バカとE組の暗殺教室   作:レール

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集会の時間

〜side 渚〜

 

月に一度の全校集会。僕らE組にとっては気が重くなるイベントだ。

普段は本校舎への立ち入りを禁止されてる僕らだけど、これがある日は山を降りてE組のある隔離校舎から本校舎へと移動しなければならない。……全校集会が五時間目にあるから昼休みを返上して。

しかも本校舎の生徒達よりも早く着いて整列しておかなければならないという制約付きだ。もしこの制約を破ろうものなら……

 

「急げ。遅れたらまたどんな嫌がらせされるか分からないぞ」

 

「前は本校舎の花壇掃除だったっけ」

 

「アレはキツかった。花壇が広すぎるんだよ」

 

……聞こえてきた辟易とするような会話から察せられるように、校則違反ということで普通だったら業者に頼むようなレベルの雑用が与えられることとなる。

でもこの制約についてはまだ早く行けばいいだけだから、昼休みをゆっくり出来ないことに多少の不満はあっても何とかなるレベルだ。これ以外にも全校集会で気が重くなる理由はある。

 

「こういう本校舎に行かなきゃならねぇ行事はマジで面倒くせぇな」

 

「終わったらまた山を登らないといけないもんね」

 

「苦言を呈してもこの道程は楽にはならんぞ。無駄に気が滅入るだけじゃ」

 

「…………(コクコク)」

 

坂本君と吉井君が零している愚痴もその理由の一つだ。隔離校舎が山の中腹にあるため僕らは登下校で毎日山を登り下りしてるけど、学校行事で本校舎へと行く必要がある場合は一日に二回も山を登り下りしなければならない。

まぁそんな中でもカルマ君は一人だけ全校集会をサボってるから、今頃は隔離校舎で悠々自適に過ごしてるだろうけど。本人はサボって罰食らっても痛くも痒くもないって言ってたし、成績良くて素行不良ってこういう時には羨ましく思うよ。

でも言い方は悪いけど愚痴を零している坂本君や吉井君も素行不良の噂はよく聞く。実際にそういったきらいが少しはあると思うし、そういう噂が立つ程度には色々とやってきたのだろう。

そこで僕は思ったことを訊いてみることにした。

 

「坂本君達だったらカルマ君と一緒にサボることも少しは考えたんじゃないの?」

 

「あ、それは俺も何となく思ったわ。お前らって結構仲良いみたいだし、集会に出ても面倒で憂鬱になるだけだろ?」

 

どうやら杉野も同じことを思っていたようだ。僕の言葉に続けて坂本君達に疑問を投げ掛けていた。

少しだけカルマ君から聞いたことがあるけど、二人とはちょっとした喧嘩の最中に知り合ったらしい。それから何だかんだで意気投合してからの付き合いだと聞いている。

 

「まぁ別にサボってもよかったんだが……こういうのは最初に黙らしといた方が色々と後で楽だろ?」

 

僕らの疑問に対してなんだか物凄く物騒な言葉が返ってきたな。

何をするつもりなのか不安に駆られながらも坂本君の話の続きを聞くことにする。

 

「お前らがどう思ってるかは知らんが、俺個人としては椚ヶ丘学園の校則は過剰なだけで間違ってるとは思ってねぇ」

 

「え、そうなんだ。そんな風には全然見えなかったけど……」

 

僕らの会話を聞いていた茅野が意外といった感じでそう呟いていた。

正直に言えば言葉に出さなかっただけで僕もそう思っていた。それならどうして素行不良の噂が出るような行動をしていたのか……いや、詮索するのは止めておこう。色々と知られたくない事情があるのかもしれないし。

 

「学校ってのは言っちまえば社会の縮図だ。社会に出たら優れた奴から出世して劣った奴からリストラされていく。で、リストラされる下の人間は出世した上の人間が決める。成績不振・素行不良の生徒が先生()の判断でE組に送られる理屈と一緒だろ」

 

「まぁ確かにそう言われると、椚ヶ丘(うち)の校則って社会に出る前の予行演習をしてるようなもんだよな。悪意の割合がやたら多いけどよ」

 

坂本君の説明に杉野も同意する。認めたくはないけど、多くの生徒を育てるために少ない生徒を切り捨てるのは合理的だ。生徒達は切り捨てられないように努力するし、そうやって競争社会を生き抜くための力を身に付けさせるのだろう。

