羽入「言ってやったのですよ!」(`・∀・´)エッヘン!!
梨花 「・・・・・」
以上!
少々キャラ崩壊が起こりますが、ご了承ください。
「灯火さん!礼奈さん達を妹にしただけでは飽き足らず、梨花ちゃんをお嫁さんにするつもりですか!ずるい!私と代わってください、今すぐに!」
梨花ちゃんの発言から真っ先に
先ほどまで落ち着いて優しいお医者さんだった入江さんは一瞬でいつもの変態にジョブチェンジしてしまった。
相変わらずこの人は反応がやばすぎる。
ていうか礼奈を妹にしたってなんだ!
魅音や詩音はともかく礼奈は元から俺の妹だ!
入江さんの頭の中で俺と礼奈の関係がどうなっているのか非常に気になる。
俺が心の中でそうツッコミを入れると入江さんの声で我に返ったみんなが次々と口を開いて声を発する。
なぜか俺に向かって。
「灯火君!梨花とそんな関係になっていたなんて聞いていないよ!どうして教えてくれなかったんだい!?」
うん、そんな関係になってないから聞いてないのは当然だね。
梨花ちゃんのお父さんの言葉に冷静にツッコミを心の中で入れる。
「まさか、もううちの梨花とあんなことや、そんなことまでしているなんて。灯火君、同じ男として気持ちはわかるけど、物事には順序というものがあってね」
言ってない。
「灯火さん!一人で梨花ちゃんにメイド服を着せて楽しんでいたなんて聞いてませんよ!どうして私を呼んでくれなかったんですか!私たちは綿流しの日に共に地獄を巡った仲じゃないですか!」
言ってない。
「あらあらあら!灯火ちゃんが梨花のことを嫁にするほど大好きだなんて、もう!早く教えてくれなきゃダメじゃない!これからは私のことをお義母さんって呼んでね灯火ちゃん」
言ってなぁぁぁぁぁぁい!!!!
次々にマシンガンのように連続で打ち込まれる言葉の数々についに限界を超えて心の中で叫ぶ。
バカかあんたらは!小学生の言葉を真に受けてんじゃねぇよ!
こんなの娘がお父さんに、私、将来お父さんのお嫁さんになる!って言ってるのと同じだろうが!
それを真に受けて妄想を爆発させてんじゃねぇよ!!
「うふふふふ、灯火ちゃんと梨花ちゃんがそんな関係だったなんて知らなかったわぁ。このことは礼奈ちゃん達は知っているの?知らないなら私のほうから教えておくわねぇ」
それはやめてくださいお願いします!
礼奈や魅音たちに知られたら間違いなく殺される。
面白そうに悪い笑みを浮かべる鷹野さんを見て冷や汗をかく。
今すぐに誤解を解きたい!
でも、ここで誤解を解いたら今度こそ俺はこの場から追い出されてしまう。
俺が内心で現状の打開策を必死に考えていると、満面の笑みの羽入がこちらへと飛んできた。
「ふっふっふ!どうですか灯火!僕の狙い通りなのです!さぁ、一気にたたみかけるのですよ!!」
この状況を見て自分の狙い通りだと自信満々に告げる羽入。
顔を見れば、もう絵に描いたようなドヤ顔を浮かべている。
・・・・無言でさっきから沈黙している梨花ちゃんに視線を移す。
梨花ちゃんはこちらから見てもはっきりとわかるほど顔を真っ赤に染め、その真っ赤になった顔を俯かせて小さく何かを呟いていた。
「・・・・羽入殺す羽入殺す羽入殺す羽入殺す羽入殺す羽入殺す羽入殺す羽入殺す羽入殺す羽入殺す」
「・・・・」
「あう?灯火、僕の顔をじっと見てどうかしたのですか?」
梨花ちゃんから視線を切って羽入へと戻す。
羽入は梨花ちゃんの声が聞こえていないようで、キョトンとした表情で首を傾げている。
「灯火ちゃん!梨花と結婚の約束はいつしていたの?早くお義母さんに教えてちょうだい!」
無言の俺に痺れを切らした梨花ちゃんのお母さんが俺の肩を掴みながらそう問いかけてくる。
・・・・羽入が命を賭してまで実行してくれたこの作戦、俺が終わらせるわけにはいかない!
