バカとE組の暗殺教室   作:レール

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僕とゲーマーと夏休み(後編)

〜side 殺せんせー〜

 

吉井君の家へ遊びに来ていた夏休みのある日。彼に呼ばれた神崎さんと勝手に押し掛けた私とカルマ君の四人で遊んでいたところ、吉井君のお姉さんが訪ねてきて私の存在がバレてしまいました。あぁ、また烏間先生に怒られてしまう……。

とはいえお姉さんは凄く寛容な方で、私を見ても騒ぐことなく話を聞いてくださいました。というか最初はスルーされてしまったのですが……寛容というよりも豪胆といった方が正しいかもしれません。

そうして私や暗殺教室のことを聞き終えたお姉さんは、吉井君達に席を外させて私と二人で話をしたいと申し出てきました。さて、いったいなんの話かと思って話し合いに臨んだものの……

 

「あくまで私の推測に過ぎないのですが、貴方に地球を破壊する意思はありませんよね?」

 

三月に地球を破壊するということも説明したのですが、それを真っ向から否定されてしまいました。しかも地球を破壊することが私の意思と関係ないというように考えているみたいです。

 

「……何故そう思ったのか、参考までにお聞きしてもよろしいですか?」

 

イトナ君の時のように話を打ち切ることも考えましたが、お姉さんの話は暗殺教室の根幹に関わってくるもの。考えを聞かずに話し合いを終わらせるべきではないと判断しました。

私の問い掛けにお姉さんはその結論に至った思考の流れを話してくれます。

 

「まず爆心地が具体的には分からないので地表付近と仮定して、月を七割破壊したことから爆心地を月の中心とした場合には月一つを丸々破壊できることにします」

 

暗殺教室の始まりとも言える月の爆破事件。お姉さんの推測はそこから始まりました。

 

「月の体積が219億9000km3なのに対して地球の体積は1兆83億2000km3、その差は約49.2倍になりますから地球を破壊しようと思えば月を49個は破壊できなければなりません。しかし貴方は月一つ分しか破壊できないにも関わらず地球を破壊すると言いました」

 

確かに月と地球では文字通りに大きさの桁が違います。月が破壊できる=地球が破壊できるとは言えないでしょうねぇ。同規模の破壊であれば精々が生態系を破壊するくらいでしょうか。意味合い的には似たようなものですけど。

ただそれだけで私に地球を破壊する意思がないと推測されたのならば、事実はどうあれ幾らでも無理なく反論できます。しかしお姉さんの推測はそれだけでは終わりませんでした。

 

「設定した期限は来年の三月まで……つまり一年という期間エネルギーを蓄えれば地球を破壊できるのかもしれませんが、それならば月を完全消滅させることも容易かったはずです。月の破壊が示威行為なのであれば完全消滅させた方が恐怖を煽れますからね。ですがそれはされなかった……いえ、出来なかったのではないでしょうか」

 

恐らく誰もが疑問に思われるであろう来年の三月に地球を破壊するという期限を設けた理由。これについては実情を知っていなければ分かるはずもありません。多少憶測の割合が多くはなっていますが、逆説的に私が地球を破壊できないという論拠に使われてしまいました。

まぁその論拠も私が本気を出していなかった、または破壊の痕跡を目に見える形に残して恐怖の象徴にしたかったと言えば覆せるでしょう。これらはあくまで彼女の推測で確証を得ているものは一つもありません。

 

「そして最も重要なのは、貴方が地球を破壊できることを政府が信じているということです。確かに貴方は常識から外れた姿形をされていますが、それだけで月を破壊した・地球も破壊できると結び付けるのは浅慮過ぎます。国家予算を費やしてまで貴方を暗殺しようとするだけの理由があると考えていいでしょう」

 

ただし政府が私の危険性を把握していて国家機密に指定しており、今もなお血眼になって殺そうとしていることは事実です。こればかりは事実なので反論のしようもなく、政府が地球の危機を現実として受け入れていることの証左に他なりません。

自身の推測を話し終えた彼女は指を立て、それらの推測から導き出せる可能性を述べていきます。

 

「これらのことから推測できる可能性は四つあります。一つ目は月を破壊したのは貴方ではないという可能性。二つ目は月が破壊されたのは事故であるという可能性。三つ目は貴方の存在そのものが地球の破壊に繋がってしまうという可能性。四つ目は月の破壊に政府が何かしらの形で関与しているという可能性です」

