レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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話し合い3

「「・・・・」」

 

部屋から聞こえた灯火の言葉で頭が真っ白になる。

沙都子の大声が聞こえて様子を見に来てみれば、耳に届いた言葉は予想すらしていないものだった。

 

灯火が自分のお母さんを嫌っている?

 

そんなこと、今まで一度だって考えたことはなかった。

たまに礼奈の口から語られる家族の話では、灯火は仲良さそうに両親と過ごしていると聞いていた。

家族のことを嬉しそうに語る礼奈を見て、まさか灯火が母親を嫌悪していたなんて思いつくはずがない。

 

「・・・・礼奈」

 

同じく2人の会話を聞いてしまった礼奈に視線を移す。

大好きな兄が同じく大好きな母を嫌っていた。

今の礼奈がどれほどのショックを受けてしまったのか想像も出来ない。

そんな礼奈になんと声をかければいいかわからず、彼女の名前を言ったきり口を閉じてしまう。

 

「悟史君、お兄ちゃんと沙都子ちゃんの話も落ち着いたみたい。だから2人が部屋を出る前にここから離れよ」

 

 

「え、う、うん。わかったよ」

 

僕の予想と裏腹に冷静な声でこの場から離れようとする礼奈に従って沙都子の部屋から距離をとる。

 

部屋から十分離れたのを確認すると、礼奈はなにを言えばいいかわからず黙ってしまっている僕を真っすぐに見つめながら口を開く。

 

「悟史君、さっきのお兄ちゃんが話してたことなんだけど、お兄ちゃんには私たちが聞いてたことを秘密にしてほしいの」

 

「え?それはもちろんいいけど・・・・礼奈はその、大丈夫なの?」

 

礼奈からさっきの会話を聞いていたことを秘密にしてほしいとお願いされる。

それについては僕ももともと言う気はなかった。

でも、僕が心配しているのはそこじゃない、礼奈自身のことを心配しているんだ。

冷静そうに見える礼奈だけど、内心ではどう思っているのかが不安になる。

 

「・・・・実はね、お兄ちゃんがお母さんのことをあまり好きじゃないってわかってたの」

 

「っ!?」

 

悲しそうに顔を少し俯かせながら語られる礼奈の言葉に固まってしまう。

それと同時にどうして礼奈がこんなに冷静なのかを理解した。

 

「・・・・気付いたのはけっこう最近なんだ。悟史君達の家族の話をお兄ちゃんとするようになって、何か悟史君達の助ける考えが出ないかなってお母さん達のことをよく見てたの。その時にお兄ちゃんの様子に違和感を覚えて」

 

「そう、だったんだね」

 

灯火はさっき沙都子に秘密にしてくれと言っていた。

つまり灯火は礼奈が気付いていることを知らないんだ。

そして礼奈はそのことを黙っていようとしている。

何とかできないのかな。

礼奈達は僕たちのことを助けようとしてくれているんだ。

だったら同じように僕も2人の力になりたい。

僕はそう礼奈に伝えると彼女が悲しそうな表情のまま薄く微笑んだ。

 

「・・・・ありがとう、正直に言うとお兄ちゃんがお母さんのことを嫌いって知ってすごく悲しいんだ。でも、さっきお兄ちゃんの話を聞いてたらお兄ちゃん自身もなんとかしようって頑張ってるんだってわかった」

 

だから私は待ってる。

っと悲しい笑みを浮かべたまま語る礼奈。

灯火がこのことを知れば、きっと悲しみ、何とかしようと自分を追い詰めてしまうだろうから。

だから自分は何も知らないことにして、灯火が自分で克服するのを待つ。

そう、礼奈は語った。

 

「きっと悟史君達の家族の問題を解決することは、お兄ちゃんにとって自分の抱えている問題を解決するために必要なことなんだと思う。だから悟史君、さっきのことは忘れて自分達のことを考えて。それが結果的にお兄ちゃんの助けになるはずだから」

 

「そうだね、僕たちの問題を解決することで灯火の助けにもなるんだったら僕は全力で家族と幸せに暮らせるように頑張るよ!」

 

