遅れました。申し訳ございません。
六章、キャメロットの人理修復も終わり、一時の平穏を取り戻したカルデア。
しかし俺の心中は穏やかではなかった。
マシュの一件は解決するどころか、いつか必ず運営をぶん殴りに行くことを硬く俺に決意させた。
……いやもうね、鬼かと。運営に、いや何処ぞの菌糸類に人の血は流れてないのかと。
散々長いストーリーを共に戦わせてきて、一層敵が強くなってきて、此方も息を合わせて頑張らなきゃいけないって時なのに。
そんな大事な時期に、あんな展開にしますかね。
逃れられない死に対して、最後まで精一杯生きます! なんて展開にしますかね……。
こちとら君に死んで欲しくなくて、今まで頑張って特異点周って来たんですよ。
もう僕の硝子の心はバラバラに砕け散ってしまいましたよ。
もうまぢむり。。もうマジむり……。
そう気落ちしていた俺に、いつもは止める立場の筈のエミヤから、ガチャでも回して気分を変えたらどうだ、と提案された。
あの色黒バトラーにも、その他のみんなにも、心配をかけてしまったらしい。
今回に限っては、誰も召喚を行おうとする俺を止める奴は居なかった。
……いやまあ、気を使ってくれるのは有難いんだけど、あいつらは俺をなんだと思っているのだろうか?
ガチャを回せば全て忘れるチョロいマスターだとでも思われているのだろうか?
おっぱいを求めている間は辛いことを何も考えずに済むとでも思われるのだろうか?
体は聖晶石で出来ているのだとでも思われているのだろうか?
……まあ、回しますけど。止められたって資金が続く限り回しますけど。
だって乳上欲しいし。他の女の子達だって、今度こそ出るかも知れないし。
何より、こんな所で立ち止まってはいられない。
今以上に、もうこれ以上無いくらい戦力を揃えて、魔神柱だろうが敵のサーヴァントだろうが、邪魔する奴は全部ぶっ潰して、一気にソロモンをぶん殴りにいってやる。
気分が落ち込んでいる以上に、こちとら腹わた煮え繰り返ってんだ。
あの小便王の顔面、思い切り殴り飛ばしてやる。
落ちていた気分を無理やり怒りに変えて、俺は見慣れた召喚ルームの扉を潜る。
ーーさて。俺の戦いはここからだ。
息を深く吐いた俺は、聖唱石を打ち砕いた。
♦︎
「サーヴァント、セイバー。ランスロット、参上いたしました。ひとときではありますが、我がけ」
「キレそう」
召喚陣から現れた湖の騎士の顔を見て、俺はとうとう真顔になった。
眼前には積み重なる使用済みのiTunesカード。
溶かした金銭は数知れず。未だ勝利は遥か彼方の理想郷。
最早認めざるを得なかった。
我がカルデアに獅子王は来ないのだと。全身鎧を一枚一枚剥ぎ取る芸者さんごっこは出来ないのだと。あのおっぱいに顔を埋める事は出来ないのだと。彼女は俺の聖槍を抜錨してはくれないのだと。
事実を認めた俺の頬を涙が伝った。
「も、申し訳ありません! あの様な無様を晒しておきながら、こうしておめおめと貴方の召喚に応じてーー」
「あ、いや。違うんすよ。別に貴方を呼び出した事についてキレてるんじゃなくて、なんというかその……。……世の不条理について、一言言いたくなりまして、ね……」
「は、はぁ……」
よくわかっていない様子のランスロット(剣)。
我がカルデアには金枠以上のセイバーがかなり少ないから、単体宝具持ちでクリティカルでごりごりランサーを削れるランスロットが来てくれたのは相当有難い。
正直実質星五性能と噂される彼が戦力に加わってくれるのは非常に有難い。有難いのだが……。
「……く、ククク、クククッ……。もうダメだ、面白過ぎる。なんだよ、なんで毎回毎回銀枠どころかフレポの銅枠の女の子ですら出ねぇんだよ……。ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう……!」
「あ、あの、マスター。大丈夫ですか? ご気分が優れないようでしたら医者を呼んだ方が……」
「クククククククククッ!! ク、ハァ、ハッハッハッハッハ!! いいぜ、やってやる! こうなりゃヤケだ!! もう十連ぶち込んでやるぜぇ!!」
狂気の沙汰ほど面白い……ッ!
