レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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綿流し後2

「どうしてあんなことを言ったの!!」

 

入江さんの診察室を出た後、梨花ちゃんが俺へ掴みかかりながら叫ぶ。

俺はなんとか梨花ちゃんを宥めるために口を開く。

 

「わ、悪かった....頭に血が上って考えもせずに口走った」

 

鷹野さん相手に考えもなしに悟史達の母のことを警告したのは確かに不味かったかもしれない。

でも、あそこで言わないと鷹野さんは間違いなく悟史達の母を雛見沢症候群の研究のために利用していたはずだ。

俺の脅しで鷹野さんを止めることが出来たとは思えないが、それでもあそこで言ったのは間違いではなかったはずだ。

 

俺がそう言うと梨花ちゃんは俺を強く睨みつけながら口を開く。

 

「いいえ!あなたはもっとも愚かなことをやったわ!!わかってるの!?さっきの発言で確実に鷹野はあなたに目をつけたわ!!」

 

「そうだな....でも、それで悟史達の母さんが助けられる可能性が増えるなら別に構わない」

 

「その代わりにあなたが殺されるかもしれないって言ってるのよ!!!」

 

梨花ちゃんは俺の服を握り締めながら涙交じりに話す。

俺はその言葉に何も言うことは出来なかった。

 

「あなたのやったことはただただ自分の命を投げ出しただけ!最悪あなたと沙都子達のお母さんの両方が殺される可能性だってあるわ!これで自分がどれだけバカなことをしたのかわかったでしょう!!」

 

「・・・・悪かった」

 

梨花ちゃんの言葉に静かに謝罪の言葉を述べる。

それを聞いた梨花ちゃんは俺の服を握り締めたまま呟く。

 

「怖い....本当に怖いの....もしあなたが殺された後、私が次の世界に飛ばされた時、あなたはその世界に存在していなかったらと思うと。もう二度とあなたと会えないかもしれない....そう想像しただけで私はもう立ち上がれそうにない」

 

「・・・・」

 

「私はもうあなたがいない世界に耐えられない....もし仮にあなたがいない世界で惨劇を乗り越えて昭和58年の6月を迎えたとしても何も嬉しくない、あなたがいない世界なんて何の意味もない」

 

梨花ちゃんは光をなくした目でこちらを見つめながら口を開く。

俺はその梨花ちゃんの迫力に何も言うことが出来ずに黙って唾を飲み込んだ。

 

「・・・・もう二度とあんな真似しないで、もし次やったら絶対に許さないわ」

 

「わ、わかった。もう鷹野さんを挑発するようなことはしないから許してくれ。本当に悪かったよ」

 

俺が必死に梨花ちゃんに頭を下げる続けていると、ようやく梨花ちゃんの様子が落ち着く。

涙を流していたせいで目は赤いが、ずっと俺の服を掴んでいた手を離してくれた。

 

確かに梨花ちゃんの言う通りだ。

もし俺がこの世界で死んだ場合、俺は次の世界に行くことは出来るのだろうか。

おそらく....それはない。

 

きっと俺はこの世界にのみ存在を許された存在なんだと思う。

もし俺が死んだら元の世界に戻るのか、それともただ死ぬだけなのかはわからないが、どっちにしろ俺だって死ぬ気なんてさらさらない。

 

悟史達の両親を救い、俺も殺されないために出来ることをこれから考えていかなくてはならない。

俺がこれからのことに頭を悩ませていると、診療所の廊下の奥からこちらへと歩いてくる公由さんの姿が見えた。

 

公由さんも俺達に気付いて疲れたような笑みを浮かべている。

 

「灯火君に梨花ちゃんか....大変なことになってしまったね」

 

公由さんの言葉に俺も梨花ちゃんも黙ったまま同意する。

そして梨花ちゃんは一人でやってきた公由さんに悟史達の様子を確認する。

 

「・・・・2人とも疲れ切っておるよ....やっと仲良くなれた両親があんなことになれば無理もなかろう。はぁ....どうして北条の嫁はあんなことを....信じておった儂がバカだったというのか」

 

「それは違う!!」

 

公由さんの言葉を即座に否定する。

この悲劇の原因は全て雛見沢症候群だ、悟史達の母が望んでやったことでは決してない。

 

