----毛利蘭-----
亜樹君は一命を取り留めた。しかし、その代償は大きかった。記憶喪失になってしまったのだ。脳への酸素の供給が不十分だったのが原因だという。
「蘭…どうするんだ?アイツ、お前のことを覚えていないんだろ?」
お父さんに訊かれた。どうするって…新一が招いたことなんだよ。そうだよね…新一の後始末を私がすること無いか…
「忘れなさい。いいわね、蘭」
お母さんからのアドバイス。彼が覚えていないなら、私も忘れた方が良いって。
「急には無理よ!急には…」
新一なら、どうするんだろ?
---佐藤美和子---
亜樹君と二人でドライブに出た。車椅子のまま乗り込める車を借りて、山にある別荘地へと向かった。別荘は佐田家の物なので、自由に使って良いそうだ。駐車場に車を止め、車から車椅子を降ろし、彼と共に別荘へ入っていく。
車椅子に乗せた彼を庭の見える窓の処に置き、私は奥へと下がった。
しばらくすると、ガラスが割れる音がして、車椅子から彼が崩れ落ちた。額に穴が…狙撃されたようだ。
---キャンティ---
ふっ、やっと仕留めたわ。
「コルン、終わったわ。帰るよ」
相棒から返事が無い。どうしたんだ?
パシッ!
え?迷彩色の者が急に現れ、襲撃をされた。まずい、格闘戦は苦手だ。銃を手にするが、手の甲を蹴られて、銃を落としてしまった。
後方にもいたらしく、首に縄を巻かれて、どこかに引き摺られていく。
「お前達、誰だ?!」
パン!
「痛っ!」
腿を撃ち抜かれた。銃を手にした者の顔を見て、顔から血の気が引いていく。
「工藤新一だと…」
「地獄から戻って来たよ♪」
ニヤリ顔で私を見ている。スコープで見た。ちゃんと額を撃ち抜いたぞ。なのに、なんで…
「額を撃ち抜いてくれて、ありがとうな♪」
パン!
「ぎゃっ!」
靴を脱がされ、靴下を脱がされ、右足の親指を撃ち抜かれた。
「騒げよ。ここは私有地だ。誰も助けに来ない。あぁ、お前の相棒も、もう1組が同じように、いたぶっているよ。どっちが先にくたばるかな?」
---鳥井亜樹---
敵を罠に嵌める為に、一芝居打った。記憶を失い、運動機能が麻痺したことにし、美和子と二人、別荘で静養することにしたと、皆に伝えた。
夏美のお手製の僕の等身大人形。花形フィギュア人形師の手に掛かれば、本物と同じに見え、撃たれれば本物と同じ挙動をするようになされていた。
「亜樹君、どう?」
「二人しかいないのかな?」
「仕留めたのは二人?」
「うん」
銃は美和子に習った。義兄さんが射撃練習場を所有していたので、そこで練習を積んだ。で、今回使う銃は義兄さんが用意してくれた。
今回の作戦を知っているのは、義兄さん、姉妹、朱美、美和子、シャロン、安室さんだけである。どこから情報が漏れるか、分からないから。
「で、二人は?」
「安室さん経由で公安に引き渡した」
「安室さんは信用出来るの?」
「本人が言うには、公安に知り合いがいる探偵だって。それに、命を救ってくれたし。信用しているよ」
もし、敵なら、車のトランクに入れた状態で、車を爆破したはずだ。
「そう。あと一人ね」
美和子と別荘に戻ると、夏美がフィギュアの処理をしていた。
「夏美、サンキュー」
「兄ちゃん、約束だよ。元気になったら、背中貸してね♪」
未だコアラ生活を諦めていない夏美。
「で、蘭ちゃんはどうするの?」
僕が記憶喪失だと思っている。そして、彼女の両親の勧めで、僕のことを忘れる方向らしい。
「忘れるなら、忘れればいい。僕は去る者は追わない」
「冷たいんだね」
「美和子がいるから」
「そう言って、私も捨てるのかな?」
「ごめん…先の事は分からないよ」
いや、たぶん、美和子の前から去る。去らないといけないことをした僕。
◇
記憶を無くしたことになった僕は、ホテルには住めなくなった。工藤新一は死んだことになったから。瓜二つな者が出入りして、ホテルの信用問題になると、僕が譲らなかった。そんな僕を義兄さんが、違う場所に住まわせてくれた。それが、この別荘である。
紅子は学校を辞めて、僕の面倒を見てくれている。美和子は非番の時に会いに来てくれる。姉妹プラスアルファーは、美和子の車に同乗したり、義兄さんの車に同乗したりして、様子を見に来てくれた。まぁ、僕が日常生活が出来るようになるまでの処置だ。
一人で歩ければ、また町に住もうと思っている。紅子と二人も有りだと思っている。
「兄さんが、美和子さんと一緒になるなら、私も付いて行きますよ♪」
と、紅子は嬉しそうに言う。一生、僕の傍にいることは、心に決めたそうだ。
仕事はメールが送れる環境であれば、どこでも出来る。今は、『なにわ探偵物語』という作品を書いていた。モデルは勿論アイツだ。
----毛利蘭----
新一を待ち続ける日々。亜樹君の元を去って、3ヶ月経つころ、本屋で有り得ない本を手にしていた。あの服部平次をモデルにした作品だ。どういうこと?亜樹君以外に有り得ない内容。でも作者の名前は違う。『三田バード』とある。どういうこと?
