カルデア男子たちの日常   作:3103

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 今回後書きにちょっとしたおまけを書きました。
 もしもぐだ男がぐだ子だったら、みたいな感じです。
 よろしければそちらもどうぞ。


第5話

 部屋の扉が乱雑にノックされた。

 二度の失敗から鍵はかけている。しかも四重に。こちらから招かない限り、入ってくる事は出来ないだろう。

 扉の強度自体も、ダヴィンチちゃんに頼んで腕力で無理やりこじ開けたり、口から吐いた炎で熔かされない頑丈な造りに改造もして貰っているので安心だ。生半可な扉では簡単に壊されてしまうからな。人間を軽く超えた力を持つサーヴァントだらけのカルデアでは。

 

 人理修復なんていう重労働の合間にあるつかの間の自分の時間を守る為には、過剰なまでの防御力と耐久性を追求しなければならないのだ。

 そう分厚い鉄の扉の前に立った俺は、ドアの向こうに誰がいるのか確認する為に声を出す。

 

「……人生谷あり」

 

『お山あり』

 

「みんな違って」

 

『みんな良い』

 

「棟方愛海は」

 

『みんなの師匠』

 

「……よし、入れ」

 

「デュフフフ! 失礼しますぞ、マスター!」

 

 金属製の分厚い扉を開けるとサーヴァントの一人、黒ひげこと悪名高き大海賊、エドワード・ティーチが、気持ち悪い動きで室内に入って来た。

 

 部屋に招いたのは俺だが早速後悔してきた。

 ぬるぬると軟体生物の様な奇怪な動きは、女性陣が見たら宝具ぶっぱする事間違い無しだろう。

 扉を閉めながら勝手にテレビをつけ始めた黒ひげを見てため息を吐く。

 

「おう、黒ひげ氏。アニメ見出す前に先ずは戦果を報告しろ。でなければエミヤに貴様の部屋のベッドの下を徹底的に掃除(狙撃)させるぞ。カラドボルグだぞ。空間ごとベッドの下を捻じ切るぞ」

 

「それはご勘弁を! 拙者が現界してから集めた宝物達がまるっと消し炭になってしまうでごじゃる! だが断る!! 頼まれてたモニュメントは出さないwwwww だって黒ひげ、海賊だからwwwww マスター相手とはいえゲットしたお宝を手放すなんてぶっちゃけあり得ないwwwww」

 

「……本当は?」

 

「集めに行くの忘れて部屋でマスターの部屋にあったエロゲパクってやってましたテヘペロ☆」

 

「判決、ギルティ。ーーエミヤやれ。塵芥も残すな」

 

『了解した』

 

「ノォォォォォォォォォォォォウ!?」

 

 遠くで爆発音が聞こえる。

 黒ひげの部屋の前で待機し、インカムで連絡を取り合っていたエミヤが言葉通りボルグったのだろう。その衝撃でビリビリと部屋が揺れる。なかなか派手に掃除し始めたもんだ。

 黒ひげは床に膝を突くと、しくしくと泣き出す。

 

「しどい……。こんなのあんまりだよ……。ひどすぎるよ……。拙者、絶望のあまり魔女になってしまいそうでこざる……。マスター、グリーフシードプリーズ」

 

「お前のソウルジェム最初から真っ黒だろうが。もう手遅れだよ。諦めろ。……いいから泣き真似止めてさっさと素材回収に行ってこい。普段エロゲしてようがフィギュアキャストオフしてようが別にどーでもいいけど、受け取った報酬分はきっちり働いて貰うぞ。ほら、早く立て。ハリーハリーハリー」

 

「ああん、待ってマスター! 今からやるアニメだけは見させてくだち! 一話からリアルタイムで見てるから見逃したくないの! ネットサーフィンしてる時にネタバレ食らいたくないの! だからお願い! あと三十分だけ待ってくださいなんでもしますから!!」

 

「……ん? 今なんでもするっていったよね? ……よろしい。ならば周回だ。つい昨日修理したオケアノスに行って、フリークエストの聖晶石回収しに行ってこい。全て入手するまでカルデアには帰って来れないと思え」

 

「そんな殺生な! これでは積んであるエッチなゲームを消化出来ないではないか! どれだけ溜まっていると思っているんですかあっちもこっちも! しかしここで断れば力づくでもカルデアゲートに突っ込まれそう……! ぐぬぬぬぬぬ……! 拙者の弱味に漬け込むとは……! 鬼、悪魔、ぐだ男!」

 

「工房、お前、くべる」

 

