新話投稿しました。
また前話にて感想、誤字脱字報告ありがとうございました。
誤字脱字に関しては減るように頑張ります!
「それでは第6回!お泊り会恒例行事、枕投げを始めるよー!」
「いや、やらないから」
両腕いっぱいに枕を抱えた魅音から自分の枕を奪還する。
俺たちの枕を全部自分が抱えている状態で枕投げをしようとは手癖が悪いにも程があるだろう。
「あー!お兄ちゃんなにすんのさー!」
「6人も部屋にいて狭いんだから大人しくしてろ」
「魅音さん!私の分も返してくださいまし!枕投げをするのは構いませんが、武器がないことには始まりませんわ!」
魅音の暴挙に沙都子がジト目で文句を言う。
そもそも第6回ってなんだ。枕投げなんて1回もやってないし。
まさか俺がいない時にやってたりしてるのか?だとしたら少し寂しいぞ。
「はうー!枕をいっぱい抱えてフラフラしてるみぃちゃん、とってもかぁいいよう!お持ち帰りー!!」
「ちょっ!?礼奈!?ぶわぁっ!?」
かぁいいモードへとなった礼奈に抱き着かれてバランスを崩す魅音。
そのまま2人とも床に敷かれていた布団へと枕を空中に手放しながら倒れていった。
「おねぇったら久しぶりにみんなとお泊りだからって騒ぎすぎー。あ、お兄ちゃん今夜は一緒に寝ようね!」
腕に抱き着いてきた詩音の頭を撫でながらどうしてこうなったのかと内心頭を抱える。
今回に限っては冗談抜きの真面目な話を梨花ちゃんと共に悟史と沙都子にするつもりだったのだ。
だというのに、こいつらは一体どこから湧いてでてきたんだ!
最初は予定通り悟史と沙都子だけだった。
だというのにその後すぐに、当たり前のようにこいつらが家に上がり込んできやがった。
それもお泊り用の着替えや道具一式まで全部持って。
「詩音、俺はここに泊まることは悟史にしか言っていないんだが、誰から今日のお泊りのことを聞いたんだ?」
「え?礼奈が教えてくれたよ?」
俺の質問にキョトンとした顔で答えてくれる詩音。
礼奈だと!?バカな、俺は礼奈にも今日のことは言っていないはずなのに!
詩音の話を聞いて礼奈に視線を向ける。
俺の視線に気づいた礼奈は、倒れた魅音の上に乗っかりながら顔を伏せ、こちらからは表情を隠したまま静かに口を開く。
「お兄ちゃん。私ね、お兄ちゃんが悟史君と電話している時、ずっとお兄ちゃんの後ろにいたんだよ?」
「っ!!??」
礼奈からの告白に心臓が跳ねる。嘘だろ。あの時、俺の後ろにはずっと礼奈がいたっていうのか!
「私の部屋に置いてあったお人形がなくなってたから、またお兄ちゃんのところかなって思って部屋に行った時、お兄ちゃんの話し声が聞こえてきたの」
あいつのせいかー!!あのかまってちゃんの呪いの人形(笑)のせいかー!!
確かに今日の朝から置いた記憶もないのにベッドの上にいやがったよ!
しょうがないから髪をくしで整えてやったのに、もうしてやらねぇぞ!
「こっそり聞いてみれば、梨花ちゃんの家にお泊りしようって話を悟史君と話してた」
「うっ・・・・」
礼奈の指摘に言葉を詰まらせる。
俯いて表情が見えないが、これは怒ってるよな?
「その話を聞いて、私もすぐにお兄ちゃんから誘われると思ってたのに!お泊り道具も準備して、みぃちゃん達にも声をかけて準備万端で待ってたのに!」
いや先走りすぎだろ!家の中でやけにニコニコとした表情でこっち見てるなと思ったらそういうことかだったのか!
「わ、悪かったよ。今回は悟史と沙都子に用があってだな。お泊り会はそのついでみたいなものだったんだ」
「嘘だ!!」
「いや嘘じゃねぇよ!!」
こんなところで奇跡的に原作再現するんじゃねぇよ!
