さすらいの矛盾小隊   作:めーりん

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PHASE-07

グリフィン&クルーガー社は突如暴走し始めた鉄血工廠と一進一退の攻防を各地で展開しているが、その中でも特に激戦区となっているのが"S地区"と呼称される地域である。このS地区の近辺は他の地区と比べて余り荒廃しておらず、建物なども比較的無傷な物が多い。故にグリフィン&クルーガー社の庇護を受けたい人々が集まり暮らしている。

それ故に人の殲滅を行うかのように鉄血工廠の攻勢が激しく、過去に何名もの指揮官が司令所と共に命を犠牲にしてS地区近辺の人々を守ってきたのであった。

 

そんな最激戦区(地獄の一丁目)とも呼べる地の一角である"S9地区"に、一人の女性がやや型落ちのハンヴィーを運転してやってくる。まだ少女、と呼んでも違和感がない女性はやがて一つの建物の前にハンヴィーを停車すると、助手席からジュラルミンケースを取り出し、建物の中に入って行くのであった。

 

††††

 

建物に入った女性は迷いなく地下に設けられている指揮所に歩いて行く。そしてとあるドアの前に到着し、識別認証を行うと中に入って行く。中には一人の少女と、一人の戦術人形が待っていた。

 

「本日08:30(マルハチサンマル)をもってS9地区に配属となった"グレイ・ヘカーティア"よ。よろしく」

 

「これより貴女様の補佐を担当する後方幕僚の"カリーナ・アイリス"と申します。気軽に"カリン"とお呼びくださいね」

 

「私はグリフィン&クルーガー社から貴女の元に配備された戦術人形"FAL"よ。期待されているみたいね?これからよろしく」

 

部屋に入ると時計を一目確認し、小さく頷くと自己紹介する左目に眼帯をつけている女性"グレイ"。そんなグレイに笑顔を向けるのは快活な少女"カリーナ"。カリーナの挨拶を聞いてからグレイが視線を向けると、アサルトライフルの戦術人形の一人である"FAL"が握手を求めるように歩み寄る。

 

「ヘリアンさんから、グレイさんはグリフィン入社前、実際に戦術人形を指揮した経験があるとお聞きしてます。それにグリフィン&クルーガー社の最終試験は厳しい事でも有名ですから自信を持ってください」

 

「確かに試験は優秀と判定を受けたかもしれないけども、実際にグリフィンのバックアップ下で指揮をするのは未経験なの。ま、期待に応えられるように頑張るわ」

 

FALと握手を交わすと、苦笑しながらジェラルミンケースをテーブルに置き、肩を竦めるグレイ。そんな彼女に笑顔を向けるカリーナであったが、彼女の通信ツールにメールが届く。

 

「ヘリアンさんからのメールですね。行方不明となったAR小隊の探索、ならびにS9地区への同部隊の配備指令です」

 

「AR小隊?存在するってのは噂程度には聞いていたけど、行方不明になっていたの?」

 

メールをメインモニターに表示するカリーナ。その内容にFALは少しばかり驚いた表情になる。AR小隊はグリフィン&クルーガー社の中でも謎が多いだけに様々な噂が一人歩きしている部隊である。そんな部隊の探索と運用を、まさか新人に任せる事になるとは誰も予想していなかったに違いない。

 

「また、本辞令と同時にニ個小隊分、FALさんを除いて9名の戦術人形を先行配備とする、との事です。到着は明日の06:30(マルロクサンマル)を、予定との事です」

 

「大盤振る舞いね・・・・。それだけAR小隊が重要という事かしら?でも何故指揮官に?」

 

カリンが端末に届いた辞令を読み上げる。その内容にFALはやや懐疑的な表情で指揮官たるグレイに視線を向ける。

 

「多分、ペルシカが手を回したんだと思うわ。まだ、傭兵として駆け出しだった頃に偶然とはいえAR小隊と出会ったことあるし」

 

「グレイさんは元は傭兵でしたっけ?そういえば簡略化された経歴も記録されてますね」

 