「冗談! 冗談ですぞマスター! わかりましたこの黒ひげ、男らしく覚悟を決めましょう! オケアノスだろうがイスカンダルだろうがどこだろうと行って参ります! 最果ての海に、再び舞い降りる孤高の黒ひげ。……あれ? これちょっとカッコよくないですかなマスター?」

 

「はいはいワロスワロス。つーかそろそろ始まるんじゃね? 見るならチャンネル合わせろよ」

 

「おお、そうでした。ポチッとな」

 

 テレビの横に置いてあったリモコンをいじり、番組を切り替える黒ひげ。

 取り敢えず見るまではテコでも動かなさそうなので、我が者顔でベッドに座った黒ひげに舌打ちをしつつ、壁に寄りかかり俺もテレビを見る。

 キャッチーな音楽のCMが終わると、一瞬の暗転。

 すぐに色が戻った液晶テレビの画面には、見た事があるアニメのキャラクターがどアップで現れた。

 

「……あれ? これあのアニメじゃん。今二週目やってるんだ」

 

「イエス、マスター。ちょっと前に放送したあのアニメの再放送にごじゃる。拙者この前現界したばかりじゃろ? 故にこのアニメ、ネットで話題になっているのにまだ見てなかったんですぞよ。いやぁ、楽しみですなぁ……。今回は神回らしいですからなぁ……。まだアバンなのに拙者、TOKIMEKIが止まりませんぞwwwww サイダーみたいに弾けそうですぞwwwww」

 

「いやそれリアルタイムで見てるって言えるのか? つーかスレで話してんならネタバレもクソも無いんじゃ……」

 

「黒ひげ、むじゅかしいこと、わかんにゃい」

 

「……………………」

 

「や、ちょっ、止めて! 限凸してなおガチャから出てくる余った宝石剣で殴るのは止めて! 出ちゃう! 平行世界から魔力を編んだ光の斬撃でちゃいましゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう!!」

 

 手近にあった礼装で、気持ちの悪い悲鳴をあげる黒ひげを殴る事三十秒。

 OPが始まったので手を止め画面を注視する。

 そういや久々に見るなこのアニメ。再放送やってんの知ってたら一話から見てたのに。少々惜しい事をした。

 俺は宝石剣を握ったまま、再び壁にもたれかかる。

 ちなみにカルデアでも普通にテレビが映ったりネットが出来たりする。理由はわからない。ダヴィンチが一晩でやってくれました。という事で納得しておこう。便利であるのは違いないし。

 

「キタキタキタァー! この可愛らしい声! この丁寧な女の子作画! 滾ってきた! 最高に滾ってきましたぞマスター! デュフ、デュフフフフフwwwww」

 

「アニメ見てテンション上がってる所ってヤバイな。はたから見たら完全に変態だもん。……俺も今度から気をつけよ」

 

「そんな事よりマスター! 一緒に実況しましょうぞ! 今日も小紅ちゃんは可愛いですなァ!!」

 

「はいはい、見るから落ち着けよ。……てか黒ひげ氏、小紅ちゃん推しなのね。俺はてっきり真白たんぺろぺろとか言うのかと思ってた」

 

「ちょ、マスター! 勘違いしないでいただきたい! 吾輩子供は好きですが性的な意味では全くのNOですぞ! Yesロリータ、Noタッチですぞ!」

 

「触んないだけで許容はしてんじゃねぇか。むしろタチ悪いわ」

 

「そういうマスターこそどんな女の子が好みなんですかな? おっぱいが大きい以外でお願いしますぞ? 性格的な部分で、どんな女の子が好きなんですかな?」

 

 黒ひげの問いに、シールダーの後輩の後ろ姿が思い浮かぶ。

 …………。危ない。また顔に出る所だった。黒ひげにまで知られるのは何としても避けたい所だ。

 俺は頬を掻きながら、思考を回し別の回答を必死に用意する。

 

「あー……。……まあ、なんつーか、……元気な子がいいかなぁ……。行動力があるっつーか、ぐいぐいと引っ張ってくれる様な女の子がいいかな。情けない話だけど誰かを先導するより、後ろからついてく方が性に合ってる気がするんだよね、俺」

 

「なるほどなるほど。確かに異性関係に関してマスター、とことんヘタレですもんなぁ……。こっちがドン引きする程奥手ですもんなぁ……」

 

「しみじみ言うな。キモ過ぎて普通にドン引きされてる誰かさんよりはマシだろうが」

 

「グフフフフフwww 痛いところを突かれた! つうこんのいちげきでござる!! 黒ひげ大ピンチ! ガッツで耐えたものの残りHP1で瀕死状態!! ヘルプ! 誰ぞ回復魔法を!! 出来れば可愛くて奥ゆかしくておっぱいが大きい彼氏無しの白魔導士を所望!!」

