枯れた木に木の葉が舞う。不安そうな松本を月光が周りを照らす。あの人の姿を忘れるはずがない。心のどこかで引かれていた、ただあれを取り返すために奮闘してくれた、自分がどんなことになろうとも私のために。
しかし嘘の可能性もある。このことを知っている誰が自分だまして罠にはめようとしている。そんなことはすぐに思いついた。だが、でも、あの地獄蝶は彼のだという確信があった。君に会いたい、それだけだ。松本は誰からだろう、と考えたとき彼の事を思い出した。いや、まさか、あり得ない、でも、もしも、ほんの少し、もう一度会えるとしたら。
月光が照らしたのは松本だけではなかった。地獄蝶の送り主も照らす。
松本はまた涙を流す。
しかし近寄る松本を拒む。彼は彼であっても彼ではない。それを理解してる彼は誰であろう。
その頃の浦原商店。
マキナ「ええ、少なくとも私達は敵対する意志はありません。あくまでダーカーの殲滅が優先なので。」
マキナは夜一を保護した理由や訳、そしてアークスについての補足をして説明をした。
浦原は半信半疑であった。別に嘘をついているようには見えない。だが、他の宇宙から来ただとか、星を追われた者たちの集団だとか、星丸ごとダーカーと呼ばれるに汚染されるとか、鵜呑みにハイそうですかと言える物ではない。
浦原「うーん。スケールが大きすぎてイマイチ実感が掴めないと言うか、なんというか。いや、夜一さんを保護してくれた所は感謝してますよ。」
夜一が行方不明なのは事実。だが、記憶喪失をしていたとは驚きである。多少医療の心得があるのでほぼ治りかけとはいえ、記憶に欠落してるのもまた事実。
夜一「まあ、わしからしてみれば命の恩人みたいな人達じゃからな。」
そう言うと夜一はお茶をすする。
鉄斎「マキナ殿、少し宜しいですかな」
正座をして聞いていた鉄斎が話に入る。因みに夜一はあぐらをかいて鉄斎の横にいる。
マキナ「はい、私に答えられる事があれば。」
鉄斎「では、初めシュトリル殿のサポートパートナーと自分の事を申されていましたが、そのサポートパートナーとはなんでしょうか。」
マキナ「ああ、そこの説明をしていませんでしたね。サポートパートナーと言うのはある程度、まあ初心者から初級のアークスが使用出来る補助システムです。」
浦原「補助システムですか?」
浦原までハテナマークを浮かべるような顔をする。鉄斎も理解してないのか、顔にしわが寄る。
マキナ「補助システムと言うのは先ほど行った通り、初心者から初級のアークスが使用出来る、アークス個人の生存率や戦闘力などの向上を目的に設立されたシステムの一環です。
私達サポートパートナーはアークス一人一人に配布される自動独立型戦闘AIとでも言えば良いでしょうか?」
浦原「...ん?」
そのハテナマークは三つに増えたようにマキナは感じた。やはりマスターであるシュトリルに合わせてあるためか、他の人との意見交流に時々こうなる。初め、このキャッス達ともこんな感じだった。
すると見かねたリュシが補足をする。
リュシ「サポートパートナーと言うのはアークスが使用出来る専用のお人形みたいなもの。マキナにはちょっと悪いけど、完全な機械人形でこう言った感情も自己学習と元々のプログラムで構成されてるの。もっと簡単に言うとそのアークス専属のメイドさんとかヒツジさん。
で、サポートパートナーの主な目的はもちろん戦闘のサポート。だけど、そのアークスの体調管理や精神サポートもこのサポートパートナーの仕事。そのアークスが苦手とする項目の代行とかも出来るように作られてるって話を聞いたことがある。で、最大で三人まで雇えるのよ。あ、シュトリルさんのサポートパートナーはマキナさんだけだよ。」
むふむふとマキナを見つめる浦原。鉄斎は確認をするようにリュシに尋ねる。
鉄斎「なるほど、いわばシュトリル殿にとっては嫁のような存在と言うわけですか。」
リュシ「いや、それはちょっと・・・。」
リュシやナーコヤは違うと思う。顔にもそれが出ている。だか、マキナは微笑んでいる。お世辞で言われたとしても嬉しそうな笑顔である。
浦原「って、そのシュトリルと言うのはどなたですか?」
マキナ「私のマスターは現在、外で信頼できる相手を探しています。」
浦原「信頼できる相手?」
マキナ「はい、失礼になりますが、こちらでの交渉が失敗した時に次の交渉相手を見定めるのが目的です。」
その言葉に浦原や鉄斎の気配が変わる。その気配を感じ取ったのかリュシやナーコヤも身が硬直する。夜一も先程までリラックスしていたが、それをやめる。