そう言いたいけれど、雛見沢症候群のことは村の人達には秘密になっている。

もし言って自分の脳に寄生虫がいるなんてことがわかればパニックにだってなる可能性がある。

そして俺がこのことを言えば鷹野さんは俺を殺そうと動く可能性が上がる。

 

公由さんに違うと言いたいのに、それを伝えることが出来ない。

あまりの悔しさで涙さえ浮かんで来た。

 

「・・・・先ほど儂のところに園崎家から連絡があった。今回の件で詳しい話を聞きたいそうじゃ」

 

「っ!?耳が早すぎなんだよクソが!!」

 

まだ祭りが終わって日付が変わったばかりだぞ!!

改めて雛見沢が狭い村であることを実感する。

ここでは誰か1人でも村の人間にバレれば情報なんてすぐに回ってしまうのだ。

 

「・・・・園崎家は今すぐ親族会議を始めてるつもりらしい。村の重鎮達にはすでに声をかけとるようじゃ」

 

「・・・・逃げ場はないってことか。公由さん、今回のことを園崎家にどこまで話しましたか?」

 

「・・・・向こうはすでにどういうわけか正確な情報を握っておった。私がされたのはただの事実確認じゃ」

 

「っ!くそ!」

 

園崎家の打つ手の早さに歯を食いしばる。

つまりもう悟史達の母親が凶行に及んだということを誤魔化せないってことか!

しかし、いくらなんでも情報を掴むが早すぎる。

鷹野さんが村の人達に情報を流したのかもな。

悟史達の両親が今回の件で雛見沢から追い出されれば失踪しても村の人達は誰にも気にしないから楽に診療所で雛見沢症候群の研究が出来るからな。

 

だがこれはチャンスでもある。

今ならまだこの事件が村に広まりきる前に園崎家や村の重鎮達を説得できるかもしれない。

 

この事件は北条家が村を裏切るためにやったわけではないことを説明できさえすれば、村の中ではただの噂話で終わらせることも出来るかもしれない。

 

 

問題はその説明をどうやってするかだが....くそ!!問題が多すぎて頭が全然回らねぇ!!

 

「・・・・呼ばれとるのは儂と灯火君だけじゃない。悟史君と沙都子ちゃんも会議に呼ばれとる」

 

「っ!?そんなの無茶なのです!!悟史も沙都子もこんなことになって疲れ果てるのですよ!!」

 

「儂だって反対した!しかし、来なければ北条家は裏切り者とすると言われてしまえば....」

 

「っ!?そんな....」

 

公由さんの言葉を聞いて辛そうに口を閉ざす梨花ちゃん。

もう....雛見沢で北条家の味方は事情を知っている俺と梨花ちゃんと入江さんしかいない。

 

絶望と怒りで頭が真っ白になりそうになるのを必死に抑えながらこれからどうするべきかを考える。

まず状況を整理するんだ。

 

悟史達の母親が公由さんを殺そうとしたのは事実。

しかしそれは雛見沢症候群によって疑心暗鬼に陥ってしまったのが原因だ。

雛見沢症候群のことを村の人達に話すことは出来ない。

ならば....別の病気ということにするのはどうだろうか。

 

雛見沢症候群ほどじゃなくても精神を病んで結果的に凶行を行ってしまう病はあるはずだ。

入江さんに一緒に同行してもらってそう説明すれば凶行の理由になる。

そうすれば悪意を持った犯行ではない、決して村を裏切るためではなかったと説明できる。

 

でも、その場合は鷹野さんを診療所に1人残すことになる。

入江さんが診療所にいてくれれば、もし鷹野さんが悟史達のお母さんを解剖しようとしても何とかして止めてくれるはずだ。

そう考えれば最悪の場合に備えて入江さんは診療所に残しておきたい。

いや....鷹野さんも研究の資金を提供している外の機関の許可が下りないとやれないのか?