「そ。戦場でヘマして僅か数年で引退せざるを得なくなったけどね」

 

FALの疑問に苦笑しながらグレイが答える。カリンは手元のタブレットから資料を探し出すと小首を傾げる。その言葉にグレイは、左目を被う眼帯に手を当てながら苦笑気味に答える。

 

「先行配備の小隊を待ってAR小隊を探索。発見したらそのままAR小隊のメンバーを隊員として運用すれば良いわけね。あ、他に何か情報はあるかしら」

 

「実は直近までAR小隊と共に行動していた、壊滅した他の司令部付きの戦術人形が数名、行方不明になっているみたいなんです。もしかしたらAR小隊の情報を持っているかもしれないので、彼女達の探索もお願いします。救助後は彼女達もS9地区にそのまま配備する許可も出てますね」

 

「他の場所と違ってS9地区は交通の要所の一つだからいち早く立て直す必要がある、という訳ね。カリン、ここ数日の鉄血の部隊の動きが残っていたならばモニターに。FAL、貴女も何か気づいたら遠慮なく言って頂戴」

 

「了解よ」

 

グレイの言葉に頷くと、カリーナ(カリン)が追加の情報と共に戦術モニターに情報を映し出してゆく。声を掛けられたFALもモニターを見ながら、考え始める。

 

「妙に鉄血の動きが鈍いわね。それにAR小隊が最後に確認された地点からある程度離れた位置で鉄血の部隊が途絶えてる」

 

「撃破した部隊の情報はないの?」

 

「実はグリフィンの情報部も撃破した部隊の情報を求め、鉄血側の通信ログを解析してはみたんですけど、全く分からないんです。唯一判明したのは、鉄血の部隊を撃破した謎の襲撃者の中に大口径のライフルを扱う狙撃手が居るという事位でして・・・・」

 

FALがモニターの情報から気づいたことをあげる。グレイがその不自然さからカリンに何か情報がないか問いかける。カリンも手元の端末を操作してグリフィン本社から送られてきた解析結果をモニタに重ねるように表示する。

 

「解析結果からこれらの鉄血部隊は対物ライフルクラスで撃破されたと見ています。ですがAR小隊や行方不明の人形の中に大口径のライフル持ちは居ませんでした。かと言って猟兵(イェーガー)の使うライフルはここまで大口径ではありません」

 

「それに撃破された部隊が周辺の鉄血へ通信をした形跡が一切ないってのは不自然よね。案山子(※スケアクロウにあらず)じゃないんだから・・・・」

 

カリンの言葉にFALが不気味そうに感想を述べる。そんな中、基地のメインモニターが不意に起動する。

 

「っ・・・・。鉄血に進入(ハッキング)でもされた!?」

 

「待ってください!これはグリフィン側の通信コードです!」

 

「なんだって味方が進入(ハッキング)まがいのことするのよ!」

 

メインモニターの唐突の起動にグレイが真っ先に反応する。ほぼ同タイミングでサーバーのチェックをしたカリンが否定し、判明した内容を告げる。FALがその紛らわしい出来事に思わず青筋を浮かべながら怒鳴る。

 

「送られてきたのは・・・・・。AR小隊と行動していた人形の所在地ですね。罠・・・・ではないようです」

 

「なら、明日に先行配備の部隊が到着次第、即座に救出に向かうとしましょう。無論、警戒は密に」

 

「了解よ。・・・・送ってきたやつは何者なのかしら。まるでこちらの事情を知ってるみたいね」

 

「恐らくですけどヘリアンさんの知り合いではないでしょうか。確か傭兵に知り合いがいる、と聞いた事があります。私はこの情報をもう少し解析しておきますね」

 

送られてきたデータを素早く解析するカリン。その内容を聞くとグレイは即座に決断する。FALも了承するが、気味の悪さはあるらしく、眉を潜める。カリンは自身の知る情報を述べると、パソコンに向き直るのであった。


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