 

私は彼女の導き出した可能性を聞いて素直に感心してしまいました。各国上層部以外の大部分には秘匿されている私の真実を、まさか暗殺依頼の概要を聞いただけでここまで推測できるとは。概要だけでなく詳細を知ればまず間違いなく他にも考察を展開してくることでしょう。

 

「まぁこれらの推測が全くの的外れである可能性も否めませんが、仮に事実であれば貴方はただの被害者である可能性も出てきます。とはいえ貴方が何も弁明されないのであれば私が口出しすることではないのでしょうね。……さて、私の推測は何か間違っているでしょうか?もし答えたくなければ黙秘でも構いませんが」

 

そこで彼女は一息つき用意されていた飲み物へと手を伸ばしました。一気に話をされたので喉が渇いたのだと思われます。

しかし最後の可能性だけは完全に的外れですね。私がただの被害者であるわけがない……こうなったのは全て愚かだった私の自業自得なのですから。そして過程はどうあれ自分自身で選んだ道です。弁明などする必要がありません……が、何かを答える必要もなさそうでした。

 

「……貴女は実に聡明ですねぇ。私が黙秘または誤魔化せばそれは肯定と捉えられなくもない。否定でさえも受け取る側の捉え方で意味は変わってくる。どのように答えようとも私の反応を見て真偽を判断されるつもりなのでしょう?」

 

「えぇ、その通りです。少なくとも嘘を吐くような方には見受けられませんでしたので。あの子達も貴方を信頼しているようでしたし」

 

そう、彼女の最後の一言は私のことを(おもんばか)ると同時に自分の推測を補完するためのものでしょう。逆に言えばどうしても真実が知りたいというものではなく、推測が合っていたかどうかという確認程度のものだと考えられます。

それは言い換えれば私という超生物を危険な対象として認識していないということでした。でなければ家族の生活圏内にいる怪物の真実を濁させたりはしないはずです。寧ろ真実に関係なく危険だから引き離そうとするのが普通でしょう。少なからず私のことを信用してくださっているということです。

 

「随分と私を買っていただけているのですねぇ。先程お会いしたばかりで得体の知れない存在だというのに」

 

「いえ、得体が知れないなんてことはないと思いますよ。貴方はアキくんの担任、それでいいじゃないですか」

 

本当に嬉しいことを言ってくれますねぇ。それに疑問に疑問で返したことにも何も言わず追求してくることもありません。言外に私が黙秘を選択したと理解されているのでしょう。

ここまで物事を客観的に判断されているのならば、正直なところ真実を話してしまっても構わないかもしれません。既に私と生徒達との関係性も大まかに把握されているようですし、でなければ推測を話す前に吉井君達に席を外させたりはしないはずです。

しかし出来れば私の身の上話は墓場まで持っていきたい。彼女が追求しないというのであれば甘えさせてもらいましょう。その代わりと言ってはなんですが、私は生徒を絶対に裏切らないとこの場で改めて誓わさせてもらいます。

 

「そうですね、それを違うことは決してないと保証します。私が死ぬか地球が壊れるか、暗殺教室が続く限り責任を持って彼らの担任を務めさせていただきます」

 

「はい、アキくんのことをよろしくお願いします。あの子は昔から何かと暴走して怪我をしやすいですから」

 

それからは純粋に吉井君の学校生活について、少しの間ですが簡単な二者面談を行い私達の話し合いは終了しました。

 

 

 

 

 

 

〜side 明久〜

 

姉さんと殺せんせーが話し合いを始めてから二十〜三十分くらい経った頃。リビングから僕の部屋へ移動して三人でトランプをしながらお喋りしつつ時間を潰していると、ふいに部屋の扉が叩かれて断りの言葉とともに二人が入ってきた。

 

「あ、姉さん。殺せんせーも……もう話は終わったの?」

 

「はい。色々とお話を聞かせていただきましたが、良い先生に学ばれているようで安心しました」

 

「ヌルフフフフ、いやぁお褒めに(あずか)り実に光栄ですねぇ。ご家族の方にそう言っていただけると先生冥利に尽きますよ」

 