その本を買って、家で読む。内容は明らかに、あの服部平次をモチーフにしていた。亜樹君でないと書けない内容だ。翌日、姉妹を問い詰めた。
「どういうことよ!これは何なの?!」
あの本を突きつけた。
「あっ?あぁ…アイツ、バカだな…モロバレじゃん」
姉妹達は本が出たことを知らなかった。でも、彼が執筆活動をしていることは知っていた。
「記憶が無くなって、何も手が付かないんだよね?あなた達の説明だと」
姉妹からそう訊いた。
「そうだっけ?でも蘭丸は工藤新一を待っているんだろ?亜樹は諦めてさぁ」
「それは…私のことを覚えていないって言うから…」
「あの時はそうだったよ。でも、徐々に思い出したんだよ。結構、アイツは苦境に強いからな」
確かに、私から去ったよ。でも…
「会わせなさいよ!」
「勝ったらにするか?」
私は、姉妹と戦った。姉妹のコンビネーション攻撃。確実に私の身体を痛め付けていく。特に夏美の動きが読めない。空手という競技のルール内においては、私の方が上であるが、より実戦の色が濃くなると、私は不利である。夏美の繰り出す技は、空手の物ではなかったから。
「どうしたよ、蘭丸。足の指でも舐めて貰おうかな?」
春美が私を見下している。腹部への強烈なケリを受け、その場にへたり込んでいる。そんな私に夏美の投げ技が繰り出されていく。何度も地面に叩き付けられる。
「どうしたよ?口だけ女よ♪」
地面に大の字になっている。こんなにも強かったっけ…この二人…
「ねぇ、もう兄ちゃんを誘惑出来無いように、胸を無くして上げようよ」
「あぁ、そうだな。蘭の自慢の胸を潰すか♪」
姉妹が恐ろしい事を言っている。しかし、身体がもう動かない。ブラウスが脱がされ、ブラが外されていく。
「ふ~ん、中々良い形だな」
何かの台の上に乳房だけ載せられた。抵抗できない。夏美に背後から羽交い締めされているから。
「あぁぁぁぁぁ~!」
春美が思いっきり、私の乳首を踏みつけた。激痛が心臓を直撃したようだ。
「まず、乳首だ。おぉ、潰れて流血しているな。次は乳房だ。1回じゃ無理かな?ふふふ♪」
もう終わりのようだ。
「おい!俺の蘭に何をするんだ?!」
え?新一の声…春美の悲鳴…姉妹達が逃げていく。
「蘭、大丈夫か?悪いな、傍にいられなくて」
新一の唇が、私の唇に重なった。時間よ、止まって!
