カルデア男子たちの日常   作:3103

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第4話

 今日も俺はガチャを回す。

 結果は伴わない。何時もの通り、野郎ばかりが俺の元に集まってくる。

 戦力としては充分だ。男ばかりとはいえサポート枠はほとんど金レアで埋まっている。人によっては充分以上の戦果だろう。

 

 だけど俺は満足出来ていない。

 俺が欲しいのは強いサーヴァントでは無く、おっぱいの大きい女の子なんだ。優しく微笑んでくれる美少女なんだ。筋骨隆々の男達はもう見たくないんだ。

 

「頼む……! 持ってくれ俺の財布! 追加の10連召喚だッ!」

 

 聖昌石を砕いて召喚を開始する。

 既に限界は超えている。引き下がらねば最低限の生活すらままならなくなるのは明白だ。

 しかし。ここで引き下がる訳にはいかない。

 命を削らなければ、地獄を踏み越えねば、奇跡を起こす事なんて出来ないのだから。

 痛む胃と猛烈な吐き気を抑えながら俺は光の先を見る。

 

 俺の覚悟を嘲笑うかの様に、発光と共に排出されていくのは見た事ある何時もの面々だった。

 当然野郎ばかり。欠片も女の子が出てくる様子は見られない。ここまで偏られると怒りを通り越して変な笑いしか出てこなかった。

 またマナプリズムが溜まるだけか。もうお腹いっぱいですよ。パンパンですよ。というかそろそろモナリザに交換出来そうなんですけど? 呼符交換と手に入る種火の数、もっと増やしてくれませんかね?

 そう出てきた九連目、我がカルデア七人目のすまないさんを見ながらため息を吐く。

 

 高レアが出てしまった。これで終わりか。

 虚しいもんだ。始まる前はあれほど熱を放っていた俺のハートは、見慣れた光景を前にすっかり冷め切っていた。

 最後まで見届ける事無く、そそくさと召喚陣から離れる準備をし始める俺。

 流石に今日はもう止めよう。これ以上やったら心が壊れて人では無くなってしまう。

 切り替えて種火と素材集めに行くか。すまないさんの最終降臨まであと少しだし。面倒くさくて後回しにする前に林檎齧ってでも終わらせてしまおう。

 

「……あの。すいません。……貴方が私のマスターですか? 私を呼んだのは貴方ですよね?」

 

 凝り固まった肩を回しながら部屋の扉に手を掛ける。

 なんか女の子の声が聞こえた気がするが、間違いなく空耳だろう。欲し過ぎて幻聴まで聞こえてきた。そろそろ真剣にガチャの抑制に取り掛からなければいけない様だ。

 

「あの、マスター。私はここです。ここにいます。……え、ちょっ。どうして無視するんですか!?」

 

 早く出てマイルームで一休みしようとドアノブを回す俺の肩を誰かが叩いてきた。

 振り返るとそこには涙目のジャンヌが。俺を見上げる様に上目遣いで立っていた。

 

 …………。……遂に幻覚まで見える様になってしまったか。もう止めよう。ガチャを回すのはしばらく控えよう。

 限界を超え大切なものが壊れてしまったらしい。

 なんか視覚だけじゃ無くて嗅覚も触覚もイカれてきてるし。めっちゃいい匂いするし。めっちゃあったかくて柔らかい手だし。

 ウチに居る野郎達の岩の様なゴツい手の平とは真逆の感触だ。

 ーーああ。こんな手でされたらどんな気持ちいい事だろうか。これが現実だったらよかったのに。夢なら覚めなければいいのに。

 

「な、なんで柔らかな笑顔のまま出て行こうとするんですかっ!? 私です! ジャンヌです! オルレアンで力を貸して貰った!!」

 

「ああ、はい。アマクサさんですね。ようこそカルデアへ。初ルーラーなんで頼りにさせて貰いますね」

 

「違いますジャンヌです! 私はあの日本人では有りません! あと彼は期間限定です! というか全然似てないですよね!? 私あんなに色黒じゃ無いですよね!?」

 

 必死に俺の制服の裾を引っ張る色黒どころか色白なジャンヌ。

 そろそろ夢なら覚めても良さそうな頃だが、一向に眠りから覚める様子は無い。

 ということはまさか……、

 

「…………え? ……もしかして夢じゃない?」

 

「夢じゃありません。現実です」

 

「……ほんとに? ほんとに現実? 貴方はそこにいますか?」

 

「はい、いますよ。ここに、ちゃんと」

 

 微笑むジャンヌ。

 その笑顔が美し過ぎて思わず息を忘れてしまう。

 ジルが狂ってまで彼女に執着した理由が分かった気がする。

 俺は両目を擦り目を見開いて目の前の彼女を見る。

 

 揺れる金糸の様な髪。透き通る青の瞳。揺れる豊かなおっぱい。

 ……本物だ。本物のジャンヌだ。フレで見かけたら毎回連れてくから見間違える筈が無い。

 ぼやけた脳が事実を認識していく。

 