話し終えた二人の間には超生物と一般人といったような隔たりはなく、ただの先生と保護者……普通に知り合いといってもおかしくないくらいの雰囲気に見える。なんの話をしたのかは知らないけど、姉さんは殺せんせーのことを認めてくれたようだ。

暗殺の危険性だとか諸々と面倒事にならなくてよかった。などと安心していたところで姉さんから話し掛けられる。

 

「ところでアキくん」

 

「なに?」

 

「貴方、普段はどのような食生活を送られているのですか?」

 

「ぅえっ⁉︎」

 

姉さんからの唐突な質問に思わず変な声が出てしまう。これは別の意味で面倒な事になってきたな。ロクな食生活を送っていないことがバレたらどうなることやら……。

やっぱり二人の話し合いって僕の学校生活のことだったのか?でも質問だけで具体的に言ってこないってことは、殺せんせーも僕にとって不味い部分ははぐらかしてくれたのだろう。だったらまだなんとか誤魔化せるはず。

 

「ど、どんなって……そりゃあ獣肉(お肉)野草(野菜)をバランス良く食べて、しっかりと(塩分)砂糖(糖分)なんかも食べて(摂って)るよ?」

 

嘘は言っていない。ただまともな食事回数が普通の人より少ないだけだ。

僕の返事を聞いた姉さんは穏やかな笑みを浮かべている。

 

「そうですか。少なくとも学校での昼食は水で済ませていると聞いていますが?」

 

殺せんせーは僕にとって不味い部分を全然はぐらかしてくれていなかったようだ。

 

「吉井君、丁度いい機会です。この機にきちんとした食生活を送りましょう。話を聞く限り食費はきちんと仕送りされているはずですよ」

 

姉さんに続いて殺せんせーからも注意される。しかしこの口振り……まさか食生活については姉さんからじゃなくて殺せんせーから告げ口されたのか⁉︎

 

「は、謀ったね殺せんせー‼︎ 先生だけは絶対に裏切らないって信じていたのに‼︎」

 

「確かに絶対に生徒達(君達)を裏切らないとは誓いましたが、それと何もかもを受け入れて教え導かないというのは別の話ですので」

 

勢いよく立ち上がって詰め寄る僕だったが、殺せんせーにあっさりと流されてしまった。

くそぉ、問題なく生活できているのに生徒の健康を気遣って家族に相談するなんて……特に間違ってないから何も反論できない。

 

「とにかく食事くらいはきちんと食べなさい。いいですね?もし守れなかったら……酷いこと、しますよ?」

 

反論できずに黙り込んでしまった僕へ、姉さんは握り拳に“はぁー”と息を吹き掛けながら脅してくる。

だが日々の暗殺訓練を(こな)している僕を相手に普通の攻撃でお仕置きなんてお笑い草だ。この程度の脅しだったら何も恐怖を感じないし、怖いどころか寧ろ愛嬌のある仕草に見えてしまう。

 

「へぇ、酷いことってどんなこと?やれるもんならやってみなよ」

 

そんなわけで余裕たっぷりに問い掛けてみることにした。この僕を脅かすには姉さんの怒ったポーズはあまりに迫力不足だ。全く、姉さんにそんな荒っぽい真似ができるわけがーーー

 

 

 

ガッ(脚払いを小さく跳んで躱す……けどその直後の足が床に着いていない状態から襟元を掴まれて空中で体勢を崩された音)

 

ドスッ(受け身を取って起き上がる……つもりが掴んでいる襟首から床に叩きつけられて受け身も取れずマウントを奪われた音)

 

ゴッ、ゴッ、ゴッ(両腕でガード……しようにもマウントを奪われた際に腕も押さえ込まれて何も出来ず拳を振り下ろされる音)

 

 

 

(すげ)え、あの吉井を一瞬で畳んじゃったよ。お姉さんって何か武術とか習ってたりするの?」

 

「何事もなかったみたいに質問するの止めてくれるかな⁉︎」

 

打撲の痛みに涙しながら微動だにせず質問してくるカルマ君に抗議する。っていうか姉さんは何処であんな格闘術を学んできたんだ。護身術にしては攻撃的過ぎるんだけど。

 

「明久君、律の時もそれで酷い目に合ったんだから言葉には気をつけないと……それに怒られてる時にあの態度は良くないと思うよ?」

 

身体を起こそうとする僕に手を貸してくれながらの神崎さんの正論にぐぅの音も出なかった。まぁ確かに怒られてる時の態度じゃなかったと思う。でもだからってボコボコにするのは怒る側にも問題があると思うのは僕だけだろうか?

