レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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今回は礼奈メインのお話です。





日常 礼奈

「お兄ちゃん遅いよー!早く早く!」

 

夏の日差しが地面をこがし、めまいを覚えそうな熱い空気が充満する中、それを吹き飛ばすかのような元気な声が俺を呼ぶ。

 

「礼奈が速いんだよ!!こんな暑いのに、なんでそんなに元気なんだよ」

 

額に汗を浮かべながらも楽しそうに笑う礼奈を見ていると、自然と暑さも気にならなくなってくる。

久しぶりに二人っきりで遊ぶのがそんなに嬉しいのだろうか。

もしそうなら俺も嬉しい。

今まで忙しくてゆっくり二人で遊ぶことが出来ていなかったのだ、その分今日一日は礼奈が満足するまで付き合おう。

 

 

「着いたー!あっ!見て見てお兄ちゃん!また新しいお宝の山が出来てるよ!かぁいいのあるかな?かな?」

 

「・・・・そうだなぁ、かぁいいのがあるといいな。お兄ちゃんにはゴミ山にしか見えないけど」

 

俺たちの背丈の何倍もの高さでそびえ立つゴミ山を見て、遠い目をしながらそう呟く。

昨夜、礼奈に久しぶりに二人だけで遊ばないかと誘った俺に対し、礼奈は眼を輝かせながら大喜びで頷いてくれた。

そしてどこで遊ぶかを質問したところ、迷う素振りすらなく、このゴミ捨て場に行きたいと言ったのだ。

久しぶりに遊ぶ場所がゴミ捨て場というのはどうかと思ったのだが、嬉しそうにそう告げる礼奈に否とは言えなかった。

 

「にしても・・・・すごい量だな。これだけあれば掘り出し物の一つくらいはありそうだな」

 

ゴミ山への登山をしながら、周りを見渡す。大半がゴミ袋と捨てられた雑誌だが。よく見て見れば人形やクッション、中には布団なんて捨ててあったりもしている。

 

さらに足元を見て見れば、片目を失った女の子の人形があるのを見つけてしまう。

片目がないまま無表情で顔を固定させている人形に思わず頬が引きつる。

こんなものを持って帰ってしまえば呪われてしまいそうだ。

 

「お兄ちゃん?何か良い物でもあったのかな?かな?」

 

「いや?何もないぞ?面白そうな雑誌があったから気になっただけだ」

 

足元の人形を横にあった雑誌で隠す。もし礼奈があの人形を見てかぁいいなんて言い出して持って帰ってしまい、それが原因でひぐらしとは別のホラーが始まるなんて笑い話にもならない。

羽入という半透明少女がいるのだから、呪いの人形があっても不思議ではない。

 

「へぇーどんな雑誌?」

 

「どんな?えっと・・・・みんなが選んだ美少女のヌーd、おっと足が滑ったぁぁぁ!!!」

 

タイトルを読み上げるのを無理やり中止して雑誌を遠くへと蹴り上げる。

あぶねぇ!普通にエロ本だった!礼奈の遊び場になんて物を置いてんだ馬鹿野郎!

本を捨てた相手に心の中で罵声を浴びせる。それと同時に今度悟史と一緒にここに来ることを心の中で決める。

蹴ってごめんよ!今度必ず拾ってあげるから!

 

「えっ!?気になってたんじゃなかったのかな?かな?」

 

「いや、よく見たらそうでもなかったわ」

 

いきなり雑誌を蹴り上げた俺に礼奈は驚くが、さらっと流して話を終わらせる。

礼奈にああいう雑誌はまだ早い。

 

「そうなの?あ!お兄ちゃんの足元のお人形さんとってもかぁいいよう!」

 

雑誌を蹴り上げたことで下に隠してあった人形を礼奈が見つけてしまった。

 

「・・・・これはやめとかないか?ボロボロだし、ほら、片目もないし怖いだろ?」

 

「ううん、怖くないよ。むしろとってもかぁいいもん!」

 