 ーーそうか。遂に報われたのか、俺は。

 微笑むジャンヌの元へ手を伸ばす。彼女はその手を包み込む様に握ってくれた。

 

「……ありがとう、ジャンヌ。俺の所に来てくれて。一緒に戦おう。二人ならきっと、運命を切り開けるさ」

 

「はい、マスター。どうぞよろしくお願いします」

 

 その日、野郎しか居なかったカルデアに一筋の光が射した。

 まるで祝うかのような柔らかな光だ。

 俺たちの門出を祝うかのような優しい光だ。

 ジャンヌの手を取ったまま、走り出す。

 その先にはきっと歩い未来が待っているーー

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「ーーマスター。朝だぞ。早く起きるんだ。今日は素材集めに行くのだろう? 皆準備してマスターを待っているぞ」

 

 ーー筈だった。

 目を覚ました俺の瞳に映ったのは見慣れたマイルームの天井と、見慣れたオカンの浅黒い顔だった。

 

「……あれ? ジャンヌは?」

 

「ジャンヌなんてウチのカルデアには居る筈ないだろう。ウチにいるのはマッスルとマッスルとマッスルだけだ。……さぁ、寝ぼけてないで早く顔を洗って着替えて来い。朝飯が冷めてしまうぞ」

 

 頬をつねる。普通に痛い。

 ああ。なるほど。そういう事か。

 完全に意識が覚醒した俺は、体をベッドから起こし、深呼吸。

 怪訝な顔をするエミヤを無視して、ありったけの声量で叫んだ。

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 夢オチなんて最低だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 今日も我がカルデアは、変わらず平和のようでした。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 

「ーー最近さ。思うんだよ。男とか女とか関係無い。可愛ければいいよなって」

 

 配られた手札からツーペアも階段も作れないあぶれたダイヤの7を出す。

 現在マイルーム。俺のAPが回復する間、暇そうにしてたサーヴァント集めて大富豪をしていた。三人だと手札が多くて非常にやりにくい。

 トランプ以外にも各種ゲームは取り揃えられているのだが、三人だと数が合いそうで合わないので、取り揃えず机を囲んでトランプをしている。

 俺から始まり、時計回りでゲームは進んでいく。

 次は左隣に座っている緑衣のアーチャー、ロビンフッドの番である。

 しかし緑茶さん。中々カードを出してくれない。

 後がつかえてる。早くしろよと目を向けると、髪で隠れてない方の目を見開いてこちらを見るロビンがいた。

 

「……なに? 早くしろよ」

 

「……いやオタク、今とんでもないことさらっと言いませんでした? こっちの聞き間違いかな?」

 

「男の娘でもイけそうって奴? そんなに変か? 別にギリシャやローマあたりじゃ普通だろ」

 

「いやいやいやいや。それ完全に毒されてんぞ。色々緩かった時代に毒されてんぞマスター。流されんなよ気をしっかり持て。おっぱいは至高。アンタそう言ってただろ」

 

 毒々言いながらダイヤの9を出す毒使いのロビンフッド。

 野郎いきなり縛りやがった。手札に視線を落とし出せるカードを探す。

 ……くそ。ツーペア崩さなきゃ出せないじゃないか。嫌な事しやがるぜ。流石破壊工作B。いやらしい戦法を使いやがる。

 

「揉めないおっぱいに何の意味があるというのかねロビンフッドくん。……大きい? 小さい? そんな議論くだらない。結局男にとっての一番は大きさ形じゃなくて揉みしだけるおっぱいなんだよ。タッチ出来るおっぱいなんだよ。自由に触れるおっぱいなんだよ。だから僕におっぱいを触らせて下さいお願いします」

 

「……割ととんでもない発言をしているぞマスター。その発言は世の女性陣から距離を置かれかねない。縁を望むなら控えた方がいい」

 

 俺の言葉に淡々と返しながら手札を場に出すのは黒のセイバーこと、竜殺しのジークフリートさん。

 最近最終降臨まで至ったセイバーさんは、ドラゴン殺すどころか、俺自身がドラゴンになる事だ状態になっている。室内だと滅茶苦茶羽が邪魔そうだった。

 

「大丈夫っすよジークさん。女の子の前じゃこんな話絶対にしないんで。紳士なぐだ男を演じてるんで」

 

「俺らの前でも紳士だと助かるんですけどねぇ。……つーかなに? なんでいきなりソッチに走ろうと思ったわけ? やっぱりオタクホ◯だったの?」

 

「馬鹿違う。全然違う。やっぱりとか言うなマナプリズムにすんぞ。俺は男になんて欠片も興味無い。女の子大好きな健全な男子だ。……たださ。あんまりにも縁が無さすぎてな。もう近場で済ませちゃおうかなって。流石にがっつりした男は吐き気がするけど、この前来てくれたしデオンくんちゃんなら色んな意味でイケるんじゃないかなって。性別可変式だし」

 