俺は次のピックアップまで取っておくつもりだった、十連分の聖唱石を一気に砕く。
俺を止めるものは何も無い。
俺はただ、定められた道を雷鳴の如く疾走するだけだ。
「さあさあ! ここからが大見せ場ァ! 遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! これが世界最後のマスター! 藤丸立香の漢気よォ!!」
収斂してきた光から人影が出てくる。
そのメンバーはーー、
「円卓の騎士、嘆きのトリスタン。召喚の命により馳せ参じました」
「円卓の騎士、ガウェイン。今後ともよろしくお願いします」
「セイバー、ベディヴィエール。此れよりは貴方のサーヴァントとなりましょう」
「円卓の騎士仲良すぎィ!!」
キャメロットで散々手を焼かされた騎士達の登場に、これ以上無く頼もしさを抱く一方、やっぱりセイバーは衛宮じゃなきゃ召喚出来ないんだな、と強い敗北感を俺は得たのであった。
♦︎
「……あっ」
「……おっ」
深夜のカルデア。
小腹が空いて目が覚めた俺が食い物を求めて食堂と繋がるキッチンに向かうと、その真ん前でDr.ロマンこと、ロマ二・アーキマンと遭遇した。
「やあ、ぐだ男くん。奇遇だね。こんな時間にどうしたんだい?」
「いやちょっと小腹が空いて」
「なるほど。偶然にも僕らの目的は同じだった訳だ」
いや夜中にわざわざキッチンまでくる理由が空腹以外にあるのだろうか?
偶々深夜カルデアを徘徊してたら偶然バッタリであったとか?
……それ完全にヤバいやつじゃねーか。
「というかドクター。またこんな時間まで起きてたんですか? 仕事に精を出してくれるのはありがたいっすけど、ほどほどにしないとぶっ倒れますよ?」
「いやぁ、止め時がわからなくってつい。でも何か食べたら流石に眠くなってくるだろうし、冷蔵庫を漁ったら今日はもう休ませて貰うよ」
「ま、それならいいっすけど。……じゃあ、行きましょうか。エミヤが作り置きしてくれといた何かが、俺たちを待っています」
「ああ、そうしよう」
Dr.ロマンと頷き合い、俺は食堂の中に足を踏み入れた。
当然電気はついていなかったので、薄暗闇の中を進み、隣接しているキッチンに入って冷蔵庫を開ける。
その中にはーー
「……あー。マジか。すぐに食えそうなもん、なんもねぇや」
「野菜に、お肉に、魚。……うん、どれもこれも加熱や調理が必要になるものばかりだね」
「残ったご飯とかパンは……、くそっ、全滅か」
「即席系の料理も全滅してるよ。倉庫に行けばまだ有るだろうけど……。今からあそこまで取りに行くのはちょっとめんどくさいかなぁ……」
ドクターと手分けしてキッチンを探索した結果、今すぐ食べられて尚且つそこそこお腹にたまりそうなモノは見つけられなかった。
「どうします、ドクター? 言ってたように手間ですが、倉庫まで行って何か確保して来ますか? なんなら、俺一走り行って来ますよ?」
「いやよく考えたら倉庫まで行く手間にプラスして、管制室に鍵を取りに行かなきゃいけないし。そんな距離走らせるのは流石に気が重いかな? 僕はそこにあったパン粉でも食べて飢えを凌ぐから、ぐだ男くんの分だけでも取ってくるといいよ」
「流石にパン粉食べて夜食と言い張るのはやめましょうよ。……まあ、確かに。管制室に行って倉庫に行ってここに帰って来るんじゃ割と手間なのは事実ですけど。……あっ。ドクター、良いものを見つけましたよ、ほら」
言いながら俺は、戸棚の奥で見つけたパスタの乾麺の袋をドクターに見せつける。
「おお、でかした! これで僕の夜食がパン粉から生パスタにランクアップだ!」
「いや生でも食えない事はありませんけど、ちゃんと茹でて食べましょうよ。お湯沸かすのは出来るんですし」
俺は近くに置いてあったポットから、ぬるくなったお湯を鍋に入れる。ちょっと量が少ない気もするが、まあ大丈夫だろう。
