レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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オヤシロ様の祟り 1 バラバラ殺人事件 

「それでは第一回!惨劇の運命なんか変えてしまえ!の作戦会議を始めます!!どんどん!パフパフ!いえーい!!」

 

「どんどん!あうあう~!!いえーいなのですよ~!」

 

「・・・・そこの二人、今すぐ黙りなさい」

 

目の前で騒ぐ二人を冷めた目で見つめる。

これから大事な話し合いをするというのにこの二人は緊張感というものを知らないのだろうか。

 

「いや、これから物騒な話をするんだから最初くらい明るく始めたほうがいいと思って、あ、ごめんなさい、そんなゴミを見るような目で見るのは勘弁してください」

 

意味のわからない言い訳を口にする灯火を睨んで大人しくさせる。

羽入は私の機嫌が悪くなっていることに気づいて口元を手で抑えながら震えていた。

 

「・・・・みんなの協力もあって赤坂の奥さんは無事救われた。だけど本当に大変なのはこれからだ、来年の綿流しの日に起こるバラバラ殺人事件、そしてそれから始まる惨劇の連鎖が俺らを待っている。最後なんて梨花ちゃんが殺されるというふざけた結末だ」

 

 

「・・・・」

 

 

「・・・・梨花」

 

灯火の話を聞いて俯いてしまった私を羽入が心配そうに見つめてくる。

 

「・・・・大丈夫よ、今までの記憶が蘇って少し嫌な気持ちになっただけ」

 

一度目を閉じて気持ちを切り替える。もう私は運命に屈したりなんかしない。

 

「もちろん、そんな結末には絶対にさせない。みんなで力を合わせれば変えられない運命なんてないってことはもうわかってるだろ?」

 

私が落ち着くのを静かに待っていた灯火がにやりと笑いながらそう口にする。

それを聞き、私と羽入もつられるように笑みを浮かべる。

 

 

「・・・・そうね、もう二度と殺されてなんかやるものですか」

 

「もうこれで最後にするのです!絶対にみんなで生きて昭和58年を越えるのです!」

 

改めて気合を入れなおし、私たちは運命を倒すための作戦会議を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・さっきも言ったが惨劇の連鎖をなくすために、一番最初に起こるバラバラ殺人事件を止める必要がある。こいつは数々の疑心暗鬼を引き起こすきっかけになる最悪の事件だ。何としてでも止めるぞ。まずは改めて事件の内容を確認する」

 

そう言って灯火はこれから起こる内容の説明を始める。

私も灯火の説明を聞いて自分の記憶と差異がないことを確認していく。

 

昭和54年6月の綿流しの日、ダム建設の現場監督の男が殺される。

 

四肢をバラバラにされた状態で発見され、右腕は見つかっていない。

 

犯人は同じダム建設の作業員たちで、現場監督と口論の末、全員でリンチをして殺してしまう。

殺された男は四肢をバラバラにされた状態で発見され、右腕は見つかっていない。

 

犯人は一人を除き警察に捕まったが、主犯格と思われる男は未だ捕まっておらず、そのまま行方不明に。

 

1人が殺され、もう1人が行方不明になる。それが雛見沢の古い伝承に似ていることからオヤシロ様の祟りと言われ始める。

 

これがオヤシロ様の祟りと言われる連続怪死事件の一番初めの事件の内容だ。

 

「この事件を止めるためには殺人を犯す作業員たちを事前に把握して逐一監視をし、作業員たちが犯行を行う瞬間に取り押さえる必要がある・・・・自分で言ってなんだが難しすぎるな」

 

「そうね・・・・まず現場監督を殺す作業員たちを把握することが出来ないわ」

 

「作業員は大勢いるのです、その中から何の手がかりもなしで犯人を見つけるなんて無理なのですよ・・・・」

 

羽入の言うとおりだ、村の人間であるならまだしも、大勢いるダム建設の作業員の中から怪しい人間を見つけることは不可能に近い。

 

「いや・・・・手がかりがまったくないとは限らないぞ」

 

「え?手がかりがあるって、なにがあるのよ?」

 

「・・・・この作業員たちは事故当時、雛見沢症候群を発症していた可能性がある。それも末期状態でだ」

 

「作業員が雛見沢症候群に・・・・ありうる話ね」

 

ダム反対運動は過激さを落とすことなく今も続いている。

そんな騒動に巻き込まれながら作業をしているのだ、ストレスは相当なものになるはずだ。

それこそ雛見沢症候群を発症してもおかしくないほどに。

 

「・・・・この事件が雛見沢症候群の発症により起こったものなのだとしたら犯行の瞬間を狙って取り押さえる必要もない。怪しいやつを入江さんに報告すればいい、末期状態じゃないのなら治すこともできるかもしれないしな。それで治るのならこの事件はそもそも起きることはない」

 

「おおおお!!確かにその通りなのです!それなら挙動不審な人たちを見つけて入江たちに報告するだけで全部解決なのですよ!!よく気づいたのです!すごいのですよ灯火!」

 

「・・・・まぁその見つける作業が大変なんだけどな。ずっと監視なんてできない以上、見つけるのが難しいことには変わりない」

 

「確かに難しいことには変わりないけど見つけられる可能性は高くなったわ。時間はいっぱいあるんだし、きっと見つかるはずよ」

 

だからお手柄よ灯火、と告げた私に灯火は曖昧な笑みを浮かべる。

 

彼のことだからもっと調子に乗って自信満々な笑みを受かべると思っていただけに意外だった。

 

自分の考えに自信がないのだろうか?

