ざっつなオーバーロードIF展開   作:sognathus

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原作よりちょっと早くイビルアイ達と邂逅を果たしたモモンの話です。


ちょっと早く来たももん様

突如頭上より降り立った黒い鎧の戦士に一同の視線は集中した。

彼はかなりの高所より降り立ったらしいにも関わらずその身体は石のように不動であり、おおよそ落下によるバランス崩壊、ないしはダメージを受けた様子を微塵も感じさせなかった。

降り立った戦士は周囲を見渡して状況を察すると、今まさにがエントマに攻撃を与えんとしていたイビルアイを庇うように立ち塞がると、当の攻撃の対象であったエントマを冷静に見据えながら言った。

 

「突然失礼。助太刀しよう」

 

「……!!」

 

予想だにしなかった突然の主人の登場にエントマは声もなく驚き、それと同時に持った彼に対する畏敬の念から無意識に数歩後ろに下がった。

その姿はさっきまで死闘を繰り広げていたイビルアイ達からすれば黒い鎧の戦士、モモンの威圧感に圧倒され怯んだようにしか見えなかった。

 

(威圧感だけでこの凄まじさ。この男は一体……いや、黒い鎧! そうか……)

 

モモンの風貌から直ぐに彼が誰かを悟ったイビルアイは、彼に前方の視界を覆われることで自然と不思議な安心感を感じていた事に小さく驚きつつも蒼の薔薇最高戦力に相応しい落ち着いた声で言った。

 

「失礼、貴方は漆黒の英雄モモン殿とお見受けする。私は蒼の薔薇のイビルアイ。早速だがモモン殿、悪いが助太刀は無用だ。私は、少なくともあいつに関しては有利に事を進める事ができるという確信がある」

 

「ほう?」

 

背後より聴こえた妙な声にモモンが首だけを動かしてイビルアイの方を向く。

イビルアイはただそれだけの事なのに、何故かモモンのそんなさりげない所作に無骨な男らしさを感じてちょっと胸がときめいた。

 

「それはどういう事ですか?」

 

モモンの落ち着いた声がイビルアイの自信の根拠を訊いた。

 

「私は《蟲殺し/ヴァーミンペイン》という蟲種族に強力な特攻効果のある魔法が使えるんだ。見たところあのメイドは蟲種族のようだ。なら必ず私の魔法が効くはずだ」

 

「それはそれは……」

 

イビルアイの口から出た魔法の効果に強い警戒心を持って更に数歩後ずさったエントマを尻目に、アインズは彼女から聞いたユグドラシルでは聞いたこともない魔法の名前にアインズは興味を惹かれた。

 

(殺虫剤のようなものかな? だとしたら確かにエントマには危険な魔法かもしれない。ん? という事は恐怖公にも効果大という事か?)

 

アインズは脳裏で殺虫スプレーを掛けられて苦しそうに藻掻く恐怖公の姿を想像して不謹慎にもその姿に吹き出しそうになってしまった。

だがそれをすんでのところで何とか抑えた。

 

(想像した事自体はちょっと笑えないけど、エントマに危機が迫っている事は間違いないしな。さて、ここはどうやってあいつを逃してやるか……。というか何故こんな状況になっているんだ?)

 

組合から受けた依頼で空中を移動していたアインズが、街の中で起きていた異変に気付いて興味本位で降り立ってみれば何とも妙な展開となっていた。

エントマをが冒険者達と戦っていた事から推察するに、恐らくまた自分の知らないところでデミウルゴスの壮大な計画が動いていたらしい事は大凡の察しが付いた。

だが問題はアインズ自身がその計画の目的を全く把握できていないという事だった。

 

アインズは取り敢えず最低限の現在の状況を理解する為に、士気高く今にも前に踊り出んとしていたイビルアイを宥めるようになるべく落ち着いた声が出るように努めて彼女に訊いた。

 

「すまない。その前に今に至るまで経緯のをお訊きしたい」

 

「そんな悠長なやり取りを今やっている場合か?! 今はあの蟲メイドを一刻も早く仕留めるべきだ!」

 

「……! この! アイ……」

 

主人に対するイビルアイの無礼な態度に怒ってついエントマがモモンの正体に通ずる名を零しそうになった時だった。

アインズはすかさずそれを察してエントマの言葉を遮るように大剣を彼女の前に突き出し、ついエントマの軽率な行動に対する苛立ちから強い口調でぶっきらぼうに言った。

 

「黙れ」

 

「……!」

 

本人はただエントマを諌める為に言った一言のつもりだったのだが、その言葉はイビルアイ達を含め身を竦ませる威圧感を与えるには十分過ぎる程の効果を発揮した。

見るとエントマは主人に強く注意された事にすっかり怯え、かつ己の失態に対する羞恥心に震えてしょげ返り、更に数歩後退した。

そんなエントマの姿は声だけで強敵を圧倒するモモンの英雄としての姿をその場にいた蒼の薔薇のメンバー全員に強く印象付けた。

 

(何という存在感だ! まさか声だけで私達どころか敵まで畏縮させてしまうとは! こ、こんなカッコイイ英雄見た事ないぞ!)

 

「す、すまないももん様。ついしゃしゃり出ようとしてしまった……」

 

「は? い、いや……」

 

いつの間にか自分を様付けで呼び、そして何故かしおらしい態度を見せるようになっていたイビルアイをアインズは純粋に不気味に思い若干引いた。

だがそれによって自分が主導権を握る展開となっていた事を目ざとく確信し、その好機を逃すまいとエントマを見据えながら言葉を続けた。

 

「悪いが選手交代とさせてもらう。貴方の言葉を疑ったわけでは決してないが、私ならもっと迅速にこの事態を収拾できる」

 

つまり上手くエントマの相手をしているように見せて、見えない所で逃がすつもりだったのだが、そこで新たな声がその場に響いた。

 

「おやおや、配下の者が何やら手こずっているようなので気になって来てみれば、何とも非常に手強そうな英雄がいらっしゃる」

 

「……」

 

モモンは最早その声に心の中で驚くことも焦ることもなかった。

声の主の正体を察したところで彼にこの行動の目的をどう上手く質す展開に持っていくか思考を瞬時に切り替えたからだ。

 

「お前は誰だ?」

 

アインズがイビルアイを庇ったようにエントマを背後に隠して現れた男はナザリックに所属する者なら誰もが知る最高の知恵者の一人だった。

その男はアインズに優雅な動作で一礼すると、仮面を被った顔を上げて言った。

 

「私はヤルダバオト。魔皇ヤルダバオトと申します」

 

その言葉に、アインズはこれから始まる芝居で行う演技に対して本来ありえない疲労感を感じた気がした。




ガガーランとティアがヤルダバオトに殺されるどころか、エントマが口唇蟲を失う展開にすらならないイビルアイとモモンの出会いの話となりました。
蒼の薔薇二人が死なず、アインズとエントマがイビルアイにヘイトを持つ展開にならなかった以外は、これから続くアインズとヤルダバオトの戦いは原作と多分同じだとお考えください。

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