「・・・・ふ、ご想像にお任せしますよ」
余裕たっぷりの表情を浮かべながらそう口にする。
その時に梨花ちゃんに視線を送るのを忘れない。
いかにも梨花ちゃんと何か特別な関係であるかのように装う。
ここでミスって俺が追い出されては散っていった羽入が報われない。
俺は決死の覚悟を内に秘めながら自分がここにいるために再度口を開いた。
結果だけを見れば羽入の考えた作戦のおかげで俺は話に参加することが出来た。
俺が知る中でかつてないほど上機嫌になった梨花ちゃんのお母さんが入江さんにゴリ押しで俺の同席を認めさせたのだ。
もちろん梨花ちゃんのお父さんからも俺の同席を認める言葉があり、梨花ちゃん本人のお願いもあって、入江さんは諦めたように俺の同席を許可してくれた。
入江さんの説明の時も梨花ちゃんの発言を聞いたおかげなのかスムーズに進み、最終的な説明と協力の相談は診療所で改めてという形になった。
もちろん診療所で説明がある時も一緒についていくつもりだ。
そして今回のMVPである羽入なのだが
「・・・・」
床に突っ伏してピクリとも動かない。
「は、羽入。大丈夫か?」
心配になって声をかけるが返事は返ってこない。
ピクリとも動かない羽入を心配そうに見つめていると俺の隣に梨花ちゃんがやってきて、自身の口の中に何かを放り込んだ。
「・・・・もぐ」
「あう!?」
梨花ちゃんが口の中に入れた何かを噛んだ瞬間、先ほどまで微動だにしなかった羽入の体がビクンと跳ねる。
その後も梨花ちゃんが何かを噛むごとに羽入は海面に打ち上げられた魚のように跳ね続ける。
「・・・・梨花ちゃん、何を食べてるんだ?」
羽入のあんまりな姿に目を背けながら梨花ちゃんに問いかける。
羽入と梨花ちゃんは味覚を共有している。
だから梨花ちゃんが羽入の嫌いな辛いものか何かを口に入れているのは確かだ。
しかし、この反応はキムチとかのレベルではない気がする。
「・・・・」
俺の言葉を聞いた梨花ちゃんは俺と視線を合わせないまま無言で俺の手の上に何かを置く。
手に視線を下げて梨花ちゃんから渡されたものを確認する。
・・・・生のトウガラシがそこにはあった。
梨花ちゃんの手を確認すれば、手からはみ出る程の大量のトウガラシの姿が見えた。
一体今までの間に何個食べたんだ梨花ちゃんは。
試しに自分も一口食べてみる。
口の中でトウガラシを嚙んだ瞬間、舌が痺れる程の辛みが口の中を襲う。
「っ!?」
慌てて近くにあったコップで水を汲んで飲む。
うん、これは羽入では耐えられないわ。
無言でトウガラシを食べ続ける梨花ちゃんに恐怖を覚える。
きっとトウガラシ以上のものが家の中にあれば梨花ちゃんはそれを躊躇うことなく自身の口の中へと入れていたことだろう。
そもそも、なんで古手家にはこんな大量のトウガラシがあるのだろうか。
「梨花ちゃん、そろそろ羽入を許してやってくれ。羽入のおかげで俺は話に参加できたんだ」
これ以上は羽入が現実世界に戻ってこれなくなると判断した俺は梨花ちゃんへの説得を試みる。