社会の仕組みと照らし合わせても間違ってるとは言えない。間違っているのは格差を意図的に助長している学校側の悪意くらいだ。

 

「本校舎の生徒(奴ら)が蹴落としたE組(俺達)を嘲笑うのは当然の結果だ。そういう風に校則で誘導してるし、何よりまだ成熟してない精神状態で上に立って下を見下ろす快感を味わっちまってんだからな。……が、俺は無意味に降り掛かる火の粉を放置しておくほど事勿れ主義じゃねぇんだよ」

 

自分の考えを言い終えた坂本君の表情は、愚痴を零していた時の面倒そうな表情から一転して獰猛な笑みに変わっていた。

坂本君がこういう表情をする時は、良くも悪くも何かをやらかす時だ。殺せんせーの弱点を検証するために教室を僕ら諸共水塗れにし、その結果に確信を得た時にも同じような表情をしていたと思う。

その時の暗殺と同じようにやらかす内容まで語るつもりはないようだ。話し終えて前を行く坂本君の背中を眺めながら、僕らも引き続き山を下りていくことにする。

 

 

 

 

 

 

本校舎に移動してきた僕らは、山下りの後の休憩もそこそこに体育館で整列していた。はっきり言ってこの整列している時がE組にとって最も気が重くなる時間だと思う。

 

「渚く〜ん、お疲れ〜」

 

「山の上から本校舎(こっち)に来るの大変でしょ〜」

 

体育館で整列している僕らに本校舎の生徒が話し掛けてくる。もちろんその労いを言葉通りに受け取れるわけがなく、嘲笑するためにわざわざ話し掛けていることは明白だった。話し掛けてきた生徒は嗤い声を上げながら去っていったし、今も彼方此方(あちこち)からE組を差別する声が聞こえてくる。

そう、誰よりも早く着いて整列しておかなければならないということは、必然的に本校舎にいる全ての人の視界にE組が入るということだ。E組の差別待遇は此処でも同じ。僕らはそれに長々と耐えなければならない。

 

「おう吉井。どうだ?隔離校舎は快適か?」

 

「う〜ん、聞いてた程じゃないかなぁ。本校舎にいた頃だって備えられてる施設なんて使ってなかったし、生活は大して変わらないよ」

 

「……フンッ、そうかよ。そりゃ良かったな」

 

……あぁやって平然と出来たらどれだけ楽だろうかと思うけど、それが出来たらここまで気が重くはならないだろう。

そうこうしているうちに生徒が集まってきて全校集会が始まった。でも全校集会が始まったからって耐え続けた差別待遇が終わるわけではなく、

 

「ーーー要するに、君達は全国から選りすぐられたエリートです。この校長が保証します。……が、慢心は大敵です。油断してるとどうしようもない誰かさん達みたいになっちゃいますよ」

 

今度は学校ぐるみでの差別が始まるだけだ。E組を見ながらの校長先生の言葉で体育館に集まったほとんどの生徒から嗤い声が上がる。

 

「アハハハハハハハッ‼︎」

 

……そして何故か後ろの方からも聞き慣れた級友の笑い声が上がっていた。

しかも列の真ん中あたりにいる僕でも誰か判別できるくらいの声量で、体育館に集まった生徒の嗤い声を食いかねない勢いで笑い声を上げている。

 

「吉井、なんでオメェが笑ってんだよ‼︎」

 

そして盛大に笑い声を上げている僕らの級友ーーー吉井君に対して詰め寄るような吉田君の声も聞こえてきた。

何故かE組が笑い声を上げているという状況に、嗤っていた生徒達も訝しんでいる様子で嗤い声を抑えてザワザワとし出している。

 

「いや、雄二が校長のE組いじりが始まったら取り敢えず大声で笑っとけって……」

 

「はぁ?坂本が……?」

 

嗤い声が小さくなって微かに聞こえてきた二人の会話に、恐らくその会話を聞いていた全員が改めて訝しんだことだろう。

いったいどういうつもりなのか、僕の目の前に並んでいる坂本君に訊こうとしたところで、

 

「明久、全校集会中だぞ‼︎ 静かにしろ‼︎」

 

坂本君が最後尾付近の吉井君を異様に大きな声で窘めた。その叱責によって騒ついていた体育館が静寂に包まれる。

そして静まり返った体育館の様子を見た坂本君は、壇上に立つ校長先生に向けて謝罪の言葉を発する。

 

「校長、話の腰を折ってしまってすみません。アイツはE組の中でも最底辺の馬鹿なもんで、成績だけが優秀で人間的に劣っていることを自覚せずに嗤っているエリートを見て堪え切れなかっただけなんです。許してやって下さい」

 

とても許しを請うている人間の台詞とは思えなかった。体育館中の敵意が坂本君と吉井君に向けられているのが分かる。それはそうと吉井君を落として言う必要はあったんだろうか?

