レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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話し合い 2

「沙都子、喧嘩の時間だ」

 

俺の言葉に戸惑う沙都子を見ながら考える。

さっきの沙都子の話。

両親が自分を連れ戻そうとする理由は自分の監視をするためと言っていたが、俺はそんなことは考えてはいないと思う。

 

先ほどの公由さんとの口論を聞いていたら、2人がどれだけ必死に悟史と沙都子を連れ戻そうとしているのかがわかる。

なにより沙都子に拒絶されて、無言で肩を落としながら公由さんの家を後にする姿を見て、2人を思っていないとは考えたくない。

 

沙都子は勘違いをしている。

沙都子の中では両親は自分のことを愛してなんかいないと思い込んでしまっている。

 

2人が自分のことを愛しているわけがない。

だから連れ戻そうするには何か理由があるはずだ。

 

そう考えてしまい、今の考えが生まれている。

 

ならば沙都子の愛されていないという意識を取り除くことが出来れば両親との不和の解消に繋がるかもしれない。

 

ただ、沙都子の勘違いを正すことは簡単ではない。

こいつは一度そう思い込んだらそう簡単には自分の意志を曲げないのだ。

 

原作でも悟史がいなくなったのは自分が悟史に甘えすぎてしまったせいだと思い込み、叔父の鉄平に虐待を受けても抵抗せずに状況を受け入れてしまった。

 

自分が誰にも甘えずに耐え続けていれば、悟史が帰ってくると信じて。

 

そんな意志の強い沙都子にそれは違うとただ言っただけでは話にならない。

 

沙都子の意見を変えるには、嫌われるくらいの覚悟でお互いの意見をぶつけ合い、最終的にこちらの意見を認めさせるしかない。

 

悟史は沙都子に優しすぎる、どれだけ言っても最終的に悟史のほうが折れてしまうだろう。

なら梨花ちゃんや礼奈ならどうだろうか。

もしかしたら梨花ちゃんや礼奈が本気で沙都子を説得したら、沙都子は説得に応じるのかもしれない。

だがそれは、梨花ちゃん達に嫌われたくないから従っただけで内心では両親を決して受け入れてはいないだろう。

 

それではダメだ。

水面下で溜まり続けたストレスは雛見沢症候群という形でいずれ爆発する。

沙都子の本心を聞き、そのうえで本当に両親と一緒にいてもいいと思わせるしか道はない。

 

そして礼奈が沙都子と話すのが一番の親友である梨花ちゃんではなく俺が適任だと言った理由。

 

沙都子が本心をさらけ出し、遠慮なく意見をぶつけるとしたら俺が一番適任だと礼奈は思ったんだ。

確かに沙都子が一番遠慮なく接しているのは俺だと思う。

一番付き合い長く、喧嘩だって何度もしてる。悪友とも言ってもいい。

 

もしこの場に圭一がいれば、彼が一番の適任だっただろう。

俺にはこの案しか思いつかないが、彼なら口先だけでもっとスムーズに沙都子の意志を変えることが出来るのかもしれない。

だがこの場に彼はいない、彼がここにくるのはまだ何年も先だ。

だから自分のやり方で沙都子の意志を変えるしかない。

 

「沙都子、お前のその考えは全部ただの勘違いだ。両親はお前のことを必要ないなんて思ってない」

 

「・・・・」

 

俺の言葉に先ほどまで戸惑っていた沙都子の表情が変化する。

人を殺しそうなほど鋭い目でこちらを睨みつけてくる。

 

「ちゃんと今までの話を聞いていましたの!?お母さんは私なんか生まなければよかったと私に言いましたわ!新しくやってきた男も何度も私を怒鳴ってきました!これだけであの二人が私をどう思っているかなんてわかりきっているでしょう!」

 

「いいや違うね!確かにお前の母親はそう言っただろう。はっきり言って母親失格だ。だがお前の母親はそう言ったきりずっとお前を邪魔者扱いしてたのか?」

 

沙都子の母親が沙都子に言った言葉は最低だ。

いくら感情的になっていたとしても言っていいことと悪いことがある。

 

だが、当事者ではない第三者の立場だからこそ気付ける視点がある。

さっき会った時の様子を見れば、少なくとも沙都子のことを邪魔者と思っているとは思えない。

ちゃんと沙都子が好きな母親らしい一面だってあるはずだ。

 