「余りに出会いが無さすぎて、遂に白百合の騎士も攻略対象になってしまったのか。これは重症だ。現世では壊れた物を叩いて直す風習があるらしい。マスターも叩けば治るだろうか?」

 

「もう手遅れだと思うけどな、竜殺しの旦那。これもう修理店に持ってっても無言で首横に振られるレベルだよ。新しいの買い換えろって店員に諭されるレベルだよ」

 

「うっせ誰が壊れたテレビだ。つーかお前らの力で殴られたら普通に死ねるから絶対止めろよ。フリじゃないからな? 本当に止めろよ?」

 

「いやそれフリにしか聞こえねーよ」

 

 淡々と進んで行く大富豪に興じつつ、ツッコミを入れてくる緑茶。

 というか二人共強くね? なんでそんなに2持ってるの? 俺最強が11なんだけど。この手札でどうやって勝ちに行けと。

 

「というかマスターさんよ。アンタ日に日に発言が酷くなってる気がするんですけど。特異点Fの頃はもう少しまともだった気が……。……いや、やっぱり最初からダメだったな。世界救済よりおっぱい寄越せとか口走ってたもんな。俺の思い違いだった。悪りぃ、今のは忘れてくれ」

 

「お前諦めんなよ。最後まで頑張れよ。流石にここまではぶっ壊れて無かったよ。ここまで追い詰められてはいなかったよ。いくら可愛いとはいえ男の娘はちょっと……。って敬遠してたくらいですよ」

 

「……きっと日々の戦いで疲れているのだろう。少し休んだ方がいい、マスター。人理修復は体が資本だからな。これから益々戦いは激しくなっていくだろうし、余裕があるうちに無理せずしっかりと英気を養った方がいいんじゃないか?」

 

「ありがとうジークさん。でも今は休まない。だって休んでも治らないの知ってるから。おかしいのは体じゃなくて頭だから。……そうだこういう時はガチャを回そう。今度こそジャンヌを手に入れるんだ。ジャンヌの聖パイに飛び込むんだ。そしたらきっと良くなる筈さ」

 

「完全に負のスパイラルだろそれ。絶対爆死するから止めとけって」

 

 言いながら8を出して場を流し、邪魔なカードを処理するロビン。

 マズい。サーヴァント二人共手札が少なくなってきた。こっちはまだこんもりと有るのに。

 ……こうなったら一か八かだ。一枚しか無いジョーカーを使って革命してやる。

 順番が回って来たので8切りで同じく場を流し、10三枚にジョーカーを足して場に繰り出す。

 

「どうだ革命だ! ふはははっ! 怖かろう怖かろう! 貴様らの手札が強カードで溢れてるのは知っている! これでそれらは紙屑同然に、俺の手札は最強になった! この戦い俺の勝利だ!!」

 

「すまない。革命返しだ」

 

「ああああああああああああっ!!」

 

 紙屑同然になったのは俺の手札だった。

 いや一周して価値が元に戻っただけなんだけど。

 

「うるせーよ。カードゲームくらい静かにやれよ。参加人数三人で手札馬鹿みたいに有るんだし革命返される事くらい予想しとけよ」

 

「くそぅくそぅ。ワンチャンあると思ったのになぁ……。これで完全に手札ゴミと化したぞ俺」

 

「すまない。手札が良くて本当にすまない。そしてこれで上がりだ」

 

「謝ってはいるけど勝利には貪欲なジークフリートさんなんて嫌いだ……。てかキングとか強いので上がんないで下さいよ。俺次出せないよパス」

 

「マジか。……んじゃあこれで、俺も上がりだ」

 

 俺が強いカードを使い切ったのをいい事に、一気に手札を全て出し切ったロビンが口笛を吹く。

 どうやら決着がついてしまったらしい。最下位こと大貧民は俺に決まった。

 ちくしょう何もできなかったぞ。こいつら運良すぎだろ。

 七枚程ある手札を机の上に軽く叩きつける。

 

「おい。八つ当たりしてないで早くカード配れよ大貧民。次行くぞ」

 

「やってられるか! なんでお前らばっかそんなにいいカード渡るんだよ! 黄金律か! これが黄金律持ちのやり方かよ!!」

 

「『大富豪』だしな。スキルが働いた可能性はある。まぁ、あまり気落ちするなマスター。お前にも運は巡ってくるさ。……さぁ次だ。二枚俺に献上して貰おう」

 

「やだこの竜殺し絞る取る気まんまんじゃないですかー。……ちくしょうこうなったらヤケだ。とことんやってやる。勝ち逃げなんて許さんぞ貴様らぁ!!」

 

 机の上のトランプを拾い上げ、素早くシャッフルを開始する俺。

 向かい合う二人もやる気のようだ。また俺をカモにしようと目を輝かせている。

 上等だ返り討ちにしてやるぜ!!

 そう意気込んで再開した大富豪は、俺が15回連続大貧民の新スコアを叩き出した所で、種火集めから帰ってきたエミヤの手によって強制的に終了した。

 

 

 


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