レナの兄貴に転生しました【完結】   作:でってゆー

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詩音

園崎本家の古いしきたりに『跡継ぎ』に双子が生まれたならば産湯につける前に絞め殺せというものがあるらしい。

そんなしきたりが残り続ける本家にある日、双子の姉妹が生まれた。

 

姉の名前は『魅音』

鬼を継ぐ者で魅音。

 

妹の名前は『詩音』

出家させ、寺に閉じ込めるという意味で詩音。

 

それぞれの名を与えられた姉妹は、いずれそれぞれの名前通りの道を歩むことになる。

 

『魅音』は跡継ぎの修行のために頭首である祖母と同居を始める。

『詩音』は寺の代わりに全寮制の学園に閉じ込められる。

 

『詩音』である私は今よりも幼い頃からそうなることを決められ、私も嫌だったけど諦めて自分の運命を受け入れていた。

 

・・・・お兄ちゃんと出会うまでは。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・お兄ちゃんがおねぇと夫婦になる?」

 

お母さんがお兄ちゃんに言った言葉の意味が理解できない。

夫婦になる?つまり結婚するってこと?

 

誰が?

 

お兄ちゃんとおねぇが?

 

「っ!!?」

 

言葉の意味に頭が追いついた時、私の中に焦りと嫉妬の感情が生まれたのを感じた。

嫌だ!お兄ちゃんが結婚するなんて嫌!!

 

私はお兄ちゃんが好きなんだ!兄としてではなく一人の男の子として竜宮灯火のことが大好きだ!!

いずれお兄ちゃんとそういう風になることを夢に見たことだって一度や二度なんかじゃない。

 

なのに、お兄ちゃんが私以外の人と結婚してしまうかもしれない。

そんなの認められるわけがない!!

 

お母さんが出かけるのを見た時、なぜか酷い胸騒ぎを感じた。

 

もともと悟史君達の件で私だけ仲間外れを受けていたこともあって、私はお母さんが悟史君達の件で出かけるのではと予想したのだ。そして私もみんなの仲間に入る良い機会だと思った。

 

だから葛西に頼んでコッソリと後をついていってもらったけど、そこでまさかこんな話を聞くことになるなんて思ってもみなかった。

 

「・・・・葛西!すぐに家に戻って!おねぇと話があるの!」

 

お母さんが帰った後の確認してから急いで葛西が隠していた車に乗り込む。

 

親が言ったからなんだ。

そんなもので勝手に結婚を決められてたまるもんか!

おねぇに事情を話してなかったことにしてもらう。

 

おねぇだってこんな形でお兄ちゃんと結婚するなんて望んでないはず!

 

私は焦る気持ちを必死に抑えながら家への到着を今か今かと待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

「おねぇ!!」

 

「ふえ!!?し、詩音?いきなりどうしたの?」

 

家に到着するなり魅音の部屋をへとノックもせずに突入する。

扉を強引に開けて部屋へ入れば、おねぇが寝ようとしていたのか布団の中に入ろうとしていた。

それと私が来たことに気付いた時、慌てて枕の下に視線を向けるのが見えた。

 

「・・・・枕の下に何かあるの?」

 

「べ、別に!何も隠してないし!」

 

わざとらしく私から顔を逸らしながら枕をお尻で蓋するおねぇ。

まぁ、何かはだいたいわかるけど。

 

「まぁいいけど。ていうか今から二度寝?もう朝だよ?」

 

「うぐっ!朝方までずっと会議をしてたせいで寝れてないの。いい加減眠気が酷いから仮眠しようと思って」

 

「ふーん。あ、ところでおねぇ。枕の下に好きな人の写真を置いて寝るとその人の夢を見れるって知ってた?」

 

「あーそれ迷信だよ。だって私見れなかったもん。昨日だってこうやって枕の下にお兄ちゃんの写真を・・・・」

 

私の言葉に答えながら途中で自分が言っていることに気付いて真っ赤になるおねぇ。

やっぱりお兄ちゃんの写真だったか。

私も同じことをしてたからすぐにピンときたよ。

 

ってそんなことを言ってる場合じゃない!

