「さて今日は会則にのっとり、部員の諸君に是非を問いたい!前原圭一くんを新たな部員として我らの部活動に加えたいのだがいかがだろうか!」
成長したみぃちゃんが圭一くんと呼ばれている男の子と肩を組みながら元気に声を上げる。
それに同じく成長した梨花ちゃんや沙都子ちゃんは笑顔で賛同していた。
視界の先ではみぃちゃんが部長で色々なゲームをして遊ぶ部活をしている。
負けた男の人は罰ゲームでみんなから顔に落書きをされていた。
そして1時間以上経って一段落ついたみんなは部活動を終えて楽しそうに話しながら帰途につく。
その間ずっと私は目の前の光景をすごくリアルなテレビでも見るのかのようにボーと見続ける。
これは本当に夢の中?
目の前の光景があまりに現実で見てきた光景を違いなさ過ぎて、本当にここは夢の世界なのかわからなくなってくる。
身体が動く感触も、肌に感じる暑さも、みんなの笑い声も全て感じることが出来る。
それがこの世界が現実なのか夢なのかの境界線が曖昧になる。
不思議なのがこの世界は時が経つのがすごく早い。
さっき教室に入ったばかりなのに、もう放課後でみんなだけが教室に残って遊んでいる。
まるで時が飛んでしまったかのように気が付いたら場面が変わっている。
でもそれに不思議と違和感が生まれない。
今も見た気が付いたら教室を出て外を歩いていたはずなのに、いつの間にか私がいつも行っているごみ山へやってきていた。
そしてそこで先ほどの男の子と楽しそうに話始める。
勝手に動く口はとっても楽しそうに声を出して笑顔を浮かべている。
夢とは思えないほどの現実感が私を襲う。
でも、もしこれが夢ではないとしたら私はこの状況を何一つ理解することが出来なくなる。
知らない人の中に精神だけ入ってしまった今の状況。
見慣れた雛見沢の景色に知らない男の子と成長した友達。
こんなの夢以外の答えを私は出すことが出来ない。
もしこれが夢でないのなら・・・・そう考えただけでとてつもない不安が私を襲う。
もし一生のこのままだったらどうしよう。
ずっと自由に動かない身体の中で私の知らない雛見沢の光景を見続けなくていけないのかもしれない。
そんなの嫌!!
押し寄せてきた不安に押しつぶされそうになる。
お兄ちゃんに会いたい。
もしかしたらお兄ちゃんなら今の私の状況にも気づいてくれるかもしれない!
この夢の世界には知らない人もいるけど、成長したみぃちゃん達も存在している。
だったら同じように成長しているお兄ちゃんがいたって不思議じゃない!!
そうこうしている内に場面はどんどん変わっていく。
授業光景に部活動の様子、外でみんなで楽しそうに話しながらお弁当を食べている時もあった。
そしてやがて私達がつい最近したばかりの綿流しのお祭りも始める。
たくさんの屋台が並ぶ道をみんなが笑顔で通り抜けていく。
食べ物の早食いに金魚すくい、射的。
とってもかぁいい大きなクマさんのぬいぐるみを取るために富竹さんと協力する男の子。
そして見事落としてそれを日頃のお礼と共に私にあげていた。
まるで私自身に言われたように感じて少し恥ずかしかった
でも・・・・ここでもお兄ちゃんに会えなかった。
いつまでも終わらない夢に焦りを募らせる。
綿流しの最中に外の私が話した新たな知り合いは富竹さんと鷹野さんだけだ。
お兄ちゃんどころか、しぃちゃんや悟史君にも会えていない。
どうして会えないの?
お兄ちゃんに会いたくてたまらない。
もしかしてこの世界にお兄ちゃんはいない?
ここは私の知っている雛見沢ではなくて、この世界にはしぃちゃんや悟史君、そしてお兄ちゃんが存在してない?
思えばみぃちゃん達の口からお兄ちゃんや悟史君の話が全く出ていない。
『本来のあなたは・・・・兄なんていないことを知ったら・・・・どうするのかしらね』
微かに聞こえた梨花ちゃんの言葉がよみがえる。
違う、そんなはずない!お兄ちゃんはいるもん!!
そして私を見つけてこのわけのわからない状況から助けてくれるはずなんだから!!
