誕生日会をするにあたっては準備しなくてはならないものが二つある。
一つは人が来ることを肯定した飲み物やお菓子の類。
主賓の好みに合ったものを集めることは勿論だが、大勢の人が来たときのためのストックをある程度用意しておく必要がある。
そして二つ目は場所だ。
カラオケボックスや騒いでも人に迷惑をかけない場所が一番最適だが、私たちのような高校生は夜遅くまでいられない。
そして夏休みが近づいているということでどこのカラオケボックスも帰宅途中の学生で込んでいることが予想できる。
(以上二つのことをクリアする必要があると私は思うのですよ)
学校から出て、まずは飲み物を買うため近くのスーパーに向かう道のりの中、私はこの前ネットで見つけたことを話していた。
「そんなことどうやって知ったの?」
(グーグル先生やまとめサイトを調べれば乗ってます。もっとも、今の私の考えはその中の一部の人の考えを自分なりにまとめた結果ですけどね)
由比ヶ浜先輩はへぇーといっているが、あまり興味はなさそうだ。
「場所だけど、どうしようっか?」
(考えてないんですか?)
「ごめんね。もしかしたら断られるかもって思ったから……」
(別に断りませんよ)
さすがにその話を結構ですと断るのは悪い気がする。
「そう?最近の美波ちゃんは明らかに私たちを避けてるように見えたし、部活に来ても話さずに読書に集中しているかんじだったもん」
由比ヶ浜先輩の言葉を聞いて、最近の私はほんと最悪すぎると実感させられる。
(ごめんなさい。最近は考え事をしていることが多かったので)
「考え事ってたとえばどんなこと?」
(私のできることって何なのかなって。私って不器用すぎるし、いても迷惑になるだけだし、何もできないんじゃないかなって……)
ハルからはできることを探せばいいと言われたが、こんな私にできることなんてあるのだろうか。
「できることならあるじゃん」
(どんなことですか?)
「ほら。今日あたしに料理を教えてくれたじゃん」
(でも、すごく小さなことですよ)
「でもその小さなことでも教わっている人からするとすごく嬉しい。駄目な所を教えてくれるから真剣にやってるんだなっていうのも伝わってきたし」
小さなことでも人に感謝されるとやっぱり嬉しい。
私は料理が得意だ。今日も由比ヶ浜先輩に教えてと頼まれてもいやな気持ちはしなかったし、失敗続きだったけど教えてる最中はとても楽しかった。
(小さいころでも感謝されると嬉しいですね)
「そうだよ。それに美波ちゃんは物事を深く考えすぎな気がする。もう少し楽に考えたらいいと思うよ」
私ってそんなに堅物なのだろうか……最近よく言われるから普段の自分の行動をもう少し見直したほうがいいかもしれない。
(そうですね。もう少しフラットにしてみます)
私はそう思うと考えるのを一度やめた。
「私たちの間にも見えない壁もあるのを感じてたし、もっと近くに来てほしいな」
(壁ですか?)
「うん。心の壁というか、私たちと仲良くなるのを避けているそんな感じかな」
(それはきついですね……)
いつの間にそんな壁を作っていたんだろう。でも、思い当たる場面はある。
田上さんと会ったときだ。あのときにいわれた言葉をずっと気にして、それで私とこの人たちは違うと思い込んで、知らないうちに壁を作っていたんだ。
「うん。仲良くなるためにはやっとお互いが理解しないといけないと思うし、それにその人が近くに来ないとそれもできないと思うから」
(そうですね)
多分私はいろいろなことを言い訳にして、ずっと逃げてたんだと思う。
人が仲良くなるのは簡単なのに、ずっとそのことを言い訳にして逃げてた。
相手が分かり合おうといるのに、自分からそれを拒否して、逃亡していた。
(もしかして誕生日会もそれをきっかけにしようと?)
「うん。先読みされちゃったけどね」
言葉なんて要らなくても人は通じることはできる。街中やニュースでそんな話をよく耳にする。
私のような弱い人たちが一般の人たちと仲良くする場面をよく目にする。
私と同じ施設に通っている子の中にも親友がいるという子もいる。
その人たちで共通していることが人との大事にしているということだ。
私ももう逃げるのはやめよう。未来や自分のことを言い訳にするのはもうやめよう。
だって、こんなに楽しいと思える日常を送れているんだ。そんな小さなことでいつまでもうじうじとしていてもしょうがない。
(全く、もう少し考えてください。場所とか日にちとかサプライズならサプライズで、あらかじめケーキを買っておくとか。事前準備を終えてから誘ってください)
「うっ……駄目だしばっかり」
そう決意すると、堅く閉ざされた氷が解けたように、本来の自分を取り戻し始めた。
(当然です。穴だらけなんですから)
穴だらけの誕生日会。まるで少し前の政党のようにたたけばほこりが出てきそうだ。
「しかも、何で私だけにいうの!?」
(だって企画したの由比ヶ浜先輩ですよね?それにここには由比ヶ浜先輩しかいませんから)
「それは私だけど……」
(なら指摘されても文句は言えませんよね)
「そこでさらっとほほえまないで!?怖いよ!?」
(私と分かり合うには3年はかかりそうですね。あ。その前に卒業してましたね。残念です)
「卒業しても交流すればいいじゃん!」
(留年っていう手もありますよ?そうすれば私と一緒に卒業できます)
「それだけは嫌ー!」
頭を抱えている由比ヶ浜先輩を見て私は小さく笑った。
なお、その後はきちんと誕生日会の日付を決め、会場(私の家だったが)の用意。ケーキや料理の支度をし、中学時代の友達や施設の友達を招いての誕生日会を開いた。
自分の誕生日なのに、自分ですべてやるというなんとも複雑な形で雪ノ下先輩はそれを聞いては大変だったのねとねぎらってくれた。
なんかぐだぐだの形のパーティーとなったが、それまでに大切なことに気づくことができ、少しずつ本来の自分を取り戻しつつあったので、私にとって今年の誕生日会は決して忘れないだろうと思った。