礼奈の言葉を聞いて気を引き締める。

僕たちの家族の幸せが灯火の助けになるんだとしたら、これほど嬉しいことはない。

僕たちの問題も、灯火の問題もどっちも解決してみせる。

そして全部が片付いたら、思いっきり灯火を怒ってやろう。

そう簡単には許してやるもんか。

僕が心の中で決意していると、話が終わったのか、沙都子の部屋の扉が開かれる音が耳に入る。

礼奈と視線を合わせて合流するために2人のところに向かう。

廊下を歩くとすぐに灯火と沙都子が視界に入る。

灯火の横を歩く沙都子は先ほどまでの両親へ怒鳴った時にくらべ落ち着いており、このところずっと張り詰めていた表情も緩くなっている。

2人の話はほとんど聞いてはいないけど、礼奈が僕にしてくれたように、灯火が沙都子と家族の件で話し合ってくれたんだろう。

 

「2人の話はもう終わってるみたいだな」

 

「うん!ばっちりだよ!」

 

僕らに気付いた灯火が礼奈に話しかける。

それを聞いた礼奈は笑顔で灯火に答えていた。

先ほどまでの悲しい表情はもう見えない。

そのまま灯火は僕たちが2人の話を聞いていたことに気付かずに礼奈と話し始めた。

僕も灯火に察せられないように先ほどのことを心の底に隠しながら僕が家族の件で決心したことを話すために灯火と礼奈の話に加わる。

 

 

 

 

「そっか、やっぱり悟史はそう思ってたんだな」

 

僕の話を聞いた灯火は笑顔で僕の答えを肯定してくれた。

僕たち家族のために礼奈と共に全力で協力すると言ってくれる。

灯火の笑顔を見て、僕の心が温まるのを感じる。

礼奈といい灯火といい、本当に2人には助けられてばかりだ。

 

「・・・・にーに」

 

灯火と話し終えると近くまでやってきていた沙都子に名前を呼ばれる。

沙都子は僕の手を握りながら申し訳なそうな表情を浮かべながら口を開く。

 

「にーに、ごめんなさい。私、にーにがそんな風に思っていたなんて考えてすらいませんでしたわ。私のためにずっと我慢してくれていて、私はずっとわがままを」

 

「沙都子、気にしないでいいんだよ。伝えなかったのは僕だし、それに礼奈に言われるまで自分自身でも自分の願いを否定していたくらいなんだから」

 

謝罪を口にする沙都子の頭を優しく撫でながら口を開く。

 

「・・・・正直に言うと、まだ両親と一緒に暮らすのに抵抗がありますわ」

 

沙都子は不安な思いをのせながら僕に語る。

今まで沙都子は両親のことを強く憎んでいたくらいなんだ、いきなり僕の考えを受け入れるなんてことは難しいことはわかってる。

ここで強く反対しないだけで灯火が沙都子とうまく話し合ってくれたことが察せられる。

 

「わかってるよ、僕の願いのために沙都子が我慢してくれなんて言うつもりはないんだ」

 

僕が我慢をやめた分沙都子に我慢を強いらせるなんて本末転倒にも程がある。

礼奈が僕に教えてくれたように、僕も沙都子もみんなが幸せにならないと意味なんてないんだから。

 

「にーにー・・・・私も灯火さんと話して、少しだけ両親について考えを変えることが出来ましたわ。少しだけ2人と向き合ってみようと思えるようになりましたの」

 

僕の話を聞いた後に沙都子は自身の心の変化を打ち明けてくれる。

今はまだ無理だけど、変わろうとしてくれているんだ。

新しくやってきた父さんを拒絶し、そのせいで母さんからは暴言を吐かれて心を擦り減らしてしまっていた沙都子がだ。

本当に灯火は、沙都子にどのような魔法を使ったんだろう。

沙都子の兄として少し嫉妬してしまうけれど、それ以上に感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

「さて、お互いの気持ちも確認できたことだし、これからのことについて考えていこう」

 

僕と沙都子、それぞれの気持ちを聞いた灯火が今後のことについて話し始める。

僕たちの最終的なゴールは雛見沢で仲良く家族で暮らすことだ。

そのために僕たちがすべきことを灯火が説明してくれる。

 