みんなが楽しそうに綿流しを過ごす光景を眺めながら心を強く保つ。
しかし、そんな私に追い打ちをかけるように何も抵抗できずに見せられる光景はだんだんと暗雲を帯びてくる。
「レナ・・・・富竹のおじさんが死体で発見されたって連絡がさっきあった」
え・・・・。
綿流しの後、視界が切り替わった先でみぃちゃんから語られた内容。
それは私を凍り付かせるには十分すぎる内容だった。
富竹さんが殺された・・・・?
その言葉で凍り付く私にたたみかけるようにみぃちゃんが別の情報を教えてくれる。
「・・・・鷹野さんも綿流しの夜から行方不明で見つかってないみたい。っ!つい昨日まで2人とも一緒に笑ってたのに」
みぃちゃんが辛そうに顔を伏せながらそう口にする。
外の私が何か言ってるけど頭に入ってこない。
なんで?なんで富竹さんが死んじゃって鷹野さんが行方不明になるの?
死という聞き慣れない言葉に私の思考は永遠にグルグルと回り続ける。
そして混乱したままの私の景色はまた一瞬で別の光景へと変化する。
大石さんと一緒に警察車へと乗りこんでいく圭一君。
何か話しているようだけど、何を話しているのかはわからない。
でも、それから変わっていく景色の先に映る彼の様子は目に見えて不安定になっていった。
声に元気がなく、眠れていないのか目に力がなくなっている。
そしてみぃちゃん達の部活動には参加しなくなり、外で何か不安を振り払うように必死にバットを振り続けいた。
きっと彼も富竹さん達のことを聞いたんだ。
それで不安定になってしまっているんだろう。
今の私と同じ状態の彼の気持ちが手に取るようにわかった。
外の私も心配しているのかみぃちゃんと一緒に彼に心配そうに話しかけていた。
でも、みぃちゃん達を彼は冷たく突き放した。
雲行きはどんどん怪しくなっていく。
彼を心配した私が彼を追いかけると、彼はバットを握り締めながらこちらへ怒鳴ってくる。
私はそんな彼に怯えながらも懸命に彼の不安を取り除こうと頑張っていた。
しかし、その努力は報われない。
それどころか彼はバットを使って私を追い返す。
そんな彼を見て、外の私はある言葉を呟いた。
「・・・・悟史君はね。転校しちゃったの」
え・・・・?
私の口から語られた言葉にまた思考が止まる。
悟史君が転校?雛見沢から出ていったの?
だから悟史君と会えなかったんだ。でもどうして転校なんか。
え、ということはもしかしたらお兄ちゃんとしぃちゃんも同じように。
っ!!違う!この考えはダメだ私!!
この雛見沢は私のいる雛見沢とは違うんだ!私のいる世界では悟史君は転校なんてしないしお兄ちゃんもしぃちゃんもいる!!
夢なら早く覚めろ!!こんな夢を見ても何も楽しくなんてないよ!!
必死に覚めろ覚めろ覚めろ!と言い続けるけど一向に目は覚めてくれない。
それどころかこの世界はさらなる絶望を私に与えてきた。
景色が変わった先で、私は前原と書かれた表札がある家に前にやってきていた。
辺りは暗くてなっていて手にはずっしりと重みを感じる。
視界が下を向いた時に見れば、重箱に包まれたお弁当を箱を手に持っていた。
家のチャイムを鳴らすと扉から圭一君が顔を覗かせる。
彼との話を聞く限り、どうやら今の私は彼に作ったお弁当を渡しにきたみたいだ。
少し開いた扉越しに離す内容を聞いてそう理解する。
私はチェーンのかかった扉を開けて部屋に入れてほしいと言っているけど、彼は気まずそうに言葉を濁して開ける様子はない。
どうやら彼は私を部屋に上げたくないようだ。
それでも私は彼を元気づけるために彼と一緒にご飯を食べたいのか、優しい声で何度も彼に伝え続ける。
そして何度目かの会話の最中にそれは起きた。
「か、帰れって言ってるだろ!!」
彼は怒鳴るようにそう言った後、勢いよく家の扉を閉めた。
まだ扉の隙間に私の指があるというに。
い、いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい!!!!
外の身体が挟まれた指の痛みが私へと伝わってくる。
痛みで叫びたいのに叫べない。
扉から指を離したいのに身体が動かない!!
