夏休みに入り、各自の生徒がそれぞれのすごし方で満喫しているころ。
私は学校に登校していた。理由は勿論。夏休み中の奉仕部の活動だからだ。
「ごめんねー。夏休みなのにきてもらって」
(いいえ。どうせ宿題をやるしかなかったので)
この学校の生徒会長である城廻先輩が申し訳なさそうに私に言った。
平塚先生が考えた私の奉仕部の活動は生徒会の手伝いだった。
夏休みということで人がおらず、いろいろとたまっているものがあるらしく、生徒会に人手が必要となったらしい。
主に事務作業をするみたいで、ある程度のパソコンを使える私が召集されたということだ。
「宿題はどれくらい終わったの?」
(半分は終わりました。このままのペースでいくと8月の頭には終わるかと)
「早いねー。私なんてまだぜんぜんだよ」
城廻先輩と私では立場が違う。私は一年生なので、のんびりとやれるが城廻先輩は受験生ということもあり、宿題もやりながら受験勉強もしなければならない。
(受験生って大変そうですね)
「山中さんだって昨年は同じ立場だったでしょ?」
(私のところは少なかったので楽でした)
「そうなんだ。少なかったららくだよね」
もっとも、毎年宿題を見せてーと泣きついてくる友達がいたんだけどね。
「山中さんみたいな子が生徒会に入ってくれると頼もしいんだけどなぁ」
(私には無理ですよ。性格的にも向いてませんから)
「絶対にできそうな感じはするんだけどね」
そこまで期待をかけられても困る。私はそこまで有能な人材ではないのだから。
(さすがに無理ですよ。プレッシャーとストレスでつぶれそう……)
「山中さんもストレスを感じることがあるの?」
(そりゃありますよ。私だって人間ですから)
むしろこの世の中を生きている人間でストレスを感じない人はいないだろう。
「そういう時ってどうやって発散するの?」
(好きなことに没頭することですね)
「どんなことに?」
(ピアノをずっと弾いてるんですよ。一人で2時間とか。そうすることでかなりすっとします)
「ピアノはすきなの?」
(好きです。もう自分の体といっても過言はないです)
子供のころからずっとピアノを引き続けた。それは言葉を失っても変わらない。
「それでよく音楽室を借りているんだね」
(すみません……迷惑でしたかね)
「ううん。すごくうまいし、聞いてて心が引き寄せられるから。それに吹奏部や演奏部からも苦情は来てないし、むしろ教わりたいし、山中さんが弾いているところを生で見たいって前に聞いたよ」
そんなに絶賛されてるんだ……今日は時間があるし、後で借りようと思って、楽譜持って来てるし、弾いてみようかな。
(後で弾きましょうか?)
「いいの?」
(どうせ借りるつもりでしたから)
「ありがとう!じゃあ早めにこれを終わらせないとね」
(はい)
私たちは作業のスピードを速めた。
そして、今日の作業は終わり、音楽室に移動したのだが。
「楽しみだねー美波ちゃんの演奏」
「陽さん…いつきたんですか?」
「さっきだよ。今日、めぐりがいるって聞いたから、顔を出そうと思ってきたんだけど、んかその子が演奏するってみたいだから。私も聞きたいなーって思って」
それを知っているってことは、さっきの会話を聞かれたってことかな。
「前に一度あってるから知ってると思うけど、自己紹介するね。私は雪ノ下 陽乃。雪乃ちゃんの姉でーす」
(どうも……私のことは知ってますよね?)
「うん。悠ちゃんからよく聞いてるからね。山中 美波ちゃん」
普段あの人はどんなことを話しているんだろう。
一度事情聴取しなければならない。
私はそう思いつつ、楽譜をセットし、小さく深呼吸した。
「楽しみだね」
「そうですね」
若干緊張している私を気にすることなく、城廻先輩と雪ノ下さんは談笑していた。
(じゃあ、いきます……)
私はいつものようにピアノをかなではじめる。初めのころの緊張はどこに言ったのか少したつことにはそんなことを忘れていた。
「やっぱりすごい……」
「こんなすごい才能があるのね……」
途中で二人が何か言っているように見えたが、私は気にすることなく演奏に集中した。
そして持ってきた2曲を弾き終わると、城廻先輩と雪ノ下さんは拍手をしてくれた。
(あ、ありがとうございます…)
拍手をされたことで恥ずかしくなったのか、私の顔は真っ赤になっていた。
「すごかった。音楽の道に進んだほうがいいんじゃないかと思ったもん」
「そうですよね。高校生であれだけの演奏をできる人はいないです」
二人からは絶賛の嵐だった。そこまでほめられると少し照れる。
「ありがとね。いい演奏だったよ」
(どういたしまして。今のもいつもどおりにやった姿なので)
「謙虚だねぇ。うん。少し気に入ったかも」
雪ノ下さんはそういって私に携帯の番号を書かれた用紙を手渡してきた。
「私の携帯とメルアド。何かあったら連絡するねー」
(え、あの…)
「じゃあ、めぐり、美波ちゃん。また今度ねー」
そういって雪ノ下さんは音楽室を出て行った。
(なんか嵐のような人でしたね…)
「そうだね。でも悪い人じゃないから」
雪ノ下さんの様子に城廻先輩は苦笑しながら、答えていた。