提督の憂鬱   作:sognathus

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疲労してる状態で徹夜で仕事をした提督は風邪をひきました。
いつもクールな艦娘は、あまり見ない光景に気を引かれてしまいます。
提督は何とか仕事をしようとしますが……。


第5話 「風邪」(挿絵あり)

「大佐どうした? 調子が悪そうだが」

 

「風邪をひいてしまったらしい」

 

日向が異変に気付いたのは、その日彼を見た瞬間からだった。

少し悪い目つきが風邪の所為で力なく半目になってしまい、余計に印象が悪くなっていた。

 

「なら何故床に就いて療養してないんだ?」

 

「今日は非番じゃないからな」

 

「昨日の出撃明けで今日からまたいつも通りの演習と遠征なんだろう? それならこんな時くらい休むべきだと思うんだが」

 

「いつも通りだからこそ多少無理が利くんだ。流石に俺だって昨日こんな状態だったら指揮の代行を誰かに頼んで休養したさ」

 

「大丈夫なのか?」

 

「まぁ心配するな。それよりお前は演習組と遠征組の点呼をしてきてくれ。確認でき次第朝礼だ」

 

「了解した。だが、くれぐれも無理はするなよ?」

 

「ああ、ありがとう」

 

提督は日向の気遣いをありがたく思うと同時に改めて自分の責任を感じた。

逆にそれが相手に心配を掛ける事に繋がってしまうという考えに行きつかないのは、彼の欠点だった。

 

 

――それから数分後

 

「各組の点呼終了。問題なし。大佐、朝礼を」

 

「ああ、皆おはよう。それでは――」

 

 

「――以上。じゃあ遠征組は日向の指示に従って編成ができ次第出撃。演習組は俺と一緒にこのまま工し、しょ……っくひん!」

 

突然の提督の大きなくしゃみに日向とその場にいた他の艦娘たちは目を丸くして提督を見た。

くしゃみでこそあったが、彼の大きな声を聞いたのはこれが初めてだったのだ。

早速提督の列の最前列に居た雷が珍しい物を見たとばかりに声を潜めて隣の電に話し掛けていた。

 

「ねぇ、大佐がくしゃみをしたわよ。見た?」

 

「み、見たのです。大佐のくしゃみ初めて見ました」

 

「……」(本当に大丈夫か?)

 

目を細めて心配そうな顔をする日向。

提督もその視線に気付き、取り繕うに一度咳をすると朝礼の締めを再開した。

 

「んんっ、ふぅ……。失礼、それでは日向、そっちは頼んだぞ」

 

「ん?あ、ああ」

 

流石に誤魔化しが利かない上にバツも悪いので、提督はその日の朝礼が終わると気を入れ直す為にそそくさと顔を洗いに行ったのだった。

{IMG3481}

 

――数時間後、執務室

 

「大佐、遠征組の今日最後の編成と出撃を完了した。後は帰港を待つだけだ。そっちはどうだ?」

 

「ああ。問題ない。A判定の勝利が2つ。それ以外は全てSだ」

 

「ん?大佐、私にはこの勝利判定は敗北のCに見えるんだが」

 

「なに?」

 

日向の指摘を受けて提督が目をこすって再度彼女が指さした報告書の個所を見てみると、確かに記載されていたのはSではなくCだった。

 

「ああ、本当だ。そうかギリギリ負けていたのかこの演習は。通りで反省会をしている時に雷たちが不可解そうな顔をしてたわけだ」

 

「なぁ大佐。本当に大丈夫か?こんなこと言っては何だが、そんな姿初めて見るぞ」

 

「ん……日向、悪いが医務室に行って鎮痛剤を持ってきてくれないか?」

 

流石に今回は注意を受け入れてくるか、そう思って医務室に向かいかけた日向だったが、提督が言った言葉に違和感を感じて向き直った。

 

「鎮痛剤? 感覚を麻痺させてどうする! 風邪薬だろそこは!」

 

「え? ああ、そうだ……な」

 

「あ……いや、すまない。つい怒鳴ってしまった。とにかく大佐はここに居てくれ。薬と医療妖精を連れてくるから」

 

「分かった。頼む」

 

バタン

 

 

日向が去ったあと、提督は先程のことを反省する様に天井を見つめながら思った。

 

(……日向を怒らせてしまったか、初めてだな。……反省しないとな)

 

ガチャッ

 

扉が開く音に提督が気付く。

日向が部屋を出てからまささほど時間が経っていない様に思えた。

 

「ん?早かったなひゅ……」

 

「大佐ァ!風邪をひいたって really!? 大丈夫デスカ!?」

 

「ああん! 金剛に負けちゃったぁ!大佐どうかしたの?」

 

「……」

 

部屋に飛び込んできたのはいつも通りの反応の金剛と、どこから彼女と競っていたのかついでに遊び来た様子の島風だった。

続いて最後に日向が入ってきて珍しく動揺して申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「す、すまん大佐。薬を取りに行く途中でこいつらに話したら――」

 

「大佐ァ大佐ァ!大佐が風邪をひくなんてよっぽどデス! ねえ本当に――」

 

「ああ!金剛ばっかりズルイ! 大佐はわたしの友達なんだよ!」

 

「What?! 大佐ァ! friend ってどういうことデス?! ワタシは friend ではないのデスカ!?」

 

「っ、静かにしないかお前たち!!!」

 

騒がしい二人についに艦隊の中でも代表的なクールビューティの一人、日向の怒りが爆発した。

提督は、本日二度目の珍しい日向の怒声を聞いて彼女には悪いと思いつつも、その時の雰囲気を何となく楽しく感じた。

 

(まぁこれはこれで。元気を貰ったということにしておこう。しかし色々と圧倒されたな今日は)




提督はこの後直ぐに風邪は治ったそうです。
俺は長引くので羨ましいですね。
それにしても戦艦の中ではやっぱり金剛より日向が良いと思います。

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