絢辻詞 ~footage~   作:北海銀
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そして戦いの部分です。
あの伝説の不良たちにも、再度登場してもらいました。


歩み寄り、そして戦い ラスト

「うう、クッソ寒いなあ。寒くてイラつく。ムショーに誰かを殴りてえ」

「やめとけよ、余計に寒くなるぞ」

「おい、まて伊藤」

「なんだよ」

「あそこでケモノが歩いてるぞ。あれ輝日東のイカレ女じゃねえか。野性動物が街をあるいちゃあイカンだろう」

「ああ、そうだな。こんなとこをウロついてるってことはデートかな」

「あのイカレ板前にかぎって、それはねえよ。女ができても、男ができることは絶対にねえ」

「それは言いすぎだって。で、どうする、俺らもヒマだからひやかしにでもいくか」

「冗談じぇねえ。あの女に関わるとロクなことになんねえからな」

「だな」

 

 

 駅前の繁華街。年の瀬ということもあり、通りは人が多くて賑わっていた。

「たしか、この辺だったよなあ。バーバリアンって」

 終業式を終えた権藤静香は、駅前にあるファミレスを探していた。似たような名前の店舗がいくつもあるので、少しばかり迷っていた。

「まだ夕方には早いけど、まあいいか。でも棚町さんがいなかったら自腹になるなあ。年末って、金ねえんだよな」ひとり言と白い息を吐きだしながら歩いていた。

 権藤は棚町のアルバイト先であるファミレスを目指していた。約束通りピザと飲み物をおごってもらうために、わざわざ親友二人を残し彼女一人で来たのだった。

 

「ちょっとあれ見てみい、権藤のバカじゃねえの」

「え、どこよ。あ、ホントだ。あのゴリラ、なにしてんだ」

「エサでもさがしてるんだろ、キャハハ」

「ケンヤたちもいるし、ちょうどいいんじゃない。ヤキ入れてやろうか」

「アイツ、棚町にボコられてから静かになったからな。きっとビビってるんだよ」

「しずかちゃんだから、静かになったんじゃね」

「キャハハ」

 

 いかにも素行の悪そうな女子高生が三人、ゲームセンターの前でたむろしていた。

 彼女たちは輝日東高校の二年生だ。輝日東レベルの高校にはめずらしく、非常にDQNな女子高生であり、服装や態度、姿勢など、どれをとっても健全な青少年象の欠片もなかった。多少なりとも知性ある高校生なら、けして目を合わそうなどとはしないだろう。ちなみに三人とも二年C組であり、権藤の隣のクラスだ。 

 彼女たちは暴力的で不遜、性格は陰湿であり、他人の不幸が三度のメシと同じくらいに大好きだ。当然、弱い者いじめは大好物で、日ごろから一年生やジミ~な女子たちを嘲笑の的にしたり、小突き回して楽しんでいるようなクズ女子だった。

 以前、二年D組の気弱な女子がいじめのエジキにされたことがあった。その際に、権藤が体を張ってその女子を守ったことがある。クズ女子たちとつかみ合いのケンカとなり、男子が力づくで止めに入るまでの騒動となった。

 それ以来、権藤は彼女たちから強烈なる反感をかっている。ただし腕力で権藤にはかなわないので、表立って手は出せないでいた。人数をかけて集団リンチという荒業も練られたが、D組が権藤支持でまとまっていたので、なかなかその機会をつかめないでいた。杉尾や我妻が常に一緒にいるのも予防線となっていた。二人とも、いざとなれば存分に武闘派だったからだ。

「ちょっとケンヤ達呼んでくるから、あいつをひっぱってきて」

「OK」

 弱った獲物は骨までおいしくしゃぶるのが彼女たちの流儀である。いまの権藤は三年生にヤキを入れられて、あのとびきり好戦的な闘争心が折られているはずであると断定していたのだ。

 

