ミヤコワスレ ドロップ   作:霜降

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 船内の調査を追えて貨物船から外に出ようとしていた山城達の通信端末に、突如呼出音が鳴り響く。

 

"敵艦隊発見! 駆逐級が九隻に、人型が三体!!"

 

 通信端末越しに響き渡る朝雲の焦りを含んだ声。その通信は、鎮守府にて指揮を取る北濱の元にも届いた。

 

「連合艦隊か……人型の詳細は分かるか?」

"二体はリ級! 残りの一体は……嘘でしょ!?"

「どうした」

"敵旗艦はネ級! 【重巡ネ級】よ!!"

「ネ級だと? 見間違いじゃねぇのか!」

"もう目視できる、間違い無いわ!"

"提督、朝雲の言っている事は本当ですよ。でもどうしてこんな所に……"

 

 貨物船の中から出て来た扶桑が付け加える。先に北濱の言った通り、この海域は本来安全とされていた場所だ。そんな場所でこれほどの惨状が起きている時点で異常事態だったが、そこに更に強力な深海棲艦が現れた事で一同は混乱していた。

 

 

 

 

「あ……あのさ」

「? どうしたの曙」

「その……ネ級って、何?」

えっ!?……えぇっと、ネ級って言うのは――重巡リ級は分かるよね? それよりも更に強力な、上級の人型深海棲艦だよ。鬼級や姫級ほどでは無いとは言え、油断できない相手さ」

 

 曙の勉強不足な発言に一瞬驚く時雨だったが、すぐに冷静になると通信端末のドキュメントアーカイブを開いて説明する。曙としては恥ずかしい限りだった。尤も、彼女はこれまで人型の深海棲艦を見る事自体が無かったのだ。上位のそれをよく知らないのも無理はない。

 

「あれが、人型の深海棲艦」

 

 徐々に肉眼で確認できる距離に近づいてくる敵艦隊。初めて生の人型を目の当たりにする曙は、その異様さに気味の悪いものを覚えていた。

 顔の片方を仮面の様なもので覆われた深海棲艦・ネ級は瞼をやや伏せている様な表情を作っていて、かろうじて感情の様なものが見え隠れしている。

 

 だがその左右に付き従うショートヘアの人型深海棲艦――曙も資料として見た事のあるリ級には、感情と言うものがまるで感じられない……と言うよりも、表情筋が全く動いていなかった(・・・・・・・・・・・・・・)

 その様はまるで、ヒトに成りすました怪物が、精巧な人の貌を模した仮面をつけている様に思えた。

 

"何故ネ級がこんな所にいるのかは分からんが、野放しにする訳にはいかん。危険を冒す事は許さんが、一匹も逃がすな"

 

 北濱のその言葉とほぼ同じくしてネ級がこちら側に気付く。忌々しげに目を細めたネ級は腕を前に翳し、配下の深海棲艦達に号令を送る。二体のリ級はネ級を護る様に前に立ち、残りの九体の駆逐級達は訓練された猛獣の如く、こちらに向かい襲い掛かって来た。

 

「来るわよ皆! 重巡級は私と姉さま、最上で何とかします。時雨達は駆逐級を各個撃破!」

「了解したよ……それにしても提督。危険を冒さず敵を殲滅しろだなんて、簡単に無茶ぶりしてくれるね?」

"お前らなら難なく出来ると踏んで言ってるんだがな"

「誉め言葉として受け取っておく……よっ!」

 

 北濱に軽口を叩いた時雨が先陣を切り、戦いの火蓋が切って落とされた。遅れて朝雲と山雲、更には曙も敵艦隊へと向かって突撃する。

 

 

 

 

「改二!」

 

 敵の砲撃を躱しながら時雨が両手をクロスし、水柱の中を抜けた時には改二の姿へと変わっていた。イ級は砲撃を混ぜた雷撃を繰り出すが、時雨は之字運動を高速で行いそれを難なく躱す。変幻自在に移動速度を変え、時には急なバックステップを混ぜたりもしながら、徐々にイ級との距離を縮めながら肉薄していく。

 だが距離が近くなるにつれ、イ級側の命中率も少しずつ上がっていき……。

 

「っ!」

 

 時雨がマズい表情を取るのと、イ級が時雨に照準を合わせるのはほぼ同時だった。放たれる砲撃! 砲撃は時雨の居た位置に着弾し、爆炎を上げた。

 勝利を確信したイ級は咆哮を上げるが、すぐに何かがおかしい事に気付く。爆発した地点には、時雨の艤装の破片どころかオイルすら浮かんでいない。まるでそこには最初から何も居なかったかのように。

 

「――仕留めたと思ったかい? 残念だったね」

 

 イ級がその位置を探る間もなく背後から聴こえる声。イ級が弾けた爆炎の先には、蒼い目をした漆黒の猟犬が立っていた。

 間髪入れずに、数匹の駆逐級が時雨に襲い掛かる。時雨は軽く舌打ちし、次の標的へと意識を向けた。

 

 

