ナザリックの潜伏者   作:塩梅少年

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前回のあらすじ

モモンガ「ふざけんなっ!」
ガーネット「!?」


1ー2 第9階層の守護者たち

 ユグドラシル終了間近に謎の体調不良を受けたガーネットは、人生で味わったことのないぐらいふかふかなベッドで横になりながら何度も何度も強制ログアウトを試みる。GMコールなども試してみるが、運営にはどうしてもつながらずにうなだれるしかない結果になった。

 

 そもそもゲーム終了間際までGMコールが機能しているのかという疑問もありユグドラシルサービス終了による強制排出をおとなしく待つことにしたのだが、明らかに終了予定時刻を数十分を過ぎてもログアウトされる様子はなかった。

 

 ガーネットが自分の太い腕を握れば薄い皮膚を透ける血管が波打つのがわかり、腕に力を込めれば筋肉が収縮する。目を凝らせば空間に色がついてるのがわかり、それが魔力や温度、空気の揺れを表しているのがなんとなくわかる。

 これらが先ほどまで見えていたグラフや図形が視覚化したものに感じる。

 

 

「……そういえば、モモンガさんはどうなった?」

 

 

 もとより身体はどこも悪くなってはいなかったのだが身体の変化への戸惑いも落ち着いてきたガーネットは、何が起きているかわからないが自分が何かとてつもない出来事に巻き込まれてるのか、そしてそれは自分一人だけなのか? とようやく思い至った。

 

 ギルド武器を持ってどこかに向かっていったのを見たのが最後であったが、もしかしたらモモンガさんも同じようにこの現象に巻き込まれているのかもしれない。そう考えたガーネットは自らの指輪の効果を発動させるのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 いくつもの階層を転移してようやくモモンガさんを見つけた場所は第六階層にある円形闘技場(コロッセウム)であった。ここまで来る途中いくつかの配置されていたモンスターなどを見かけたが、彼らを中心に不定形の薄いドーム状のようなものが見え、濃く見えるのが彼らの意識している範囲、知覚可能領域のようなものだというのが感覚的にわかった。

 見つけたモモンガさんの前にはいくつかのNPCが並んでおり、その中でもドームが一際大きいのが闇妖精(ダークエルフ)のぶくぶく茶釜さんが作ったNPCであった。NPCのドームのギリギリの範囲まで、それに触れないように気を付けながら近づく。

 

 格子戸越しに再びモモンガさんのほうを見る。その前にはナザリック地下大墳墓を守るために配置されたNPC達が、まるで隊列を組むようにモモンガさんに対して頭を下げていた。モモンガさんがNPCを集めて何かしてるのだろうか、一体何をしているのだろうとスキルによって音を拾って聞いてみる。

 

 

 

 

 

 モモンガさんがNPCたちの名前を呼び、NPCがそれに応えて喋りだす。

 

──―「美の結晶。まさにこの世界で最も美しいお方であります。その白きお体と比べれば、宝石すらも見劣りしてしまいます」

 

──―「守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シキ方カト」

 

──―「慈悲深く、深い配慮に優れたお方です」

 

──―「す、凄く優しい方だと思います」

 

──―「賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有された方。まさに端倪すべからざる、という言葉が相応しきお方です」

 

──―「至高の方々の総括に就任されていた方。そして最後まで私達を見放さず残っていただけた慈悲深き方です」

 

──―「至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人であります。そして私の愛しいお方です」

 

「……なるほど。各員の考えは十分に理解した。それでは私の仲間達が担当していた執務の一部まで、お前達を信頼し委ねる。今後とも忠義に励め」

 

 

 そう言い残し転移したモモンガさんを呆然と見送り、ガーネットは目の前で起こった出来事にめまいを覚えた。

 NPCたちが意志をもってしゃべることに驚けばいいのか、モモンガさんへの高評価に驚けばいいのか。そういやそんな名前だったなと懐かしめばいいのか、なんか支配者みたいに振る舞うモモンガさんにドン引けばいいのか。端倪すべからざるとはどういう意味なのか、愛しい方とは何なのか。

 

 

(……なんだこれ? いや、そもそもモモンガさんはこれを見てなぜ動揺していないんだ? もしかして何か知っているのか?)

 

 

 自分なんて、自身への変化からついさっきまでグロッキーな状態になっていたのに、なぜあのような対応ができるのか。そして一番意味がわからないのがモモンガさんの彼らに対する態度だ。驚くならわかる。ビビるならわかる。会話するのもわかる。しかし当たり前のように上位者として彼らに振る舞うのはわけがわからない。

 

 

(──―知っていたから? こうなることを予め知っていた?)

 

 

 NPCが意志をもってしゃべり、アバターが現実味のある身体へと変化する。顔を触れば表情は動き、頰をつねれば痛い。理解はしたくいが、いま自分はゲームの世界に取り込まれたのだろうか。もしくはゲームが現実になったのか。

 

 昔なら、そんなことなど気にせずに消えたモモンガさんに相談をしに再び探しに行ったかもしれない。しかし、数刻前に聞いたモモンガさんの声が心に疑念を生んでしまう。

 

 それはモモンガさんがこの事態を知っていたのなら、この現象はモモンガさんが起こしたことなのではないかという荒唐無稽な妄想だ。自分はここ数年ユグドラシルにログインしなかった。その間にモモンガさんが何かしてナザリックという仮想世界を現実と相違ない世界に作り替える仕掛けを行ったのかもしれない。

