ジルクニフ日記   作:松露饅頭

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その16

×月◇日 080

 王国の黄金からホットラインがあった。

 留守の間に父が失礼しましたと詫びていたが、本当に迷惑な親子だ。

「兄と一緒にお友達の所へ遊びに行っていたんですけれど、すぐに帰るつもりが引き止められてしまって」と言う。

 お前がどこに行こうと勝手だが、その度、俺の所にまで連絡寄越して大騒ぎするのは止めてくれと、口調こそ礼を失しないよう違うが釘を刺しておいた。

 

 無駄だと思うって?

 俺もそう思う。

 

 それにしたって、毎回毎回、娘がいない息子がいない親爺がいないと大騒ぎするが、毎度毎度オチは娘の友達とやらの所に行ってましたで終わるだろ?

 おかしいじゃないか。だったら何で最初にその友達の所に問い合わせないんだ? 俺に聞く前に、その友達とやらに聞けば済むことじゃないか。おかしいだろ。

 その疑問を黄金にぶつけると、「チッ、いつも違うお友達ですから」「私、お友達多いんですよ」と言う。

 

 ちょっと待て。

 お前、今舌打ちしなかったか? チッ、って言ったよな? チッ、って。

 

 追求したが、「雑音では?」とか「気のせいでしょう」とか、のらりくらりと言を左右にして逃げられた。

 まあ、確かに王族なんだから付き合いが広いのも事実だろうが、あの舌打ちは確かに聞いた。

 これは絶対何か企んでると判断し、王国に関する警戒レベルを1段階上げさせることにする。俺を出し抜けると思ったら大間違いだ。

 

 無駄だと思うって?

 うん、俺もそう思う。

 

 

 

×月▽日 081

 実は先日、帝国の領内でヴァンパイアが発生したという緊急の報告があったのだが、その後の顛末の詳細報告書が上がってきたというので秘書官より報告を受ける。

 

 事の起こりは北方辺境の村で複数のヴァンパイアとグールの群れが目撃され、数人の犠牲者も出たという事件だった。

 ヴァンパイア自体は面倒だがそれほど脅威という訳でもなく、通常だとプラチナ以上のクラスの冒険者なら退治も難しく無い。

 かつて王国で問題となったヴァンパイアは第三位階の魔法を使うというので脅威だったのだが、今回のケースではその例からは外れ、ごく普通のヴァンパイアとグールの一団だったのは不幸中の幸いだ。

 グールの方は麻痺攻撃が厄介なものの、それ以外はちょっと強いゾンビといった程度のモンスターで、これも退治はそれほど難しく無い。

 

 ヴァンパイアもグールもアンデッドということで、魔導国との関係も事前に確認させたが、魔導国からの返事は「当方とは無関係なので、そちらで適当に処分されて結構」というものだった。これは出現位置がナザリックとは真逆の方向なので予想はしていたが。

 

 事件は被害に会った村から依頼を受けた冒険者組合が、至急、複数の冒険者チームを派遣して退治されたとの事。とりあえず被害は最小限に食い止められた。

 

 問題は、なぜそんな僻地で複数のヴァンパイアが発生したのかという原因の究明であり、退治を依頼されていた冒険者チームに、帝国魔法省の人員を同行させて調査に当らせた報告が本日届いたのだ。

 

 報告によればヴァンパイアは魔法アイテムである石製の仮面で人為的に生み出されたものであり、最初にヴァンパイアになった者は、その際に「人間を辞める」宣言をしていたとの証言が得られたらしい。

 一応、「星」というプラチナ級冒険者チームと、「戦車」というシルバー級冒険者チームによって仮面は破壊され、ヴァンパイアも「イ○カリ○テ」というチームの「アン○ルセン」とかいう神官の活躍によって退治されたので、この一件は無事解決だ。

 事件の首謀者らしき「○隊指揮官」と呼ばれる男を取り逃がしたのは痛恨の極みだが、恐らく有名なズーラーノーンの一派かも知れない。

 

 ん? その冒険者チーム、妙にスタイリッシュに決めポーズ付けたり、オラついてる男とか、変な逆立てた髪形の男がいないか?その神官、吸血鬼を目の敵にしてて神官のくせに刃物振り回してないかって?

 質問が多いな、しかし、そんなことは知らん。

 うちは調査官を派遣しただけで、冒険者を雇ったのは村だし、派遣したのは冒険者組合だ。事件の調査はさせたが、別に冒険者共を調査させたわけじゃない。

 時を止める? そんなこと人間にできるわけないだろ。常識で物を言え常識で。

 

 頭大丈夫か?