 

確かに絶対そうだとは限らないが、作業員が雛見沢症候群を発症していると考えるなら今までの話に筋がきちんと通るのだ。

 

行方不明の原因はわかってはいないが、そもそも事件を起こさなければ行方不明にだってならないはずだ。

 

「灯火?なんか元気がないのですよ、大丈夫ですか?」

 

羽入も私と思じように感じたのだろう。心配そうに灯火を見つめている。

 

「いや・・・・現場監督のおっさんは俺が無理やり解任させたからな。そのせいでこの事件がどうなるかわからなくなっちまった。事件が起きない可能性もあるが、現場監督の代わりに他の人が死んでしまった場合、それは間違いなく俺のせいだ。やった時はそんなこと考えもしなかったけど、もっとうまい方法があったかもしれないのに、俺の安易な行動でそれをなくしてしまった」

 

「・・・・それが元気のない理由ってわけね」

 

なるほど・・・・自分の行動によって死ぬ運命になかった人が死んでしまうのを恐れているのだ。

確かに、灯火の行動によって先の未来を知っているというアドバンテージを完全には活かすことが出来なくなった。

 

「もっとうまい方法があったかなんて結果を見なければ誰にもわからないわ。灯火は大石の恩人である彼を確実に救うために現場監督を解任させたのでしょう?だったらそれは間違ってなんかいないわ。あなたの行動で間違いなく一人の人間が救われるのだから。それによって誰かが傷つくのだったらその誰かも救ってしまえばいい話よ」

 

私たちならきっとそれが出来ると不思議と確信できた。

 

正直、この事件で私の知らない誰かが死んだとしても私は深く悲しむことはないだろう。

今まで多くの人の死を見てきたのだ。

大切な仲間ならともかく赤の他人がどうなろうと悲しみの感情を持てない。

 

でも灯火は違う。赤の他人でも彼は悲しむだろうし、自分のせいだと責任を感じてしまうだろう。

 

 

 

そんな彼を優しい人だと微笑ましいと思い、少しだけ羨ましいと思った。

 

 

「そうだな、みんな救っちまえばそれが最良の選択だったってことだもんな!!ありがとう梨花ちゃん!おかげで吹っ切れたよ!絶対みんな救ってやる!誰一人だって死なすもんか!」

 

「その意気なのですよ灯火!私たちも全力でお手伝いするのです!あうー!!!」

 

「まったく・・・・調子がいいのだから」

 

二人を見ながらつい呆れた目でそう口にする。

不満げな表情をしていたつもりだった私は、羽入に言われるまで自分が笑みを浮かべていることに気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

梨花ちゃん達と作戦会議をした日から多くの月日が過ぎた。

 

夏が過ぎ、冬を越え、春を迎えた。

 

ダム反対運動への参加を積極的に行いながら情報を集め続けているが結果は芳しくない。

 

礼奈たちに加えて、村の人たちにも声をかけて挙動不審な作業員がいたら教えてくれと言ってはいるのだが未だ見つかっていない。

 

もしかしたら現場監督が変わったことで雛見沢症候群が発症していないのではという楽観的な思いも生まれるが頭を振ってその思考を追い出す。

もしそうならそれが一番だ。

だが、まだ発見できていないだけの場合は惨劇の運命はきっと俺たちに牙をむく。

今年の綿流しを越え、ダム建設が完全に終了するまでは気を抜かないほうが得策だろう。

 

しかし、もうすぐ春も終わり夏になってしまう。

この前の園崎家での会議で、今年の綿流しはどうするかという話だって出た。

もう時間がない。

惨劇の運命の牙をへし折るために、次の一手が必要だ。

 

「というわけでおっさん!!作業員の中で変な奴がいると思うから教えて!!」

 

「誰がおっさんだ!」

 

「ぐぇ!?」

 

俺の言葉にイラついた声と共に拳骨が振り下ろされる。

痛みに涙目のなるのをなんとか抑えながら、いきなり拳骨を振り下ろしてきた男を睨みつける。

 

この男こそ、この事件の鍵を握る人物。

 

元ダム建設の監督にして大石さんの恩人とも言える男。

 

そして、俺によってこの事件の舞台から無理やり引きずり降ろされた男でもある。

 

 

 

俺の目の前にいる男こそ、バラバラ殺人事件で殺されるはずだった人物その人だ。

 

 

この人こそがこの事件を止めるために必要な鍵であると俺は確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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