 

「今際の際に注文が多い奴だなオイ。つーかアニメくらい静かに見ろよ。見たかったんだろ、これ」

 

「おお、これは失敬。拙者としたことが溢れ出るリビドーを抑えきれんかったでござるwww」

 

 デュフフフフフフwww と笑いながら再びアニメの画面を注視する黒ひげ。

 やれやれ。これで少しは静かになったか。

 俺も画面に目を向けると、すでにAパートが終わりCMに入っていた。

 この15分間、殆ど髭生やしたおっさんの顔しか見ていない様だ。

 ……おかしいなぁ。可愛い女の子達に癒されるアニメを見てた筈なのになぁ。キモいおっさんの顔しか頭に入ってないぞ俺。

 

 癒されるどころか、溜まってしまった心労を吐き出す様にため息を吐くと、丁度CMが明けてBパートが始まった。

 俺も黙って画面に目を向ける。

 

 ……なるほど。今日はこの話だったのか。確かにこの回は全般的に出来良かったし、神回って言われてても不思議じゃないな。

 そう静かになった黒ひげに目を向けると、別に感動的なシーンでも恐怖を感じるシーンでも無いのに、世紀の大悪党は何故か大量の涙を流していた。

 

「……どうした黒ひげ。絵面がマジで悲惨な事になってるぞ。目に虚影の塵でも入ったか?」

 

「うぅ……! ぐすっ……。いいなぁ……。拙者も……、きゅぅ……。あんな青春、送りたかったなぁ……!」

 

 ガチ泣きだった。

 それを見た俺、割と、いや普通にドン引きだった。

 

「……な、なに。なんでそんなに泣いてんの? 今のシーンにそんなに心動かされる所あった?」

 

「……そういえばマスターはこのアニメに映っているような普通の現代日本からやって来たのでござったな。なら拙者の気持ちはわかるまい……! 羨ましい! 羨ましいですぞ! あんなミニスカの、ぴちぴち十代の女の子達に囲まれて青春してたんでごじゃるな!? パンチラとか見まくってたんでこざるな!? ちくしょう羨ま死ィィィィッ!!」

 

 血の涙を流しながらこちらを見る黒ひげ。

 どうやらアニメの中の高校の風景を羨ましがっている様だ。

 かなり悔しのかギリギリと歯を噛み締めている。

 ……そんな変な所に食いつかれても。そもそも俺、女子と関わりが無さ過ぎたからここに来ちゃったわけですし。パンチラはまあ、駅とかで見たことあるけど、黒ひげ氏のがそれ以上のモノを見たことあるでしょうし。

 それ以上にーー

 

「……いやあの。……すいません。黒ひげさん。絶賛嫉妬中の所よろしいでしょうか?」

 

「あー! あー! きーきーたーくーなーい!! リア充の自慢話なんて聞きたくないでござる!! どうせラッキースケベとかしてたんでしょ!? 頭をぶつけて即合体な出会いとかあったんでしょ!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!!」

 

「……いやその、アレなんですよ黒ひげさん」

 

「聞かぬ聞かぬぞぁ! 吾輩は絶対、自慢話なんてーー」

 

「ーー中高と俺、男子校だったんですよ」

 

「それは……。……なんというか、その。……まあ、ドンマイ☆」

 

 この日一番の黒ひげスマイルに、俺は涙を禁じ得なかった。

 

 




 おまけ
 カルデアにいるのがぐだ子だったら。

 ♦︎


「もう嫌だァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! もうガチャなんてやめるぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 使い終わったiTuneカードをばら撒きながら、私はカルデアの廊下を走る。
 目的地はマシュマロおっぱいな後輩の部屋。若干天然が入った可愛い後輩にこの傷を癒して貰う為、私は全速力で走っていた。

「マ、マスター。どうしたんですか? そんなに慌てて……」

「あ、ジャンヌ! この際貴方でもいいやちょっとおっぱい貸してっ!」

「あ、ちょっ、あっ……! いきなり何をっ!?」

 廊下を歩いていた金髪青目の美少女、ルーラーのサーヴァントの一人、ジャンヌ・ダルクの胸に飛び込んだ。
 ぴょんと飛び跳ねた私の顔を二つのお山がいい感じに挟む。
 ……おおう。こいつぁ、いい弾力だぜぇ。
 母の愛を象徴する優しさに適度に癒されつつ、涙で濡れた目をジャンヌの着ている服で拭く。