「お前の母さんは感情的になって言ってはいけないことを言ってしまったんだと思う。だがそれ以外の時ならお前にそんなことは言わないんじゃないのか?」

 

沙都子と遊んでいる時にたまに家族の話をする時があった。

その時の沙都子は父親のことを嫌悪を出しながら語っていたが、母親のことは何も言っていなかった。

父親と違って実の母親なんだ。沙都子も悪感情だけとは思えない。

 

「確かにお母さんは私に優しくしてくれましたわ、生まれてきてくれてありがとうって抱きしめてくれた時だってありました・・・・」

 

沙都子は顔を俯かせながら消え入るような声でそう呟く。

 

 

「でも!それはにーにーと私と三人だけで暮らしていた時だけですわ!!新しい男がやってきてからは私とその男を無理やり仲良くさせようとばかりしてきて、私のことなんてまったく考えてなんてくれなかった!!」

 

顔を上げると同時に溜まっていた鬱憤を吐き出すかのように叫ぶ。

 

 

「私が思い通りに動かないとため息を吐くようになっていきました!そして、最後には・・・・」

 

沙都子は殴りつけるかのように言葉をぶつけた後、次第に声が小さくなっていった。

目には涙が溜まり、今にも零れ落ちようとしている。

 

「・・・・沙都子」

 

目に溜まった涙が落ちて沙都子の頬に流れていく。

その光景を見て思わず言葉を失う。

 

両親への怒りや憎しみを俺にぶつけてくると思っていたが、今まで我慢してきた母からの言葉への悲しみまで表に出してくるとは思わなかった。

 

それだけこちらに心を開いてくれているんだと信じる。

 

「結局お母さんは新しくやってきた男が一番大事なんですわ!それならもう私たちなんか捨ててどこへでも行ったらいいのに!なのに!!」

 

「しつこくお前たちを取り戻そうとしている。なぜなら置いていったらお前たちが2人の幸せを邪魔すると思っているからか?」

 

「っそうですわ!!」

 

沙都子の言いたい言葉を先に口にする。

沙都子の話を聞いて内心で考える。

沙都子の本心では母親のことは憎んでなんていない。

むしろ今でも心の底では好きだが、新しくやってきた父親に母親が取られたと思っている。

好きだった母親を見知らぬ男に取られ、母親を取り返そうとすれば取り返そうとした母親から辛辣な言葉を向けられる。

それは今よりさらに幼かった当時の沙都子の心をどれだけ傷つけたのだろうか。

そう思えば今の両親の行動が自分を大切に思っているからだと考えられないのも当然だろう。

だが

 

「何度でも言うぞ、それはお前の勘違いだ!」

 

今のままでは沙都子も両親も悲しすぎる。

どちらのためにもここはこちらの意志を譲るわけにはいかない。

 

「前に悟史から聞いたことがあるぞ、悟史が公由さんに家においてくれと頼んだ次の日に公由さんがお前の両親を叱ったらしいな。その後からお前らへの両親の対応が変わったって、自分たちと仲良くするために頑張ってくれているって嬉しそうに悟史が言っていたぞ!」

 

「それが何だって言うんですの!本当の父親でもない男が父親面して近寄ってきても気持ち悪いだけですわ!公由さんに叱られて少し大人しくなっただけ!すぐにイライラして私を追い出そうしたに決まってますわ!」

 

「勝手に決めつけてんじゃねぇよ!公由さんにあれだけ怒鳴られてもお前らを取り返そうとする両親を見ろ!あれだけ必死になってるのは、お前らのことが大切だからに決まってるだろうが!相手のことを知ろうとしないで勝手に失望してんじゃねぇよ!」

 

「そっちこそ私たちの今までの暮らしを詳しく知らないくせに勝手に決めつけないで!!」

 

俺の言葉に対して沙都子はこちらを殴りつけるかのように怒りをのせながら言葉を返してくる。

そして俺も殴り返すように沙都子に自分の意見を沙都子にぶつけ続ける。

 

その後も何十回と言い合いを続けていく。

沙都子が荒い息を吐きながら苛立ったように歯を噛み締めた後に口を開く。

 

「あんたに私の気持ちなんて絶対にわからない!!両親と仲の良いあんたなんかには絶対にわかるもんか!!」

 

叫ぶように放たれた沙都子の言葉に強制的に口を閉ざされる。

不意打ちでくらったその言葉に顔が歪むのを自覚する。

 

