ナザリック in オラリオ   作:タクミ( ☆∀☆)

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英雄

「バレた・・・?」

 

ヘスティアの小さな呟きをモモンは敏感に聞き取った。

 

「アスフィ、リヴィラの町に行って冒険者達の応援を呼んでくるんだ」

 

「応援?あれと戦うのですか?逃げるのではなくて?」

 

ヘルメスの依頼に質問で返すが、その回答はすぐに納得できた。

 

「たぶん、逃がすつもりは無いよ」

 

その直後、けたたましい音が響いた。アスフィはその先を見ると17階層につながる通路が崩れた壁によって塞がれていた。あの瓦礫を退かすには半日以上はかかるだろう。そしておそらく退かす余裕などくれる筈もない。

 

「生きて帰れなかったら恨みますからね、ヘルメス様!」

 

恨み節を残し、アスフィはリヴィラの街に飛び出した。その後ろ姿を見ながらヘルメスは残っているモモンに話かけた。

 

「さて、君には説明が必要みたいだね」

 

「バレた、とはなんのことだ?」

 

モモンの質問を予め知っていたかのようにすぐにヘルメスは答えだした。

 

「元々このダンジョンは神々(おれたち)が下界に降りる前の古代の時代から存在していた。モンスターが溢れ出る大穴を下界に降りた最初の神と子らで防ぎ、なんとか蓋をすることができたんだ。それがこのオラリオの前身である要塞都市というわけだ。だからだろうね、恨んでるのさ、こんな地下空間(ところ)に閉じ込めた神々(おれたち)を」

 

ヘルメスの話を聞き、モモンは違和感を感じる

 

「ちょっと待て、それではダンジョンそのものが意思を持っているようではないか?」

 

「詳しくは分からない。だが今回のことはダンジョンが俺やヘスティアの存在を敏感に察知して起こした可能性が高い」

 

「きっかけは神ヘスティアが神威を解放したことか」

 

「いつもはギルドの長であるウラノスの祈祷でモンスター達の力を抑えてはいるのだが、こんなことは前例がない」

 

モモンはヘルメスの話を聞きながら神の言うイレギュラーを見つめた。

 

 

ベル達は近くに居合わせたモルドを助けるべく動き出していた。ヘスティアを誘拐しベルを襲った張本人にもかかわらず。

 

「フッフッフッ、────────チッ、抑制されたか」

 

ベルの行動にモモンは思わず笑いが込み上げてきた。すぐに抑制されてしまったが。

 

(相変わらず甘いな。しかし、それが君の答えか)

 

ベルの姿にモモン、いや鈴木悟が憧れていたタッチ・ミーの姿が重なる。もちろん力を比べれば足元にも及ばない。しかし、ベルはアインズにはない強さを持っていた。

 

「君も助けてくれるのかい?」

 

「別に神がどうなろうと私の知ったことではない。しかし、あれが私の前に立つというなら容赦はしない」

 

モモンの回答に十分だと答え、ヘルメスはこの物語の結末を見守るために特等席へ移動した。

 

 

 

「アウラ、ルプスレギナ、ソリュシャン!」

 

モモンの号令と共にモモンのもとに(しもべ)が集まる。すぐにでも動ける準備はできているというようにモモンの顔を注視している。

 

「私たちはあいつに手を出すつもりはない」

 

アウラ達はモモンの言葉に理解ができず戸惑っている。

 

「あいつを殺すのは簡単だ。しかし、冒険者達がどこまでできるのか見てみたい。それに冒険者が倒せなくてもそれを倒した私達の評価はさらに上がるだろう」

 

モモンの回答に納得したようにアウラ達はうなずいた。

 

(さて、見せてもらうぞ、ベル君。君の冒険を)

 

 

 

 

冒険者達はアスフィ、そしてかなりの実力がある覆面の女を囮に戦っていた。ゴライアスの咆哮(ハウル)は通常の相手を『恐怖』状態に追い込み身動きをとらせるのではなく、魔力を込め純粋な砲撃として遠距離からの攻撃が冒険者達を苦しめた。さらにゴライアス自体も巨大な体と厚い皮膚に覆われまともな攻撃が与えられない。足元に集まる冒険者達にゴライアスが雄叫びをあげる。その雄叫びは18階層に棲息していたモンスター達を呼び寄せた。冒険者達はゴライアスだけに集中できず、ベルもまた戦闘不能に陥った冒険者を助けながらモンスターと戦っていた。

事態が動いたのは冒険者達が放った長文魔法だった。前衛攻役(アタッカー)が引き付けている間に詠唱を終え、放たれた爆炎や雷槍、氷柱など幾重もの魔法がゴライアスを直撃する。黒煙をあげながら動きを止めたゴライアスに一気に畳み掛けようと追撃を加えようとした。

