---毛利蘭---
夢?目の前に新一がいる。首元には傷跡が無い…新一は、私を抱き締め、涙している。
「もう、離れ離れはゴメンだ」
「新一…」
待ち望んでいた瞬間?違う…待ち望んでいたのは、こんなことじゃない。
「亜樹君は?」
「アイツのことは忘れろ!アイツを苦しめるな」
私は亜樹君を苦しめる存在なの?それでも…会いたい…彼を一人にしてはイケナイ。
「亜樹君はどこ?」
「わかならい。アイツは俺達の前から、消えると言った。だから、ほっといてやれ」
消える?ダメだよ…放っておけないよ!でも、この瞬間も待っていた。欲張りな私。ダメな女の私…亜樹君…ごめん。
---佐藤美和子---
う~ん…『女刑事乱』…亜樹君の作品臭い…このストーリーは以前、メモにあった奴だよな。出版社を叩くか?
「あぁ、美和子も買ったんだぁ~」
って、由美。お前もか…
「これ、そうだよね?」
毎回、出す度にペンネームを変えている気がする。だけど、読めば、亜樹君らしいさを読み取れる。書きクセは直らないからな。そして、挿絵…鉛筆画である。亜樹君の特徴の1つだし。
「生きているって、証拠ではある」
頷く由美。もう1年も経つ。私達の前から消えて。どこでどう生きているんだ?小説家として、絵師として活動はしているようだけど。
彼の住んでいたあの家は、改築され、まったく違う趣の家になっていた。彼の住んでいたあの部屋は…アレ以来行っていない。あのホテルには、もう出入りしていないそうだ。
どこにいるんだ?
「佐藤刑事…新宿…」
高木君がぼそっと言った。
「いたの?」
「従兄弟を追尾して…新宿で会っていました」
おいおい、従兄弟を囮にしたのか?
「新宿のどこ?」
「そこまでは…歌舞伎町の雑踏の中で、見失いました」
「歌舞伎町周辺か…彼、人混みはダメなんだけど…あえて、人混みに紛れたのか。目暮警部、有給の申請をします」
1年間、休み無く働いた。この日の為に。それはみんなも知っている。
「う~ん…許可する。1週間くらいやる。会えるといいなぁ、彼に」
「はい♪」
◇
亜樹君の正体を知ってから、目暮警部、高木君達は、私に協力的になってくれた。あの工藤新一の影武者で、彼の代わりに危険な目に何度も遭遇している人物で、バックには佐田財閥、鈴木財閥がついているという事実。
でも、新宿って広いんだよなぁ…どうするか…ふと、伝言板が目に入った。そう言えば、都市伝説で、秘密の暗号を書いて、願いを書くと叶うって聞いたことがある。伝言板の前に立ち、チョークを手にした私。すると手首を何者かに掴まれた。
「刑事が都市伝説を信じてどうするの?」
って…野上警視だった。上司である目暮警部の上司とも言える人物だ。
「でも…もう、これしか…」
「噂の彼に会いたいの?」
「まぁ…もう1年以上も会っていないから…」
「しょうが無いわねぇ」
不敵な笑みを溢す野上警視。まさか、そっちの趣味があるのか?
◇
予感が的中。二人でラブホにいる。二人でシャワーを浴び、唇を重ねている。夢うつつな状態で、ベッドに横にされた。こっちの趣味は無いんだけど…手首には手錠…そういうプレイなのか?身体は久しぶりの刺激に既にヨダレが湧いているし。そんなに淫らだっけ?私の身体は。
コンコン!
ドアがノックされた。警視がドアを開けると、男性が入って来た。まさか、回すのか…警視…それはちょっと…犯罪ですよ~
「ゴメンね、呼び出して。あなたに会いたいって…」
警視が私を指差した。そこには亜樹君がいた。首筋にはあの傷跡がくっきり残っている。それって、警視と知り合いってこと?
「美和子…冴子、僕は…」
「彼女の想いに応えるのも大切よ」
警視を名前呼び…関係を持っているってこと?女性の私でも憧れる素晴らしいボディと美貌を持つ警視。そんな彼女と関係を持つって…
「美和子…何をしているんだ?」
ベッドサイドに座る亜樹君。そんな彼の服を脱がしていく警視。脱がし終わると、彼のモノを口に含み、上目遣いで彼を見つめている。
「私は…亜樹君に会いたかった…」
警視の行動に動揺している私。どんな関係なんだ?私から離れて、警視に鞍替えか?
「僕も…でも…僕は…」
警視は大きくなった亜樹君のモノを身体に取り込み、踊っている。天女の舞いのような、そんな優雅さ、神々しさを感じる。
「美和子…ゴメン…僕は美和子に、見合う男にはなれないんだ」
「亜樹君、逃げちゃダメ」
苦悩する彼の耳元で囁く警視。
「でも…冴子…僕は…」
「そうね…佐藤刑事…彼は、警察官とは、結婚出来ない身分に落ちたの」
警視からの言葉…それが何を意味するのか、直ぐにわかった。あの時、公安になんか引き渡していなかったんだ。彼は、彼の手で…だから、私の前から…これまでの彼の行動に意味は有った。私を巻き込みたくない、大好きな刑事の職を失わせない為…私の前から姿を…でも、あれ?