「……ど、どうしたんですか? どこか具合が悪い所でも……」

「心が、心が痛いのジャンヌ。傷心の私を慰めて、癒して、優しくしてぇぇぇぇぇ……」

「……あー、はいはい。またいつものですか」

 落ちているカードを見たのか、ため息混じりのジャンヌの声が聞こえてくる。
 どうやら私の症状を察したらしい。呆れながらも私の頭を撫でる彼女の手はとても優しかった。

「いつも言ってるじゃないですか。お金を使うのはほどほどにした方が良いって。それなのにどうしてまた……」

「ごめんよぅごめんよぅ。私だって今月ピンチなのにヤバいとは思ったんだよぅ。でも抗えなかったんだよぅ。……円卓ピックアップ第二弾には」

 そう、ピックアップ。
 待っている(筈)のイケメン騎士さん達をカルデアに迎える為、確率というモンスターに課金という武器を装備して戦いを挑んだ私。
 結果は敗北。それもこれ以上無いほどの惨敗であった。
 なので私はこうして壊れかけた心を癒す為に、優しく慰めて貰いに後輩のマシュマロサーヴァントの元へと急いでいたのだ。
 結果として途中にいたジャンヌにおっぱいでぱふぱふして貰っているのだが、充分癒されてるので良しとしよう。
 ちなみにおっぱいを求めているのは、それが柔らかクッションだからで性的な意図は一切無い。私はイケメン一筋である。

「……なんでだよぉ。なんでウチのカルデアには男の子が来てくれないんだよぉ。こんなにいっぱいガチャ回してるのにぃ。金鯖だって女の子ならいっぱいいるのにぃ……」

「確かにマスターのサーヴァントは殆ど女性ですけど……。別に問題は無いのでは? 戦力的には充分整っていますし。寧ろ過多というか……。皆さん練度が非常に高くて並大抵の特異点なら余裕で修復出来るといいますか……」

「違う。違うんだよジャンヌ。私が求めているのはそういうものじゃないんだ。強さなんて求めて無い。ーー私はね、ジャンヌ。逆ハーレムを作りたいんだ」

「……はい?」

「いやだから。逆ハーレム。イケメンに囲まれてちやほやして貰いたいの。邪ンヌのイベントのメンバーなんて最高だよね。キュンキュンしちゃうよね。やっぱあの子見る目あるわー。才能あるわー。私が貸したげた乙女ゲー徹夜でやり込んじゃうわけだわー。どハマりしちゃうわけだわー」

「あの、マスター。何を言ってーー」

「ーー何口走ってんのよアンタはぁぁぁぁぁぁ!?」

 ばあんと近くの扉が力一杯開かれた。
 噂をすればなんとやら。中から出てきたのは闇落ちした邪悪なジャンヌこと、アヴェンジャーのジャンヌ・ダルク。通称邪ンヌ。
 ピックアップ中なんとなく回した単発呼符召喚でお迎えした彼女は、頬を紅潮させ怒肩でずかずか此方に向かって歩いて来る。
 どうやら私達の話に聞き耳を立てていたらしい。彼女のトップシークレット(笑)を喋り出した私を、親の仇の様に睨みつけていた。

「やあ、邪ンヌちゃん。急にどうしたの?」

「急にどうしたの? じゃ無いわよ!! 惚けた顔しないで心当たりしかないでしょう!? あ、あんなに口止めしたのに……! サラッと、しかも一番言ってはダメなヤツの前で言いやがって……! ……もう燃やす! 灰も残らず燃やし尽くす! 私の秘密を知ってるやつは全員燃やしてやるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「お、落ち着きなさい!! なんだかよくわかりませんが暴力はいけません! あとここは火気厳禁ですよ! 炎を出すのを止めなさい!!」

「うっさいわね!! こんな時まで真面目ぶらないで虫酸が走る!! いい子ちゃんは黙って人類の為にレベルでも上げてなさいよ!! 私はこの雌豚をこんがりジューシーに焼き上げてるから!!」

「いやー怖い怖い。怖くて怖くて思わず邪ンヌの推しキャラが大抵優しい正統派イケメンだっていうのを叫びながら泣いちゃいそうだよー。以外とぐいぐい来られるのも嫌いじゃないとか、壁ドンとか顎クイとかベタベタな奴が大好きとか、思わず言っちゃいそうだよー」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇ!!」

 邪ンヌちゃんの顔は熟れたトマトの様に真っ赤であった。
 流石にこれ以上煽るとぶち殺されかれないので、ジャンヌが抑えている間に彼女を彼女に任せてすたこらさっさと逃げ出す。
 ほとぼりが冷めるまで、また誰かの部屋に匿って貰おう。
 邪ンヌちゃんを適度に弄って爆死の傷が癒えた私は、カルデアの広い廊下を再び走り出した。






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