足元の人形を拾い上げて見せるが、礼奈は右目がないことを気にした様子もなく、俺から人形を受け取って抱きしめる。

相変わらず礼奈のかぁいいの基準がわからない、というかかぁいいの範囲が広すぎる。

それとも俺が男だからか?今度魅音や詩音に聞いてみよう。

 

「でも右目がないのはかわいそう・・・お兄ちゃんなんとか出来ないかな?かな?」

 

「なんとかか・・・・なくなった目がどこにあるかわからないしな。代わりのものを入れてあげればいいんじゃないか?少し大きめのビー玉とかちょうどいい物を探してさ」

 

おもちゃ屋さんで少し探せばそれらしいものがあるはずだ。

今はダム戦争の影響で開店が不定期なのでいつ手に入るかはわからないが。

 

「とりあえずなくなった目が落ちてないか探してみるよ!この子も代わりの物より自分の目があったほうがいいに決まってるもん!」

 

そう言って人形を抱えながらゴミ山を駆け上がっていく礼奈。

この大量のごみの中から人形の目のような小さな物を見つける可能性は・・・・残念だがほぼないだろうな。

心の中の諦めの感情を否定できないまま、俺も礼奈の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「これは・・・・ゴミか。これは・・・・ゴミか。これは・・・・エロ本か(そっと脇に置く)」

 

人形の目を探し始めてから、だいたい一時間が過ぎた。

俺も礼奈もこの一時間の間、休まずに探し続けているが、見つかる気配はまるでない。

見つからないのは当然だ。目の前に広がる大量のゴミを前にして思わず心の中でため息を吐く。

こんなもの・・・・砂漠の中で一本の針を探すようなものだ。

大量の汗を拭いながら荒い息を吐きだす。

蒸し暑い中、動き回ったので体力もなくなってきた。

 

「・・・・ありがとうお兄ちゃん。後は礼奈一人でやるから大丈夫だよ!お兄ちゃんは休んでて!」

 

俺の疲れた姿を見て気を使って俺に休むように言ってくれる。

礼奈も同じように動き回っているのだ、汗だって大量にかいていて息も荒い。

水筒は持って来てはいるが、この調子では熱中症になってしまう恐れだってある。

 

「礼奈、もう諦めて代わりの物を探そう。このままじゃ倒れちまうぞ」

 

代わりの物を手に入れる手段はいくらでもあるのだ。

おもちゃ屋は行けば簡単に手に入るし、なんなら魅音や悟史に頼んで家にないか探してもらってもいい。

 

「・・・・ごめんお兄ちゃん。今ならまだ見つけられるかもしれないの。新しいゴミが来てしまったらもう本当に見つけられなくなっちゃうから。その前に出来る限り探してあげたいの」

 

だから私はもう少し頑張るよ!お兄ちゃんは日陰で休んでて!っとそう言い残してゴミ山へと姿を消す礼奈。

 

 

礼奈がゴミ山へと姿が消した後、俺の中にやってきたのは、どうしようもないほどの情けなさだった。

 

 

今の俺はなんだ、妹の願いを早々に諦めて、俺を頼ってくれた妹に気を遣わせるなんて情けないにもほどがある。

 

梨花ちゃんに運命を変えると得意げに言っておきながら、なんだこのざまは。

妹のために人形の落とし物一つ見つけられないやつが人の運命を変えるなんてよく言ったものだ。

 

確かにこのゴミの中から小さな人形の目を探すのは不可能に近い。

あの人形の目が元に戻らないのは・・・・運命に決定されたことなのかもしれない。

そう言ってもいいくらい低い可能性なのだ。

 

でも俺は知っている。

この世界には、信じる力が運命を変える力があることを俺は知っている。

 

「絶対見つけてやるから、待ってろよ」

 

運命を変える決意をその胸に刻み、俺はゴミ山から目的の場所へ走った。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、見つからない・・・・」

 

辺りに散らばるゴミをかき分けながら目的の物を探し回る。

汗によって身体に引っ付いた服が私に不快感を与えてくる。

夏の日差しが肌を焦がし、残り少ない体力がさらに奪われる。

汗も荒い息も止まらない、それでも懸命に手と足を動かして目的の物を探す。

この大量のゴミの山から人形の目のような小さな物を見つけることが不可能に近いことは、子供の私でさえわかる。

それがわかっていて探すのをやめないのは、悲しみの感情がこの人形から伝わってくるような気がするからだ。

気のせいかもしれない。それでも一度そう考えてしまえば、私は彼女の目を探すのを諦めることは出来なかった。

 

「絶対見つけてあげるから、待っててね」

 

近くに置いてある人形へ笑いかける。

さぁ、まだまだこれからだ!

