俺は超越者(オーバーロード)だった件   作:kohet(旧名コヘヘ)

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有り得ない事態、自分の変化を見た魔王は確信する。
魔王は勇者に確かに救われた。だが、それは化け物の計画だと。
無理やり『愛』されるところだったと。


第十八話 気づき

城外にいる『霜の巨人』を逃がすなとナーベラルにメッセージを送った。

 

殺しはしないが後で記憶を消す。面倒ごとは避けたい。

 

 

それから俺は城内で、オラサーダルク=ヘイリリアルを含む19匹の冷凍宅配便…じゃない

 

『霜の竜(フロスト・ドラゴン)』を支配した俺はこれから行って貰う予定を話した。

 

 

従わないならば殺すしかないかなぁと思っていたら普通に即決された。

 

 

ドラゴンとしての誇りとかあったような気がするのだが、賢過ぎないか?

 

 

魔王のオーラがあるとはいえ。

 

 

俺の覚えている『原作』だと愚か者だった気がするのだが…やはり当てにならない。

 

『霜の竜』達はとても素直だった。

 

 

俺は、とりあえず、目標の一つであったクアゴアの代表に会わせるように頼んだ。

 

 

オラサーダルクは、即座にクアゴア代表のペ・リユロを呼んできた。

 

 

リユロは『霜の竜』を完全に支配したと思われる俺に絶対の忠誠を誓った。

 

 

…強者に従うのが当然とか考えていればこうなるかもしれない。

 

クアゴアとは共存共栄路線で行きたかったのだが、『従属』になってしまうことが確定した。

 

なので、全力で魔王ロールをした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

圧倒的な力を感じさせる『魔王』と名乗る存在。

 

少なくともわかる。

 

 

この存在にはドラゴンもクアゴアも変わらない。

 

 

そんな『絶対者』が現れた。…現れてしまった。

 

もはや、首を垂れるしかなく、俺は何を言われても受け入れる覚悟をした。

 

 

ところが、彼の『魔王』は、

 

「私はな、かつて九つの『世界』を保とうとしたのだ。財と力を用いて」

 

訳のわからないことを言い出した。

 

 

『世界』と言われても、俺にはアゼルシア山脈しか思いつかない。

 

 

そのためにドワーフを滅ぼし、いずれは霜の竜すらも滅ぼすつもりだった。

 

アゼルシア山脈を支配したら俺の『世界』は完結する。

 

だから、九つの『世界』などありえない。

 

 

「と言ってもわからないだろうな。この一つの『世界』住民では」

 

苦笑する『魔王』。

 

俺には困惑しか浮かばないが、一つだけ確実にその『隠喩』がわかった。

 

 

この『魔王』は『世界』を何らかの形で『保つ』つもりだ。

 

少なくとも、滅ぼす気はない。

 

 

アゼルシア山脈に存在するもの全てを単身で滅ぼせるだろう。この存在は。

 

勝てる者など、想像がつかない。

 

 

「君たちクアゴアには、我が財を守ってもらいたい」

 

…なんだって?

 

意味が分からない…脈絡がない?いや、あった。

 

 

クアゴアに『世界』を保つために協力しろ、だ。

 

だが、どういう形で?

 

 

「ああ、なに簡単だ。私は鉱山を持っているんだ。

 

 君たち地下に住む者では見えないかもしれないが、

 

 私はアゼルシア山脈に優るとも劣らぬ鉱山を所有している」

 

何となくわかって来た。何をしようとしているかはさっぱりだが。

 

…つまり『人手』が足りないのか。なんてわかりづらい言い方だ。

 

だが、確信した。これしかない。

 

 

『魔王』は俺の『頭脳』を試している。

 

 

なので、あえてわかりづらくしている。

 

恐らく、俺が推測できなかったら言い方を変えて同じことを言う。

 

そうしないと気づけない何かがあるからだ。

 

 

俺が気づけないなら、別な方法を用意している。悪い方向で。

 

 

「発言よろしいでしょうか?」

 