 場面が代わり朝雲と山雲。それぞれが交差する様に、朝雲がハ級、山雲がニ級を相手取る。朝雲へとハ級が突撃するが、朝雲はそれを両手で受け止めながら、右目にキックを二、三発繰り出し、その勢いのまま怯んだハ級の顔面に連続パンチを叩きこんだ。

 その奥で、ニ級が口を開きながら山雲に向かい突進する。だが山雲はその突進を避けようとはせず、激突する寸前で相手の力を利用し、横へと受け流した。目標を見誤りそのまま前につんのめるニ級のしっぽを掴み、両の腕に力を込めた山雲は、普段の彼女とは思えない豪快なジャイアントスイングでニ級を振り回し始める。

 

「山雲、行くわよ!」

「はーい、朝雲姉~」

 

 お互いがタイミングを合わせる様に、朝雲がグロッキー状態のハ級を持ち上げて投げ飛ばし、山雲もそれに合わせる様にハ級の落下地点へと向けてぶん回していたニ級を放り投げ、二体の深海棲艦は互いに衝突し悶絶する。

 その二体に向けて、山雲が膝を屈めながら魚雷を発射。その背後に朝雲が立ち、遅れる事数秒後に彼女の頭上で主砲を放つ。時間差で放たれた魚雷と砲撃は、丁度いいタイミングでハ級とニ級に同時にヒットし、二体は大爆発を起こした。

 

 

「凄い……」

 

 立て続けに敵を撃破した時雨や朝雲山雲を見て、曙は一人呟く。皆、自分達可香谷提督の鎮守府のメンバーに比べても、明らかに高度な戦闘技術を有しており、ただ圧倒されるだけだった。「あ、あたしだって負けてないんだから!」と我に返り周囲を見回す曙。すぐ近くには、今まさに自身に襲い掛かろうとしている深海棲艦――駆逐ロ級の姿があった。

 

「また? いい加減、あんたの顔も見飽きたのよ!」

 

 もはや腐れ縁の域に達しようとしている敵に対し、曙は向かって行く。

 

 

 

 

 時雨達が駆逐級深海棲艦を相手取った事で、ネ級達と山城達の間を遮るものは無くなり、両陣営はにじりにじりとゆっくりと動きながらお互いの距離を取っていた。やがて、静寂を破り山城達の方が先に動く。

 

「行くわよ山城」

「はい姉様! 最上、制空権は任せるわ」

「任されるよ! 瑞雲さん、激しい奴頼みます!」

 

 後方に下がった最上は、飛行甲板型の艤装に妖精の乗った小型瑞雲をセット。それらを飛翔させ彼女達の視界とリンクし始めた。

 航空巡洋艦である最上は、勿論砲雷撃戦による戦闘も可能なのだが、北濱鎮守府の艦娘には空母が居ない関係上、同じく水上爆撃機を運用できる扶桑型の2人に比べれば火力に劣る彼女が、制空権確保を一手に担う事にしている。それにより、扶桑と山城は砲撃に集中出来、艦隊全体の火力に貢献しているのだ。

 幸い、今回は敵艦隊に制空権を争える艦が居なかったお陰で確保は容易だった。

 

「制空権確保! いつでも行けるよ」

「上出来よ、最上……主砲、副砲、撃ちます。発射ぁ!」

 

 号令と共に扶桑が巨大な艤装を駆動させ砲撃を行う。砲弾はネ級を狙い放物線を描きながら飛んでいき――しかしリ級の一体(以降リ級α)が前に出て、腕に付いた艤装の一部を使ってそれを防御する。爆炎が晴れ、反撃を試みようとするリ級αだったが……。

 

「はあああっ!!」

 

 煙が晴れたと同時にリ級αの目の前に突っ込んで来る山城。扶桑の砲撃は囮であり、彼女は何れかのリ級が砲撃を防御する事、その際爆炎により一瞬視界が遮られる事を読んでおり、本命である山城が砲撃に遅れてリ級αへと白兵戦を仕掛けたのだ。戦艦娘の馬力を体術として用い、重い一撃をリ級αに喰らわせる! たまらずリ級αは後ろへと仰け反った。

 

「このまま押し切らせてもらいます!」

 

 仰け反った反動を利用して回避を試みるリ級αだが、山城はそれを逃さない。リ級αの肩と腕を掴み背後へと背負い投げをする。リ級αは海面に全身を打ち付けのたうち回った。

 

「トドメです!」

 

 山城が復帰のままならないリ級αに主砲の一撃を放とうとする――だがその瞬間、山城は背後から何者かに羽交い締めにされた。

 

「ぐっ、離せこの!?」

 

 山城の自由を奪うもう一体のリ級(以降リ級β)。その間にもリ級αは体制を立て直し、お返しと言わんばかりに山城を何度も殴りつける。表情一つ変えずに行われるその光景は非常に気味が悪い。

 

「山城!!」

「扶桑、ボクに任せて!」

 

 後方で瑞雲の編隊を操作していた最上が、その内の何機かを山城の自由を奪うリ級βの背後へと向かわせる。そしてその背中に爆撃を叩き込んだ。突然のダメージに堪らず力を弱めるリ級β。

 山城はその隙に、肘打ちをリ級βに喰らわせた後に回し蹴りでそのまま後方へと吹き飛ばした。その隙をリ級αが狙う!