「目標達成のために俺たちがやらないといけないことはこの3つだ」

 

灯火が自身の指を三本立てながら説明を続ける。

灯火が語ったのは以下の2つだ。

 

1つ目は僕たちと両親との意思疎通

両親は僕たちを連れて雛見沢の外で暮らしたいと思っている。

けれど僕たちは一緒に暮らすことは同じだけど、このまま雛見沢で暮らしたいと思っているんだ。

それを両親に説明し、ここに残るように動いてもらわなければならない。

 

 

2つ目は両親と村の人達との不和の解消。

ここで暮らすためには両親と村の人達が喧嘩したままではダメだ。

しかし、これがどれだけ難しいことなのかはわかってる。

僕はこれが無理だと思っていたからこそ自分の願いを封じていたのだから。

ダム反対運動の時、僕の両親は賛成派として行動し、魅音たちの両親に暴言を吐いてしまった。

それによってもともと深かった溝がもうどうしようもない程の深いものになってしまっている。

 

でも、これをなんとかしない限り僕たちがここで両親と幸せになる未来は来ないんだ。

 

「2人の両親と村の人達の仲直り、これは俺達だけじゃあ絶対に無理だ。これからもここで暮らしていく以上、2人の両親には園崎家はもちろん、村の人達全員に頭を下げてもらわないとダメだ」

 

「・・・・そのためにまず、悟史君たちの両親に会わないとダメだね。悟史君達が一緒にここで暮らしたいってことを伝えて村の人達と仲直りしてもらうように言わないと」

 

灯火の言葉を礼奈が引き継ぐ。

礼奈の言う通り、僕たちが次にやらなくてはいけないことは両親に会い、僕たちの意思をしっかりと伝えることだ。

ダム建設によって公由さんの家に住まわせてもらえるようになってから、僕たちは両親とまともに話していない。

だからこそ、今回しっかりと会話をして両親に村の人達との不和をなんとかしてくれるように説得しなければならない。

 

「ありがとう2人とも。すぐに両親のところへ行ってみるよ!」

 

時間をかければかけるほど両親と村の関係は悪化していく。

僕がしなければいけないこともわかったんだ、今すぐに動き出したい。

 

「・・・・私は」

 

「沙都子も一緒に来てほしいんだ。何も言わなくていい、ただ僕の話と両親が僕たちのことをどう思っているのかしっかり聞いてほしい」

 

俯いて行くことを躊躇っていた沙都子の手を握りながらお願いする。

ここで沙都子が一緒に来ることは、沙都子のためにもなると思うから。

 

「・・・・わかりましたわ、私もにーにーと一緒に行きますわ」

 

「ありがとう、沙都子」

 

「もちろん礼奈たちもついていくよ!」

 

「ああ、礼奈の言う通り俺達も協力するぞ」

 

沙都子から僕と一緒に来てくれるようという言葉を受け取ると同時に礼奈と灯火も一緒に来てくれることを伝えてくれる。

 

「ありがとう2人とも、2人が来てくれたらすごく頼もしいよ」

 

今回の両親の説得には2人の手を借りるつもりはない、1から10まで2人に頼りきりになりたくないから。

それはこれは僕たち家族の問題、僕たち家族で解決しなければいけないことだ。

でも背中を見てくれているだけで心が随分と軽くなるのを感じる。

 

「悟史君、沙都子ちゃん!頑張って!2人なら絶対お母さんとお父さんを説得できるよ!」

 

「ありがとう礼奈、2人のためにも絶対に仲直りしてみせるから」

 

「・・・・うん、ありがとう悟史君」

 

僕の本当の意味を理解して寂しそうに笑う礼奈。

彼女の本当の笑顔を取り戻すためにもしっかりしなくてはいけない。

 

「じゃあさっそく「待ちなさい」

 

気合を入れ直して早速両親の元へと向かおうとした時、僕の言葉に被せるように声が届いた。

 

「公由さん!?」

 

声をほうへ振り替えれば険しい表情をした公由さんの姿があった。

その顔を見れば、今までの話を聞かれてしまっていたことがわかる。

 

「・・・・すまないね、悟史君と礼奈ちゃんの声が聞こえてからこっそり話を聞いてしまっていたんだよ」

 