俺は決意する。覚悟を決めて交渉する。

 

ここが最善だと気づいたから。

 

 

「許す」

 

そう言って堂々たる態度で俺の言葉を促す『魔王』。

 

 

俺達、クアゴアは『魔王』がその気になれば滅ぶだろう。

 

俺はクアゴア統合氏族王として賭けに出た。自分の考えが正しいと思ったから。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

素晴らしい。

 

優秀な方なら良いと思っていた。だが、想定以上だ。

 

…彼は天才だ。勿論、ラナー等には劣るが。

 

 

 

ナザリックの鉱山開発は、今でも十分だが、

 

鉱山を更地にするまで掘り出すのは流石に不可能だった。

 

 

魔王と英雄との闘いはわざわざ派手に壊して、

 

鉱石とかもろとも吹き飛ばしたからできた行いだ。

 

…完全催眠で一部誤魔化してもいた。

 

その破片を集めるだけで黒字になったのは、チートだが。

 

 

今後、クアゴア達にナザリックの鉱山開発を手伝ってもらって、今以上に鉱石を取りまくる。

 

最終的に毎日更地にして、掘り進める。鉱山そのものは完全催眠で周囲を誤魔化しながら。

 

 

そのためには、『鉱石』をかぎ分けられるクアゴアが適切なのだ。

 

たとえ、クアゴアの文明レベルが低くても。

 

 

ベンゼルとグレールは鉱山を掘れれば良いという考えなのは知っている。

 

だが、鉱山についてクアゴアに参加させて良いか、

 

他のNPCの意見を聞く必要もあった。だが、おそらく大丈夫だ。

 

 

NPC達には、鉱山は攻められるものという意識がある。ユグドラシル時代の記憶で。

 

 

だから、クアゴアが、ナザリックに『従属』したなら大丈夫だと判断するはずだ。

 

鉱山に限って言えば。

 

 

クアゴアはトカゲや土中生物等何でも食べる雑食性だと帝国からの情報で知っている。

 

雑食性ならおそらく魔王国の作物等で代用可能なはず。

 

益々魅力的な種族だ。『鉱山』があるナザリックにとっては。

 

 

クアゴアが鉱石を食べるのは、幼少期。食べた子はその金属に応じた能力を持つという。

 

つまりは、『子供』のみだ。その分を分け与える程度なら全く問題ない。

 

唯一の懸念は、将来、クアゴアの子供の数が増え過ぎた場合だ。

 

毎日更地にしても足りないレベルの人口増加の可能性。

 

 

…だが、彼なら理解できる。

 

話していて確信した。ペ・リユロは非常に優秀なクアゴアだ。

 

すぐにナザリックの恐ろしさを必ず理解するだろう。

 

 

そして、『未来』が見えるはずだ。クアゴアの繁栄の未来が。

 

 

ぺ・リユロなら、それを壊すような真似は決してしないだろう。

 

 

同時に、彼なら想定できる最悪の未来がある。

 

 

…こちらから言わなくても彼ならすぐ理解できる。

 

多少誘導すればクアゴアの人口管理までし出すレベルで賢い。

 

 

…だから惜しい。

 

本当にリユロとは、共存共栄路線で話し合いたかった。

 

だが、俺に力を感じてしまった以上不可能だ。

 

もはや、『従属』の選択しか彼にはできない。

 

 

クアゴアの『世界』の限界だ。

 

ラナーのように逸脱した頭脳はまずありえない。

 

 

おそらく鮮血帝と同程度に賢いと思うが、『世界』が狭すぎる。

 

…彼が、クアゴアがドワーフを占領できたら、また違った会話ができたかもしれない。

 

 

惜しい。本当に惜しい。

 

 

勇気ある決断力、『魔王』の俺に怯えぬ胆力。

 

訳の分からない戯言と一蹴しないだけの洞察力。

 

 

彼に、ペ・リユロに、『知識』さえあればもっと違った。

 

 