「・・・・俺が両親と仲が良いって言ったか?」

 

今まで沙都子の言葉に対して即答していた口が重たくなる。

沙都子はそんな俺を見て攻め所を見つけたと言わんばかりにすぐに口を開く。

 

「そうですわ!私と違って素直で可愛い礼奈さんと優しい両親と暮らせてさぞ幸せなんでしょうね!」

 

「・・・・」

 

「なんか言ったらどうですの!!」

 

黙り込む俺を見て不審に思ったのか眉をひそめながら言葉を発する沙都子。

沙都子の言葉で俺も重たくなった口をようやく開ける。

 

「・・・・俺が両親と仲が良い?そいつはお前の勘違いだ」

 

「はぁ?何を言っていますの?」

 

俺の言葉に意味がわからないと眉をひそめる。

そんな沙都子を見ながら俺は誰にも言ったことのない自分の本当の感情を沙都子に話すことを決めた。

言うべきではない、自分は母親のことが嫌いなのに沙都子には好きになれと言っているなんてバレたら聞く耳なんてもってはくれない。

 

だが、ここで嘘をついたまま沙都子と両親の不和の解消が出来るとはどうしても思えなかった。

 

「俺は母親を嫌悪している。きっとお前が父親に感じている嫌悪に負けないくらいにな」

 

「っ!? 嘘ですわ!!礼奈さんからあなたの家の出来事をたまに聞きますが、灯火さんが母親を嫌っているなんて話は聞いたことがありませんわ!」

 

「当たり前だ、頭の中で思っているだけで行動になんか出してない。張本人の母親だって俺から嫌われてるなんて思ってもないさ。もちろん礼奈も父親も知らない」

 

信じられないとばかりに固まる沙都子を見ながらため息を吐く。

 

「はぁ、お前より俺のほうがよっぽど質が悪いよな。お前は再婚の父親だが、俺は生みの親だ。笑ってもいいし、殴ってもいいぜ、さっきまで偉そうに説教してたくせにお前のほうがひどいじゃねぇかってな」

 

「・・・・どうしてお母さんのことが嫌いなのですか?」

 

俺の言葉を聞いて怒りが冷めたのか、小さな声で俺に問いかけてくる。

 

「俺の頭が、いつか母さんが父さんと礼奈を裏切るんじゃないかって疑っているんだ」

 

沙都子の問いに対して俺は自嘲気味に笑いながら答える。

 

「もちろん全部俺がそう思い込んでいるだけで、母さんは父さんを裏切って浮気をしてるわけじゃないし、家族仲良く暮らしてる。そう、わかっているのに。どうしても俺の頭からその考えがこびりついて離れない」

 

家族仲良く話せていて安心していても、たまに母さんが父さんに少し素っ気ない態度を取っただけで俺は母さんはもう父さんのことを愛していないのではと疑ってしまう。

実際は仕事で疲れているから素っ気ない態度を取ってしまっただけなんだろう。

頭ではそうわかっていても頭からその考えが離れてくれない。

 

「沙都子、お前は俺と一緒なんだよ、今までの父親と重ねてしまって相手にとって自分は邪魔な存在だと思い込んでいるんだ。でも実際は違う、両親はお前と悟史と笑顔で一緒に暮らしたいだけなんだ」

 

「・・・・」

 

沙都子は俺の言葉を口を閉じたまま聞いている。

俺はそんな沙都子の様子を見て口を開く。

 

「納得できないか?」

 

「・・・・ええ、納得できませんわ。私が両親に必要だと思われているなんて考えられませんわ」

 

「・・・・そうか。俺もそうだし気持ちはわかるよ。だったらもう、無理に説得するのはやめる」

 

難しそうに顔を歪めながら返答された言葉に納得する。

こいつは俺と一緒でそう思いたくてももう出来ないんだ。

沙都子の中の勘違いさえ正せればなんとかなると思っていたが、今のままだと仮に勘違いを正せても結局は疑いが残る。

 

「ただ、これだけは頼む。今度両親がお前らに会いに来た時に少しでいいから今日俺が話したことを思い出してくれないか?」

 

沙都子はまだ俺と違って救うことが出来る。

俺の場合は原作知識、言ってしまえば未来の知識を知ってるからこそ完全に疑いを消すことは出来ない。

沙都子は長年の刷り込みによってそう思い込んでしまっているだけだ。

だったら何かきっかけさえあればその思い込みを解消できるかもしれない。

 