「礼奈は知ってるんだよ!お兄ちゃんと悟史君が梨花ちゃんと沙都子ちゃんにあーんなことや、こーんなことをするつもりだったことを!電話で話してるのをちゃんと聞いたんだよ!」
「言ってねぇ!お前実はほとんど会話聞こえてなかっただろ!それは全部お前の願望だ!」
あの時の俺は緊張してかなり真面目なトーンで話していたはずだ。
間違ってもそんな冗談を言うような余裕なんてなかったわ!
「へーお兄ちゃん。私たちを除け者にして悟史君達とだけでお泊りを楽しむつもりだったんだー」
礼奈の話を聞いた詩音が拗ねた表情でこちらを見上げながらそう口にする。
うぅ、藪蛇だった!大人しく今の状況を受け入れていればよかった!
「不潔ですわ!常日頃から灯火さんから下種な視線を感じてはいましたが、私と梨花に不埒な真似をするつもりだったのですね!!」
礼奈と詩音への対応に難儀していると、追撃をするように沙都子がこちらへと噛みついてくる。
よく見たら魅音も礼奈の下で落ち込んだ表情をしてしまってるし。
うがぁ!こんな状況、どこから対処したらいいんだよ!
「あはは、みんな落ち着いて。灯火は僕たちに用事があったからお泊りに誘っただけで、みんなを蔑ろにしてたわけじゃないと思うよ」
「みぃ、悟史の言う通りなのです。灯火は悪くないのですよ」
半分説得を諦めていたところ、タイミングを見計らったかのように悟史と梨花ちゃんが寝室にやってきた。
「3人とも、確かに誘わなかったのは悪かった。お詫びは今度するから今回は許してくれ」
2人の言葉で少し落ち着いた様子の礼奈たちに謝罪する。
確かに仲の良い友達が遊んでいるのに自分たちが除け者というのは寂しいよな。
こっちにも事情があったとはいえ、一言声をかけるべきだった。
「えへへもういいよ!お兄ちゃんにも何か事情があったみたいだし」
「しょうがないねぇ!お兄ちゃんからのお詫び楽しみにしてるね!」
「だね、この借りは大きいよお兄ちゃん!」
俺が頭を下げると笑顔で許してくれる3人。
お詫びは怖いが、それで許してくれるなら甘んじて受け入れよう。
「うん解決したようだし、女の子たちはお風呂が沸いたから行ってきたらいいよ。僕と灯火は後で入るから」
「みぃ、礼奈と魅音と詩音が先に入るといいのですよ。僕と沙都子は後から入るのです」
どうやら悟史と梨花ちゃんはお風呂が沸いたことを知らせに来てくれたようだ。
そして梨花ちゃんがうまく機転を利かせてくれる。
礼奈たちがお風呂に行っている間に悟史と沙都子に話を聞いてしまうつもりなのだろう。
「じゃあ先に入るね!行こみぃちゃん、しぃちゃん!」
「うん、詩音とはよく一緒に入るけど礼奈とは久しぶりだね!」
「お兄ちゃん、覗いたらダメだよ?」
「覗かないから早く行ってこい」
小学生のましてや妹たちのお風呂を覗いて何が楽しいんだ。
詩音の言葉に呆れながら3人を風呂へと送り出す。
「・・・・これで僕たちだけになったね。灯火、それに梨花ちゃん。僕たちに話があるって言ってたけど何かあったの?」
3人が寝室から出ていくのを見届けた悟史がこちらへ顔を向けながら口を開く。
どうやら気を利かせてくれたようだ。
「ああ、悪いな。気を使わせて」
「ううん気にしないで。電話で話した時、灯火の声がずいぶんと真剣だったからね。きっと大事な話があるんじゃないかと思ったんだ」
「そ、そうなのですか灯火さん?」
悟史の言葉を聞いて不安そうな表情の沙都子がこちらを見つめる。
「悟史の言う通り、大事な話があるんだ。それも2人にとってはあまり気分の良い話ではないと思う」
「・・・・その話は僕1人が聞くだけじゃダメなの?」
俺の話を聞いてどういう話をこれからするのかを察したのか、沙都子を話の輪から外そうとする。
悟史には悪いが、これは2人に確認しないといけないことだ。
「・・・・みぃ、これは沙都子にも聞かないといけないことなのですよ」