そんな慇懃無礼な坂本君の謝罪を受けて、校長先生は表情を厳しくしている。それはそうだよね。

 

「おい君、E組がどういうつもりーーー」

 

「特別強化クラスに関する校則。成績不振や素行不良により特別強化クラス(以下三年E組)に編入された生徒はーーー」

 

そんな校長先生の言葉を遮った坂本君は、入学時に説明されたE組に関する校則を大きな声で(そら)んじ始めた。

言葉を詰まらせる様子もなく校則を言い続ける坂本君の声を、生徒や教師を問わず全員が呆然と聞き続けるしかない。っていうか校則なんてよく覚えてるなぁ。

 

「ーーー以上が三年E組に関する校則だと記憶しています。E組を冷遇・差別するという校則ですので生徒間の格差から生じる問題が黙認されるのは承知の上ですが、それを教員側が率先して行うという旨は一切書かれていません。もし仮にそのような事実があった場合、虐めを助長するような教員の言動は教育委員会の視点から見て問題になるのではないかと愚考致しました。そこのところ、校長としてはどのようにお考えでしょうか?」

 

校長先生に口を挟ませることなく言い切った坂本君は、ポケットから掌大の黒い長方形の物体を取り出して壇上からも見えるように軽く持ち上げる。

 

「な、なんだね?それは……」

 

「あぁいえ、ただのボイレコです。今取り出したことに他意はないので気にしないで下さい」

 

絶対に他意しかないと思うけど、それを聞いた校長先生の表情が一瞬にして強張ったのが分かった。全校集会の内容を録音されていた場合、坂本君の言ったことが現実味を帯びて責任問題に繋がりかねないからだろう。

ただ、手元を見た限りでは坂本君が持ってるのはボイスレコーダーじゃないと思うんだよね。でもそれを坂本君は掌で握り込むようにして持ってるから、そう言われたら遠目にはボイスレコーダーとして映るかもしれない。

 

「それで、私の疑問に対するご返答を頂いてもよろしいでしょうか?松村茂雄校長先生」

 

そして校長先生がそれをボイスレコーダーとして認識しているのなら、この瞬間に個人名を録音されたと勘違いするのではないだろうか?

話している人物を明確にした上での質疑応答。恐らく校長先生は内心冷や汗ものだろう。ここで差別的な発言をしようものならそれも録音されてしまうと考えるはずだ。

 

「……そ、そうですね。たとえ校則でE組の冷遇や差別が決められていたとしても、それで生徒達の虐めを助長するような態度を教職員の方々が取るということはあり得ませんよ。も、もちろんそのような事実は確認されていませんが」

 

「そうですか、やはり教職に携わる者としては当然のお考えですよね。今後もそのお考えに反せず不祥事が起こらないことを祈願しております。お時間を取らせてしまい申し訳ありません。ご回答ありがとうございました」

 

結果、校長先生の回答は言葉を選んだ無難なものとなっていた。その後も坂本君を気にしてか、いつもより歯切れが悪いように思う。

そのまま最後まで話し終えた校長先生は舞台袖へと捌けていき、生徒会が舞台上で次の準備をしている間に僕は坂本君と話をする。

 

「……今のが坂本君の言ってた黙らせる方法?」

 

「あぁ、校長がE組いじりをするのは集会の定番だからな。事前に策を打っとくのは簡単だったぜ。これで今後、教員連中が率先してE組いじりをすることはねぇだろ。まぁ見えねぇ裏側や生徒連中は今のところどうしようもないが」

 

道中で坂本君が言っていた“無意味に降り掛かる火の粉”っていうのは、どうやら本校舎の先生達によるE組いじりのことだったようだ。

さっきの弁論にも校則で決められている差別待遇については文句を言ってなかったし、本当に今の校則自体を否定する気はないらしい。

 