「今はこれしか出来無い」
私の指に指輪を嵌めた新一…
「総て終わったら帰る。悪いが、待っていてくれよ、蘭♪」
そういうと周囲を警戒してから、去って行った新一。あっ。左の乳首に絆創膏を貼ってくれたようだ。新一…
部屋へ戻って、指輪の内側を見ると、『StoR』と刻んであった。『新一から蘭』のようだ。そうか、考えてくれてはいたんだね、新一…
---鳥井亜樹---
新一君から連絡があった。
「どうしたんだ?」
「はぁ?どうしたじゃないだろ?お前なぁ…アレはなんだ?なぁ、アレは」
「あぁ、指輪か?僕からのサプライズだよ。僕ではなく、君を選んだ蘭へのサプライズだよ。だって、子供姿の君じゃ、指輪を買いに行けないだろ?」
「それはそうだが…どうするんだ?無茶苦茶嬉しそうだんだが」
「良かったじゃないか。蘭にそれ程思われて。それでな、残党と薬に関しては、こっちでどうにかする。だから心配するなよ」
「どうにかって…お前…」
「一人殺せば、もう何人殺しても同じだよ。僕の手は汚れている。まぁ、これで殺人犯の描写も可能かな」
「もう、殺しは止めろよ!」
「君を狙う奴らは、殺す。自己防衛のような物だ」
美和子に嘘を吐いた。キャンティという女は安室さんへ渡していない。総ての指を関節ごとに撃ち抜き、両耳を撃ち抜き、クリトリスを斬り落として、痛みをたっぷりと刻み込んでから、濃硫酸の水槽に入れて、溶かした。もう、僕は猟奇的な殺人鬼かも知れない。
「兄さん…もう、ダメだからね」
紅子が手伝ってくれた。キャンティだけって条件で。コイツが僕を、いや僕のフィギュア
を撃ったから。だから…蘭とは暮らせない。僕の手は汚れているから。
◇
美和子が一泊して帰った翌日、目を疑う客が来た。なんで、ここを知ったんだ?
「亜樹君…どういうこと?ねぇ、なんか、言いなさいよ!」
目に涙を一杯溜めで、僕を睨む女性。なんで、ここにいるんだ?
「どうして、ここに?」
「美和子さんを付けて来ました。庭で野宿をして、美和子さんが帰るのを待ちました」
美和子が来たので、紅子は街に戻っている。ここには僕と彼女しかいない。どうしよう…
「追跡する為に、バイクの免許を取りました。どうして、何も教えてくれなかったの?アイツに遠慮することは無いんだよ。ねぇ。これ…亜樹君がくれたんだよね?」
指に嵌めた物を見せる蘭。
「え?何の話だ?」
「指輪を売った店を特定したわ。探偵みたいなことをしてね。で、指輪の値段を見て、新一じゃ買えない値段だった」
あっ!そこか。足が付いたのは…サプライズだと思って、奮発したからなぁ。
「店員さんに亜樹君の写真を見せた。首元の傷跡の有無を確認した」
あぁ、ネッカチーフしなかった。あれも失敗だったな。
「どうして、こんな芝居をするの?私がイヤなら、そう言えば良いでしょ?!」
「イヤじゃ無い」
正直に答えた。
「じゃ、なんで?」
「蘭に言えないようなことをした。だから、一緒には住めない」
言える範囲の事を伝えた。
「私に言えないようなこと?まさか…手を汚したの…」
唖然とした表情の蘭。
「僕の手は、もう蘭に触れることは出来無い。蘭まで汚れてしまうから。だから…」
「なんで…なんで、そんなことをしたの?」
「やらないと、やられるから。僕と新一君だけならいいよ。だけど、周囲の誰かがやられるのは耐えられない」
「あ…新一を狙う組織?亜樹君も狙われているの…」
頷く僕。
「美和子さんは知っているの?」
「知らない。美和子には嘘を吐いた。捕まえて公安へ引き渡したと」
「え…美和子さん…」
そうだ。刑事は犯罪者と結婚は出来無い。まして、殺人者なんかと…つきあってはいけないんだ。
「ダメ!」
え?蘭が、車椅子の電動スイッチをオフにした。
「今、また消えようとしたでしょ?もう、一人で抱え込まないでいいんだよ」
咄嗟的に自殺しようとしたのか…僕は…僕の指は加速スイッチを押そうとしていた。暖炉に向かって…
「美和子さんには言わない。後、私も背負う。だから、もう私の前から去らないで。ねぇ、亜樹君…私も誰にも言わない。亜樹君が襲われたら、相手を殺すつもりで戦う。だから、一緒に戦いたい。亜樹君の隣で…」
蘭の腕が僕の首に絡みつき、首の傷跡を舐める彼女の舌。契約書にサインをしているつもりか?
---工藤新一---
蘭は、アイツの元に戻ったようだ。蘭が、探偵のテクニックを学びたいって、言い出した時はあせったが、アイツの居場所を見つける為だったようだ。誤算は、アイツのしでかしたことを蘭が知ってしまったことだな。
指輪の値段で送り主を特定って、いい勘しているな。確かに俺のこずかいで買える額では無かったけど。
あとは薬の完成待ちだな。分かっているだけで、3名がこの状態だから。
「ねぇ、元に戻れたら工藤君は私の男、確定だからね」
って、灰原。
「あの女は、工藤君の影武者を選んだんだし。いいよね?」
いいも悪いも、薬次第だと思うぜ、灰原よ…