 

「おねぇはもうお母さんから聞いてるの!?」

 

「お母さんから?私は何も聞いてないけど?何かあったの?」

 

私の質問に首を傾けるおねぇ。

この様子ではまだお母さんから話をされていなさそうだ。

 

私はさっきお母さんとお兄ちゃんが話をしていた内容をおねぇへと話した。

 

おねぇは私の話を聞くにつれて、もともと赤かった顔をさらに蒸気が出る勢いで真っ赤に染める。

 

「わ。私とお兄ちゃんが夫婦に!?え、えええええええ!!?お母さん何を言ってるの!?」

 

私の話を聞き終えたおねぇは目を回しながら驚きの声をあげる。

私はそんなおねぇの様子に少しイラつきを覚えながらもなんとか冷静に口を開く。

 

「おねぇ落ち着いて」

 

「あ、ご、ごめん!私としたことが慌てちゃった」

 

「・・・・それで、おねぇはどうするつもりなの?まさかこのままお兄ちゃんと夫婦になるつもりじゃないよね?」

 

「・・・・」

 

私の言葉を聞いたおねぇは頬を染めながらも何かを考えているのか口を閉じる。

 

「・・・・もともとお兄ちゃんが園崎家に入ることは暗黙の了解で決まってたことだったんだよね。詩音だってお兄ちゃんが家の人達に若なんて言われているのを聞いたことあるでしょ?」

 

「それは知ってるよ!でも、それでもいきなり夫婦なんて話が飛びすぎじゃないの!?」

 

「・・・・話はそう単純じゃないんだよ。詩音は知らないかもしれないけど、ダム戦争の時からお兄ちゃんは親族会議に参加してる。それも私の隣に座ってね。今のお兄ちゃんの立場を周りにはっきりと見せるためにも正式な立場があったほうがいいんだよ」

 

「・・・・お兄ちゃんに立場が必要ね。でもそういうことなら『魅音』じゃなくて『詩音』でもいいじゃない!」

 

お兄ちゃんは村の重鎮の息子や外の重役の息子なんていうわけじゃない、ただの村の一員に過ぎない。

だったら別にお兄ちゃんが私と結婚しようが関係ないはずだ。

 

「・・・・今回の件もあってお兄ちゃんは村では既に次の世代の代表のような形になってる。『詩音』と結婚の場合は余計な派閥争いが起こるかもしれない。それにこれは現当主である園崎お魎が私とお兄ちゃんを結婚させるって言ってるんだよ、当主の言葉が絶対だよ」

 

「・・・・なにそれ」

 

おねぇの言葉に頭に血が上るを感じる。

おねぇがさっきから言ってることはただの体の良い言い訳だ。

周りのためにも『魅音』とお兄ちゃんが結婚するのが一番良い。

そう自分に都合の良い考えをしているだけ。

 

「・・・・お兄ちゃんが『魅音』と夫婦になったほうが良い理由はよくわかったよ」

 

「詩音!それじゃあ!!」

 

「じゃあ・・・・私と『魅音』を代わってよ」

 

「・・・・え?」

 

私の言葉に表情を固まらせるおねぇ。

『詩音』ではなく『魅音』がお兄ちゃんと夫婦になったほうが園崎家としては都合が良いということはひとまず納得した。

 

でも私はお兄ちゃんが私以外の人と結婚することも納得なんてしていない。

というより誰であろうと納得なんて出来るわけがない!

 

だったら話は簡単だ。

私が『魅音』になればいい。

おねぇにはこれから『詩音』になってもらって、私が園崎家を継いでお兄ちゃんと結婚する。

園崎家当主になんてなりたくないけど、それでお兄ちゃんと夫婦になれるというのなら喜んでなろう。

 

「別にいいでしょ?『魅音』がお兄ちゃんと夫婦になりさえすればいいんだから。私が『魅音』になってお兄ちゃんと結婚する」

 

「・・・・『魅音』は私だよ。私の背中には園崎家次期当主の証である刺青が刻まれてる。次期当主の仕事だって今までやってこなかったあんたには無理だね」

 

「背中の刺繍なんてどうにでも誤魔化せるよ。それに次期当主の仕事だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

私達は瓜二つ姉妹なんだ。

おねぇに出来たことなら私も出来るという確信がある。

 

「これで問題ないよね?じゃあ今日から私が『魅音』であんたが『詩音』でよろしく。中学になれば『詩音』は興宮のお嬢様学校に幽閉されちゃうから気を付けてね」

 