 

「礼奈!!どこにいるんだ!ぶっ倒れてないだろうな!!」

 

次の場所へと向かうために立ち上がった私の元にお兄ちゃんの声が届く。

お兄ちゃんと別れてから30分以上は経っただろうか?

また諦めるように言われるかもしれない。

お兄ちゃんが私を心配して言ってくれているのはわかる。それはとても嬉しいし、そんな優しいお兄ちゃんが私は好きだ。

でも・・・・今回だけは諦めたくない。

 

お兄ちゃんの気遣いを無下にしなくてはいけない申し訳なさに気分を沈めながら、声の方へと向かう。

 

 

 

そこには

 

 

 

「うわぁ・・・・これはまたすごい量のゴミだね。探すのは骨が折れそう」

 

「じゃあ、おねぇは休んでてもいいよ?私が見つけてお兄ちゃんに褒めてもらうから」

 

「なっ!?上等じゃない詩音!どっちが先に見つけるか勝負よ!」

 

「二人ともくだらないことで喧嘩しないでくださいまし!これは礼奈さんのためであって、あの愚兄のためではございませんでしてよ!」

 

「沙都子、灯火は礼奈のために一生懸命走って僕たちを集めたんだ。それなのに愚兄はあんまりだと思うな」

 

「うっ・・・・ちょっとした冗談ですわ。必死な顔で私たちに頭を下げた灯火さんを見て、本気で馬鹿になんてしませんわ」

 

「みぃ、沙都子は素直じゃないのですよ。にぱー☆」

 

「り、梨花!からかわないでくださいまし!」

 

 

そこには、みぃちゃんにしぃちゃん、沙都子ちゃん、悟史君、梨花ちゃんの姿があった。

 

「み、みんな・・・・どうしてここに?」

 

みんながここに来た理由がわからず固まってしまう。

ここが私のお気に入りの場所だということは知っているはずだけど、今日私がここにいるなんて言っていないのだ。

 

「俺が呼んだんだよ。ホラー人形を元の可愛らしい人形に戻す手伝いをしてくれって言ってな」

 

私がいるゴミ山を登りながらお兄ちゃんがみんながここ来た理由を教えてくれる。

 

「そうだったんだ・・・・でも私のわがままをみんなに手伝ってもらうのは悪いよ」

 

お兄ちゃんが私のためにみんなを集めてくれたのは素直に嬉しい。

でもみんなを集めたくらいでは、このゴミの中から人形の目を見つけるのは難しいだろう。

見つからない可能性が高いのに、この暑さの中探してもらうのはあまりにも申し訳がない。

 

「自分のわがままでみんなに苦労をかけるのが申し訳ないって顔してるな?いいんだよ苦労かけて!みんな、礼奈が困ってるって言ったら用事なんか放り投げてすぐに駆けつけてくれたんだ!大切な仲間である礼奈のために」

 

お兄ちゃんの言葉を聞き、みんなを見る。

みんな、お兄ちゃんの言葉に同意するように大きく頷いていた。

 

「ぐすっ・・・・み、みんな、ありがとう」

 

みんなの気持ちを受け取って胸が熱くなっていき、涙が溢れてくる。

 

「私、この子を元に戻したい!みんなお願い!私を手伝って!!」

 

 

「「「「「「もちろん!!!!」」」」」」

 

 

私の願いに、全員が笑顔でそう答えてくれた。

それを聞き、不思議とこの人形の落し物が見つかるような気がした。

 

 

灯火side

 