「それといい加減俺から顔を背けるのはやめてくれ。地味に傷つくぞ」
あの話以降、梨花ちゃんは俺と話どころか視線すら合わせようとしない。
「・・・・」
俺の言葉を聞いた梨花ちゃんはプイっと効果音が付きそうな程見事に俺から顔を背ける。
これはしばらく機嫌は直りそうにないなと嘆息していると、苦しそうにうめき声をあげる羽入の姿が目に入った。
「あう・・・・ここは?僕はさっきまで久しぶりに会った地獄のみんなと楽しくお話をしていたはずなのですが」
さっきまで痙攣を繰り返していた羽入が息を吹き返す。
そしてボーっとした表情で辺りを見回し、梨花ちゃんへと視線を向ける。
「んん?あ、赤鬼さんがいるのですよ!ふふ、相変わらずお顔が真っ赤なのです!お元気だったですか?」
焦点の合っていない目で梨花ちゃんを見つけたかと思えば、とんでもないことを口にする羽入。
「・・・・誰が赤鬼ですって?」
羽入の発言を聞いた梨花ちゃんは髪の毛が逆立っている姿を幻視するほどの怒気を身に纏わせながら羽入に向かって口を開く。
「あう?・・・・よく見たら赤鬼さんじゃなくて梨花だったのです!?あうあうあう!違うのですよ梨花!今の人違いで、決して真っ赤な顔をした梨花を見てバカにしたわけでは」
「今すぐ黙って死になさい!!」
「ストップだ梨花ちゃん!これ以上は本当に羽入が死んでしまう!」
羽入を黙らせようと自身の口に再びトウガラシを入れようとする梨花ちゃんを背後から手を掴んで拘束する。
さっきまで臨死体験をしていた羽入がこれ以上辛みを摂取してしまうと、本当にどうなるかわからない。
梨花ちゃんと俺の位置的に背後から抱き着くようにしてしか梨花ちゃんの両腕を掴むことは出来なかった。急いで梨花ちゃんを止めるためだったとはいえ、完全なセクハラである。
前回の風呂場での経験から梨花ちゃんと沙都子はこういうセクハラを許さないことは身体で理解している。
裸を見た時と同様に引っ張り倒されて足蹴りを受けることを覚悟する。
しかし、梨花ちゃんは俺が腕を掴んでから無言で硬直してしまっている。
「~~~~~~~っ!!?」
後ろから拘束をしているため梨花の顔を見ることは出来ないが、小刻みに身体が震えていることからお怒りなのは間違いないだろう。
「はわ、はわわわわわわ!?灯火が梨花を、灯火が梨花を!?」
羽入が梨花ちゃんの顔を正面から見てしまったようで顔を真っ赤にさせて震えている。
え、そんなにやばいの?
先ほどまでの羽入の姿をこれから起こる自分の姿に重ねて青ざめる。
「梨花ちゃん落ち着くんだ。これは不可抗力なんだ、このままだと羽入も梨花ちゃんもトウガラシに味覚を破壊されてしまう、小学生の舌は敏感なんだからあまり刺激するのはよくない。だから今の状況は決して梨花ちゃんにセクハラをしたかったわけじゃなくて結果的にこうなってしまっただけなんだ」
これから自分に起こる事態を想像し、なんとか危機を脱しようと早口で言い訳を口にし続ける。
トウガラシは嫌だトウガラシは嫌だトウガラシは嫌だ!!