険しい表情を浮かべたまま謝罪の言葉を口にする公由さん。

初めから僕たちの話を聞いていたのか。

僕が迂闊だった、公由さんに聞かれるかもしれないということを考えていなかった。

いや、遅かれ早かれ公由さんには僕の意思を伝えなければならなかったんだ。

むしろ説明する手間が省けてよかったと考えよう。

 

「・・・・悟史君は両親と一緒に暮らしたいのかい?」

 

「・・・・はい」

 

公由さんの言葉に肯定で返す。

僕の言葉を聞いた公由さんはさらに難しい顔になり、僕に向けて口を開く。

 

「悟史君、考え直すんじゃ。彼らの元に行ったとしても2人は幸せにはなれん」

 

僕の言葉を聞いた公由さんが僕に優しく語りかけてくれる。

公由さんが僕たちのことを本当に大切にしてくれているのが伝わってくる。

でも、それでも僕の意思は変わらない。

 

「公由さんには本当に感謝してます。村で迫害されていた僕たちを助けてくれて、今もこうして僕たちをここに住まわせてくれています。僕たちもこの家で暮らすのはとても安らぎます」

 

「だったら「でも!」

 

「僕は両親を見捨てたくありません!叶うのなら、家族で仲良く暮らしたいんです!!公由さんのことは大好きです!ここでの暮らしに不満なんてありません!それでも!ここで両親と別れたら僕は一生後悔します!」

 

公由さんの言葉を遮る勢いで自分の本音を公由さんにぶつける。

公由さんからの恩を僕は仇で返してしまっていることは分かっている。

それでもここだけは譲るわけにはいかない。

 

「ごめんなさい、僕はこれから両親のところへ行ってきます。そして両親を説得して村の人達と仲直りしてもらうように説得します!そしてその後、魅音たちの家に行って土下座でもなんでもして両親のことを許してもらえるように頼みます!!」

 

「・・・・にーにー」

 

横で話を聞いていた沙都子が心配そうに僕を見つめる。

僕はそれを横目に公由さんに向かって頭を下げる。

 

「・・・・頭を上げてくれ悟史君」

 

公由さんからの言葉を聞いてゆっくりと頭を上げる。

頭を上げた先では悩まし気な表情をした公由さんがまっすぐ僕を見つめていた。

 

「悟史君の気持ちはわかったよ。本音を言えばこのままここで暮らしてほしい。しかし、礼奈ちゃんとの話を聞いて思うところがないとは言えん」

 

「じゃあ!」

 

「両親のところへ行ってくるといい、ただしワシも一緒に行く。君たちの話を聞いて改めて彼らと話し合いをしようと思う」

 

「はい!ありがとうございます公由さん!」

 

僕が両親のところへ行くことを認めてくれた公由さんに頭を下げる。

公由さんは僕が下げた頭を優しく撫でてくれた。

 

「わしは悟史君と沙都子ちゃんのことを実の孫のように思うとる。可愛い孫が必死に頼んでるんじゃ可能な限り叶えてあげたい」

 

「っ!!ありがとうございます」

 

頭の上に置かれた手のひらから公由さんの優しさが伝わってくるかのようだった。

公由さんには村長としての立場があるというのに、村と険悪な関係にある僕たちの両親と会う許可をくれただけでなく2人と改めて話し合うと言ってくれたのだ。

本当に公由さんには頭の下がる思いだ。

 

公由さんの許可も下りたことで改めて沙都子達へ向き直る。

みんなにも公由さんと同じように頭を下げたいけど、それをするのは全部が解決した時にする。

沙都子に握られた手を握り返しながら両親のところへ向かうために足を進めた。

以前に夢に見たあの光景を現実のものとするために。

 

 

 

 

 

 

 




今回はあまり話が進まなくてすいません。

さて、両親との話についてのですが省略してしまおうと考えてます。
あまり真面目すぎる話が続くのは個人的にちょっと疲れるので。
なので次回は時間が進んで両親との話し合い後、一気に園崎家との話し合いまで飛ぶと思います。

両親との会話でどのようになったのかは、次話で触れていきます。



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