あのホラー人形を元に戻すために俺が行ったのは一つだけ、仲間に頼るということだった。

運命を変える奇跡を起こすには俺と礼奈だけでは足りない。

ゆえに仲間を集めるために村中を走り回った。

過去最高に走り回ったため、おそらく足が棒のようだが悔いはない。

 

「詩音はあっち、悟史君はあっちの山を。梨花ちゃんと沙都子は高さのないあっちの付近を探して」

 

魅音の指示に従って言われた場所へと散っていく。

こういう時、魅音は本当に頼りになる。

きっとこれから待ち受ける運命にも彼女の鋭い指揮には多く助けてもらうことになるだろう。

自分なんかよりもはるかに頼りになる妹の姿に苦笑いを浮かべながら俺も指示されたゴミ山へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・くそ、ここにもないか」

 

付近に散乱するゴミをかき分けて探すが、目的の物は見当たらない。

みんなで協力して探し始めて二時間は経っただろうか。

みんな体力の続く限り真剣に探してくれてるのだが、結果は芳しくない。

 

「・・・・やばいな、そろそろみんな限界だぞ」

 

この暑さの中、ひたすら日光にさらされながらの作業だ。

いくら田舎育ちで体力があるとはいえ、そろそろ本当に危険だ。

熱中症をなめてはいけない。下手すれば死ぬことだってあるのだから。

俺含めてまだまだ身体が出来上がっていない子供なのだ。

特に礼奈は俺がいない間も探し続いていたに違いない。

もう体力の限界のはずだ。

 

「・・・・梨花ちゃん、ちょっといいか?」

 

「・・・・何?」

 

「・・・・羽入は今どこにいるんだ?正直一番頼りにしてたのは羽入なんだが」

 

羽入ならば夏の暑さも関係ないし、半透明の身体を使えば、俺たちが見ることが出来ない場所だって楽々と入っていける。今回のような探し物を見つけるのに羽入ほど適した人間はいないだろう。

 

「・・・・どうせ祭具殿の中にでもいるんでしょう。あそこはあの子のお気に入りの場所だから」

 

祭具殿って確か・・・・雛見沢の昔の道具が保管されている場所か。

雛見沢の歴史が詰まっている場所とも言っていいところだが、中には数々の拷問器具があり、あまり見たい場所ではない。

それにあそこは神聖な場所として古手家以外の立ち入りを固く禁じられている。

 

「・・・・みんなもそろそろ限界だ。みんなを休ませてる間に羽入を呼んでくる」

 

羽入さえ来てくれれば一気に作業の効率が上がる。

そう思い、羽入のところへ向かうためにみんなに休憩を告げようとしたとき。

 

「あうあうあう~!やっと見つけたのですよ~!」

 

思わず気が抜けてしまいそうになるような、この場の疲れ切った雰囲気とは場違いな声がゴミ捨て場に響く。

正確に言えば、俺と梨花ちゃんにだけその声が響いている。

声が聞こえた方へ顔を向けると、俺と梨花ちゃんにしか見えない少女、羽入が俺たちを見て頬を膨らませながら飛んできている姿があった。

 

「あっ!灯火や梨花だけじゃない!礼奈に魅音に詩音に悟史に沙都子!みんないるのです~!梨花!どうして呼んでくれなかったんですか!仲間外れは嫌なのですよ~!!」

 

俺たちの目の前に着地して羽入がぷんぷんと音が付きそうな雰囲気で怒りを口にする。

それを見た梨花ちゃんの方から、ぶちっっと堪忍袋の緒が切れる音が、俺の耳に確かに聞こえた。

 

「・・・・これから一週間、辛い物しか口に入れないから覚悟しときなさい」

 

「え?えええええええええ!!?な、なんでなのですか!一週間辛い物だけなんて、僕が死んじゃうのですよー!あうあうあう!!!?」

 

「ま、まぁ落ち着け梨花ちゃん、これから羽入には頑張ってもらわないとダメなんだ。許してやってくれ」

 

目的の物が見つからない焦りと暑さのせいで溜まっていた苛立ちが羽入の一言で爆発したようだ。

静かにブチ切れている梨花ちゃんをなんとか落ち着かせる。

 