グリフィンドール!!(錯乱)
「わ、わかったから離れてちょうだい!もう羽入には何もしないわ」
「待て、羽入にはってことは俺には何かするつもりだな。トウガラシは嫌だ!絶対に離してたまるか!」
「勝手に疑心暗鬼になってるんじゃないわよ!あんたにも何もしないから離しなさい!」
梨花ちゃんの言葉を信じて手を放して梨花ちゃんから離れる。
梨花ちゃんは宣言通り何もすることなく呆れたようにため息を吐きながらこちらへと向き直る。
「はぁ、今日はなんだか疲れたわ。でもとりあえず今回の話にあなたが参加できてよかったわ。非常に癪だけど羽入の作戦が功を奏したわね」
「えっへんなのです!」
「どうやらトウガラシがまだ足りていないようね」
「あうあうあう!?もう一度トウガラシを食べてしまったら僕は今度こそ三途の川を渡ってしまうのですよ!」
梨花ちゃんの言葉で胸を張った羽入だったが、梨花ちゃんの次の言葉で顔を青ざめながら身体を震わせる。
梨花ちゃんの言葉で次々と顔色を変える羽入に憐みの表情で見つめる。
「次は診療所でと入江は言っていたわね。その時にはあなたに声をかけるから準備をしておいてね」
「ああ、次が本番だからな。ちゃんと準備しておくよ」
いよいよ雛見沢症候群について本格的に関わっていくことが出来るんだ。
今後のためにも行くかないという選択肢なんてない。
「ええ、それで今日はこれからどうするの?うちでご飯を食べていくのかしら?」
「いや、家に戻るよ。礼奈と一緒に公由さんのところに行って悟史たちと話をするつもりだ」
梨花ちゃんからの昼ごはんの誘いを断ってしまったのは申し訳ないが、これから悟史達に会いにいく予定だ。残り時間も少ない、行動するなら早いほうがいい。
「・・・・そう、わかったわ。2人のことをお願いね」
「ああ、2人に両親についての話をしてくる」
どういう結果になるかわからないが、2人に両親について聞くのはこれで最後にするつもりだ。
これから俺は今日聞いた2人の意志に従って行動する。
2人が両親と離れたいと願うなら魅音や公由さんと協力するつもりだ。
「じゃあな、梨花ちゃんのお母さんとお父さんにさっきの婿の発言で何か言われたら何とか誤魔化しておいてくれ、雛見沢症候群の話が終わるまでは誤魔化さないといけないからな」
「わかってるわ。はぁ、なんでこんなことに」
頭を抱えながらそう呟く梨花ちゃんを見て苦笑いを浮かべてしまう。
・・・・とりあえず鷹野さんにはどうにかして黙ってもらわないと。
内心で鷹野さんが気に入りそうな賄賂を考えてながら俺は帰路へとついた。
「あ、お兄ちゃん!やっと帰ってきた!」
「悪い、少し用事で遅れた」
家の近くまで戻ると家の外で礼奈がソワソワと落ち着きのない様子で立っている姿が目に入った。
今日、悟史達に会いにいくことを伝えていたため俺の帰りを待っていたようだ。
礼奈に謝罪の言葉を口にしながら家へと入る。
・・・・結局あれから考え続けてはいるが、今の沙都子の両親に対する考えを変えれるような都合の良い話は思いついていない。
沙都子は原作では家族の問題で雛見沢症候群を発症するくらい追い詰められた。
原作とこの世界では沙都子の環境は全くと言えるほど違ってはいるが、それでも家族の問題があることは変わりない。
俺が下手なことを言って沙都子を追い詰めてしまい、その結果雛見沢症候群を発症してしまったら元も子もない。
「お兄ちゃん、お顔が怖いよ。これから悟史君達に会いにいくのに、お兄ちゃんがそんな顔をしてたら心配させちゃう」
最悪のことを考えて眉間に皺を寄せてしまった俺を礼奈が注意してくれる。
礼奈の注意を聞いて深呼吸をしながら悪い思考を頭から追い払う。
「ありがとな礼奈」
「ううん、気にしないで!あ、お兄ちゃんこの卵焼きは礼奈が作ったの!どうかな?かな?」
「めちゃくちゃうまい!・・・・母さんに教えてもらったのか?」