「し、ず、か、ちゃん」

 いきなり後ろから名前を呼ばれ、権藤は反射的に振り返った 彼女のことをファーストネームで呼ぶのは、杉尾友香か我妻陽菜くらいしかいない。

「ん、友香」

 だから二人のうちどちらかだと思ったが、そこにいるのがC組の邪悪なる女子たちであるとわかり、ただでさえ厳めしい顔がみるみる険しくなった。

「こんなところでなにしてんだよ。おめえは森ん中でエサでも探してなって。ほら、そこにバナナの皮が落ちてるぞ」

「キャハハ、ブスは滑って転んで死ねよ」

「くくっ」

 二人は笑っていた。罵声を浴びせ、その卑しい自尊心に燃料を注入しているのだ。

「なんだと、コラー」

 当然ように、短気な権藤は怒りだした。すぐにでも殴りかかりそうであったが、さすがに往来での乱闘はマズいと、寸前のところで自重していた。

「文句あるならツラかせよなあ、し、ず、か、ちゃん」

「そうそう。まあ、三年にボコられていじけてるから、怖くて来れないんだよねえ、し、ず、か、ちゃんは」

「ああ、ざけんなー。どこでも行ってやるよ」

 挑発されるままに二人のあとについて行った。権藤は二人の策略にズブズブと嵌っていた。

 

 輝日東高校の女子高生たちは、廃墟ビルと廃墟ビルの間の狭い路地を突き進んだ。やがて逃げ場のない袋小路へとやってきた。 

{しまった}

 権藤はすぐに後悔することになった。

「おいおい、すきにしていい女って、こいつかよ」

「おれらブス専じゃねえぞ」

 男たちがいた。服装や髪形、態度や言葉遣いがあきらかにチンピラであった。現に、彼らは不良が吹き溜まりとなっている有名な高校の生徒たちで、見た目と行動が悪い意味で一致するタイプの連中だ。

「こんなんじゃあ、たたねえって」

「動物とヤれってか」

 屈辱的な言葉による暴力だった。カーッと頭に血が上った権藤だが、むやみに殴りかかることはなかった。さすがに女一人では、ここにいる男たち相手に勝てる見込みはない。戦うより逃げる算段をしたほうがいいと考えていた。

「どいつもこいつもホウケイのくせして、イキがってんじゃねえぞ」

 嘲りを受けて黙っている女ではなかったが、この状況では、そう言うのが精一杯だった。

「ああーっ、死にてえのか、ブスが」

 図星だったのか、ロングな茶髪の男がいきり立って前に出てきた。いかにも憎たらしいといった目線で権藤を睨みつけた。

「キャハハ、ウケるわ」

「ムキになるなってさ」

 女子たちが囃し立てる。 

「るっせ―ぞ。てめえら」

 馬鹿にされて腹が立ったのか、茶髪が後ろを向いて女子たちに文句を言った。

 権藤は、その一瞬のスキをついた。殴りかかったのではない。彼の横をすり抜けて逃げようとしたのだ。

「まてや、コラー」

「ぐっふ」

 しかし、その作戦は成功しなかった。彼女の逃走に気づいた茶髪が回し蹴りを食らわせたのだ。その一撃は権藤のみぞおちを直撃し、ぶっ飛ばされた彼女は転がるように倒れた。

「テメエにはまだ話があるんだっ、逃げんじゃねえ」

 冷たい地面に横たわる権藤に向かって、男の蹴りが続いた。まるでうるさい害虫を踏み潰すように、その暴力は容赦がなかった。

「うわあ、マジ痛そう」

「しずかちゃん、またブスになっちゃうねえ、キャハハ」 

 C組の女子たちは、立場が圧倒的に不利な獲物をいたぶるのが楽しくてしかたないといった様子だ。

 ほかの男たちもヘラヘラ笑いながらリンチを楽しんでいる。権藤は身体だけではなく、顔面も存分に蹴られるのだった。

 それでも反撃しようと立ち上がるが、手をだす前になく殴られた。さらに髪を鷲づかみにされてビルの外壁に叩きつけられた。その間じゅう、ブスだの死ねだの言葉の暴力も受け続けていた。

 権藤はケンカっぱやく速攻を得意としていたが、打たれ強いほうでない。棚町との乱闘の時もそうだが、打たれこまれると手が出ないタイプなのだ。しかも相手はケンカ慣れした男子である。その力強さと苦痛は、女子同士のケンカとは比べ物にならなかった。

「てめえらぶっ殺してやるからな。ぜってい殺してやる」

 さすがに権藤の手は出なかったが、口の方はまだ健在なようだ。アスファルトの小汚い地面に這いつくばりながらも、叫ぶようにして悪態を吐いていた。

「しずかちゃん、怖~い」

「アハハ、ウケる~」

「るせえ、ブス」

 再び蹴りの連打が降り注ぐ。権藤の頭が張り子の虎のように何度も揺れた。

「あんまりやると死んじゃうよう、キャハハ」

「顔はマズいって、証拠残るからさあ」

 権藤の顔がいい具合に腫れあがっていた。まるで、病院に担ぎ込まれたDV被害者の見本のようだった。

「おい、どうするんだよ、このブスよう」

「裸にして、通りに放り投げてやりなよ」

「こんなのキモくて、さわりたくねえって」

「キャハハ」

 たいていのリンチには、直接的な打撃と言葉による侮蔑がセットとなる。どちらも精神を傷めつけるのには効果的だ。

 