始めに切り出したのは浦原の方だった。
浦原「交渉...ですか。」
マキナ「はい。」
浦原「単刀直入に、目的は?」
マキナ「ある死神の保護と活動拠点の提供。そして、私達の存在を庇ってください。」
浦原「存在を庇う...ですか。なぜ?」
マキナ「先ほども言いましたがダーカーの殲滅が私達のアークスの目的です。しかしダークファルスの存在が確認された以上、居場所を知られてはならないのです。ダークファルスには人並み以上の知性ありますし、我々もダークファルスの討伐を狙っています。少なくともダーカー因子が少ない貴方がたならダークファルスとの接触はないと判断しました。」
浦原「貴方がたがそのダークファルスではないという証拠は?」
マキナ「残念ながら証明できません。」
浦原「そのダークファルスとの和解は。」
マキナ「無理だと考えてください。ダーカーにもダークファルスにもダーカー因子を用いた汚染があります。ただ会話するだけでも汚染すると思ってください。」
浦原「ある死神の保護とは。」
マキナ「それは交渉が成立したときに。マスターであるシュトリルから、また上司でもあるシュトリルからの命令で私達アークスはその情報の提供を禁止されています。」
浦原「マスターからの命令でねぇ。そう言えば交渉とお宅ら言いましたよね。なら、こちらに何かメリットは?」
マキナ「この時代に沿った範囲内での技術提供。夜一さんについていた者はあなた方が作られたと判断しました。ゆえにその装置や他の武器防具とうの技術提供をある程度、あなた方の現在の文化、文明、知識を超えない程度で。」
浦原「文化、文明、知識を超えない程度とは具体的に?」
マキナ「見たところ特殊な人種な方々であるのは間違いと判断しました。故に今の所、貴方が作られた物。現在位置特定可能な地図機能内蔵の連絡用端末をより良い物にいたします。実際は物を見てからでないと言えません。」
浦原「活動拠点の提供については。」
マキナ「ここの家には地下に特殊な広い空間があると断言します。故にそこの極一部を文字通り提供してくだされば結構です。」
浦原「そこまでわかっていたんですか。」
マキナ「ここらへんの地理や地図。高いエネルギーの反応がここにもありましたし、何人かの死神が出入りしていたのを確認しました。何かあるとはわかっていたんですか、確信したのは夜一さんからの情報です。」
浦原「まったく。夜一さん、元2番隊の貴方が...はぁ。」
マキナ「交渉してくれませんか。」
浦原「...」
浦原も決めかねていた。確かにこの人達は信頼できる相手だろう。むしろ敵に回す方が危ない、それこそ虚圏《ウェコムンド》にいる残党の破面《アランカル》なんかと接触し、手を組まれる方が危険である。この人達はわずか数人で空倉町の調査をやってのけた。さらにこの人達は死神や嘘《ホロウ》が見えている。そして1番厄介なのは技術力の高さだろう。交渉にもあったが文化文明知識を超えない範囲内と言うことは、鵜呑みにするとこの人達は自分達より文化も文明も知識も上だと言うこと、それも遙かに。
しかし、いくら夜一さんの恩人とはいえそう簡単に了承できない。この人達を受け入れると言うことはあの蜘蛛や蟻を完全な敵としてみると言うことだ。護廷十三隊や総隊長の結論が出ていない中、自分らで決めるのは少し危険だ。そしてこれだけの技術力があるのなら、もしかすると瀞霊廷の全ての情報を抜かれる事だってある。それはかなり危険。
それに死神の保護、これをそう簡単に見逃せない。内容が開示できないのはそれだけだ重要な事だからだろう。もしかすると保護した死神は行方不明になった8番隊の隊士かも知れない。その可能性は十分ある。
シュトリルと言う奴は脅しをかけてきているのは間違い。仲間を見捨てたくないなら手を貸せと。そして夜一だけ返したのは人質。正確には夜一の記憶だと思われる。未だ一部の記憶がない。自分達の手でもそう難しい事ではない、だがこの人達が細工をし、爆弾のような物を仕掛けていたら最悪夜一を殺すことにもなる。
そう浦原が考えていると。ドタドタドタと階段から誰かが降りてくる。そしてダン!!とふすまが開く。出て来たのは赤髪をした少年であるジン太だった。
鉄斎「ジン太殿!!今は入って来ては」
鉄斎が怒る。だが、それを吹き飛ばす用にジン太は言う
ジン太「コンの様子がおかしいんだ!!」
それに一瞬驚く浦原と鉄斎。しかし、今は大事な話し合いの最中。それどころでは無いのが事実。ならば、手が空いている物に行かせるべき。