「……で、さっきの黒いのは何なの?少なくともボイスレコーダーじゃなさそうだけど」

 

「あぁ、あれのことか?あれにはボイル焼きしたレンコンが入ってる。それを略して“ボイレコ”って呼んだだけだ。それを何かと勘違いしちまったってんなら、それはもうあっちの問題だろ」

 

無駄に芸が細かいっ‼︎

そんな携帯食を持ってることなんて校則違反にはならないし、“ボイレコ”を“ボイスレコーダー”の略だとは確かに一言も言ってない。坂本君に誘導されていたとはいえ、校長先生が勝手にそう思い込んでいるだけだろう。

これまで素行不良の噂があるだけで罰則を食らったことがないだけはある。自己擁護の口実作りは流石の一言だと思った。

 

「ボイスレコーダーなんて俺は持ってきてない。少なくとも罰則を受けるようなヘマはしねぇよ」

 

そうして僕らが話している時に、体育館のドアが開いて烏間先生とビッチ先生が入ってきた。

烏間先生には女子や女の先生の視線が、ビッチ先生には男子や男の先生の視線が多く突き刺さる。二人とも、異性同性を問わず視線を引きつける容姿をしてるもんね。

ビッチ先生は壁に寄り掛かり、烏間先生は表向きE組の担任であるためそのまま本校舎の先生達に挨拶をして回っている。

と、烏間先生が校長先生の元に行ったところで何か話し掛けられていた。内容までは聞き取れなかったけど、話を聞き終えた烏間先生は踵を返して僕らの方へと歩いてくる。

 

「坂本君、校長から君が違反物を持っているから回収してくれと指示された。何かは知らないが渡してくれるか?」

 

あぁ、やっぱり校長先生は“ボイレコ”を“ボイスレコーダー”の略だと勘違いしていたらしい。担任である烏間先生を使って回収を試みたようだ。

 

「……ホント、保身に走る(やから)は行動が読みやすくて助かるぜ。校長が言ってんのはこれだ。お目当ての物とは違うだろうがな」

 

坂本君は悪そうな笑みを浮かべながら、ポケットから“ボイレコ”を取り出して烏間先生に手渡す。

 

「これが違反物かどうかは烏間先生に判断してもらうとして、校長に言付けを頼んでもいいか?“お目当ての物は今日は持ってきてない。過去に録ったやつもあるが、校則に反しない限りは何もしないから安心しろ”ってよ」

 

「……?あぁ、よく分からないが伝えておこう」

 

坂本君から違反物(暫定)を受け取って中身を確認した烏間先生は、首を傾げながら校長先生の方へと戻っていく。違反物だって言われて渡された物が、パッと見でアルミホイルの塊が入った容れ物だったら誰だって同じ反応をするだろう。

そこで僕は坂本君の口から新しく出てきた情報について訊いてみることにした。

 

「……過去に録ったやつってのは?」

 

「そんなもん、あるわけねぇだろ」

 

「……坂本君って奸計を巡らせるのが病的に上手いよね」

 

「失礼な、知略に富んでいると言え。物証がある可能性をチラつかせるだけで相手は迂闊に動けなくなんだろ。これで脅迫はより完璧だ」

 

とうとう脅迫って言っちゃったよ。今までそれとなく(ぼか)してたのに。

そうやって話しているうちに生徒会の準備が終わったようだ。壇上に放送部の生徒が立ち、各クラスにプリントが配布されていく。

 

「……はいっ、今皆さんに配ったプリントが生徒会行事の詳細です」

 

「え?」

 

誰が呟いたかは分からないけど、多分E組の皆が同じことを思っただろう。何故ならプリントを配ったって言っておきながら、そのプリントがE組には配られていないのだから。

 

「……すいません。E組の分がまだなんですが」

 

磯貝君が手を挙げてそのことを主張するが、壇上の生徒はわざとらしく頭を掻くだけで行動しようとはしない。

 

「え、あれ?おかしーな……ごめんなさーい。E組の分忘れたみたい。すいませんけど全部記憶して帰って下さーい。ほら、E組の人は記憶力も鍛えた方が良いと思うし」

 

その言葉で鳴りを潜めていた生徒達の嗤い声が再び体育館を占領した。

……はぁ、今度は生徒からのE組いじりか。坂本君も生徒間の差別問題はどうしようもないって言ってたし、ボイスレコーダーが無いと判明したことで遠慮なく嘲笑しようってことだろう。