「てめえら、なにやってんだー」

 そこに一人の女子高生が現われた。状況をざっと見まわし、このうら寂し気な路地でなにが起っているのか、瞬時に理解した。

「あっ、棚町」

 棚町薫であった。学校からアルバイト先のファミレスに行く途中だったが、路地から権藤の怒鳴り声がしたので駆けつけてきたのだ。

「やっぱ権藤か。大丈夫かよ」

 棚町は急いで後輩の傍に行った。権藤は大概に腫れた両眼を上に向けて、助けにきた先輩をまぶしそうに見ていた。

「お、こっちの女はいいじゃん」

「おい、こいつはヤっていいのか」

 へらへらと笑いながら男の一人が近づいてきて、不用意にも棚町の肩に手をかけた。 「おんどりゃあ」

 そいつに向かって棚町が頭突きを食らわした。

「ぐべっ」

 絶妙のタイミングと角度、破壊力でもって鼻にヒットした。男は鼻血を出しながらのけ反り、数歩後ろに下がった。信じられないといった表情で、自分の手に付いた血を見ている。

「このクソ女―」

「うっせー」

 棚町は路上に放置してあった塩ビパイプを拾い上げると、ぶん回し始めた。最初の一撃が茶髪の左肩を直撃したが、すぐに別の男にとられてしまった。

「チッ」

 棚町は形勢不利と速断し、男どもはかまわないで、涼しい顔して様子を見ていた三人の女子に向かって突進した。

「な」

「うわっ」

「やめ」

 とにかく殴り、頭突きを食らわし、蹴りを入れた。二年C組の女子たちは、なんら有効な反撃をすることなく、素早く動きまわり手数が多い棚町にされるがままの状態だった。

「クソが」

 男が棚町から奪った塩ビパイプを水平に振った。ブンと殺気立った音をだして、それは彼女の顔面へと突進していった。

 棚町はとっさに手で防御しようとしたが、コンマ数秒遅れてしまった。

「ぐっは」

 左の頬を直撃した。あまりの衝撃にがくんと膝が落ちる。茶髪が即座に蹴り上げると、棚町はオモチャの空気カエルのようにひっくり返った。すぐに権藤と同じような絶え間ない蹴りに晒された。

「ヤレー、殺してしまえー」

「そのままぶっ殺しちまいな」

 棚町に殴られたC組の女子たちが、ヒステリックに叫んでいた。

「やめろ~」

 権藤はようやく立ち上がった。先輩の危機を救おうとしたが、横腹に蹴りを入れられ、あっさりと地に伏せってしまった。

 二人は立てなかった。戦うどころではない。どうあがいても、この男たちには太刀打ちできないと悟っていた。

「で、どうするこいつら」

「裸にして、動画に撮ってやろう。そんでネットに流すんだ。キャハハ」

「それ、すんげえ面白そう」

「棚町せんぱ~いと、しずかちゃんのラブラブレズシーンですう。寒いですが、頑張ってね、テヘペロ」

「キャハハ」

 彼女たちは憐憫の気持ちを一片たりとも持ち合わせていない、すがすがしいまでのクズ女であった。

「そんじゃあ、こっちのあとから来た女に脱いでもらうか。いい尻してそうだからよ」

「もちろん、全裸でな」

 下卑た笑みが男たちの顔を支配していた。抵抗しても無駄だろうと思っていたが、それでも無抵抗のまま暴虐を受ける気はなかった。気力を振り絞って、棚町はなんとか立ち上がった。

 

 その時だった。

 