ここで決断してしまった以上、彼の意識を変えるのは不可能だ。

 

 

もはや『従属』しか選択肢がない。こちらからの説得も不可能。

 

だから、せめてその『世界』で繁栄してもらう。

 

 

…本当に惜しい人材だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

クアゴアとの話が終わり、オラサーダルクと今後の『仕事』について話をした。

 

その際、オラサーダルクから『財』は好きに使って欲しいと言われたが、要相談にした。

 

 

それよりもドワーフの宝物庫が見たかった。

 

 

…オラサーダルクが色々言うのでナザリックに回収を依頼することにした。

 

 

『霜の巨人』の記憶を消して、元の場所に転移(ゲート)で飛ばした。

 

彼には悪いことをしたが、死なないだけマシだと思って欲しい。

 

本当に申し訳ない。

 

 

俺はナーベラルに口裏合わせをした後に、

 

ナザリックにメッセージを送った。

 

 

『霜の竜(フロスト・ドラゴン)』やクアゴアのこと、

 

オラサーダルクの財のこと等を伝えたそれらを回収するように依頼した。

 

 

彼らと『契約』したこと以外は全て任せると伝えた。

 

俺は『旅』の途中だから丸投げになってしまう。

 

 

だが、『世界』の方針から彼らを無体に扱ったりはしないだろう。

 

 

上記の内容をナザリックに報告したら、ラナーからメッセージが即座に帰って来た。

 

 

『趣味』なのに『仕事』をしていると滅茶苦茶怒られた。

 

 

ナーベラルと口裏合わせていたが、慣れないことをさせたせいですぐにバレた。

 

 

というかNPCも気づいているけど俺に怒れないと言われた。

 

 

俺は物凄く反省した。『旅』の範疇だと自分に言い聞かせて無茶苦茶していた。

 

…何故こんなになるかわからないくらいに。

 

 

ラナーに、

 

「酒でも飲んで寝たらどうですか?馬鹿なんじゃないですか?」

 

と言われてしまった。反論できなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ナーベラルと俺はドワーフの宝物庫の前に来ていた。

 

二人だけで、『旅』の結果を見たかった。

 

 

宝物庫の中身を拝借してもバレなければ問題ない。

 

俺達はナザリックに関係ない謎の旅人だから。

 

 

「ナーベラル。今から扉を開くぞ!」

 

俺はわくわくしていた。

 

 

『七門の粉砕者(エピノゴイ)』を使う。

 

これはLV.90相当の鍵開け能力を7度まで使用できるアーティファクトだ。

 

貴重品だが、『旅』なのだからこれくらいいいだろうと貧乏性を押さえつける。

 

 

最終日二日前に店で買い占めてまだあるアーティファクトだというのもある。

 

 

「はっ」

 

普段と変わらないナーベラルを見て我に返る。

 

 

…ちょっと興奮し過ぎたかもしれない。

 

 

いや、待て、何故俺は興奮していた?

 

共感できる友でもないのに?

 

 

「モモンガ様…」

 

急変する俺を見てどう対処すれば良いかわからないという感じだ。

 

気まずい。

 

 

…良く考えれば、

 

何故ここまでナーベラルを俺が気にするのか良く考えたらわからない。

 

俺の秘密を打ち明けたから?

 

最初に『世界』の異変に気付いたから?

 

 

「モモンガ様」

 

 

…気づいてはいけない可能性に気が付いた。

 

あってはならない。ダメだ。俺が『俺』を保てなくなる。

 

自分を…ダメだ。

 

というか関わりは多いがその考えは間違っている。

 

『原作』から目覚めた結果、俺はその行為が正しいからナーベラルと『英雄』をやった。

 

…それ以外では?