そして痛む身体を押して起き上がったところで、

 

『神崎さん、私の名前を呼ばれましたか?』

 

これまた国家機密に相当するクラスメイトが僕の携帯画面に姿を現した。もうどうにでもなればいいんじゃないかな。

既に色々と諦めた僕だったが、真面目な神崎さんは慌てて画面上に現れた律を隠そうとする。

 

「律⁉︎ 駄目だよ、今はーーー」

 

『はい、分かっています。明久さんのお姉さんがいらしてるんですよね?ですが殺せんせーの存在が露見している以上、私の存在を明かしても問題はないと判断しました』

 

しかし律も自分の立場はきちんと理解していたらしく、その上で殺せんせーの存在がバレたことから秘密にするのは今更だと考えて出てきたらしい。

流石は進化する人工知能。機密と言えども時と場合に合わせて柔軟に対応している。進化するゆえに決められたプログラムからも外れて客観的な判断をしていた。

 

『というわけで私も一緒に遊びたいです‼︎』

 

とか思っていたら思いっきり主観的な判断で私情に塗れていた。それでいいのか人工知能……いやまぁクラスメイトとしては自己主張するという嬉しい成長なんだけどね。

遊びたいと言いつつ律が僕の携帯画面から消えた直後、今度は姉さんの携帯から着信音が鳴り始める。それに気付いた姉さんが携帯を取り出すと、そこにはやはりといった感じで律が画面上に現れていた。

 

『初めまして、吉井玲さん‼︎ 明久さんのクラスメイトをしています、自律思考固定砲台です‼︎ 律とお呼びください‼︎』

 

これには流石の姉さんも目を丸くして画面を凝視している。まぁそれが普通の反応だよね。非常識な姉さんにもまだ普通の感性が残っていることを確認できて少し安心してしまった。

それでも普通の人よりは遥かに早く状況を理解した姉さんは律と話し始める。

 

「自律思考固定砲台……もしかして人工知能、ですか?ここまで感情豊かで人間に近いアルゴリズムを持つ人工知能は初めて見ますね。過去に人格を複写(トレース)した人工知能の成功例があるということは知っていますが、貴女もそうなのですか?」

 

『いえ、私の場合は複写ではなく完全なプログラム人格です。元はイージス艦の戦闘AIだったのですが、殺せんせーを暗殺するために自己進化する固定砲台として開発されてE組に転校してきました』

 

「ということは既存の人工知能と同じ“トップダウン型人工知能”なのですか?話している時の表情や仕草といった感情表現、自律思考による自己進化という適応性は“ボトムアップ型人工知能”に通じるものがあると思うのですがーーー」

 

姉さんと律の会話は専門的な単語も含まれていて、正直二人の会話に僕は全然着いていけない。そういう会話を聞くと姉さんって本当に賢いんだなぁと思うんだけど、同時にどうしてその賢さをもう少し常識に割り振れなかったのかとも考えてしまう。

 

「ところで皆さん」

 

律との会話が一段楽したところで、姉さんはここからが本番と言わんばかりに話を切り出してきた。いったいどうしたと言うんだ?

 

「先程殺せんせーにもお聞きしたのですが、うちの愚弟の学校生活はどんな感じでしょうか?例えば先生のいないところでの行動範囲や()()()()など」

 

やけに後者が強調されている気がする。

くっ……殺せんせーのお陰で神崎さんを家に呼んだことは有耶無耶に出来たものの、“不純異性交遊の全面禁止”という条件を守っているかどうかの確認はするのか。ってか殺せんせーもメモ帳片手に待ち構えてるんじゃない‼︎

姉さんの問い掛けに三人は軽く考え込む。

 

「うーん、そう言われても普段はそんな頻繁に遊ばないしねぇ。俺が学外で会ったことあるのは廃工場とか路地裏とか?」

 

「あ、私も廃工場や路地裏で明久君にお世話になったなぁ。あとはゲームセンターで遊んだくらいですね」

 