「うぅ、なんだかお二人とも怖いですわよ。一体私たちに何の話があるんですの?」
不安からか悟史の手を握りながら口を開く沙都子。
ここで躊躇って礼奈たちが戻ってきたら意味がない、話を進めよう。
「話があるのは悟史、沙都子。お前ら2人の両親についてだ」
「「・・・・」」
俺の言葉を聞いて沙都子の顔にはあからさまに嫌悪が生まれたことがわかった。
やはり沙都子と両親の溝は深いようだ。
悟史は、複雑な表情で浮かべながら口を閉ざしたまま話の続きを待っている。
「これは秘密だが、ダム建設計画はすぐに凍結する。数週間もしないうちに正式な通知があるはずだ。そうなったら今までの状況が一変する。お前らの両親は確実に居場所をなくす」
今まではダム賛成派としてダム反対派のみんなと戦っていた。
しかしダム計画が凍結した以上、もう戦うことは出来ず、かといって戻る居場所もない。
「そしてこれは予想だけど、お前ら2人をめぐって公由さんを筆頭とした雛見沢の人達とお前らの両親で争奪戦が起こると思う。彼らが雛見沢を出ていくことになるとしても、お前らも一緒に連れていきたいはずだ」
これは確実に起こるだろう。
なぜなら悟史と沙都子には知らされていないが、2人の両親は何度も2人を取り返そうと公由さん達と激しい口論をしている。
この話は園崎家での親族会議にも何度も報告がされていた。
暴力沙汰にはなっておらず、彼らも悟史たちの安全のために身を引いてはいたが、ここを出ていくとなると話は別だ。
今まで以上の騒ぎに発展するにきまってる。
「これから先は嫌でもお前らを中心に騒ぎが起こる。どういう終わりを迎えるのか俺にもわからない。だから今のうちに2人の願いを聞いておきたい、2人の親友として俺たちはそれが叶えられるように協力したい」
公由さんのところに残るのか、両親についていくのか、それとももっと別の道を選ぶのか。
何を選んでも出来る限り協力するつもりだ。
来年の綿流しの日に2人の両親の死を防ぐためにも、2人の願いに従って動くことが最善だと信じる。
「「・・・・」」
俺が話し終えてから2人は俯いたまま黙ってしまい、沈黙が場を支配する。
いきなりの話だ、戸惑うのは当然だ。
何も今すぐに答えが出るとは思ってない。
今この瞬間に思ったことを教えてくれるだけで十分だ。
2人が黙ってから数分が経過した時。
悟史が顔を上げてゆっくりと口を開こうとした時。
「・・・・僕は「私はあんな人たちとは会いたくもありませんわ!」
悟史がゆっくりと話し始めようとした瞬間、それに覆いかぶさるように沙都子の口を開く。
「私とにーにーはこのまま公由さんのところで暮らしますわ!あの人達はどこへでも行ったらいいのですわ!もう私たちとは会わないずっと遠くに!」
そう叫んで沙都子は寝室から逃げるように出ていってしまった。
「っ沙都子!灯火、僕は沙都子のところに行くのです」
出ていった沙都子を追いかけて梨花ちゃんも寝室から消える。
残ったのは俺と悟史だけだが、さっきまでと同じように沈黙が続く。
沙都子がそう言うだろうとは思ってはいた。
だから沙都子とはこれからも根気よく話をしていき、しっかりと両親について考えてもらってから最終的に判断してもらえばいいと思ってる。
「悟史、お前の意見はどうなんだ?教えてくれ」
悟史は両親についてどう思っているのだろうか。
以前に公由さんに家族から離れるために家に泊めてくれとお願いしていたのを覚えているが、やはり沙都子と同じ気持ちなのだろうか。
もし悟史も沙都子と同じ気持ちなら、残念だが俺たちもそういう風に動くべきなのかもしれない。
「・・・・僕は、沙都子の意見に従うよ。もう僕たちと両親にはどうしようもない程深い溝が出来てしまっているんだ。公由さんは良くしてくれてるし、沙都子も公由さんに懐いてる。このまま両親と離れて暮らすほうが良いに決まってる」