そう言って強引に話を締めくくる。

おねぇは私の言葉を聞いた途端、私を睨みつけながら口を開いた。

 

「嫌だね!私は絶対に『魅音』を代わらないよ!私がお兄ちゃんと夫婦になるんだ。誰にも渡しはしないよ!!」

 

「・・・・なによ。『魅音』がお兄ちゃんと夫婦になれば、あんたはそれでいいんじゃないの?」

 

「確かに園崎家としては私だろうとあんただろうと『魅音』がお兄ちゃんと結婚すればそれでいいかもね。でも私は違う!私は私自身がお兄ちゃんと結婚出来ないと嫌なの!!」

 

私とおねぇはお互い視線を逸らすことなく睨み合う。

おねぇが譲らないことは予想してた。

 

私達姉妹はそっくりだ。

おねぇが出来ることは私だって出来るし、私が出来ることはおねぇだって出来るだろう。

そして私が好きなものは、おねぇもきっと好きになる。

 

それが好きな人なら尚更だ。

 

「・・・・私はこれまでずっと『詩音』として耐えてきた。園崎家から差別されてずっと日陰の中を生きてきた。そんな中、初めて出来た好きな人なの!!あんたはこれまで『魅音』として散々良い思いをしてきたじゃない!だったら好きな人くらい私に譲ってよ!!」

 

別に『魅音』の名なんてどうでもいい。

お兄ちゃんさえいてくれるなら私は一生『詩音』のまま差別を受けたって構わない。

これからの私の人生はきっと大して面白くもない人生に違いない。

だったらせめて、好きな人と一緒にそんな面白くもない人生を送りたい。

 

お兄ちゃんと一緒に居られる人生なら、どんな地獄でだって笑って生きていけるんだから。

 

「・・・・あんたのことは正直申し訳ないって思ってるよ。私だけ良い思いを受けている引け目だって感じてる。でもごめん、私もお兄ちゃんだけは渡したくない!」

 

おねぇは私の言葉に申し訳なさそうに俯きながらも、お兄ちゃんだけは渡したくないと私に告げる。

それを聞いて私の頭の中が怒りで染まる。

その感情を言葉にしようとした時、おねぇの部屋の扉がノックされて、外から葛西の声が届く。

 

「・・・・詩音さん、茜さんが戻られました。そろそろ興宮へ戻りましょう」

 

「・・・・わかった」

 

葛西の言葉でギリギリ冷静さを取り戻した私は発しかけた言葉を飲み込んでおねぇの部屋を後にする。

 

「・・・・学校の件は私からも言っておくよ。詩音だけ中学で別なんて寂しいし」

 

「・・・・」

 

小さな声で呟いたおねぇの言葉に応えることなく部屋を出ていく。

 

今私の頭の中にあるのはたった一つだけ、怒りしかない。

 

 

ズルい・・・・ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい、ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい、ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい、ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい!!!

 

いつもそうだ!

『魅音』ばかり良いことがあって、『詩音』には何も与えられない。

 

『魅音』はこれから本格的に雛見沢で暮らし始め、お兄ちゃんと毎日顔を合わせることが出来る。

学校だってこのまま雛見沢にある興宮分校に通い続ける。

そこで毎日お兄ちゃんは勿論、礼奈に悟史君に梨花ちゃんに沙都子達と一緒に毎日笑顔で過ごすんだ!

そしてゆくゆくはお兄ちゃんと結婚して、園崎を継ぐ。

 

それに比べて『詩音』はどうだ。

 

行きたくもないお嬢様学校に閉じ込められ、その後は雛見沢からは離されて、向こうの決められた男と結婚する。

寮に入れられたらもうお兄ちゃんと会うことすら出来なくなる。

 

そんなの絶対に嫌だ!

 

 

なにより、元々『魅音』は私のものだったんだ!

それを今よりもっと幼いころに入れ替わった時に『詩音』だったおねぇに次期当主の証である鬼の刺青が背中に刻まれてしまった。

 

それによって魅音だった私は『詩音』に、詩音だったおねぇは『魅音』になった。

 

入れ替わった当時は混乱して泣いたりもしていたけど、お兄ちゃんと出会ってから『詩音』であることを受け入れたつもりだった。

 

でも・・・・つもりになってただけだった。

今の私は自分が『詩音』であることを到底受け入れることが出来ない。

 

このままじゃ『魅音』であるおねぇがお兄ちゃんと結婚する。

そんなの絶対に認めるもんか!