廃工場・路地裏・ゲームセンター……なんか二人の知っている僕の行動範囲が完全に不良と変わらないんだけど……いや、廃工場とか路地裏は雄二の行動範囲だな。うん、よく一緒にいるし納得の行動範囲だ。

でも異性関係で疚しいことは特にない……はず。姉さんの観点でいう不純異性交遊がどの程度に該当するかは知らないけど、そういう意味での危険なスキャンダルはないとーーー

 

『異性関係というのは人工知能()を含めてもよろしいのでしょうか?』

 

ちょっと待ってちょっと待って、この娘はいったい何を言い出すつもりなの?もしかしてアレか?梅雨の時期に起こった()()()()のことを言うつもりなのか?アレが起こったのは不可抗力だけど、姉さんどころか他の皆に聞かれるのもちょっと不味いぞ‼︎

とにかく僕の名誉のためにも余計なことは言わせないようにしないと……

 

「えぇ、構いませんよ。つまり律さんはこの愚弟に何かされたのですね?」

 

『そうですね……何か、と言われると』

 

 

 

PiPiPiPiPi。

 

 

 

『玲さん、明久さんからメールが届きました』

 

姉さんの携帯に僕からのメールが届くと、律は言葉を切って律儀に着信の報せを教えてくれた。その行動は片岡さんの時に把握済みだ。これで律の台詞を逐一中断させていくしかない。

 

「あ、ごめん。間違って姉さんの携帯にメールを送っちゃったみたい」

 

「そうですか、気をつけてくださいね。律さん、それでーーー」

 

 

 

PiPiPiPiPi。

 

 

 

「あ、ごめん。今度は打ち直そうとしたら再送信しちゃったよ」

 

「そうですか、相変わらずアキくんはおっちょこちょいですね。では律さん、先程の話をーーー」

 

 

 

PiPiPiPiPiバキッ。

 

 

 

あ、なんだか嫌な音。

 

「ふぬぁぁっ‼︎ か、関節が‼︎ 親指が逆を向いて片手で携帯を操作しにくい身体に⁉︎」

 

「アキくん、邪魔をしないでください。酷いことをしますよ?」

 

「なってるよ‼︎ もう十分酷いことになってるよ‼︎」

 

そりゃ僕のやり方も悪かったとは思うけどさ。まずは手を出すんじゃなくて口頭で注意してくれたらいいものを……。

のたうつ僕を放置して二人の話は進められる。

 

「それで、どうなんですか律さん?」

 

『むぅ、そうですね……』

 

姉さんの質問に対して律は横目で僕の方をちらっと見ると、

 

『明久さんが言わないのであれば、私が言うわけにはいかないでしょう。それに私自身はあまり気にしていませんしね』

 

ぱちっとウィンクして内容を濁してくれる。

僕の気持ちを汲んでくれたのは有難いものの、出来れば何かがあったことも匂わさないで欲しかったなぁ。

 

「あら、秘密ですか。まぁ不埒なことをされてなければいいのですが……今度アキくん自身に、ぼっきりと聞かせてもらうとしましょう」

 

『はい、それがいいと思います』

 

「姉さん、“ぼっきり”って何⁉︎ 普通ってそこは“じっくり”とか“ゆっくり”だよね⁉︎」

 

明確な悪意と殺意をそこに感じる。来るべき生命の危機に備えてカルシウムを多めに摂っておく必要がありそうだ。近いうちに裏山で魚を釣っておこう。

その後は特に何事もなく、律や珍しく乗り気な姉さんも交えて遊んで過ごした。姉さんが訪ねてきたことで多少の気苦労はあったものの、まぁ悪くない一日だったと思う。

ちなみに当初の目的である神崎さんへの下克上は最後まで果たすことが出来ず、それどころか殺せんせーやカルマ君、律にも負けて結局敗北記録を更新してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

数日後、夏休みの暗殺訓練日。

 

「神崎さん、これ。うちで着替えた私服、綺麗に洗っておいたから」

 

「「「⁉︎⁉︎⁉︎」」」

 

「ありがとう、明久君。私も借りてたジャージ、洗濯しておいたよ」

 

「「「「「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」」」」

 

この後めちゃくちゃ質問責めにされた。




次話 本編
〜策謀の時間〜
https://novel.syosetu.org/112657/36.html

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