「・・・・今日のことを思い出すだけでいいんですの?」

 

「ああ、今日のことを頭に入れたうえで両親の話を聞いてくれ。その時にどう思ったのかを後で俺に教えてくれ」

 

両親は自分のことを邪魔だと思っていない。

それを頭の片隅にでも置いてくれたなら、沙都子の思い込みを解くことが出来るきっかけになるかもしれない。

 

「・・・・わかりましたわ」

 

しばらく考え込むように黙っていた沙都子がゆっくりと頷きながら口にする。

 

「ありがとう」

 

自分の願いを聞いてくれた沙都子に礼を言いながら頭を下げる。

沙都子はそんな俺を見ながら静かに口を開く。

 

「・・・・灯火さんが母親のことを嫌いだと言った時、最初は信じられませんでしたわ。でも、その後の灯火さんの顔を見て本当なんだと気付いた時、自分でも気づかない内になんとかして灯火さんとお母さんが仲良くなれないのかと考えていました」

 

私は灯火さんの願いを聞かないくせに、灯火さんとお母さんには仲良くしてほしいって無意識のうちに考えていましたのと沙都子は自嘲気味に笑う。

 

「それで、灯火さんも同じように私と両親のことを思ってくれているんだと気付けました。だから・・・・その、ありがとうございます。私たちのためにこんなに一生懸命言葉を伝えてくれて」

 

そう言って照れ臭そうに頬を染めながら頭を下げてくる。

それを見た俺も恥ずかしくなって言葉を濁してしまう。

 

「あ、いや、大切な友達のためなら当然だろ。お前に素直にお礼を言われると調子が狂うからやめてくれ!」

 

慌てて沙都子に頭を上げるように言う。

沙都子に礼を言わせるためにここまで言ったわけではないんだ。

俺の言葉を聞いた沙都子は頭を上げ、その後言いづらそうに顔を少し歪めながら口を開く。

 

「・・・・もし、本当にもしもですけど、私が両親と仲良くなれたとしたら」

 

そこで言葉を区切った後、沙都子は真っすぐ俺を見つめながら口を開く。

 

「今度は私が灯火さんとお母さんを仲良くさせてみせますわ。だから、決してお母さんとの関係を諦めないでくださいまし」

 

「・・・・沙都子」

 

沙都子の言葉が自身の胸を温めてくれるのを感じる。

今まで胸の内に秘めていた思い。

似た思いをもつ沙都子からの言葉だからこそ俺の心に真っすぐに伝わった。

 

「ありがとう、その時は頼むよ」

 

「ふふ、任せておいてくださいまし!私にかかれば灯火さんの問題なんて一瞬で解決ですわ!」

 

俺の礼に対して得意げに胸を張る沙都子。

そんな沙都子を見て笑みを浮かべながら口を開く。

 

「ただ、このことは誰にも言わないでくれよ。沙都子だからこそ打ち明けたんだ。当分の間は俺と沙都子だけの秘密で頼む。特に礼奈にだけは知られたくない」

 

このことを礼奈が知ればあの暖かな笑顔を曇らせてしまう。

それだけは絶対にしたくない。

 

「・・・・私と灯火さんだけの秘密」

 

「おい、意味深に呟くな。本当に言うなよ、フリじゃないからな」

 

「わ、わかってますわ!」

 

意味深に呟く沙都子を見て冷や汗を流す。

こんなところで悪ノリをされたらたまったものではない。

 

 

さて、沙都子のことはこれでいい。

説得は無理だったが、両親について少しは聞く耳を持ってくれるようになってくれた。

ここから沙都子の思い込みを解き、両親との不和をなくすためにはまだまだしなければならないことがある。

 

ひとまず礼奈と悟史がどうなったのかを確認しよう。

礼奈と悟史が決めた答えを聞いてから今後の行動に移ろう。

 

今後の行動についてはまず2人の両親に接触する必要がある。

両親は沙都子達を連れてここから離れようとしている。

それをここに残ったまま沙都子達と暮らしてもらうように説得しなければならない。

今現在の沙都子たちの心情を伝え、村との関係改善についても考えてもらわなければならない。

もしそれらが全部うまくいったとしても、最後には一番の難敵である雛見沢の住民全てを説得しなければならない。

特に園崎家の説得なんて考えただけで気が沈む。

 

 

まだまだ先は長いなと沙都子にバレないように小さくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・」」

 

 

 

 


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