「お、なんか面白そうなことやってんじゃねえか」

 うら寂しい路地にまた別の人間がやってきた。金髪と頭髪を直立させた男二人組だ。彼らは{超触れるな危険}的な不良男子高校生であり、権藤とは顔なじみである。

「こりゃひでえな」

 頭髪をガンガゼウニのように直立させた男が、チンピラ不良たちの真ん中を堂々と突っ切ろうとする。権藤と棚町の具合をみようとしたのだ。

「なんだてめえは。すっこんでろ」

 チンピラ不良の一人が頭髪直立男の顔面を殴った。バシッと軽快な音が響き、どうだといわんばかりに得意げな顔を見せた。

 だが、ウニ頭は平然としていた。再び殴ろうとした男を、地獄の狂犬みたいな目で一瞥する。

「う」  

 瞬間的な金縛りにあい手が出せないでいた。彼はえもいわれぬ恐怖を本能的に感じたのだ。

 ウニ頭は倒れ込んでいる女子高生の傍までやってきた。チラリと棚町を見た後、その場にしゃがんで、権藤の顔をのぞきこんだ。

「そういやあ、夏には世話になったな」

「はは」

 無様な姿が恥ずかしいのか、権藤は愛想笑いでこたえた。

「ずいぶんとやられたみたいだけど、大丈夫かよ」

「ああ、ぺっちゅにでってことねえよ。どごりょで、なんでごごに」

 唇が腫れあがっているので、うまくしゃべることができない。それでも平静を装う権藤に、ウニ頭がそっと微笑んだ。

「あんたを見かけた後に、こいつらがウロついてたんでな。気になって見てたんだよ。まあ、ちょっくら待っててくれよ。すぐに片づけるから」

 権藤が彼を直視したまま、かすかに頷く。ウニ頭は真顔に戻って、ゆっくりと立ち上がった。

「しっかしおまえら、よくも女にこんなことができるなあ。卑怯が自慢な俺でも、さすがにひいちまうぜ」

 ズボンのポケットに手を突っ込みながら金髪が言った。

「るせえ」

 茶髪が金髪を殴った。しかし相棒と同様、彼は気にせずそのままウニ頭のもとへ行った。

「おい伊藤、いま殴られたみたいだけど、あんまきかねえんだよ。寒すぎて、俺の顔おかしくなっちまったんじゃねえか。ちょっと、ためしにガツンとやってくれよ」

「ああ、こうか」

 ウニ頭が金髪を殴った。素早く重いこぶしであり、殴られたほうは思わず後ろによろめいたが、次の瞬間、豪鬼のような表情をしたかとおもうと猛然と親友に食ってかかった。

「てめえ、何すんだー、痛えじゃねか、ぶち殺すぞコラーっ」

「ああーっ、おめえが殴れって言ったんじゃねえか」

「言ってねえ」

「言った」

「言ってねえよ、かっぱハゲ」

「なんだとキサマー」

 二人は小競り合いを始めた。そこにいるチンピラ不良たちは完全に無視されていた。まるで金髪とウニ頭のほかに、誰もいないし気にもならないかのような振舞いだ。権藤や棚町も呆気にとられてみていた。

「てめえらいい加減にしろ」

「ナメてんのか、オラー」

 茶髪を先頭にチンピラたちが息巻いている。ブンブンと肩を回してイキがっている男もいた。

「ちょい待て伊藤、こいつらウザくねえか」

「ああ、忘れてたわ。てか、なんだか無性に腹が立つな」

「おまえのかっぱハゲにか」

「あとで殺す。とりあえずこいつらだな」

「ああ」

 金髪とウニ頭が、チンピラたちにズンズンと迫った。とくに気負った風でもないのだが、二人からあふれ出ている気合が付近の空気をビリビリと帯電させていた。  

「う」

 目の前で威圧する二人の不良に、チンピラな不良たちはたじろいでいた。すぐ後ろにいる権藤には二人が大きく見えて、心強かった。へへへと腫れた顔から笑みがもれている。

「テメエー、死ねや」

 茶髪がストレートなパンチを放った。しかしそれは、あえなく拳ごと金髪の手の中に収まった。

「ああー、ヌルいなあ。殴るってのは、こうするんだっ」

 金髪の拳が真っ直ぐに茶髪の鼻を潰した。

 その一発で彼は地ベタに這いつくばった。いま自分が受けた衝撃が信じられないといったうろたえぶりで、鼻血を垂らして呆然とうずくまっている。金髪はそれにかまわず、後ろにいた男を二発三発と殴った。まったく反撃を許すことなく、最後は蹴りを入れて沈黙させた。