「で、警視とは?」
「うん?恋愛関係じゃないから。問題は無いわ」
そんな抜け道が…ズルい…
「彼は私の情報屋。情報料の代わりに、ホテル代と私の身体を提供しているの。だから、問題は無いのよ♪」
嬉しそうに話す警視。そんな…裏技が…
「ただ、あなたの様な平刑事には、この手は使えない。分かるわね?ふふふ」
情報屋を必要とする事件に、出逢う確率は低い…私には使えない技。そもそも情報屋に出逢う機会も無い。
「でも!」
亜樹君の為に…警察辞めようかな。
「刑事は辞めるなよ、美和子」
釘を先に打たれてしまった。う~ん…
「それでも、私は亜樹君の傍にいたい。警視…目を瞑ってくれませんか?」
「無理!彼は公安の監視下にある。わかるわね?」
公安は彼のしたことを知っている上で、彼を協力者にしているのか?裏切らない為に監視を付けて…
「刑事を辞めて、彼と情報屋をします!」
目を見開いて私を見つめている亜樹君。
「どうして?僕なんかの為に?」
「言ったでしょ?君といると心が癒やされるんだよ。だから…お願い…一緒に生きたい」
「よく言い切ったわ。うん♪佐藤刑事の心意気を買いましょう。懲戒免職でいい?」
え?!懲戒免職?亜樹君と一緒になるって、そういうことか…現実に直面した私。でも…
「いいですよ!」
「わかった。退職金は出るように協力するわよ。ようこそ、チームシティーハンターに♪」
うん??
後日談…冴子さんもシティーハンターというスィーパーチームのメンバーだった。
◇
亜樹君と会った翌日、辞令が下りた。私と由美が、野上警視のチームに異動になったのだ。警察の組織内では出世と言える異動である。野上警視のチームは警察庁の広域捜査室に所属している。一般企業で言う、支社から本社への栄転って感じになるのだった。
「異例な人事だ。まぁ、野上警視の目に止まったってことだろう。皆で、快く送り出して上げようじゃないか」
と目暮警部。まさか、亜樹君絡みだとは言えないような。警視は、私が警察を辞めないで良い方法を取ってくれたようだ。亜樹君と言う情報屋と接触という業務を、私と由美にもお裾分けしてくれた感じである。
戸惑う由美と共に、警察庁の広域捜査室へ…って、警視しかいない。
「まぁ、仕事に慣れてから、捜査には出て貰うから。まず、系統図、支社での振る舞い、手順なんかを覚えてね」
って、分厚いマニュアルを置いていく。
「亜樹君とは毎週接触する。交代制にしましょうか」
3人で回すと月に1回会えるってことか…定時で職場を後にして、三人で歌舞伎町にある建物に入っていった。
「ここよ、私達の裏の職場は…」
建物の4階に連れて行かれた。そこには、警視並のプロポーションの女性と、大男がいた。
「紹介するわね。彼は冴羽リョウ、このチームの要よ。そして、彼女は槇村香、主に連絡係をしているの。彼女達は新人さん。佐藤美和子さんと宮本由美さんよ。あぁ、先生の女だから、手出しはしない方がいいわ」
先生?亜樹君?
「そうか…アイツに生きる希望を与えてやってくれ」
冴羽さんに言われた。生きる希望?
「こっちよ」
香さんに3階へと案内された。そこに亜樹君の部屋が…中に入ると、紅子ちゃんがいた。
「美和子さん…お久しぶりです。兄さんは仕事中です…」
隣の部屋で、資料を見ながら、文字を打ち込んでいる亜樹君。
「ねぇ、生きる希望って?」
小声で紅子ちゃんに訊いた。
「兄さんの希望は…精一杯生きて、消えることだけです」
消える…以前と変わっていないのか…
「兄さんには、想い出が無いんです。鳥井亜樹として、生きた証も無いんです」
唯一の想い出と言っていた、あの家はもうない。彼は今、佐田亜樹である。もう、どう足掻いても、鳥井亜樹として足跡は残らないってことだ。
「想い出も、証も無いなら、消えても…そんなところです」
う~ん…
「うん?美和子、由美…どうして?」
「今夜は顔見せよ」
って、香さん。
「あぁ、そういうことか…」
電動車椅子で近づいて来た亜樹君。車椅子?ラブホには歩いて来たのに…
「あぁ、これ?相変わらず、スタミナが無いんだ。まぁ、散歩はたまにするけど」
ラブホに散歩?
「警察、首になったのか?」
「警視が拾ってくれたの」
「広域捜査室か…なるほどね」
何がなるほどなのか?