ダメだ、それでもし鷹野さんが許可を待たずにやった場合に後悔することになる。

 

頭の中でこれからどうするのが正しいのかがグルグルを回り続ける。

 

入江さんを親族会議のために攻撃の手札にするか、鷹野さんから悟史達の両親を守るための手札にするか。

 

後悔しない選択。

今年は俺はそれを心掛けて行動していた。

もしこの選択を間違えた場合、俺は後悔していないと言えるのだろうか。

 

いや....今まで俺が行ってきた行動の結果がこれだとすれば....。

 

「しっかりして、まだ終わってなんかいないわ」

 

沈みかけた俺を梨花ちゃんが力強く引っ張り上げてくれる。

 

「一緒に考えましょう。これが彼らの運命だと言うのだとしたら、私達の手でそれを変えてしまえばいいだけのことよ」

 

「・・・・だな、ありがとう梨花ちゃん」

 

梨花ちゃんの言葉を聞いて再びを心を奮い立たせる。

まだ後悔するには早い。

最後まで全力で抗ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望という言葉はきっと今のようなことを言うのだろう。

ついさっきまで僕の心は暖かな希望で包まれていたのに、それらは突然絶望へと姿を変えた。

 

まるで神様が僕達家族は幸せになることは許されないのだと言わんばかり。

 

目の前で僕達を睨みつけてくる村の大人達を眺めながら死んだような目でそんなことを考える。

 

「村長....今夜北条家が起こした問題について改めて確認するよ。今日の綿流しが終わった後、そこの北条家の息子と娘を向かいに行ったあんたは当然包丁を持った北条の嫁に刺されそうになった。これで合ってるね?」

 

「・・・・そうじゃな」

 

「・・・・でもそれは未遂だ。悟史達の父さんが身を挺して庇ったんだからな」

 

この今回の事件の内容を肯定した公由さんの後に僕の隣にいてくれている灯火が口を開く。

しかしそれを聞いた魅音達のお母さんは灯火に冷たい目を向ける。

 

「北条が庇ったかどうかは問題じゃないんだよ。北条の嫁がうちの村長を殺そうとした。重要なのはそこさね」

 

「違う!重要なのはそんなことじゃない!そもそもこんなとこで北条の息子と娘を呼びつけて寄ってたかって批判してるのがおかしいんだよ!!」

 

「灯火さん....」

 

灯火の言葉に何も言わず死んだような目で項垂れていた沙都子が顔を上げる。

しかし灯火の言葉は村の人達には届かない。

 

「こっちは面子潰されてたんだ....そもそもあいつらがあんなことをして村を裏切らなければ、こんな会議なんかせずにすんだんだ」

 

「そもそも2人の母さんは裏切ってなんかいない!あれは病気で精神が病んで錯乱してしまっただけで」

 

必死に園崎家を説得しようと試みる灯火を魅音達にお母さんがため息を吐きながら見つめる。

 

「いい加減あきらめな、病気だろうと何だろうと北条の嫁が村長を殺そうとしたのは事実以外の何ものでもない」

 

その通りだ....僕はあの時母さんの口から公由さんを殺そうとする発言や行動をはっきりと見ている。

それがすでに伝わっている以上、灯火が何を言っても無意味だ。

 

ああ....今まで僕達がやっていたことは何だったんだろう。

こんなことになるのなら勇気なんて出すんじゃなかった。

 

前に父さんと母さん、そして僕と沙都子の家族四人で仲良く暮らす夢を見たことがあった。

あの時僕はその夢を悪夢と言ったけど、本当にその通りだ。

 

もう少しで夢の通りになるはずだった。

なのに寸前で絶望が僕達を襲い、夢は悪夢へと姿を変えた。

 

僕があの夢を見て家族で暮らしたいと思わなければ。

礼奈の説得に応じて両親と暮らすために動かないければ。

両親を説得して園崎家に許してもらおうとしなければ。

 

 

こんなことにはならなかった。

両親は雛見沢の外で二人仲良く暮らせていたし。

僕達も今のまま公由さんの家で仲良く暮らせていたんだ。

 

両親と暮らせないのは寂しいけれど、灯火や礼奈、魅音達という大切な友人たちがいる、家族のいない寂しさなんてすぐに消えたかもしれない。

 

なのに....僕がわがままを言ったばかりにこんなことになってしまった。

母は狂って凶行を行い、父は母の凶行から公由さんを庇って倒れた。

公由さん、そして灯火や梨花ちゃんにもこんなに迷惑をかけてしまった。

 

「灯火、もういいんだ....もうどうしようもないんだから」

 

僕が現実逃避をしている間に諦めずに園崎家と言い合いを続けている灯火の服を掴んで彼が話すのを止めさせる。

 