浦原「夜一さん、帰ってきて早々ですがお願いできますか?」
夜一「ん?まあ、喜助の頼みならしょうがないかの。席あけるぞ。」
マキナ「私達は構いません。」
夜一は焦るジン太と共に出て行く。ジン太の焦りようから、何か起きてるのはわかっている。手を組む方が良いと思うがやはり迷いがある。
浦原「さて、こちらはどうしたものか。鉄斎さんはどう思います。」
こう言う時は他の人の意見を聞くべきか?と思い浦原は鉄斎に尋ねる。
鉄斎「私ですか。そう、ですね・・・。所々あいまいな点が気になります。本当に味方になりたいならそう言う意思を向けるべきかと。」
数秒間の空白。マキナは呆れたように口を開く。
マキナ「もしかして夜一さんを連れて来た意味わかってません?」
浦原「どう言う意味ですか?」
浦原は身構える。やはり夜一を解放した理由は人質。だが。
マキナ「そう身構えないでください。えーと、夜一さんはアークスではないですよ。」
浦原はマキナの真意が読み取れなかった。鉄斎もそうであった。何を言いたいのか、この二人には悟れなかった。いや、勘違いしたというのが正しいだろう。
浦原「ん?...ええ。」
浦原は夜一を人質としてより強調していると思っていた。むしろ夜一がこの人達から離れ、ある意味チャンスどうすれば良いのか。すると鉄斎はある考えにいたる。
鉄斎「あの~。マキナ殿はもしかして喋れないから夜一殿に聞いてくれとおっしゃりたいのですか?」
鉄斎はマキナがアースクと言う組織に入ってるため喋れないから夜一に聞いて欲しいと言っているのでは?と思った。
マキナ「それについてアースクの私は、アースクの!!私は!!お答えできません。」
浦原「あ、どうりで夜一を連れてきた訳ですね。」
ここで流石に浦原も察した。用は詳しいことはあんたらの仲間である夜一にきけと言うことに。確かに夜一はアースクの所属などしていない、それにシュトリルと言う部下の命令もしかし直接コレを言うと情報流失を行った疑いになる。だからマキナは
言葉を選び話していた。
マキナ「黙秘しますね。さすがにアースクからの首チョンパが来そうなので。」
浦原「お宅も大変なんですね。」
グテンとちゃぶ台に伏せるマキナ。そんなマキナを心配してか浦原は声をかける。
マキナ「ノーコメントで。マジでこの人達信頼して大丈夫なんすかねぇ。」
リュシ「そ、そんなこと言わないでほら。」
ナーコヤ「まぁ、人間色々いるから。」
そんなことを話しているとまたドタドタと階段を駆け下りる音がする。そして戸を開けて夜一が入ってきた。
リュシ「あ、夜一さん。いいとこ」
夜一「すまんマキナ。こいつ頼めるか?」
夜一の焦りようから事の重大さを理解した。浦原や鉄斎はどこか不思議そうに、マキナは驚き、リュシとナーコヤは少し怖がる。
リュシ「ヒッ!!」
ナーコヤ「ウッ...!!」
マキナ「これは...。」
そこには大きな白く濁った花を咲かせてるライオンのようなぬいぐるみがあった。コンである。が、花の大きさは明らかにぬいぐるみとのバランスがおかしく、ぬいぐるみの栄養を吸い取って花が成長してるように見えた。
夜一「行けるか?」
苦虫をかみつぶしたよう顔をしたマキナ。
マキナ「今の設備では不可能です。開花してここまで大きく成長してしまっているので。正直な所、現状維持も無理臭い状況。むしろここまでのレベルに達すると自我が無く死体であるがために即刻殺処分です。クラス的にもベリーハード推奨以上のエリアにしかいないので、出来るだけ善処してみます。」
じん太「殺処分ってコンを殺すのかよ!?と言うかいま死体って事は...」
ウルルが不安そうな顔をしているのにじん太は気づく。
鉄斎「じん太殿ウルル殿...。」
じん太「大丈夫...なんだよな。」
マキナ「一応、今の設備で出来るとには出来るのですが...。正直、ここまで体が脆いと肉体の方が持ちません。相当な力技ですし悪化してると体が...。」
浦原「いや、肉体面は大丈夫かと。少なくとも核、擬魂丸が無事ならこちらとしてはコンさんは助かるかと。」
マキナ「核?ならそれを取り出したり、外部への避難は可能性ですか。」
浦原はコクリと頷き、続けて言う。
浦原「こちらで取り出しますので、その間に準備をお願いします。」
マキナ「鉄斎さん。下の空間お借りできますか。」
その問いうんと頷き、
マキナ「ナーコヤ、リュシ。下見お願いします。なるべく広いスペースの所で頼みます。」
2人も頷く。そして鉄斎のあとをついていく2人の姿を見送った。
追加だ!!