確か必要な材料は……、うん。一通り揃ってんな。これならすぐ作れそうだ。
「どうせ食べるのなら、塩茹でパスタなんて味気ないものじゃなく、それなりに美味しいものを作りましょう。幸い材料は揃ってますし。ドクター、にんにくと鷹の爪食べられます?」
「あ、うん。大丈夫だけど……。作るって、ぐだ男くんがかい?」
「ドクターが作れるなら、作ってくれてもいいですけど」
「い、いや、僕には料理なんて全く出来ないから遠慮しておくけど……。……ぐだ男も料理をするのかい? そんな場面、全然見たことないんだけど……」
「まあ、普段はプロに任せてますし、エミヤとかブーディカさん程熟せる訳じゃないですけど、多少は」
「だ、大丈夫かい? よく漫画やアニメとかで見る『食べたら悶え苦しむレベルのポイズンクッキング』とか作ったり……」
「しませんよ。つーか俺がそんな属性持ってる訳ないでしょう。それが許されるのは美少女だけですから」
と、ドクターと言い合っている間にもお湯が沸いた。
さっすが最新式の電磁調理器。良い火力だ。さっとお湯を沸かせられるぜ。
パスタの袋を開けて、中から三人前くらい大雑把に麺を取り出し鍋の中に入れ、更に塩を少し多めに振りかける。
「お、おおっ。なんだかプロっぽい感じだ」
「よく小腹が減った時に作ってましたから、パスタは」
さっと作れてバリエーションも豊富、量も自由に作れるパスタは、飢えた男子高校生の間食には最適だ。
一時期ハマって狂ったように作ってた時期があったからなぁ……。パスタだけは得意料理と言って良いかも知れない。本格的な奴は作れないけど。
とか過去の自分を思い出しながら、俺は熱したフライパンの上にオリーブオイルを垂らし、芯をとってスライスしたにんにくを入れて炒める。
「くっ……。食欲をそそる良い匂いが……」
「空きっ腹にはよく効く匂いですもんね、これ」
弱火で炒めることしばらく。
にんにくがきつね色になってきたので、今度は輪切りにした鷹の爪を入れて、ゆっくりとかき混ぜる。
……そろそろいいか。俺はおたまでパスタの茹で汁を一すくいして、フライパンの中に入れ、これをよくかき混ぜる。
ここでしっかり乳化させられるかが、大事なポイントとなってくる。
真剣に、集中して、鍋を振ること約一分。
フライパンの中のオリーブオイルが少し白く濁ってきたのを見て、フライパンの火を止めた。
「……よし。後は茹で上がったパスタを湯切りして、作ったソースに混ぜるだけです」
「な、なんだか想像以上にちゃんとしたものが出来て驚いているんだけど……」
「そろそろドクターは俺を勝手にメシマズキャラにするのをやめていただきたい」
「いや、ごめん。てっきり普段のノリでふざけた料理を作って、僕に無理やり食べさせてくるもんだとばかり……」
「ドクターは俺をなんだと思ってるんですか」
と、ドクターと会話している間にも、パスタが茹で上がったようなので、フライパンと鍋の火を止めて、湯切りしたパスタをフライパンの中に入れてよくかき混ぜる。
味見を少々。……少し味が薄いか。
塩胡椒を振って最後に味を調える。
「はい、お待たせしました。ぐだ男式ペペロンチーノ、『クロノス・デ・メディチ』の完成です」
「いや、確かに美味しそうではあるけど、なんでパスタにメディチ家っぽい名前をつけてるんだい?」
「そういう仕様だからです。さ、冷めないうちにどうぞ」
「じゃ、じゃあ。いただきます」
おそるおそる、といった感じで目の前に置かれたパスタを食べ始めるドクター。
もぐもぐと咀嚼し、ごっくんとパスタを飲み込むと、驚愕の表情を浮かべ、
「ふ、普通に美味しい……だと……?」
「おーしそろぐだ男キレちゃうぞー。日頃の鬱憤を全て乗せた書文先生直伝の右ストレートでドクターの顔面を殴り飛ばしちゃうぞー」
最後の最後まで俺を信用しなかったドクターに向けて、俺は指の関節をパキポキ鳴らした。