「・・・・もういいってどういうことだよ」

 

灯火は僕の言葉を聞いて村の人達と話すのやめて僕を睨みつけてくる。

僕は怖い顔の灯火に怯みそうになるのを抑えて灯火を説得する。

 

「このままだと灯火にまで迷惑をかけることになるんだ。母さんが公由さんを殺そうしたのを僕はちゃんと見た。また目を覚ました母さんが村に迷惑をかけないとも限らない、だから僕達家族はもうここにいちゃいけないんだ」

 

「・・・・っ、にーにー」

 

僕の言葉を聞いて沙都子が目に涙を浮かべながら僕のことを呼ぶ。

しかし僕はそれに何も答えることは出来ない。

 

ごめん沙都子....僕のわがままで傷つけてしまった。

今日沙都子が父さんに見せた笑顔が頭に蘇る。

 

それと同時に僕の目から涙が溢れる。

沙都子の笑顔を奪ったのは僕だ。

 

今すぐここで僕は死んでしまうべきだとすら思えてくる。

 

「悟史!!」

 

灯火は僕の服を襟を掴んで項垂れる僕と無理やり顔を合わせさせる。

死んだ目で涙を流す僕を灯火は睨みつける。

 

「お前が両親を助けるのを諦めてどうすんだよ!!まだ何も終わってなんかねぇ!お前はここで家族と一緒に暮らすんだろうが!この程度の逆境に屈してんじゃねぇよ!!」

 

「・・・・」

 

灯火から目線を逸らしたまま黙り込む。

灯火の言うことはわかる....けど、僕程度が何かしたとしてももう....。

 

「悟史」

 

灯火に言われても項垂れ続ける僕へ梨花ちゃんが話しかけてくる。

僕は彼女に口を開くことなく視線をだけをゆっくりと向ける。

 

「辛い現実を前に諦めたくなる気持ちはわかるのです....私もそうだったから、今のあなたの気持ちは本当によくわかる」

 

「梨花ちゃん....」

 

何かを思い出すかのように目を伏せる梨花ちゃんを見て思わず彼女の名前を呟く。

梨花ちゃんは少しの間目を伏せた後、顔を上げて真っすぐ僕を見つめた。

 

「でも、ある人が私にどんなに辛い現実だって幸せに変えられるんだってことを見せてくれたの。みんなで諦めずに協力して頑張ればどんな運命だって変えられることを私は知った」

 

「・・・・」

 

「だから両親のことを諦めないで。たとえ運命があなた達家族を切り裂こうとしていたとしても、私達なら大丈夫、信じる心が運命を切り開く奇跡を起こすのだから。あなたは必ず家族と一緒にここで暮らせるわ」

 

梨花ちゃんの言葉が僕の胸へ届くのがわかった。

周りを見れば梨花ちゃんと灯火が僕を見つめている。

二人の目には未だに力強い光が宿っていて、未だに現状を打破しようとしていることがわかる。

先ほどまで僕と同じように死んだ目をしていた沙都子も目に光が戻っているのがわかった。

 

灯火も梨花ちゃんも、そして妹の沙都子もまだ諦めてない。

だというのに、僕はもう諦めるの?

 

「・・・・話は終わったかい?子供同士の友情を確かめ合うのは悪いけど後にしてほしいね。あとその友情にはちゃんとうちの娘達もいれておくれよ?」

 

「・・・・っ」

 

その言葉にずっと黙って話を聞いていた魅音が強張る。

魅音は向こう側の人間だけど、それでも僕達を心配そうに見てくれていることがわかった。

 

「僕達だけで話をしてすいません....それから僕のほうから今回の件で言いたいことがあります」

 

「・・・・ほう」

 

僕の言葉に魅音達の母親が目を細める。

身が震えそうになるのをなんとか抑えて口を開く。

 

「は、母はあの時、村の人達が自分達を殺そうとしていると言っていたんです。そして僕達を守るためにあんなことをしました。そ、そして」

 

「ワシらが北条を殺そうとしていたと言いたいのか!」

「ワシらを殺そうとしてしていたくせに何様だ!!」

 

僕の言葉に会議に参加していた老人たちが騒ぎ出す。

僕は彼らの声を上回る声量で再び口を開く。

 