「・・・・そうか。いきなり嫌な質問してごめんな。でも2人の意見が聞けてよかった。これで俺たちも2人のためにどう動くべきかわかったよ」
「・・・・嫌な質問だなんて、こっちこそこれから僕たちのことで迷惑をかけるかもしれないのに。本当にごめん」
「友達だろ、そんなこと気にすんなよ!」
申し訳なさそうに謝る悟史に笑顔で答える。それを見た悟史も同じように笑顔を浮かべた。
辛くて泣きそうな表情を隠して無理やり笑ってた。
悟史のバカ野郎、それはお前の意見じゃないだろうが。
沙都子の気持ちを尊重しただけで、お前の気持ちは全然言えてないだろ。
今回は深く聞かないが、落ち着いたら沙都子同様、お前の本当の考えをしっかり聞かせてもらうからな。
「「「・・・・」」」
寝室から聞こえてきたお兄ちゃんと悟史君のやり取りを聞き終え、お兄ちゃん達に見つからないようにそっと寝室から距離を取る。
その間、私もみぃちゃんもしぃちゃんも無言だった。
頭の中でお兄ちゃんの言葉が繰り返される。
このままだと悟史君と沙都子ちゃんの両親は村から追い出されて、もしかしたら2度と2人とは会えなくなるかもしれない。
そんな悲しいことはしてほしくない。でも、どうすればいいのかまったくわからない。
「・・・・おねぇ、さっきのお兄ちゃんの話って本当なの?」
寝室から離れた場所に移動してからしぃちゃんが先ほどの話についてみぃちゃんに確認する。
お兄ちゃんと同じく大人たちの話し合いの時に一緒にいるみぃちゃんならさっきの話について詳しく知っているのかもしれない。
「・・・・正直可能性は高いよ。ここだけの話、悟史と沙都子の両親は何度も2人を取り返そうと公由さん達と口論をしてるんだよ。だからダム建設が凍結した後、今度こそ2人を取り返そうと今までよりもさらに激しい喧嘩になるだろうね」
「「・・・・」」
みぃちゃんからの言葉で私もしぃちゃんも無言で顔を伏せる。
寝室に忘れ物をしたことに気付いて取りに戻ろうした時、たまたまお兄ちゃん達の会話を聞いてしまった。
最初はお兄ちゃんが言っていた悟史君たちへの用事の話だと興味津々で聞いていたけど、今となっては聞くべきじゃなかったと後悔してる。
2人が両親と離れて暮らしてることはわかってた。でも、2人はそれを気にする様子もなく楽しそうにしていたから気にもしてなかった。
同じ村に住んでいるのに、親と子供が別々の場所で暮らしていることが、普通なわけがない。
「どうにかできないのかな?かな?私は家族と一緒に雛見沢で仲良く暮らしてほしいよ」
自分が悟史君達の立場ならきっと今の状況に耐えられない。
私はお母さんもお父さんも大好きだし、離れて暮らすなんてきっと寂しくて耐えられないだろう。
でも、悟史君達はそうは思ってはいなかった。
先ほど2人から親と離れるという意思を確かに聞いてしまった。
2人は、特に沙都子ちゃんは、その言葉がどれだけ悲しいことなのかわかってはいないと思う。
私が当たり前のように感じてる幸せを、2人は知らないのだ。
だからそれがどれほど悲しくて、寂しいことなのかすらわからない。
今家族と離れてしまったら、きっと2人は後悔する。
そんな思いが私の胸を駆け巡る。
「礼奈、家族と一緒に暮らすことで悟史たちが幸せになるとは限らないよ」
私の言葉をみぃちゃんは迷うことなく切り捨てる。
「私は悟史と沙都子の意見に賛成だね。今の状態が一番2人にとって幸せだよ。たとえ親と会えなくなることになったとしても」
「・・・・おねぇ」
みぃちゃんの断言するような言葉にしぃちゃんも口をつぐむ。
今まで悟史君や沙都子ちゃんはもちろん、2人の両親のことも見てきたみぃちゃんだから断言ができるのだろう。
それでも私は・・・・2人には両親が必要なのだと考えてしまう。
お兄ちゃん・・・・私はどうすればいいのかな?
心の中でそう問いかけるが、答えが返ってくることはなかった。