場は静まりかえった。

「み、みんな、久しぶり」

 サングラスを外した隼人は、級友たちを探るように見回した後、ぎこちなく挨拶をした。だが、次の言葉がうまく出てこない様子だった。詞がしっかりと彼の手を握っている。

「待ちくたびれたぞ、十文字」

 純一がすぐに近寄り、鍛えた手で隼人の肩を叩いた。そうされることで、張りつめていた緊張が一気に抜けて、隼人の顔がほっこりと緩んだ。

「すまん、ちょっと遅くなった」

「おまえはいつも遅刻だ」

 梅原も隼人のすぐ傍に立った。すでに目が潤んでいた。

「みんな、十文字が帰ってきた。十文字が帰ってきたよ」薫も嬉しそうだった。

 もはや座っている者など一人もいなかった。A組の全員が彼の元へ集まってきた。

「十文字、戻ってくるのが遅えよ」

「十文字君、お久しぶり。元気だった」

「なによ、相変わらずイイ男じゃん」

「絢辻さんと結婚したのか。ちょっとその話し、聞かせろよ」

 もと輝日東高生たちの宴会は、和やかな雰囲気のまま盛りあがっていた。次回のクラス会は詞が幹事をすることになった。また、その時は高橋教諭を呼ぶこととなった。

   

 

                                    終わり

 



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