「もちろん村の人達がそんなことをしていないことは知っています!!!しかし、母がそう勘違いした、いえ....そう勘違いするように仕向けた人達がいるんです!!」

 

僕の話を聞いて周りの老人たちが鼻で笑う。

しかし園崎家だけは笑うことなく僕の話を聞いてくれていた。

 

「・・・・続けな」

 

「は、はい。僕はその人達に会いました。僕が倒れた父を助けるために人と呼ぼうとした時、村の人ではない怪しい男達が三人、僕の目の前に現れました。彼らはずっと僕達を観察したような口ぶりをした後に僕を殺そうとしてきました」

 

僕はあの時の光景を思い出しながら説明を続ける。

それと同時に僕を助けてくれた不思議な少女のことも思い出すが、それを話すとややこしくなので言わない。

 

「幸い灯火がやってくるのに気付いた男達は騒ぎになることを嫌ったのか逃げていきました。きっと母は彼らを知っていて、それが今回の勘違いの原因になったんだと思います!」

 

僕の考えをなんとかまとめて園崎家に説明する。

それを聞いた魅音達の母親は考え込むように黙る。

 

「茜さん....ここで黙るってことはその人達に心当たりがあるんじゃないの?他の人達もだ、帽子を目深に被った作業服を着こんだ男達だよ。狭い村なんだ、外の人間がいればわかるだろ」

 

「「・・・・」」

 

灯火が僕の説明を聞いて周りの人達に問いかける。

あれ....灯火に怪しい人達のことは話したけど服装まで言ったかな?

 

僕が記憶を探る前に黙って考え込んでいた魅音達の母親が口を開く。

 

「確かにそういう連中を見たという報告はあがってるよ。つまりあんたは、そいつらがあんたの母を勘違いさせて私らと北条家の仲直りを阻止しようとしたってことかい?」

 

「はい!」

 

「悪いけれど、それは全部あんた一人の妄想の域を出ないね。そいつらを見たのも聞いたのもあんた1人だけじゃあね」

 

「っ!!僕の両親は村を裏切るつもりなんてありません!!皆さんも以前に両親の覚悟をちゃんと見たはずです!!それにあれ以来、僕の両親は毎日この村のために貢献していました!!それなのに僕達の母が本当にあなた達をただ殺そうとしたとでも思うんですか!!」

 

「「「・・・・」」」

 

僕の言葉に村の人達は気まずそうに目を伏せる。

しかし園崎家だけは冷めた目で僕を見つめていた。

 

「確かにお前の父親はあの時覚悟を見せた。だが裏を返せばあの時、お前の母親は何もせずに見てただけだ。お前の父は確かに村長を庇ったんだ、裏切ってはいなかったんだろうね。だが母は違ったんじゃないのかい?内心ずっと村の連中のことを殺したいって思ってたんじゃないのかい?」

 

「っ!?そんな....」

 

魅音達の母の言葉を聞いて、他の村の人達も同意の声を上げる。

雛見沢に貢献している時も母親のほうは嫌々そうにしていたとか、道で会った時に睨みつけてきたなどを次々口にし、最終的には今すぐ殺すべきだという声さえあがった。

 

なんで、なんでそんな酷いことを言うの?

僕の必死の説明は彼らの心には届かなかった。

僕の両親の罵詈雑言を並び立てる村の人達を見て、知らず知らずのうちに涙が流れる。

梨花ちゃんはそんな村の人達を殺しそうなほど睨みつけ、沙都子はただただ悲しそうに顔を歪ませている。

 

そして灯火へ視線を向けた時。

 

 

「全員今すぐ黙れ」

 

 

今まで灯火から聞いたことがないような冷たい声が耳に届いた。

 

「「「・・・・・っ!!?」」」

 

騒がしい室内だというのに、灯火の声が不思議と全員の耳に届いた。

灯火の声を聞いた全員が冷や汗を流しながら黙り込む。

そして先ほどまで騒がしかった室内が一気に静まり返る。

 

「・・・・前々からお前ら全員に言いたかったことがある」

 

あまりに冷たい雰囲気を纏う灯火に全員は何も言うことが出来ずに黙って耳を傾ける。

 

「ダム運動の時からそうだ、この村の連中は自分達が被害者で他の考えの連中が自分達を排除する加害者だと思ってやがる。そもそも俺は悟史達の両親が村を売ろうとしたことは何も間違ってないと思ってる」