「うん!お母さんもうまく出来たねって褒めてくれたの!」
「・・・・そっか、よかったな!」
嬉しそうに報告をしてくれる礼奈の頭を撫でる。
一瞬母のことを考えて言葉を返すのが遅れてしまった。
これから悟史達に家族の仲を取り戻すために話に行くっていうのに俺がこんなことでどうする。
余計な考えてを頭から追い出して食事に集中する。
「・・・・」
「・・・・お兄ちゃん」
「礼奈、もうすぐ公由さんの家に着くがその前に改めて確認するぞ」
「うん!」
あれから食事を終えてすぐに家を出て悟史達がいる公由さんの家を目指して歩きだした。
公由さんの家は俺たちの家から少し距離があるとはいえ、雛見沢内を歩くだけなので数十分歩けば家にたどり着く。
公由さんの家の近くまでやってきた俺たちは今回のことについて最終打ち合わせをする。
「今回俺は沙都子、礼奈は悟史に家族の話を聞くことになる。どう話すかは礼奈に任せるが、いけそうか?」
「うん、不安がないと言えば嘘になるけど、2人のためだもん!頑張る!」
気合十分といった表情で俺の言葉に返答する礼奈。
礼奈の表情を見て、俺も改めて覚悟を決める。
「それぞれ一対一で話せるようにしないといけないな。礼奈、俺が2人を誘導するから話をあわせて」
「・・・・待ってお兄ちゃん、何か聞こえるよ」
俺が今回の段取りについて話そうとしていると、礼奈が俺の言葉を遮るように言葉を口にする。
礼奈の言葉を聞いて耳を傾けてみると、確かに誰かの話し声が耳に届く。
「・・・・これ、公由さんの家のほうだよね。聞こえてくる声も、すごく怖い感じの声」
「・・・・みたいだな、急いで公由さんの家に行こう」
礼奈の言う通り、聞こえてくる声は複数人の人間が言い争いをしているように荒っぽい声ばかりだ。
公由さんの家のほうから聞こえてくる時点で声の主たちが誰なのか当たりはついている。
どうやら俺たちは嫌なタイミングで訪ねてきてしまったのかもしれない。
「・・・・やっぱりか」
公由さんの家にたどり着いて声の主を確認した俺は、自分の予想通りの光景に思わず言葉が漏れてしまう。
「・・・・お兄ちゃん、あそこで公由さんと言い争いをしている人達って悟史君達のお父さんとお母さんだよね?」
「・・・・ああ、俺らは嫌なタイミングで来ちまったみたいだ」
礼奈の言葉を肯定しながら目の前の光景を隠れながら観察する。
今まで公由さんから話は聞いていたが、直接見てみると自分が思っていた以上に激しい口論がされている。
「何度来ても無駄じゃ!貴様らに2人は絶対に渡さん!!」
「ふざけるな!あの子たちは俺達の子供だ!!」
「この村を裏切った貴様らなど、あの子たちの親と名乗らせてたまるものか!さっさとこの村から出ていけ!!」
「うるさいわね!!あの子たちを取り返したら言われなくてもすぐに出ていくわよ!!」
公由さんと悟史達の両親の口論は終わることなく次第に熱を帯びていき、ここからでもはっきりと聞こえるまでになってきた。
俺たちは三人の口論に口を挟むことが出来ず、黙って成り行きを見守り続ける。
今の状況を何とかしたいが、俺がここで出ていけば状況が悪化しかねない。
やるせない気持ちを胸に抱えてたまま状況を見ていると、突然勢いよく公由さんの家の扉が開く。
「いい加減にして!!」
3人の声をかき消すような大声が上がる。
声をしたほうへと目を向ければ
「・・・・沙都子」
声の先には公由さんの玄関から現れた沙都子の姿があった。
沙都子は声を張り上げた後、自身の両親へと視線を向ける。
その視線は決して親に向けるようなものではなく、ただただ敵を見るかのように睨みつけていた。
「さ、沙都子・・・・」
沙都子の登場によって先ほどまでの口論は終わり、両親は戸惑ったような表情で沙都子を見つめている。
「もううんざりですわ!いつもいつも私たちのところに来て騒いで、もう私たちと関わらないで!!」