「羽入、ちょうど頼みたいことがあったんだ。力を貸してくれ」

 

「え?わ、わかったのです!灯火の頼みなら喜んで聞くのですよ!!」

 

そう言ってくれる羽入にありがとうと告げた後に、簡単に状況の説明をする。

 

俺の話を聞き終えた羽入は、礼奈の持つ人形を見て、驚愕で目を大きく見開いた。

 

「れ、礼奈の持つ人形から思念を感じるのですよ!あれはただの人形ではないのですよ!あうあうあうあ!!」

 

「はっ!?あの人形から思念を感じる!?」

 

羽入の突然の発言に大声で叫びそうになる衝動を必死に抑える。

え?・・・・じゃあなに?今現在、俺の妹が大事そうに抱えているあの人形は、ただの人形なんかじゃなくマジの呪いの人形だったってこと?

 

「ちょっ!?梨花ちゃん、早く礼奈にお祓いを!いや、先にあの人形にお札か何か貼り付けないと!」

 

 

「・・・・落ち着きなさい灯火。羽入、あれに思念が宿っているのはわかったわ。それで、その思念はどういったものなのかしら?」

 

梨花ちゃんが慌てる俺を冷静に抑える。

さすが神職の娘だけあって、幽霊やそういう類のものへの理解が早い。

 

「・・・・邪気は感じないのです。あの人形の思念からは悲しみと寂しさを多く感じるのです」

 

「・・・・悲しみと寂しさね。きっと持ち主に捨てられて悲しんでるんでしょうね」

 

羽入の言葉を聞いた梨花ちゃんが、礼奈の持つ人形に憐みの目を向ける。

あの人形は呪いの人形なんかではなく、持ち主に捨てられて悲しみ、一人で寂しがってる可哀そうな人形ってことか。

 

「・・・・羽入、あの人形の目を探すのを手伝ってくれるか?せめて綺麗な状態に戻してあげたい」

 

いくら人形とはいえ、それを知ってしまえば、もう無視なんてできない。

もしかしたら礼奈は、あの人形の思念をなんとなく感じていて、それで一生懸命探していたのかもしれない。

 

「ちょっと待ってくださいなのです・・・・見つけました!!かすかにですが、あっちにあの人形と繋がっている思念を感じられるのです!!」

 

目を閉じて何かを感じるように集中していた羽入が一気に目を見開いてある場所へと指を指す。

 

「お手柄だ羽入!案内してくれ!」

 

さすがは神様というべきか、あっさりと落ちた目の場所を発見してしまう羽入。

羽入の案内に従って目的の場所へと進む。

 

「・・・・ここなのです!ここから思念を感じるのですよ!」

 

「わかった!梨花ちゃん、しんどいだろうけど一緒に探してくれ」

 

「ええ、もちろんよ」

 

羽入の示す場所のゴミを慎重にかき分けながら探す。

目的の物は小さい目なのだ、見逃さないように入念に辺りを探る。

 

そしてついに

 

「・・・・あった、あったぞ!!!」

 

ずっと探していた人形の落し物をついに発見し、大声をあげる。

 

 

「お兄ちゃん見つけたってほんと!?」

 

「ああ、これで合ってるか?」

 

俺の声に反応してやってきた礼奈に見つけた目を渡す。

受け取った礼奈が人形の失っていた目へと入れると、不思議なくらい綺麗に入り、そのまま外れなくなった。

それを見てこの人形がただの人形ではないことを実感する。

みんなも声に反応して集まり、見つかったことに喜びの声を上げる。

 

「ありがとうお兄ちゃん!やっぱりお兄ちゃんはすごい!!」

 

「あ、いや、俺のおかげじゃないんだ」

 

みんなからの感心の声に曖昧な返事で返すことしかできない。

見つけたのは俺ではなく羽入なのだが、みんなにそれを説明しても意味がわからないだろう。

羽入を見れば、微笑ましそうにこちらを見ていた。

 