しかし、ゴライアスは余りある魔力を使い急速なスピードで自己再生を行った。迂闊に近付いた冒険者は巨大な鉄槌に蹴散らされ、遠くの魔法詠唱者は前衛壁役(ウォール)ごと咆哮(ハウル)によって吹き飛ばされた。

なんとか難を逃れたベルはランクアップ時に新たに得たスキル【英雄願望(アルゴノウト)】で蓄力(チャージ)する。リィン、リィンと(チャイム)の音が響く右腕は白い燐光が明滅していた。蓄力(チャージ)ができる最大の三分をかけ、通常とは桁外れの【ファイヤーボルト】を放った。狙うはゴライアスの中心にあるであろう魔石だ。いくら回復しようがこれが無ければ死んでしまうモンスター共通の弱点。しかし、ゴライアスは負けじと咆哮(ハウル)を放つ。【英雄願望(アルゴノウト)】によってベルの極大の【ファイヤーボルト】はゴライアスの()を吹き飛ばした。

外した、ベルの思いを知るかのようにゴライアスは頭すら再生させた。力を使い果たしたベルをゴライアスは容赦なく吹き飛ばした。ベルを守るために間に前衛壁役(ウォール)が入り直撃を防いだようだが、その甲斐無くベルは戦線を離脱した。

 

(ここまでか・・・)

 

ベルの奮闘にアインズはよくやった方だと考えた。彼のスキルなのだろう。ゴライアスの頭を吹き飛ばしたのは十分な偉業だ。幸いまだ死んではいない、後は自分達の出番だと動き出そうとしたとき、ベルの治療をしているヘスティア達のもとにヘルメスが現れた。

英雄の条件(祖父の教え)を口にするヘルメスにベルが覚醒する。想い人(アイズ)に恥じないように、何より仲間を守るために再び立ち上がろうとする。

 

「ルプスレギナ、治療をしてやれ」

 

思わず口にしてしまった。英雄に憧れた自分が英雄になる男の姿を見たくて。

 

「【大治癒(ヒール)】、モモンさんに感謝するっすよ」

 

突如現れたルプスレギナにヘスティア達は驚くが、ベルの傷がみるみる回復していった。立ち上がったベルは再び想いを込め蓄力(チャージ)を開始する。

 

限界解除(リミット・オフ)

 

ベルの想いが神の恩恵を凌駕し、戦いに一石を投じる英雄の一撃へと昇華させた。

 

ゴォン、ゴォォン!

 

突如鳴り響いた大鐘楼(グランドベル)に全ての者が息をのんだ。大剣を抱え燐光を明滅させるベルに全てを賭ける。

 

「いけぇぇぇぇぇ、てめぇらぁぁぁぁ!!!」

 

ゴライアスも同時にベルのことを敵として認識した。近づけさせまいとモンスターをベルに集結させる。冒険者達はベルに近づけさせまいと道をつくった。アスフィ達もベルの蓄力(チャージ)が貯まるまでゴライアスを惹き付けた。

全ての冒険者達の協力を経てベルは蓄力(チャージ)を完了させて、全ての力を込め一撃を放った。

 

「ああああああああああああああッッ!!」

 

純白の極光が辺り一面を覆う。視界が回復したものはおそるおそる様子を伺うとゴライアスの上半身が吹き飛んでいた。特大の魔石がこぼれ落ち、残された体は大量の灰となって消えた。

冒険者達の大歓声が上がり、ベルの回りに集まった。そこには先程までベルを妬んでいた姿はない。その光景にモモンはベルに称賛を送った。

 

「ベル君、おめでとう」

 

全力を使ったベルは体の力が入らないのか座り込んでいたが、照れたように笑っている。ベルの無事に安堵したヘスティアやリリに抱きつかれて顔が真っ赤だ。

 

 

 

 

冒険者達はひとしきりお互いを称賛しあうと、戦利品に群がりだした。特に巨大な魔石にはどう分け合うかでいさかいが起こっている。

モモンも巨大な魔石を眺め触れた瞬間、声が聞こえた気がした。

 

 

(見つけた)

 

 

その声と同時に目の前にあった魔石が消滅した。目の前の出来事に周りにいた冒険者達は阿鼻叫喚の騒ぎだが、モモンだけは体の違和感に黙りこんでいた。消えたのではない、体に取り込まれたような違和感を感じて。

 

今だ歓喜に包まれるベル達とは対照的にアインズは言い知れない不安を感じるのだった。

 

 






今後の展開を考えてタグを追加しました。
楽しんでもらえれば幸いですm(__)m

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