何も出来ない私に痛みだけは容赦なく襲い掛かってくる。
なんで、なんで礼奈がこんな目に遭わないといけないの!!?
もうわけがわからないよ!!?
何一つ理解できない光景。
言うことを聞いてくれない身体。
何も抵抗できないのに痛みだけは感じる。
理不尽な状況についに私の心が限界を迎えだす。
これは夢なのに、どうして痛いの!!?
わからない、もうなにもかも意味がわからないよ!もうやだよ!!早く元の世界に帰りたいよ!!
助けてお兄ちゃん!!
涙すら流すことが出来ない私。
それ代わりだと言わんばかりに外の世界では大量の雨が降り注ぎまじめる。
外の私は雨に打たれながら無言で彼の家を眺め続けていた。
そしてまた、景色は移動する。
目の前に現れたのは知らない誰かの部屋。
隣にはみぃちゃんがいて、そして先ほど強引に扉を閉めて私の指挟ませた彼の姿もあった。
それによって痛みを意識するが、指の痛みも先ほどよりは遥かにマシになっていた。
「圭ちゃん罰ゲームだよ」
「ば、罰ゲームってなんだよ!?」
みぃちゃんは手にマジックペンを持ちながら彼へと詰め寄る。
私はそんな彼を後ろから拘束していた。
「圭ちゃんには富竹さんと同じ目に合ってもらう」
いたずらをするような笑みを浮かべてみぃちゃんがマジックペンを見せながらそう言って笑う。
それを見た私はこの世界での綿流しの日に彼女達が富竹さんに罰ゲームで服に寄せ書きをしていたことを思い出した。
みぃちゃんと私はきっと元気のない彼のために富竹さんと同じように彼の服に元気が出る文字を書くつもりなんだろう。
「早く元気になぁれ」
優しい笑みを浮かべながら彼の服にそう文字を書こうとするみぃちゃん。
そんな彼女の頭を唐突に彼はバットで殴りつけた。
・・・・みぃちゃん?
え?待って、なんでみぃちゃんがバットで殴られて。
彼にバットで殴られたみぃちゃんはそのままピクリとも動かくなる。
彼女の頭からは赤い液体が漏れて床を赤く染めている。
み、みぃちゃん!?みぃちゃん!!
いや!!動いてよみぃちゃん!!!
必死にみぃちゃんに向かって必死に叫ぶが私の叫びは届かない。
なんで!?なんでこんな酷いことするの!!?
みぃちゃんとあなたは友達じゃなかったの!!?
必死に彼に叫ぶが私の声がこの世界には届かない。
みぃちゃんをバットで殴り殺した男は狂気を宿した目を今度が私へと向ける。
外の私は迫る男を視界に捉えながらも未だ倒れたままのみぃちゃんを呆然と見つめていた。
動かない視界の先で私は倒れるみぃちゃんでも、迫る男でもない別のところへ注意がいく。
それは、この部屋に立てかけられた鏡だった。
鏡を通して外の私の姿が映し出される。
え・・・・?私?
鏡に映った先には今より少し成長した私自身の姿があった。
顔も、髪の色も何もかも同じ。
服だって、私が今日お父さんからもらったお気に入りのものを着ている。
え、え・・・・じゃあ今まで私が見てきたものは全部私自身がやってきたことだったの?
