やはり私が失声症なのは間違っている。   作:kaiza-

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昼食

私が奉仕部に入部してから数日が経過した。

 

ある日の昼休みでのこと、私は購買でパンと飲み物を買い、教室に戻る途中だった。

 

(今日は買えてよかった)

 

購買はいつも昼休みになると、大勢の人でにぎわう為、早めにいっておかないと自分の目的のパンがなくなっているということがある。

 

今日の昼食はチョコパンとアンパン。それだけで足りるのかと聞かれそうだけど、もともとそんなに食べるタイプではないので、これくらいで充分なのである。

 

私はパンを持って教室に戻ろうと思ったが、先日のやり取りがふと頭の中をよぎっていった。

 

「山中さん。今日も少ない。だめだよ!もっと食べないと」

 

その日も今日と同じで調理パン二つと飲み物だけだった。

 

(充分足りるけど)

 

「でも、見た感じ、毎日お昼パンだよね?」

 

(この前、お弁当箱が壊れちゃって、新しいのが手に入るまでの期間限定)

 

私は中学まではお昼ごはんは毎日自分で作っていた。

 

高校でもそうしようと思った矢先に愛用のお弁当箱がこわれてしまった。

 

親にそのことを相談すると、新しいものを買うまでは購買で買ってくれと頼まれた。

 

「でも、それだと栄養が偏るから」

 

その子はそういって、好きなおかずを一つ選んで持っていいよといって、自分のお弁当を差し出した。

 

(なんか悪いからいいよ)

 

基本小食の私は普段からあまり食べない。おかず一つでそこまでおなかがいっぱいになるとは思わないが、せっかく買ってきたパンがそれで無駄になるのだけは避けたかった。

 

「あ!ずるい。私のもあげる」

 

「それだけだと少ないって!もっと食べないと倒れちゃうよ!」

 

一人がそういうと、周りの子も連鎖するように、私の周りに集まってきた。

 

私はお供えをするお地蔵さんかと突っ込みを入れたくなるような状況だった。

 

それからは本当に大丈夫だからといって、一人一人に断りを入れて、私は買ってきたパンだけを食べた。

 

(中庭で食べようかな……)

 

またこの前のような、騒動になるとこの先が困ると思い、私は教室に向かう気持ちを中庭へと方向変換させ、おそらくは人が少ないと見られる中庭に向かった。

 

「おっす……」

 

中庭には先客がいた。私はそのお客さんにぺこりと小さく頭を下げながら、中庭に入った。

 

(こんにちは。比企谷先輩)

 

そのお客が誰かというと、この前、部活で出会った比企谷 先輩だった。

 

(あいてる所に座ってもいいですか?)

 

「あ、ああ」

 

私は中庭の開いているスペースに腰を下ろし、買ってきたアンパンの袋をあけた。

 

(比企谷先輩はいつもここでお昼を食べているんですか?)

 

「ああ。ここは俺のベストプレイスだからな」

 

(天気が悪いときはどうしてるんですか?)

 

「その時は教室で食ってる」

 

それなら、いつも教室で食べたらいいのにと少しだけ思ったが、私はそれを口にすることはしなかった。

 

(比企谷先輩は……その、ボッチなんですよね?)

 

「ああ。ボッチはいいぞ。周りに気を使う必要もないし、自分が孤独でいることに誇りさえ感じる」

 

(そこは誇っていいんでしょうか……)

 

小学校のころは仲のいい友達がおらず、私は比企谷先輩と同じように決まった場所でお昼を食べていた。

 

「お前は普段はどこで食べてるんだ?」

 

(私は教室で食べてます)

 

「じゃあ、何で今日はここに来てるんだよ。普段どおり教室で食べればいいだろ」

 

(いろいろありまして……今日はここで食べようと思ったんです)

 

まさか、自分がお地蔵さんのように、皆から食べ物を提供されるから。それがいやだから、ここで食べることにしたんですとは少しだけいいづらかった。

 

「いろいろってはぶられてるってことか?」

 

(いいえ。別の理由です)

 

「ふーん。まぁあまり勘ぐるのはやめておくわ」

 

比企谷先輩はそういって買ってきたと見られるパンを食べていた。

 

(比企谷先輩は何で奉仕部に入部したんですか?)

 

「俺は強制入部。あの顧問によってな」

 

(まじですか?)

 

「まじだよ。退部しようとするとラストブリットが待ってるからな」

 

ラストブリットって何だろう?それより、強制入部って高校でやっても大丈夫なのだろうか。なんだが、そっちのほうが心配になる。

 

それからは話すことがなくなってしまい、何を話題に出したらいいかわからず、お互いに無言でパンを食べ続ける。

 

(ごちそうさまでした)

 

そうしている間に買って来たパン二つを食べ終えた。

 

「早いな」

 

(量が少ないですからね。小さいタイプですし)

 

「それだけで足りるのか?」

 

(足りますよ。もともとが小食ですし)

 

空になったパンの袋をその場に置いてから、私は立ち上がり、服についている砂を片手で払った。

 

(マッカンっておいしいですか?)

 

「ああ。近い将来千葉県民は毎食これを飲むだろうな」

 

(なら、千葉県民として買わないとだめですね)

 

お父さんもよく飲んでいるのを見かけるけど、そんなにおいしいなら、今度かってみようかな。

 

(今日は話せてよかったです。また、ここにお邪魔してもいいですか?)

 

全ての砂を払いのけると、私は先輩に遠慮気味に聞いた。

 

「それは俺が決めることじゃないだろ」

 

比企谷先輩のぶっきらぼうなその言葉はまるで来たかったらまたこればいいといっているように感じた。


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