最後まで足掻いてやる!私のほうがお兄ちゃんのことを好きに決まってるんだから!

 

おねぇよりも!梨花ちゃんよりも!沙都子よりも!そして礼奈よりも私が一番お兄ちゃんのことが好きなんだ!

 

初めて会った日にこんな私を妹にしてくれた。

 

そして『魅音』から『詩音』になり、誰もそのことを信じてくれない中でお兄ちゃんだけは私の言葉を信じて優しく私を抱きしめてくれた。

 

誰も信じてくれず『詩音』として差別されてきた私に、あの時のお兄ちゃんの言葉がどれだけ私の心を癒してくれたことか。

 

私はお兄ちゃんのことが大好きだ。これから先の人生で他の人を好きになるなんてありえない。

 

お兄ちゃんだって私のことを。

 

私のことを・・・・。

 

 

心の中で呟いた言葉が途中で消えてしまう。

 

 

お兄ちゃんは私のことを好きなのかな?

私のことを好きだって信じたい。

でも、今までのことがそれに疑問を抱かせる。

 

ダム戦争から始まって、悟史君達の家族の問題に至るまで。

私はそれらに関われていない。

 

ダム戦争中に毎日のように行われた親族会議。

そこには村の重鎮達とおねぇを含む園崎家、そしてお兄ちゃんが参加していた。

 

これに『詩音』である私が参加出来ないのはしょうがないと我慢していた。

 

でも、悟史君達の問題は違う。

 

これには私と同じく蚊帳の外のはずの礼奈だって参加している。

梨花ちゃんに礼奈、そしておねぇとお兄ちゃんが関係はどうであれ、悟史君達の家族問題のために行動していた。

 

私も以前のお泊りの時に悟史君達の家族の問題については知ってはいたけれど、お兄ちゃん達がそんなことをしていたことを知ったのは随分と後からだった。

 

そして最後には今日の会議だ。

綿流しの晩に何か事件があったらしく、おねぇやお兄ちゃん達が遅くまでずっと会議をしていたらしい。

そしてそれに私が関わることはなかった。

 

中学の進学の問題でただでさえ辛かったのに、私だけ仲間外れにされたような最近の出来事は私に小さくない苦しみを与えた。

 

もしかしてお兄ちゃんは私のことが好きじゃないのかな?

だから私だけを仲間外れにしていたの?

 

 

っ!!くそ、弱気になるな私!

お兄ちゃんはそんな酷いことをするような人じゃない!

 

負の感情へ流されそうになるのをなんとか抑え込む。

それにもし仮にお兄ちゃんが私のことを好きじゃないとしても、それならこれから私のことを好きになってもらえばいいだけのことの話だ。

 

胸だって最近随分と成長してきた!今ならお兄ちゃんを誘惑する鷹野さんにだってそう簡単には負けるつもりはないんだから!

お兄ちゃんは結構スケベだから、少し誘惑すれば案外すぐに落とせそうな気がするし。

 

そうと決まれば早く作戦を考えないと。

 

私が『魅音』になってお兄ちゃんを手に入れるのか。

『詩音』のままお兄ちゃんを手に入れるのか。

 

どちらのほうが確実にお兄ちゃんを手に入れることが出来るかをよく考えよう。

 

最悪・・・・〇してでもお兄ちゃんを手に入れる。

 

それくらいの覚悟が私にはある。

 

「・・・・詩音さん、こちらです」

 

「ありがとう葛西」

 

園崎家を出て車の扉を開けてくれる葛西に礼を言う。

早く興宮に帰ってこれからの作戦をじっくりと考えよう。

 

そう思いながら車に乗り込むために歩みを止めて立ち止まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・あれ?今さっき足音が1つ余計に聞こえたような。

 

 

 

 




最初のヤンデレ発症者は詩音です。
次の発症者は・・・・

次の綿流しまでのこの章に題名をつけるなら。
『恋狂い編』とかですかね。

次話はIFのほうの話になります。
IFのほうも読んでいただければ幸いです。

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