絢辻詞 ~footage~   作:北海銀
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夏休みのアツい一日 ④

 詞は、とうの昔にコンビニから出ていた。そして、あのテラスの店を目指して歩いている。もちろん、隼人に会うためだ。里塚に見つからないように、ちょっと遠回りをしていた。

 ちょうどその頃、隼人もテラスを出て歩き回っていた。詞は義理堅い女なので、ひょっとしたら、まだ自分のことを待っているかもしれないと考え直したのだ。思いつく場所を一つ一つあたって、それでもいなかったら諦めて帰宅すればいい。とにかく彼女を探すことが最優先事項となった。

 詞と隼人は、通りをそれぞれ逆方向から歩いてきた。徐々に接近していくと、突如としてお互いの存在を感じて立ち止まった。

 ハッとして真正面を見た。そこには大好きな美男子が、そして愛してやまない美少女が自分を見つめている。

 目線を一ミリたりとも外すことなく、二人はゆっくりと歩きだした。周囲の喧騒が、まるでテレビか映画の雑音のように感じられた。そして息がかかるほど近くまで接近して、再び立ち止まった。

「詞、ごめん」

「隼人、ごめんなさい」

 まったく同時に、それぞれの口から謝罪の言葉が発せられた。

「俺、待ち合わせ場所を間違えた」

「私、待ち合わせ場所を間違えたの」

 ほぼ同じ内容がシンクロする。

「え」

「え」

 しばしの沈黙があった。その間に、二人はお互いがまったく同じ過ちを犯してしまったことを理解した。

「ぷっ」

「ふふ」

 詞と隼人は、またもや同時に笑いだすのだった。

「なんか俺たち、すんごくドンくさくないか」

「ほんと、なにやってるんだろうね」

 ひとしきり笑い終えると、二人はあらためて向き直った。

「でも、詞に会えてよかった」

「私も隼人に会えてよかった」

 隼人の顔が、なだらかな角度をもってゆっくりと降下してきた。詞の唇がそれを受けとろうと、ほんのり熱い吐息を洩らしている。

「ヒューヒュー。アツぞアツぞ、そこのお二人さん。そのままブチューっとやって、マンホールに落ちて、そんで人喰いシャークにかじられてしまえ。ああー、今日はムカツクことばかりだぜ」

「おい三橋、やめとけって」

 通行人にからかわれて、詞と隼人は弾かれるように離れた。出会えたうれしさのあまり、そこが通りの真ん中であることをまったく気にしていなかったのだ。

「ちょっと遅くなったけど、カラオケに行こう」

「うん」

 今日はカラオケデートをする予定だったのだ。

 手を繋いだ二人は、そそくさとその場から離れた。なにせその周辺には、どうやら隼人を好きになった三人の女子高生と、もともと詞が大好きな一人の男子高校生がウロついている。もう妨害はこりごりとばかりに、詞と隼人は小走りになるのだった。

 






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