「沙都子、俺たちは君たちとまた一緒に暮らして、やり直したいだけで」
「知らない知らない知らない!!もう私たちの前に現れないで!!お母さんもその人と一緒にどっかに行けばいいじゃない!どうせ私のことなんていらないって思ってるくせに!!」
「さ、沙都子!私はそんなこと思ってないわ!お願いよ!私たちのところに帰ってきて!」
「うるさい!そんなこと言っても信じられない!!」
沙都子の暴言と呼ぶべき言葉を受けてなお、両親は必死に沙都子へと言葉を送る。
しかし、沙都子は聞く耳などないと示すかのように耳を手で塞ぎながら言葉を吐き続ける。
俺たちは沙都子の暴走を止めるために公由さんの家に向かおうとした時、沙都子の後ろから悟史が現れるのが見えた。
「沙都子!大声が聞こえてきてみれば、何をしているんだ!?」
玄関を開けたことで部屋にまで声が届いたのか、慌てた様子で沙都子へと駆け寄る悟史。
そして現状を理解したのか、両親を視界に捉え、固まってしまった。
「あっ・・・・」
悟史は2人を見て固まった後、すぐに目を伏せて沙都子を連れながら家へと戻ろうとする。
「悟史君!話を聞いてくれ!」
「悟史!お願い待って!!」
家へと戻る悟史達を見て、慌てたように制止の声を両親は出すが、悟史は悲しげに目を伏せながら無言で扉を閉めてしまった。
「「・・・・」」
悟史達が公由さんの家へと戻ってしまったのを見た2人は無言のまま顔を伏せてしまい、公由さんの出ていけという言葉に抵抗する様子もなく帰ってしまった。
「・・・・」
俺と礼奈も黙って両親が去っていくのを見続ける。
項垂れたまま去っていく2人の背中にかける言葉が見つからない。
それに、先ほどの沙都子の様子を見て現状を再認識してしまった。
これは、今すぐに悟史達に声をかけるべきなのだろうか。
両親の口論を目撃した直後で、沙都子に至っては2人に気持ちの整理も出来ないままに暴言を口にしてしまっている。
今の家族に対する悪感情が強い中、俺たちの期待する言葉を聞けるとは思えない。
ここは一度出直すべきか?
「・・・・お兄ちゃん、2人のところに行こ」
同じように先ほどの光景を見てから黙ってしまっていた礼奈が俺の手を引っ張りながら公由さんのところへと向かおうとする。
「礼奈、今の光景を見ても2人に会いにいけるのか」
公由さんから話を聞いていた俺でされ直接現場を見て固まってしまったのだ。
事前情報さえ詳しく知らなかった礼奈の衝撃はそれ以上のはずだ。
「・・・・沙都子ちゃんの言葉を聞いて、私が思ってる以上にひどい状況なのがわかったよ。みぃちゃんの言う通り、このままここで暮らすのが2人にとって一番なのかもしれないって思ったりもしたよ。もしかしたら今2人は私たちに会いたくないのかもしれない」
でも、と言葉を区切りながら再び口を開く。
「2人のあんな、今にも泣きそうな顔を見ちゃったら、じっとなんて出来ない!傍にいてあげたい!それに今行かなくちゃ、2人の本当の気持ちを分かってあげられないと思うの!!」
真剣な表情で俺を見つめてくる礼奈。
2人のところに行くべきか、行かないべきか。
先ほどまでの自分の考えと礼奈の言葉の両方を天秤にかけて選択する。
「わかった、2人のところに行こう」
辛い思いをしている友達の傍にいてやりたいという礼奈の気持ちは正しい。
それに、礼奈の言葉を聞いて考えたが、感情が荒立っているからこそ聞けることもある。
覚悟を決めて礼奈と共に公由さんの家の扉へ手をかける。
どんな結果になろうとも後悔だけはしないために、そして2人にとって最高の未来を掴み取るために。
礼奈と同時に玄関の扉を開く。
今日でこの問題解決への糸口を必ず見つけてみせる。
次話は悟史と沙都子の視点からのお話になると思います。
また、この後から真面目な話が少し続くことになると思いますが、次も読んでくださると嬉しいです。