「・・・・きっと礼奈やみんなの思いにオヤシロ様が応えてくれたんだ。俺が見つけたのはきっと偶々オヤシロ様が見つける役を俺に選んでくれただけだよ」

 

なんとかそれらしい言葉で羽入のおかげであることを伝える。

みんなもそれを聞いて、オヤシロ様ありがとうと目をつぶって拝みながら感謝を伝えてくれる。

羽入は照れくさそうに頬を赤らめ、それを見た梨花ちゃんがニヤニヤと笑っていた。

俺もあとで羽入にシュークリームを献上するとしよう。

 

「えへへ、落とした目が元に戻ってよかったね」

 

欠けた目が戻り、元の姿を取り戻した人形の頭を撫でながら微笑む礼奈。

気のせいかもしれないが、礼奈に撫でられた人形が喜んでいるように感じた。

 

 

その後、目的の物を見つけ、しかももうそろそろいい時間なのでそのまま解散となった。

礼奈と共に集まってくれた仲間にお礼を言いながら見送る。

みんなには今度会う時に改めてお礼を言うことを心に誓う。

 

「・・・・ところで礼奈、やっぱりその人形、家に持って帰るのか?」

 

「?うんもちろん。こんなにかぁいいんだもん!お持ち帰りするに決まってるのかな!かな!」

 

やっぱそうだよなー!羽入は邪気がないって言ってたし、捨てられて寂しい思いをしてたって聞いて同情もあるんだけどさ、やっぱり怖いもんは怖いんだよ!

羽入みたいに可愛らしくて意思疎通が出来るのなら別だが、人形にそんなこと期待できないし、出来たら出来たで怖い気がするし、もうとにかく怖いのだ。

 

「まぁそれは置いといて、あっという間に遊ぶ時間がなくなってしまったな。久しぶりにゆっくり出来る時間だったのに残念だったな」

 

今まで園崎家への招集やらダム戦争の活動やらで慌ただしく動いていたため、ゆっくり遊ぶなんてことは出来なったのだ。

だからせっかくの久しぶりの休日がほとんど探し物で時間を使ってしまったのは残念に思ってしまう。

 

「そんなことないよ、確かにゆっくりお話しみたいにはならなかったけど、久しぶりに全員で集まれたんだもん。みんな忙しくて全員で集まることが出来なかったからすごく嬉しかったよ!」

 

「そっか、それならよかったよ」

 

「えへへ!もちろん一番嬉しかったのはお兄ちゃんといっぱい一緒にいれたことかな!かな!」

 

そう言いながら人形を抱えた反対の腕で俺へと腕を組んでくる礼奈。

 

「おい‥‥歩きにくいだろ」

 

「えへへ。ちょっとだけ」

 

そう言って離れる気がない礼奈。

風に乗って礼奈のいい匂いが届く。

汗をいっぱいかいたはずのなのにまったく不快感を感じさせない。

 

「お兄ちゃんいい匂いだよー」

 

俺がそう思っていると礼奈も同じことを言ってきた。

はは、前にも同じことしたな。

以前もこうやってゴミ捨て場から帰ったのを思い出す。

 

結局今回も、最後まで腕を組んだままだった。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに礼奈の持って帰った人形は、最近それぞれの一人部屋をもらった礼奈の部屋に置かれている。

大事そうにベッドの傍に置かれており、大事に扱っているようだ。

それだけならよかったのだが、たまに置いた覚えは一切ないというのにあの人形が俺の部屋に鎮座していることがあるのだ。

 

その度に俺の恐怖ゲージがマッハで突破し、俺の恐怖耐性を鍛えるのに多大なる協力をしてくれる。

礼奈の部屋に戻したとしても、ふと夜に目を覚ますと、当たり前のように目の前にいたりするので質が悪い。

 

羽入が言うには俺にも遊んでほしくてこっちに来るらしいのだが、こっちは怖くてしょうがない。

梨花ちゃんにお祓いをお願いしても新しい妹が出来て良かったじゃないと意地の悪い笑みで言われるだけで何もしてくれなかった。

 

 

 

俺の眠れぬ夜はその後しばらく続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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