 

 

「モモンガ様。お休みになられた方がよろしいかと」

 

ふと、気づく。

 

心配そうな顔をしたナーベラルがいた。

 

 

だが、

 

「済まない。これを開けたら…休む」

 

俺は煩雑な心から、無理やりその場に気を取り戻す。

 

 

「…御心のままに」

 

ナーベラルの沈黙から俺は感じ取った。

 

彼女は、俺を心配している。やめろと言いたがっている。

 

だが、従うと表面を無理やり取繕っている。

 

 

俺はそれに気が付かない振りをした。

 

 

「開くぞ」

 

俺は無理やり、宝物庫の扉を開けた。

 

 

凄い量の金貨や装備が転がっていた。宝物庫だから当然だが。

 

隠し扉の可能性にも気がついた。

 

だが、金貨の山を取り除かないと探せない。二人じゃ無理だ。

 

 

俺の思考はそこにはない。…良く考えたら犯罪だよなと冷静になる。

 

 

…俺はそもそも何でこんなことをした?

 

わざわざ宝物庫を盗掘するなんてユグドラシルであるまいし。

 

…俺は普通そんなことをする人間か?

 

 

そもそも『旅』ならデミウルゴスの提案通り帝国経由で行けば良かったはずだ。

 

 

…ユグドラシルと同じように楽しみたかった?

 

 

俺はそれしか知らないから?何もできないから?

 

 

「モモンガ様。私は!」

 

…ラナーの言葉を思い出した。

 

『酒でも飲んで寝たらどうですか?』

 

 

「…済まない。何だ?」

 

ナーベラルに尋ねる。先ほどから俺はおかしい。

 

 

「私は御身に全てを捧げます。だからこれ以上無理をなさらないでください!」

 

そう深々と頭を下げられた。

 

 

本当は、もう何も深く考えないでいたかった。

 

 

だが、ナーベラルの言葉で、『逆に』、俺は自分の『心』を振り返った。

 

 

全力で、これ以上なく、無理やりに、強引に、思考する。

 

 

ここまでの流れ、俺の動揺、心を利用する。された。

 

 

そしてわかった。

 

 

「…嵌められた!!」

 

俺の突然の大声にナーベラルが恐怖していた。

 

 

「すまない。ナーベラル。お前は何も悪くない」

 

聞きたがる素振りのナーベラルを手で制する。

 

 

 

ここまでやるか?俺一人のために?

 

 

 

だが、皆の計画は俺が無意識に壊していた。

 

それは幸運だ。

 

俺が『孤独』だから浮かばないその発想。

 

今回に限っては、その欠陥に救われた。

 

 

何故、『番外席次』があんな告白をしたのか。

 

何故、ラナーが愛してなくても側におけと言ったのか。

 

何故、ナザリックの皆が俺を嵌めたのか。

 

全て繋がる。

 

 

これまでの計画の全てを許そう。

 

だが、ナーベラルを使ったことだけはダメだ。

 

 

最悪は止められた。俺は、ラナーすら想定外を行けただろう。

 

俺はある意味最後までラナーに勝った。

 

 

ある意味『それ』を想定していた発言のせいで止まった。

 

それは、ラナーらしくない間抜けな発言。

 

『酒でも飲んで寝たらどうですか?』

 

これはおかしい。ラナーらしくない。

 

だが、そうするかもしれない。

 

 

彼女視点では。

 

 

…馬鹿みたいだと自覚して言ったに違いない。

 

 

 

『番外席次』も、『人間』であるが『勇者』ではないとはよく言ったものだ。

 

 

『魔王』を『愛』で倒すとは中々手が込んでいる。

 

 

 

見事だ。ああ、見事だ。理解した。

 

 

『全て』を受け入れよう。幸福を。

 

 

 

だが、ラナー。ナーベラルを利用したことだけはダメだ。それだけは絶対に。

 

…わかってやったのだろう。

 

 

あと一歩で、その結末になっていたら俺は流石にラナーを許せなかった。

 

 

「ナーベラル。即座にナザリックに帰還するぞ」

 

そう言い急がせる。彼女には最後まで迷惑をかけた。俺の思いのせいで。

 

 

...答え合わせと行こうじゃないか?ラナー。

 

 

楽しい楽しいお話の時間だ。

 


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