 ウニ頭の相手をした男たちは、金髪が打ち倒した男たちより悲惨な結果となった。

 殴る蹴る、蹴る殴る、頭突き、張り手の連打と容赦なくやられていた。彼らがつい今しがた輝日東の女子高生二人に振るった暴力の倍ぐらいの破壊力を受けていた。

「伊藤、そのへんでやめとけよ。死んじまうだろう」

「ああそうだな。つい、本気になってしまった」

 圧倒的だった。強さのレベルが段違いで、不良の格の違いを見せつけられた。これといって漢を主張する余裕もなく、茶髪一味は無様に降参するのだった。

「さあて、このネエちゃんたちは、どうすっべか」

「女はさすがにな」

 二人は輝日東の不良女子の前に立った。頼りにしていた男たちをいとも簡単にぶちのめされて、彼女たちの顔は存分に引きつっている。

「そいつらは、こっちでやるから」

 棚町がやってきて金髪とウニの間を通り抜けた。顔のあちこちが腫れあがっているが、本人は気にしていない。鬼のような形相だった。二年生たちの前に立ち、短くても強烈なる威力で罵倒する。「てめえら、ぶっ殺してやるからな」

「あ、あの」

「ちがう、これは」

「うっせえ」

 およそ女子とは思えない拳だった。千手観音のように手数が多く、スピードもあった。ポコポコと小気味よい音と、「うぎゃ」、「ぎゃあ」といった悲鳴が交錯した。

 またまたグーで殴られて、しかもさんざん殴られた彼女たちの顔もボコボコとなり、棚町や権藤と大差なくなってしまった。

「あーあ、俺たちよりひでえことすんなあ」

「輝日東の女は、なんでこうもおっかねえのばかりなんだ」

 

 一通りのお仕置きが終わった。チンピラ不良たちは、金髪がふざけて殴るまねをすると、涙目になってゴメンなさいをしていた。二年生女子たちも泣きべそをかきながら謝っていた。

「権藤、あんたひどくやられたな、あはは」

 棚町は後輩の顔をマジマジと見つめて笑みを浮かべていた。

「わたちゅはでえじょうぶだきゃら」

 権藤はそう言って虚勢を張っていた。

 

「誰だか知らないけど、ありがとな。助かったよ。お礼といっちゃあなんだけど、これからデートしてやるよ、権藤と二人で」

 ウソか本気かわからないが、棚町は金髪とウニ頭を誘った。顔が真っ赤に、そしていい具合に醜く腫れあがった女子高生にデートを申し込まれ二人は顔を見合わせた。

「どうする、三橋」

「どうもこうも、こんなおっかねえ女どもとデートって、なんの罰ゲームだって。メスゴリラとしたほうがマシだ」

「そうだよな、どう見ても、ホラーな感じだしな」

「貞子を連れ回したほうががいいレベルだぞ」

 金髪とウニ頭はヒソヒソと話し合っていた。

「そこ、全部聞こえてるから」

 腕を組んだ棚町が言う。両目を腫らして、まるで土偶が立っているようだった。

「わりいな、俺たちは忙しいからよ」

「そういうことだ、じゃあな」

 彼らは背中を向けた。軽く手をあげて、別れのあいさつとした。

「ちょっひょ、まっち」

 権藤が呼び止めた。二人は首だけで振り返る。

「こんちょ、いっちょに、ぱひぇでもくじょうよ」

 デコボコとした顔がニッコリと笑って言った。

「おい伊藤、あのホラー女、なんていってんだ」

「こんどパフェでも食べようだってよ」

「マジか」

 ウンウンと権藤は頷いていた。

「あんちゃらのおごりじぇ」

「俺らのおごりらしい」

「ざけんなっ」

 

 権藤と棚町に生温かく見送られながら、金髪とウニ頭は行ってしまった。残った二年生の女子とチンピラな男たちは、無事解放されて逃げるように立ち去った。

「この顔じゃあ、今日のバイトは無理だな」

「ちょっちゅねえ」

 棚町は、ケイタイを取り出した。ファミレスの店長に電話をかけて、急用ができたので行けなくなったと告げた。

「そうだ、あたしのうちに来ないか。ピザと飲み物買ってさあ」

 権藤に異論はない。

「あんた、ブサイクになったねえ」

「ちぇんぱいこちょ」

 ちらほらと雪が舞い降りてきた。人の往来が多い通りを、二人の女子高生は肩を寄せ合って歩いていた。やはり顔がすごいことになっているのだろう。少なくない数の通行人が眉をひそめながら彼女らを見た。

 だが二人は気にすることなく、ピザのトッピングは何にしようかと楽しそうに話すのだった。

 






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