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推薦作品:余計者艦隊 Superfluous Girls Fleet(佐世保失陥編) 原作:原作:艦隊これくしょん
戦記において、敗戦直前の行き詰った救いのない状況を綴った末期戦ものはひとつのジャンルとして市民権を得ている。大岡昇平の「野火」はその最高峰であろうが、本作は艦これ二次創作における末期戦ものの極北とい... (全文表示)
戦記において、敗戦直前の行き詰った救いのない状況を綴った末期戦ものはひとつのジャンルとして市民権を得ている。大岡昇平の「野火」はその最高峰であろうが、本作は艦これ二次創作における末期戦ものの極北といえる。どのような戦況なのか。それは、「日本本土に飛行場姫が根を下ろしている」といえば提督には察することができよう。敵に本土上陸を許しているのだ。さながらソ連軍にベルリンまで侵攻された独軍も同然の、いわばすでに王手を詰められ、それでも投了せずに足掻き続けている世界である。最後まであきらめないといえば聞こえはよかろうが、要は負けを認め終戦に導く存在がいない、あるいは国家としてその機能が麻痺しているために、前線がやむなく無駄な損耗を強いられているだけにすぎない。もっとも、戦争相手が人間ではなく交渉に応じるような存在ではない怪物であるためにそれもやむをえないのだが。人類の脅威として世界の海を支配する深海棲艦に対抗するため戦線に投じられる艦娘たちも、もとは人間の少女を兵器として改造し、薬物で恐怖心を打ち消して無理やり戦場に立っている有様で、世界のためにとか人類のためにとかいう高尚な理念はない。軍隊につきもののユーモアもなく、あるのはただただ極限状態に追い込まれた少女たちが敗戦という現実から目を背けるために思考を停止させて眼前の敵と戦う顛末だけである。二度と昇ることがないとわかっている陽が水平線の向こうに落ちる最後の一瞬をなすすべなく眺めているだけともいえよう。本作の中心人物たちは、艦娘は性格や戦闘能力に問題ありと烙印を捺された出来損ないばかり、急遽任命された提督は落第ぎりぎりの成績でかろうじて兵学校を卒業できた人生の落伍者で、タイトルの余計者は誇張でもなんでもない、一人残らず正真正銘の落ちこぼれである。そういった者たちは、軍という「型に嵌める」組織の規定と風土ではたしかに爪弾き者だが、実は通り一遍の試験では測れない型破りで非凡な才能を持っていて、それが窮地を救う鍵になる……というのが物語における通例であるが、本作にはそんなご都合主義はない。登場人物たちの奮闘むなしく敗れ去り、世界が滅亡という静謐に包まれる……世界の黄昏に憧憬を抱く趣向の人間にはたまるまい。▼読む際の注意事項など滅亡寸前まで追い詰められた艦娘たちが、敵からの攻撃で部位欠損するだけでなく、信用できない味方や暴徒と化した国民にも神経を尖らせ、歯を食いしばり、理不尽に耐えている世界である。せっかく灯った希望の灯火は、運命の吹く息にあえなく消されてしまう。早い話、餓死寸前の子猫に芳醇な香りの鰹スティックを差し出し、猫が口をつけようとした瞬間に取り上げて、猫が絶望し衰弱していくさまを見て楽しめる性的嗜好の持ち主には最高のSSとなりうる。が、女の子が血を吐いて苦しんでいる光景に嫌悪感をいだくとか、他人様の作ったキャラクターを破壊するなやりたいならオリジナルでやれ、という方にとっては最悪のSSであろうことに疑いの余地はない。これは「野火」の読後に残る嫌悪感があくまで戦争の悲惨さを記憶に刻む手段にすぎないのに対し、本作がとにかく艦娘をいたぶることが目的化しているからかもしれない。よって本作は閉塞感や絶望感、無力感を楽しむものであって、「戦争の本質を直視した問題作」などとは少なくとも筆者は断言できないのだ。かわいい艦娘が運命にほとんど作為的に踏みにじられる陰鬱な物語を好むならお勧めできるし、鬱になる艦これSSは嫌だという方には、むしろ絶対に読むなと警告させていただく。
推薦:蚕豆かいこ 評価:★ (参考になった:65/ならなかった:13)
推薦作品:星と少年 原作:原作:Infinite Dendrogram
この作品には、原作である<Infinite Dendrogram>に登場するキャラクターが、ほぼ出てこない。 しかし、原作の世界観や雰囲気が完璧に再現され、それゆえに「VRMMOでの異... (全文表示)
この作品には、原作である<Infinite Dendrogram>に登場するキャラクターが、ほぼ出てこない。 しかし、原作の世界観や雰囲気が完璧に再現され、それゆえに「VRMMOでの異能バトル」という原作の趣旨が完全に、もしかすると原作以上に再現されているかもしれない。 「原作と矛盾した設定を出さない」というレギュレーションに沿っているからこそ、非常に純度の高い異能バトルが完成されている。これは、原作がある二次創作にしか出せない魅力である。 オリジナル『エンブリオ』、オリジナル『職業』、オリジナル『特典武具』、オリジナル『UBM』。全て、原作で説明された法則に違和感なく馴染むものであり、チートなどでは決してない。作品の根幹に絡むアイテムである『劣級エンブリオ』ですら、原作に登場する法則で説明がつくものである。 三人称である故に、キャラクターの感情を一歩離れた視点で描写されている。キャラクターと読者との距離の取らせ方が良い意味で非常に狡猾で、それはキャラクター造形にも及んでいる。 主人公の一人、ブラーはMMO廃人で、リア充を見下すロクデナシである。ゲーム内でトップに成り上がりたいという想いのために、NPCを躊躇なく殺す。いやに生々しく、現実にいそうなキャラクター造形であるが、読者はキャラにも文章にも強い嫌悪感を抱くことなく物語に没入できる。それは、肯定も否定もしない三人称からの心理描写が非常に精緻で、「ああ、現実にいたらヤな奴だ」と、軽く思わせる程度にとどめてしまう。しかし、例えば悲劇に対する被害者の心情は、三人称でありつつもキャラクターと距離を若干詰め、「可哀想に」という印象を与えさせる。 また、前述したオリジナル設定も非常にオトコノコ心をそそる魅力的なものだ。中二病患者の妄想とは一線を画する緻密で、ゲームバランスを崩さず、かつロマンを理解する固有名詞と能力の内容をしている。 小説家になろうもしくは書籍でデンドロ本編を読み終わり、同じ雰囲気でもっと異能バトル要素を煮詰めたのが読みたい!と思った方は、是非最初にこの作品を読んでいただきたい。▼読む際の注意事項など 三人称であり、二章以降スポットライトが当たるキャラクターが移り変わるため、三人称群像劇を読みなれていない人は少し集中力を要するかもしれない。
推薦:砂漠谷 評価:☆ (参考になった:3/ならなかった:0)
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