 

 

 

×月□日 082

 今日は一日何事も無く過ぎた。たまにはこういう日があってもいい。

 戦士にも束の間の休息は必要なのだ。皇帝なら尚更だろう。

 

 久々に憂い無く休むことができると安堵しながら公邸に戻ると、いつも迎えに出てくるロクシーが出てこない。

 おかしいなとは思いつつも、表の警備兵の様子は特に変わり無かったし、エントランスにも変わった様子は見られない。黒目出し帽の使用人に聞いても「イー!」としか答えないし、どうしたのかと奥に入ると、何やらジャラジャラと音がする。

 嫌な予感がして部屋を覗くと、中でロクシーと王国の王女、国王、皇太子の4人がテーブルを囲んで「ドン・ジャーラ」をやっていた。王女の真後ろには純白のプレート鎧を着た若い騎士が緊張の面持ちで立っている。

 

 腰が抜けた。

 

 ちょっと待て。

 いくら俺でも取り乱すよ? 俺悪くないよな? 普通に引くよな? 作者馬鹿なの? どうすんのこれ。

 だいたい、お前ら一家、何でうちで家族団欒やってんの? ていうか何でここにいるの? ジジイお前、国王・・・少し立場ってもんを・・・。

 

 ・・・もういい。

 

 流石に少し時間が掛かったが、不屈の精神力で何とか立ち直った。

 本来なら、カエル顔の悪魔の呪言ですら防いだ精神防御のネックレスが動揺を抑えるはずなんだが、全く役に立たないってどういうことだ? こいつらの精神攻撃、あの悪魔の呪言より上なのか。

 

 それでも俺の立場上、言うべきことは言わせてもらう。

 何の用かと問い、事前協議も無しの訪問に文句を付けたが、王女は「お忍びでお友達のところに遊びに来ただけですわ」と涼しい顔で言い放つ。

 お友達とは俺のことか? この前突っ込んだこと、絶対根に持ってるだろ。

 

 国王は国王で、憮然として「お忍びなんだから、事前に知らせたらお忍びにならんだろう。皇帝のクセにそんなことも知らんのか。そして娘はやらん」と言う。

 それ、俺の知ってるお忍びと違う。あと、娘もいらん。

 

 皇太子のやつは、妙に余裕たっぷりにニヤニヤしながら「国許は優秀な臣下が面倒見てるから数日なら空けても平気だ」と嘯く。

 何なのお前、その余裕。何でお前、この間からそんなに強気なの? デブのくせに。

 

 そしてロクシーのやつは「戦争は終わったのでしょう? だったら友好を深めるのは良いことですわ」と、これもまた涼しい顔だ。

 この前、デスナイト着ぐるみ事件で怒らせた機嫌が、やっと直ったばかりなので、あまり強くは言いにくい。

 

 只一人、王女の背後に立つ若い騎士だけが、何とも申し訳無さそうにこちらを見、目で陳謝の気持ちを伝えて来た。

 お前、いいやつだなぁ。お前とは友達になれそうな気がする。ここでの味方は王国の騎士のお前だけだ。俺、帝国の皇帝なのに。

 

 ともかく、可及的速やかに帝国から退去するよう、丁寧に「お願い」する。

 本当は一網打尽にして牢にぶち込みたいところだが、そうなったら王国の残党との全面戦争は避けられん事態になる。対魔導国包囲網を考えたら、出さなくてもいい人類の被害は出さないに越したことは無いからな。自分の理性が憎い。

 

 ロクシーが、夜も遅いから泊まっていかれてはとか言ってたが、お前、徹夜で「ドン・ジャーラ」付き合ってくれるメンツ欲しいだけだろ。この前、俺も徹夜に付き合わされたんでわかる。

 すったもんだの末に連中を追い出し、やっと一息ついた。

 

 おかしい。今日は平穏な一日で終わるはずだったのに。

 

 

 

△月○日 083

 昨夜はエライ目に会った。

 いったい帝国帝都の警備体制はどうなってるのか不安は募る一方だ。

 そこで急遽、その辺の詳細について報告をするよう手配した。不備があるなら早急に正さねばならない。

 

 午後からは、早速上がってきた一次報告を受けるが、それによればやはり帝都の守りは完璧に近い。ていうか元からしっかりしてたはずなのだ。

 どう考えても、ホイホイ現れるあの妖術使い共がおかしいだけな気はずっとしている。

 

