やはり私が失声症なのは間違っている。   作:kaiza-

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買い物

季節は6月。時期は梅雨真っ只中ということもあり、晴れている日でもじめじめしている天気が続いていた。

 

(こんにちは)

 

私は通いなれ始めた空き教室の扉を開いた。中には雪ノ下先輩と比企谷先輩の二人だけで、由比ヶ浜先輩の姿はなかった。

 

「あら、こんにちは」

 

「うっす」

 

二人の先輩は中に入ってきた私にそういうと、再び読書の世界に入っていった。

 

読書している先輩たちの本を見て、読書してる人ってかっこよく見られるかなと思ってしまい、先日、学校帰りに本屋で本を購入した。

 

鞄から買った本を取り出して、読み始めた。

 

ちなみに私がどんな本を読んでいるかというと、バッテリーという青春野球小説だ。

 

最近アニメ化したらしく、どんなものか気になり、物語を知るためにはまずは原作を読んでみようと思い、一巻から4巻までを購入した。

 

(しまった……まったく内容が入ってこない)

 

私は元々読書家ではないので、部活の沈黙の空気のほうが気になってしまい、読んでいる本の内容が全く頭に入ってこない。

 

「あの……ちょっといいかしら」

 

ずっとそわそわしているのが気になったのか、雪ノ下先輩が話しかけてきた。

 

(何ですか?)

 

「もうすぐ、由比ヶ浜さんの誕生日なの。それで買い物に付き合ってほしいのだけど」

 

「それは俺にも言ってるのか?」

 

「当然じゃない。比企谷君」

 

友達のプレゼントのための買い物か。

 

(別にいいですよ)

 

「山中がいくなら俺はいかなくてもいいよな?」

 

「だめよ。私の感性は山中さんのような一般の女子高生とはかけ離れているのよ。それにあなたも形だけなら部員でしょ。ついてきなさい」

 

私の感性って一般の女子高生と同じなのだろうか。若干不安になってきた。

 

(女性だけだと、どれを選んだらいいかわからないですから。男性がいてくれると意見も聞けるから、すごい助かると思います)

 

雪ノ下先輩の上から目線の言葉に私はさりげなくフェローの言葉を付け加えた。

 

「まぁ……それならいいか。いつが由比ヶ浜の誕生日なんだ?」

 

「6月18日よ」

 

あ……私の誕生日と近い。もう少し早く出会っていれば、私も祝ってもらえたのかな。

 

(それなら、今週の休日に行ったほうがいいですね)

 

「そうね。場所はららぽーとでいいかしら?」

 

「そこでいいだろ。行くのは日曜日でいいか?」

 

日曜日は特に用事もなかったし、家に一日いるより出かけたほうが気分的にいいかもしれない。

 

(大丈夫です)

 

「私もその日でかまわないわ」

 

こうして、日曜日に奉仕部のメンバーで由比ヶ浜先輩の誕生日プレゼントを買いに行くことになった。

 

 

そして当日。私は事前に決めていた待ち合わせ場所に五分前に到着した。

 

(こんにちは)

 

待ち合わせ場所の近くにあるベンチに腰を下ろして、雪ノ下先輩は本を読んでいた。

 

「え?あ、ああ。山中さんきたのね」

 

私のきていたことに気づいてなかったのか、私が挨拶すると、雪ノ下先輩は少し驚いていた。

 

(ごめんなさい。驚かせちゃいましたか?)

 

「あなたが来ていることに気づかなかった私が悪いから、気にしないでいいわ」

 

普通の人なら気軽にしてる挨拶。それが私にはできない。

 

そう思うと、自分の心に暗い影が差す。

 

「うーす」

 

その言葉と共に、比企谷先輩がやってきた。隣には見慣れない女の子が一緒にいる。

 

「こんにちは!比企谷 小町です。山中さんのことは兄から聞いてますのでご安心ください!」

 

どうやら、比企谷先輩の隣にいた女の子は先輩の妹さんのようだ。

 

「ごめんなさいね。休日につき合わせてしまって」

 

「いえいえ。小町も結衣さんの誕生日プレゼント買いたいですし、山中さんと雪乃さんとのお出かけは楽しみですし」

 

小町さんは比企谷先輩とは間逆のようですごく明るい子という印象だった。

 

「よし。効率重視でいこう。俺はこっちを回る」

 

「じゃあ、私はこっちを回るわ」

 

比企谷先輩と雪ノ下先輩はそれぞれに違う場所を指差していた。

 

(それじゃあ……私はこっちを)

 

「ストップです」

 

小町さんは比企谷先輩の提案を却下し、皆でまわそうと提案し、小町さんの示したポイントまで4人でいくことになった。

 

ららぽーとは休日ともあって、多くの人で賑わいを見せていた。

 

「あれ、小町は?」

 

(さっき、向こうの方に歩いていったのを見かけましたけど)

 

「あいつ、皆で回りましょうっていったのに、なにやってんだよ……」

 

(まぁまぁ……ここは3人で回りませんか?各自でバラバラのものを買うよりはこっちのほうがいいと思いますし)

 

「そうだな。ところで雪ノ下は何してるんだ?」

 

雪ノ下先輩は人気キャラクターのパンさんのぬいぐるみを触っていた。

 

「小町さん、どうしたって?」

 

「何か買いたいものがあるらしい。それで丸投げされた」

 

「そもそも休日につき合わせているのだし、文句のいえた義理でもないわね。後は私たちでなんとかしましょう」

 

(そうですね)

 

そして、雪ノ下先輩はさきほど触れていた、小さいタイプのパンさんのぬいぐるみを購入した後、3人でフロア内を回ることになった。

 


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