伸し掛かるような悪意に堪えるしかない。E組の皆がそう考えて肩身の狭い思いで俯いていると、

 

「ハハハハハハハハっ‼︎」

 

またもや本校舎の生徒の嗤い声を覆すような声量の笑い声が響き渡った。今度は後ろにいる吉井君ではなく、前にいる坂本君が笑い声を上げている。

先程と同じような展開に生徒達の嗤い声が鎮まっていった。校長先生を言い包めた坂本君を生徒達も警戒しているのだろう。

心底可笑しいといった様子で笑い続けた坂本君だったが、体育館の騒つきが収まってきたところで口を開く。

 

「あぁ、何度も中断させて悪いな。全国から選りすぐられた校長も保証するエリート様が、数人分ならともかくクラス一つ分の印刷を忘れるなんて傑作でよ。こりゃあE組(俺達)だけじゃなくて本校舎の生徒も記憶力を鍛えた方が良いんじゃねぇか?」

 

……ホント、坂本君っていい性格してると思うよ。今の僕らにとっては良い意味でだけど。

プリントの印刷ミスなんて、E組いじりをするための意図的なものだって誰もが分かっている。だけど事実だけを見たら坂本君の言う通り、クラス一つ分の印刷を忘れるという大きなミスだ。

しかも坂本君の言い分の方が客観的には正しいものだから、理論的な反論など出来ようはずもない。壇上の生徒も表情を取り繕おうと必死なのが分かる。

 

「……さっきから聞いてればE組が好き放題言ってーーー」

 

「ん?E組がなんだって?まさか将来はマスコミ系の職業を目指しているらしい放送部部長様が、俺がE組だからって理由で“言論の自由”を封じるわけがねぇよなぁ?」

 

「クッ、なんでそんなことを知って……」

 

更にE組いじりを壇上でする可能性のある生徒の情報まで得ているという徹底ぶり。生徒がE組いじりをしてきた場合、校則に(のっと)って反論はしないけど反撃はするようだ。

何処からそんな情報を得てきたのかは分からないけど、この場の誰もがこの集会は坂本君の独壇場であることを実感させられていた。

といったところで僕らの横を突風が吹く。

そして突風とともに“生徒会だより”と書かれたプリントが皆の手元に行き渡っていた。

 

「坂本君。()()()()コピーが全員分あるみたいですし、大人しく生徒会の話を聞いてあげましょう。皆さんも早く帰りたいでしょうからねぇ」

 

先生達の並ぶ方から聞こえてきた声は、国家機密ということで隔離校舎に置いてけぼりにされていた殺せんせーのものだ。

烏間先生やビッチ先生は唐突に現れた殺せんせーにギョッとしてるけど、変装してるから大丈夫……って殺せんせーは考えてるんだろうなぁ。

正体を知っている身からしたらバレバレだと思うんだけど、不審がられているだけでパニックになっていないことが不思議で仕方がない。一般人にはバレないような細工でもしてあるんだろうか?

 

「……ったく、本番はこれからだってのに……まぁいいか、当初の目的は達成してんだし。……あ、スマン。プリントあったわ。話を続けてくれ」

 

殺せんせーに言われた坂本君はというと、不服そうにしながらも追撃の手を緩めた。っていうかあれでまだ序の口だったのか……殺せんせーが来なかったら一方的な虐殺になってたんじゃないだろうか。

残る項目は生徒会行事の説明だけだったようで、本校舎の人達にとっては苦い空気のまま全校集会は幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

全校集会が終わった後、僕らはE組へと帰るために体育館から出てきていた。坂本君が体育館の空気を支配していたお陰で、集会終わりの精神的な疲労感は少ない。

 

「渚、先に行ってるぞ」

 

「うん、ジュース買ったらすぐ行くよ」

 

僕は杉野や茅野と別れて体育館脇にある自販機へと向かった。これからまた山を登ることだし、少し喉も渇いたから飲み物が欲しかったのだ。

自販機の前に立つと硬貨を入れ、数ある中から今の気分で好きな紙パックのジュースを選択する。

 

「……おい、渚」

 

購入したジュースを取り出しているところで後ろから声を掛けられた。

誰かと思って振り向くと、そこには全校集会の前に声を掛けてきた二人がこっちを睨んでいる。

 