 詳細に目を向けると、まず帝都上空は常に飛行騎獣ヒポグリフを駆る皇室空護兵団(ロイヤル・エア・ガード)の警備兵が常に遊弋している。

 わざと目立つように姿を現したまま飛んでいる班と、超高価なマジックアイテムによって姿を隠して飛んでいる班とがあり、前者は抑止に、後者は隙を狙う愚か者を誘い出すべく目を光らせている。

 秘書官によれば、特に優秀な2人の飛行警備兵コンビは帝国の臣民にも人気があり、その白いプレート鎧と、男女別け隔てなくモテる容姿から「白バイ野郎ジ○ン&パ○チ」・・・って、ああ、バイってそっちの・・・ていうか、その情報は必要か?

 

 帝都の周囲は城壁で囲まれ、出入りには警備兵のチェックが行われるが、このチェック自体は簡単なものになっている。なぜなら、人の流れの止まった都市に発展などなく、出入りの流れを止めたくないという配慮による措置だ。

 帝都全域については、担当地域を東・西・南・北と、皇城のある中央の5つのブロックに分割して担当地域が設けられ、多くの警備兵を配置している。

 

 中には代々、警備兵を世襲する家柄があったり、個性的で優秀な者も多く、南部ブロックには銅貨を投げつけて賊を捕らえる名物警備兵もいれば、西部ブロックの警備兵団は少々元気が良すぎることでも有名で、特に「ホークとユ○ジ」のコンビは「あぶない警備兵」と評判らしい。その団長の名を取って「ダ○モン軍団」と呼ばれているそうだ。また、帝都全域をカバーする権限を与えられた部署もあり、そこにはどんな難事件でも24時間で解決するジ○ック・バ・・・はいはいはいはいストップSTOPすとーっぷ! ちょっとカメラ止めて。止まれ。

 ちょっと作者お前もう黙れ。ほっといたらどこまで暴走する気だ。さっきから変な汗止まらないぞ。

 

 いや、でも、ある意味警備は万全だよなぁ、これ。

 

 

 

△月×日 084

 以前アインズのやつが言っていたカレーを出すレストランがオープンしたと言うので、三騎士を連れてお忍びで覗いてきた。

 店内は茶色で統一されたカウンター席と、低い仕切りの付いたテーブル席があり、壁はアイボリーで落ち着いた雰囲気になっていた。

 アインズのやつのことだから、もっと奇をてらってくるかと思ったんだが、これには拍子抜けだ。エ・ランテルで出した店は繁盛していると言っていたから、案外真面目に商売をやる気なのだろうか。

 

 我々の陣取ったテーブル席からは、カウンター越しにキッチンの様子が見て取れるようになっており、白い大きなマスクをして、南方風のメイド服に似た、変わったデザインの服を着た女性店員が、忙しそうに肉を焼いていたのが目に付いた。ただ、忙しそうな割にバタバタ服の袖を動かしてるだけのようにも見えたが。

 メニュー表によると「ケバブサンド」という料理らしく、試しに単品で頼んでみたが、これはあんまり美味くなかったので逆に驚いた。

 ナザリックの食べ物は美味いという先入観があったのだが、聞くとケバブの肉は法国産の羊肉だと言う。確かに法国は食べ物がマズイと聞くしな。でも、何でそんな肉を出してたんだろう。

 

 本題のカレーは問題無く美味かったのだが、3人に「どれでも好きなものを頼むといいぞ」と言ったら、〝雷光〟はチーズインハンバーグカレーにソーセージサラダとドリンク、〝激風〟は半熟タマゴ鶏つくねカレーに唐揚げサラダとドリンク、〝重爆〟は茄子と茸とホウレン草のカレーにシーザーサラダとデザート、ドリンクと、あいつら本当に遠慮会釈無く頼みやがった。

 

 昼間だからそんなにガッツリ食べないと思ったのに、肉体労働がメインの連中だから昼は余計に食うんだな。俺なんか昼は抜いたりすることも多いから、完全に思い違いをしていたようだ。

 先日のデスナイト着ぐるみ事件のせいで、ロクシーのやつに小遣い減らされてる身には何とも辛い。予算オーバーだ。

 おかげで俺は一番安いポークカレー単品で我慢せざるを得なかったが、見栄は張るもんじゃないな、誤魔化すのも一苦労だった。

 

 皇帝って帝国で一番偉いはずなんだけどな・・・。

 

 




2016/05/02 文章の修正を行いました。

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