今まで他人のことだと思っていた光景が頭の中で高速で巻き戻される。
そして最後に私の中であの時の梨花ちゃんの言葉が響く。
『・・・・本来のあなたは一人っ子で兄なんていないことを知ったらあなたはどうするのかしらね』
その言葉が私の中で響き渡った瞬間、彼は一切の躊躇いなく私へとバットを振り落とした。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
彼からバットが振り下ろされる直前。
私の口から絶叫が漏れた。
「っ!!?あ、あれ!?」
視界に先に映る景色には私に向かってバットを振り下ろそうとした彼はいない。
それどころか私がいる場所はついさっきまで私がいた雛見沢の田舎道だ。
目も口も身体も今は自由に動く。
「戻ってきた?い、今までのなんだったの?」
まるで長い夢を見ていたかのように先ほどまで見ていた景色の痕跡は何も見られない。
目の前に広がるのはのどかな雛見沢の景色だけだ。
見慣れたその景色を見て、今まで見てきた光景が不思議と幻のように記憶から薄くなる。
「あ!?り、梨花ちゃんは!?梨花ちゃんはさっきまでのことを何か知ってるの!?」
先ほどの見た光景に関係しているであろう梨花ちゃんに聞こうと彼女を探す。
しかし、梨花ちゃんの姿はいつの間にか消えてしまっていた。
「なんだったんだろう・・・・?」
何とも言えない後味の悪さが胸に残る。
さっきまでのは夢?それとも・・・・
「・・・・みぃちゃんのところに行こ!!」
私はそれ以上考えることをやめてみぃちゃんの家へ走る。
未だ胸に残り続ける不安を振り払うように。
「・・・・ふふふ、種は蒔けたわね。今はまだ意味をなさない種だけど、いずれこれは発芽して物語へ深く根を張る」
雛見沢の森の中で走り去っていく礼奈を見つめながら冷たい笑みを浮かべる。
そして礼奈が走り去った後、森の闇へと消えようとした彼女に迫る人影があった。
「待つのです!!」
「・・・・あら」
声を聞いた彼女は森の奥へと向けていた足を止めて振り返る。
そこにはこの雛見沢の守り神である羽入が表情を険しくさせながら立っていた。
「羽入じゃない。そんな険しい顔をしてどうしたのよ?私はこれから家に帰るところなんだけど」
「梨花の振りは僕には通じません!!あなたは一体誰なのですか!!?それに礼奈に一体何をしたの!!?」
梨花の振りをした彼女を羽入は一目で違うと看破する。
それを聞いた彼女は裂けたように口に三日月を作りながら笑う。
「ふふふふふふ!!やっぱりあなたには通じないようね。さて、私が誰かね。そうね・・・・色々呼ばれているけどあなたにはこう答えましょう」
彼女は闇を纏った瞳で羽入を見つめがら口を開く。
「私は奇跡の魔女。世界で一番残酷な魔女と呼ばれている女よ」
「ま、魔女!?そんな存在聞いたことない!!」
「あら、あなたも似たような者じゃない。それにあんたが信じなくてもどうでもいいわ。だって私あなたのことが大嫌いだもの」
彼女は不快そうに顔を歪めながら羽入からの言葉を切り捨てる。
羽入は彼女から感じる底知れぬ力を恐れながらも立ち向かう。
「話はまだ終わってないのですよ!!あなたは礼奈に何をしたのですか!!?もし彼女に危害を加えたのなら私はあなたを帰す気はない!!」
羽入は衰えてしまった自身の力を振り絞りながら彼女を睨む。
「別に危害なんで加えてないわ。ただ少し別のカケラの記憶を見せてあげただけ。ふふふ、少し刺激が強かったかもしれないけど」
「っ!!?絶対に許さないのです!!」
可笑しそうにそう呟いた彼女に羽入は自身の力を振るう。
停止した時間。そこでは羽入以外のものは全員動くことは出来ない。
しかし、彼女はその停止した時間の中で何事もないかのように動き続ける。
「無駄よ。あなた程度の力では私には絶対に勝てない。それにこれは私と彼の始めたゲーム。彼の駒を簡単に壊したりなんかしないわ。それじゃあつまらないでしょう?」
「・・・・彼?」
自分の力が全く通用していないことに絶望を感じながらも意志を折れないように必死に支える。
羽入の言葉に彼女はさらに歪んだ笑みで答えた。
「そう、この世界では竜宮灯火と呼ばれている彼よ。これは私と彼のゲーム。駒のあなたはこれに関わる権利はない」
「灯火とあなたのゲーム!?一体何を言ってるのですか!!?」
「だからあなたは知る必要はないことよ。そんなに気になるなら彼に聞いてみたら?まぁ答えてくれないでしょうけど」
羽入の言葉にそう言い残して彼女は闇の中へと溶け込むように消える。
そして暗い森の中には羽入1人だけが残された。
「・・・・灯火。あなたは一体何者なのですか?」
羽入は目に不安と心配の色を作りながら1人呟く。
その言葉に応えてくれるものは誰もいなかった。
思ってた倍以上に書きにくい。
原作描写があんまり多すぎてもしょうがないし。
礼奈が見た世界は原作の鬼隠し編のレナの視点になります。
かなりざっくりと書いてしまっているので意味がわからなかったら本当にすいません。
後々読みやすいように修正します。
しかし今はさっさと話を進めたい。
とりあえずこれでIFは一旦終わります。
次から本編に戻ります。