 

「っな!!?おい何をいってる!?」

「私達のダム反対運動を侮辱するのか!!」

 

灯火の言葉に黙ることしか出来なかった人たちも慌てて口を開く。

しかし灯火の雰囲気に気圧されてすぐに口を閉じる。

 

「俺はこの村が大好きだ。だからダム反対運動にも参加したし警察に捕まることだってやったさ。でも一度だって自分が正しいことをしているとは思ってなかった。俺らの行動のせいで不幸になった人も、傷ついた人もたくさんいたんだ。それに普通の人は悟史達の両親のような考えをするもんなんだよ。それなのに今でも大人げない態度ばかりとりやがって。俺達は正義でも被害者でもなんでもないってことをちゃんとわかってんのか?」

 

灯火は僕と沙都子のほうを横目で見ながら話を続ける。

園崎家も目を細めながらも灯火の話を聞き続ける。

 

「村を売るやつは全員敵だとガキみたいに騒ぎやがって、もう一度みんなと仲直りするために頑張ってた2人に冷たい態度ばかり取りやがる。そりゃあ精神の一つや二つ病むに決まってるだろうが」

 

「灯火....」

 

梨花ちゃんが心配そうに灯火の名前を呟く。

僕と沙都子も同じような表情を受けべながら灯火を見守る。

 

「わかってんのか?彼女にあんなことをさせたのは俺達なんだよ、それなのに殺される前に殺すべきだぁ?いい加減にしやがれ!!!!」

 

「「「っ!!?」」」

 

静かな雰囲気から一転、灯火が鬼のような表情で叫ぶ。

いきなり様子の変わった灯火に全員が震え上がる。

 

「この村の伝承では俺らの中には半分鬼の血が流れてるみたいだな?だったらこんな酷いことができるのも納得だ。一人の女性が心を病むまで追い詰めたってのに、さらに追い詰めて殺そうとしてるんだからなぁ。もうこれは鬼の血を引く俺達全員この場で死んだほうがいいんじゃねぇのか?」

 

そう言いながら村の人達を見下ろす灯火。

灯火は先ほど自分で言ったような鬼を思わせるような冷たい瞳をしており、その目で見られた村の人達は悲鳴を上げて後ずさる。

 

今の灯火には本当にやりかねない雰囲気を纏っていた。

部屋の隅に控えていた黒服の男達がいつでも灯火を止めれるように構えているのが見えた。

 

「このままじゃ俺はこの村のことが嫌いになっちまうよ!なぁ、俺達は涙も情もある人間なんだろ?もし俺達の中に鬼がいたとしても、その鬼に飲み込まれてるんじゃねぇよ!!もしお前らが鬼になったんだったら俺も鬼になって全員道連れにするぞ!!」

 

灯火が息を切らしながら全力で言葉を叫び続ける。

その言葉を全員が黙って聞き続け、そしてその言葉を全て聞き届けた魅音達の母親はゆっくりと口を開いた。

 

「・・・・言いたいことは言ったかい?ここに集まっている連中は一応村の重鎮どもだ。その前でここまで言ったんだ。ちゃんとケジメをつける覚悟は出来てるんだろうね」

 

その言葉と同時に部屋の隅にいた黒服の男達が灯火へと近づき拘束する。

そして灯火を別のところへ拘束したまま連れていこうとする。

 

「っ!!?お兄ちゃん!!」

「灯火!!」

 

その様子を見ていた魅音と梨花ちゃんが青ざめた表情で叫ぶ。

二人の声を聞いた灯火は二人にも何もするなと目で伝えたのが何となくわかった。

部屋を後にする瞬間、灯火がぼそりと呟く。

 

「今のこの村は悪意でいっぱいだ....何とかしないといずれ自分達の鬼の血で死ぬことになるぞ」

 

「「「・・・・」」」

 

そう言い残して灯火は部屋から姿を消す。

残った僕達は灯火の残した言葉によってしばらく全員黙ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、誤字報告ありがとうございます。
お返事が出来ず申し訳ありません。
大切に読ませてもらってます。

北条家の話は次話で終わると思います。
やっと終わらせられる....長かった。

あと軽く新章の予告

礼奈
梨花
羽入
魅音
詩音

この中の誰かがヤンデレになります。

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