 

「山城、私も援護するわ」

 

 発射準備を完了した扶桑がリ級αに主砲の一撃を叩き込む。戦艦の砲撃をもろに喰らい、大破するリ級α。

 

「これで決めます!」

 

 山城が甲板状の艤装から観測機に乗った妖精を射出。観測機妖精の眼とリンクした山城は、立ち上がるもフラフラになっているリ級αを捉える。そして、装甲が脆くなっている箇所を見つけ照準を合わせ、眼を見開いた。

 

「発射!!」

 

 弾着観測により確実にリ級αに向けられた主砲副砲の連撃は見事命中。リ級αは大爆発の下撃沈していった。

 

 

「よし! これで残りは――」

「待って山城! 南方に敵艦反応数隻……増援だよ!」

 

 最上のその言葉に何かを察した山城は、後方に離脱していた敵旗艦のネ級を見る。そこではネ級が、艤装から電探のような物を伸ばしている。恐らくは、付近の深海棲艦を呼び寄せているのだ。

 

「まだ駆逐級は全滅していない、この状況で増援などさせません!」

 

 山城がそう言いながらネ級を砲撃。だがネ級は、わずかに横に動く事でそれを回避した。着弾地点に巨大な水柱が上がる。

 増援を呼ぶことを中断されたネ級は忌々し気に拳を握りしめ、山城へと襲い掛かった。右手左手と交互に攻撃を繰り出すもそれを山城に受け止められる。それでもネ級は止まらず、両手を封じた事でがら空きになった山城の脇腹へ向けて蹴りを放った。いかに強靭な肉体を持つ戦艦娘でも、艤装に覆われていない生身の部分を攻撃されれば無事では済まない。が――。

 

「それで私が怯むとでも? 潜って来た修羅場が違います!」

 

 驚くネ級の隙を突き、山城はネ級の腕を掴み投げ飛ばした。追撃と言わんばかりに主砲を放つ山城。ネ級はそれを両肘をクロスさせて防ごうとするが相殺しきれずに数回に渡り海上をバウンドする。

 やがてネ級は、何かにぶつかり動きが止まる。それは、時雨達の誰かが仕留めた駆逐級の残骸だった。退路を断たれたネ級、万事休す。

 

「今です姉様! 全砲門、一斉射!!」

「ボクの瑞雲さん達も行くよ~!」

 

 扶桑と山城の砲撃に最上の瑞雲隊の機銃掃射が合わさり、駆逐級の亡骸もろともネ級に襲い掛かる! もはやネ級は回避する間も無く、着弾地点に大爆発を伴いその姿が見えなくなった。

 

「やったぁ!」

 

 勝利を確信した最上が叫ぶ。後には空高く炎が立ち上り、敵艦隊旗艦を仕留めた安堵感から山城もふぅと溜息を付いた。

 

(…………?)

 

 だが爆炎が晴れるにつれ、山城は奇妙な違和感を覚えた。海面には無数の残骸が漂うが、それらは全て駆逐級のものだ。その中に、ネ級のものと思われる艤装の破片が一つも見当たらない。跡形も無く吹き飛んだのか、或いは全て海底に沈んだのか? それとも――。

 

(あの状態から砲撃を回避する事は不可能だった。やはり仕留めた? いやしかし……)

「ふ~、間一髪だったね。増援を呼ばれる前に倒せて良かったよ」

 

 上空の瑞雲隊を着艦し終えた最上が、気の緩んだ声を発しながらゆっくりと山城に近づいてくる。今だ戦闘が続いている中、気を抜くお調子者に呆れながら山城は最上の方を向く。

 

「最上、まだ戦いは終わっていないのよ? 気を引き締めなさい」

「でも旗艦はボク達で倒したじゃないか。後は雑兵だけだし、曙達なら余裕で終わらせてくれるよ」

「最上? 戦闘での油断は一番やってはいけない事よ。貴方の実力は評価するけれど、他の艦娘に示しの付かないような態度は頂けないわ」

「もう! 扶桑までそんな事言ってぇ……分かったからそんなに二人して睨まないでよ」

「全く……馬鹿な事言ってないで、さっさと残存勢力を叩きに――」

 

 

 そう言いかけた時、山城は周囲に違和感を覚えた。深海棲艦の残骸の周辺に立ち込める煙……初めは爆散した駆逐級から発せられたものかと思っていたがそれにしては煙の濃度が濃すぎる。広がった煙は、周囲の視界を遮るほどにまで海上を覆いつくし――。

 

(まさか!)

 

 警戒する山城。この煙が、使用者が姿を隠す為の【煙幕】だと気付いた時には全てが遅すぎた。

 

 

「避けなさい、最上!!」

「――えっ?」

 

 

 

 

 大海原に、大きな爆発音が響き渡った。


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