 どれだけの技術があればできるんだという荒唐無稽な妄想だが、この奇天烈な現実が起こった説明としては、一番現実味のあるものに感じた。いや、現実味のない答えでしかこの事態を納得できないからかもしれない。

 

 だがしかし、いま自分が考えるべきことはこの事態の原因よりもほかにある。それはこれからどうするべきかということである。

 

(もし、万が一、モモンガさんがこの事態を引き起こした、もしくは関わっているのだとしたらこのまま隠れたほうがいいのかもしれない。幸い、俺はナザリックの防衛システムを手掛けたうちの一人だから、どこにどんなギミックがあってどんな防衛をしているかは基本わかっている。仲間を含めて情報を偽証するスキルだってあるのだから、スキルをうまく使って隠れたら基本見つかることはないし……)

 

 それに、会社に出勤してこないことから数日後には国の公的機関から救助がくるかもしれない。あまり期待はできないし、そのころには身体が餓死している可能性が高いのだが。

 

 

「〈鏡の波紋〉〈気配殺し〉〈回響の界廊〉〈影呑〉〈八面氷〉」

 

 周囲に攻撃を伝導させて受け流す鏡の結界を張り、己の生命反応・熱反応を消すスキルを使用し、自らが出した音を離れた場所へと反響させて小さくする。影が己を包み込んで、自らを見えなくする薄い氷の結界を張り巡らせる。

 ガーネットは寝て覚めたら現実に戻っているんじゃないか、そんな淡い幻想を抱きながら自分の部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 このまま瞬時に自分の部屋へと戻れればいいのだがそうもいかない。転移の指輪には少ないが直接転移できない場所があり、玉座の間などには転移できなく、ギルドメンバーの部屋にも直接転移はできない。なので第9階層に転移してから扉を開いて入らないとダメなのだ。

 ギルドの自室は使用者以外誰も入らない安全な場所ではあるが、()()()()()()()()()()拠点として使うには地味に使いにくい場所でもあったのだ。

 

 そんなガーネットが第9階層の入り口へと転移して最初に見たものは武装して構えているメイド達であった。目の前には今にも拳を撃ち込みそうな気迫の首なし騎士(デュラハン)が、その横には聖印を象った武器を構える人狼(ワーウフル)が、真ん中には虫を装備した蜘蛛人(アラクノイド)が、後ろには銀の外殻で覆われた杖を構える二重の影(ドッペルゲンガー)と、かつて作成した白色の魔銃を構えた自動人形(オートマン)がいた。

 

 

「「──ぁ」」

 

 

 これから隠れようと意気揚々と転移した先に完全武装で構えている殺気こもったメイド達がいたのだ。意図せずかすかな悲鳴が漏れたのは仕方ないことだろう。彼女らの名前は戦闘メイドプレアデス、先ほどの階層守護者たちよりもガーネットにとっては馴染み深いNPC達である。

 

 かすかな悲鳴が溢れたのを後悔する間もなく、人狼(ワーウルフ)のルプスレギナ ・ベータが容赦のない振り下ろしをしたのを皮切りに、それに感化されたのか首なし騎士(デュラハン)のユリ・アルファが怒涛のラッシュを何もない空間に繰り出す。それを見た二重の影(ドッペルゲンガー)蜘蛛人(アラクノイド)は一歩離れて周囲を警戒する。

 

 ──もしも、音の出所を誤魔化すスキルを使っていなければ、攻撃が当たり隠密が解除されていただろう。容赦のない攻撃が終わり安堵するが、これから謎の音の発生源の捜索が始まるのか、戦うことになったら戦闘を考えてない自分の職業構成でどこまでやれるのか、そんな恐怖を感じながら気配を殺したまま棒立ちすること数分──

 

 結局何もないと判断したのか、プレアデス達はそれぞれ武器を下ろし、一息ついて話し始める。

 

 

「何もいない……わよね?」

 

「なーんか聞こえた気がしたんすけどねー、匂いもしないっす」

 

「蟲からは熱源反応なしぃ」

 

「侵入者用のアラートも鳴っていないし、上から報告もきていない。シズは何か感じた?」

 

「……私は、何も聞こえなかった。モモンガ様からの勅命だからって、気を張りすぎ」

 

 

 ナザリックの防衛システムを考慮した自身の隠蔽はどうやら成功しているようで、彼女らには姿も気配も見えていないらしい。そしてどうやら今からの徹底的な捜索や範囲攻撃は行われないと知り、もう安全だと知った安堵感と、今更ながらNPCが喋り動くさまを見て少しの満足感と達成感が胸に宿る。

 

 今度はしっかりと口元を手で抑え、プレアデスの横をゆっくりと通っていく。ニンジャマスターの職業を持っているので、扉を開けずとも入ることができるから部屋に入る姿を見られる心配もない。

 

 隠密能力に全振りしたこのステータスを看破できる感知能力を持つNPCはここにはいない。だから、片目の少女と目が合ったのはきっと気のせいなのだろう。




ナザリック外の探索に出たのは漫画版だとセバスとナーベラルらしいですけど、ソリュシャンにしました
最初直そうと思ったんですけど、ソリュシャンなら徹底的に捜索して見つかりそうなのでやめました

スキルはかなり捏造です。なんとなくで理解してもらえれば幸い…と思ってたけど、説明文増やしました(6月16日)
モモンガさんの魔法で完全不可知可とかありますけど、便利すぎるのでピンポイントでメタられたり逆に対策されるんじゃないかなと思ったので、ナザリックが対策できてない穴を突いた隠蔽スキルを使用したイメージです




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