「お前らさー、ちょっと調子乗ってない?」

 

「集会中だってのに大声出して、周りの迷惑も考えられねーのか」

 

「E組はE組らしく下向いてろよな」

 

……言いたくなる気持ちは分かるけど、なんでそれを僕に言うのかなぁ。普通にヘイトを集めてたのは坂本君や吉井君だと思うけど。

まぁそんなことは聞かなくても分かってる。僕が顔見知りだっていうことと、坂本君達に向かって言う度胸がないからだろう。この二人は以前カルマ君にも怯えていたし、罰則を食らってないだけで似たような噂のある二人とは関わりたくないはずだ。

そんな風に今の状況を考えて平然としていたのが気に食わなかったのだろう。二人のうちの一人が僕の胸倉を掴み上げて凄んでくる。

 

「なんだその目は?おい、なんとか言えよE組‼︎ 殺すぞ‼︎」

 

 

 

“殺す”

 

 

 

その言葉を聞いた途端、僕の思考が一気に冷えていくのが分かった。

 

……殺す…………殺す……か。

 

僕一人を相手に二人掛かりで凄むことしか出来ないような人達が。

 

素行不良の噂がある坂本君や吉井君に向き合えないような人達が。

 

…………殺す……ねぇ。

 

 

 

 

 

「ーーー殺そうとしたことなんて無いくせに」

 

 

 

 

 

思わず口角を吊り上げて僕がそう呟いた瞬間、何故か二人は怯えるようにして距離を取った。

どうして距離を取ったのかは分からないけど、用がないならもう行ってもいいかな。杉野や茅野を待たせてることだし。

僕は固まっている二人を放置してこの場を去ることにしたのだった。




次話
〜試練の時間〜
https://novel.syosetu.org/112657/9.html



雄二「これで“集会の時間”は終わりだ。今日は疲れたから後書きもさっさと終わらせるぞ」

土屋「…………最後まできちんと仕事をしろ」

渚「これって仕事なの?」

雄二「はぁ、仕方ねぇな……つーか俺の台詞が長すぎんだよ。読みにくいったらありゃしねぇ」

渚「それは話の流れっていうか、キャラ的にどうしようもないんじゃない?」

土屋「…………なるほど、悪辣非道キャラか」

渚「地頭が良いから考えを巡らせる役割が多いってことだよ⁉︎ それも全否定は出来ないけど‼︎」

雄二「おい」

土屋「…………今回は文月学園と椚ヶ丘学園で明確な違いが出ていたな」

渚「あぁうん、そうだね。文月学園って設備に格差はあるけど先生の態度に差はないし」

雄二「何故か俺達には厳しいがな」

土屋「…………納得がいかない」

渚「原作でやってきたことを考えたら妥当な扱いだと思うけど……」

雄二「そもそもの認識として“差別すること”を“嘲笑してもいい”と履き違えてる時点で問題だろ。本校舎の奴らには“道徳”を学ばせるべきだ」

土屋「…………(コクコク)」

渚「そこは漫画だからって割り切るしかないんじゃないかなぁ。“差別に立ち向かうE組”っていう構図だし」

雄二「立ち向かわさせられるE組(こっち)の身にもなれってんだ。……どんだけの人間を叩き落とさなきゃなんねぇんだよ」

土屋「…………制裁した後の方が大事になる」

渚「あ、そっちに辟易としてるんだ」

雄二「まぁ叩き落とすのは簡単なんだよ。ボイスレコーダーを教育委員会に提出するだけだからな」

渚「え?でもボイスレコーダーは持ってきてないって……」

雄二「あぁ、()()……な」

土屋「…………(グッ)」

渚「いや、そんな親指を立てられても……」

雄二「んじゃ、それを提出して終わらせるか」

渚「ってそれは駄目だよ‼︎ 学校どころか物語も終わっちゃうから‼︎」

雄二「そうか?だったら原作に沿って進めていくしかねぇか」

土屋「…………色々と難しい」

渚「思い留まってくれて良かった……それじゃあ今回はここまでかな。次回も楽しみにしててね‼︎」





明久「友達を躊躇なく切り捨てる雄二に、趣味が盗撮・特技が盗聴のムッツリーニ。……そんな二人から“道徳”の必要性を説かれてもなぁ」

秀吉「そういうお主も似たようなものじゃぞ?」

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