---鳥井亜樹---
見つけた…工藤君を狙っている奴だ…迎撃に向かう。
「おい!一人で行動するなって言っただろ?」
しまった、リョウに見付かった。
「リョウには関係無い」
「関係か?有るよ。お前を保護するって決めたんだ」
僕の保護者である。裏の世界での…
「その体力で倒せるのか?」
「あぁ…相打ち覚悟だ」
「死に急ぐな!」
リョウの隙を突かないと…
「わかった」
部屋に戻る…ふりをして香さんの部屋を襲撃した。
「何?どうしたの亜樹君?」
香さんを押し倒して、股間に指を這わす。
「ダメだって…今日は…」
香さんに隙が出来た。窓から身を乗り出して、雨樋を伝わり、屋上へ行き、隣のビルに飛び移り…
◇
リョウの追跡をかわす為に、デコイを設置しながら、目標に近づいて行く。教授の愛弟子であるリョウも無類の女好きである。ソレ系のデコイを設置してあるので、少し時間は稼げるはずだ。
そして、目標の建物に着いた。
「ジン!そこまでだ!」
黒ずくめの長身の男に声を掛けた。
「何?工藤新一だと…じゃ、コイツは??」
目の前では本物の新一君と蘭が縛られている。口から液体が…アレを盛られたのか?早く、解毒剤を投与しないと…
「俺の影武者だ。見抜けないとはなぁ。間抜けな奴だなぁ」
咄嗟に、新一君の振りをする。
「自分の女を影武者と?」
「あぁ、味方を欺かないと、テメエを欺けないからな」
僕に銃口を向けるジン。アイツの目の前に走り込む僕。
パン!
乾いた音。胸に衝撃が走る。でも、構わない。
パン!
2発目。うっ!防弾チョッキを抜かれた。激痛が全身を駆け巡る。だけど、コイツは仕留めないと。気力でジンの首筋に指をあてがい、意識を狩った。急いで二人に解毒剤を投与して、獲物を運び出した。
◇
獲物を濃硫酸で満たしたバスタブに投入した。口を拘束してあるので、悲鳴が上げられない。身体中が溶けていく。苦しめ…もっとだぁ…
「それで最後?」
灰原哀であった宮野志保に訊かれた。
「最後であって欲しいが、後1匹だ」
「誰?」
「ラム」
「ナンバー2だよ」
「あぁ、そこを消せば、もう脅威は無くなるだろう。トップとは話が着いているし」
「ねぇ、血が垂れているわ。どこか怪我したの?」
僕の上着を脱がせる志保。
「左胸に2発着弾…」
「大丈夫、防弾チョッキを着ている」
防弾チョッキも脱がせる志保。1発が、胸に着弾していた。先端が少し、肉体にめり込んでいる。
「至近距離で撃たれたのね。ちょっと待ってね。今、取り出すから」
局所麻酔を打ち、僕の左胸から弾丸を摘出し、簡易的に縫い合わせてくれた。
「内臓は無事…もう無理しちゃダメだよ」
僕に抱きつく志保。あの…傷口が痛いんですが…
---毛利蘭---
病院で目覚めた。新一と一緒にいる所を襲われたそうだ。頭がボンヤリしている。薬を投与されたらしい。
「蘭…大丈夫か?通報が早い上、解毒剤を投与してくれた奴がいたそうだ」
目を腫らしたお父さん…
「新一?」
「はぁ?アイツも、蘭と一緒に縛られていたぞ。まったく、アイツは役立たないなぁ」
じゃ、誰が?亜樹君の顔が脳裏に浮かぶ。
「亜樹君?」
「わからない。警察が駆けつけた時には、通報者と襲撃者が共に居なかったそうだ」
亜樹君だ…また、手を汚したのだろう。私達を護る為に…
「お父さん…亜樹君を探して…お願い…」
「アイツのことは忘れろ!お前は新一を選んだんだ」
そうだけど…でも…
新一は心を入れ替えたように、傍にいてくれるようになった。事件が起きても、現場へ行くことも少なくなっていた。
「蘭、大丈夫か?悪い、油断しちまったよ」
新一が現れた。
「新一…亜樹君を探して…」
「アイツのことはあきらめろ。蘭…」
どうして、みんなそんなことを言うの?
---工藤新一---
まさか、蘭と交わっている最中に襲われるとは…油断も隙もあったものでは無い。アイツにまた助けらちゃったなぁ。
「工藤君…どう?」
志保に頼まれて、探し物をしている俺。
「う~ん、手がかりが少ないなぁ。持ち物はこれだけか?」
「そうよ。早く終わらしてね。彼、怪我しているんだから、長時間の身代わりは、難しいわよ」
そうだな。今も変わらずに事件を追っている俺。事件を追っている間は、アイツが身代わりを務めてくれていた。
「で、ジンはどうしたんだ?」
「彼が消したわ」
志保の表情が曇った。アイツはまた、手を汚したのか。猟奇的な方法での殺害。死体無き殺人は事件では無い。そう言いのけたアイツ。だけど、アイツの心は病んでいる。疲弊している。早く、解放してやりてぇ。早く、ラムを見つけないと…早く…アイツの心が完全に壊れる前に…